【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
www.youtube.com 《#八角笼中》/ Octagonal 发布“一骗真心”版预告 #王宝强 开启格斗训练【预告片先知 | Official Movie Trailer】
【スタッフ & キャスト】
2023年 中国 117分
監督: 王宝强（ワン・バオチャン）
出演: 王宝强、陈永胜（チェン・ヨンシェン）、史彭元（シー・ポンユァン）、王迅（ワン・シュン）、张祎曈（チャン・ウェイトン）、胡浩帆
【ストーリー】
四川省大滝山の採石場でトラック運転手をしていた向腾辉（シャン・トンフイ）は、ジムをやらないかと誘われる。一方で鉱山付近に出没し強盗などをしていた浮浪孤児たちを引き取る羽目となり、それではと孤児たちをジムで鍛え上げ格闘選手に育てる事にした。なんとか苦労して彼らを立派な格闘選手に育て上げ、彼らの未来にも希望を見え始めた矢先にある大事件が勃発するという、実話のストーリー。
【感想】
エンタメだがずっしりと重い、王宝强（ワン・バオチャン）の強い想いが伝わってくる真正面から描かれた映画であった。
見終わって考えていると、クリント・イーストウッドを思い出していた。彼もまた俳優として様々な娯楽作に出演した後、自らの想いを込めた映画を丁寧に作り上げ続け、監督としても巨匠と呼ばれる高みに達した映画人だ。
王宝强（ワン・バオチャン）の今作への想いの強さ、その熱意を絶やさずに最後まで形にする力は、きっと作ってくれるであろう次回作だって絶対に見たいと思わせてくれる。
それくらい、今作は丁寧に作り上げられた素晴らしい映画だった。
まずはストーリーの展開が素晴らしい。前半は、貧相とかを通り越した悲惨な格好のまだ低学年ほどの男の子たちを、砂利の山の中でしごいていく。怪しげな夜の酒場で、八百長まがいの賭けレスリングの対象として、子供たちに格闘をさせる。家族はどうしてるのかと思えば、むしろ見なかったほうが良い位のどん詰まりの環境だ。一昔前の風景、四川方言と荒っぽい口調、男だけの世界。最近は映画でも少なくなった印象のアウトローな環境を描いて、だがそれでも成功さえすればここから抜け出せる夢を見せてくれて、こっちまでワクワクしてくる。
そこから一転、後半はまったく違う世界が始まる。本人たちも、そして観客も想像していなかった事態が始まってしまう。
終わってからも、しばらく立ち上がれないような感慨を覚えた。
映像も素晴らしい。なによりも夜のシーンが大変美しい。満天の星空の下、ライト無しで登場人物までビシッと露出が決まった、パーフェクトバランスの夜景。最高だ。
エンディングのカットを見ながら、王宝强（ワン・バオチャン）の想いが凝縮されているような気がした。ハッピーエンドなのか、そうじゃないのか。そんな事は彼にとっては些末な事でしかない。それよりも、なんだか誰かへの義理を果たすため、誰かの為に作らなければならないという義務感みたいなものが伝わってきた気がした。これほど作り手の人柄が伝わる映画も久々に見たような気がする、そんな素晴らしい映画であった。
【トピック】
◯ 2023年6月16日の上海国際映画祭で上映された後、夏休みの始まる7月6日から全国公開。公開初週は興収ランキングで2位、翌週に「妻消えて/ロスト・イン・ザ・スターズ」を抑えて1位を奪取した。
アニメ映画「長安三萬里～思い出の李白～」や歴史大作「封神～嵐のキングダム～」、ブームまで巻き起こした犯罪映画「孤注一掷」などと争ったが、本作も同じく大ヒットし、興行成績は7月29日に20億元（411億円）を突破、最終的に22億元（452億円）を達成した。
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◯ 2023年10月17日からの中国映画週間で「ネバーギブアップ」という邦題で公開。
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◯ 四川省が舞台という事でほぼ全員が四川方言で話している。
◯ 本作は2017年に発覚した実話を元にしている。
四川省中部の大凉山から、後に成都へ移転した総合格闘技ジム "恩波格斗" の代表、恩波が孤児を引き取り、教育も受けさせず格闘技をさせ、興行での報酬を搾取していたのではないかという疑惑だ。
baike.baidu.com 回访“凉山格斗孤儿”：常独自流泪，称“过几年再练没用了”_百科TA说
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王宝强（ワン・バオチャン）
◯ 監督・脚本だけでなく、総指揮及び出資もした上で、格闘ジム代表・向腾辉（シャン・トンフイ）役を主演したのは王宝强（ワン・バオチャン）。
◯ 王宝强（ワン・バオチャン）は、インドに修行に行くドタバタコメディの「大闹天竺 （2017）」以来、今作が監督2作めとなる。前作は残念ながらあまり評価されなかった。
◯ 中国一有名な喜劇役者、王宝强（ワン・バオチャン）は、少年時代に嵩山少林寺で武術修行をし、その後アクション俳優のキャリアをスタート。農村出身の兵士の成長物語である大ヒット名作ドラマ「士兵突击（2006）」での印象的な役柄で全国的に知られる事となる。
その後、徐铮（徐崢、シュー・ジェン）、黄渤（ホアン・ボー）と主演した「ロスト・イン・タイランド（2012）」も大ヒット。「唐人街探偵 東京MISSION（2021）」をはじめとする唐人街探偵シリーズや周星馳（チャウ・シンチー）監督「新喜劇王（2019）」、陳凱歌（チェン・カイコー）監督「道士下山（2015）」、賈樟柯（ジャ・ジャンクー）監督「罪の手ざわり（2013）」、曹保平（ツァオ・バオピン）監督「李米的猜想（2008）」など多くの映画に主演しているが、特に最近は印象的なドタバタ演技が彼の十八番であった。
「奔跑吧兄弟」などバラエティ番組での出演も多く、そちらでの知名度も高い。
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陈永胜（チェン・ヨンシェン）
◯ ジムで育てられ、UFC格闘家となる孤児、马虎役を演じたのは陈永胜（チェン・ヨンシェン）。
◯ 1998年生まれ。张子枫主演の良作「シスター 夏のわかれ道（2021）」や、张艺谋（チャン・イーモウ）監督作「崖上のスパイ（2021）」にも出演した後、同監督の次作であり冬山での狙撃戦を描いた良作「狙击手（2022）」では、新人兵士役の初主演に抜擢された。
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史彭元（シー・ポンユァン）
◯ 马虎と同じようにジムで育てられ、UFC格闘家となる孤児、苏木役を演じたのは史彭元（シー・ポンユァン）
◯ 人気サスペンスドラマ「バッド・キッズ 隠秘之罪（2020）」で知られるが、今作同様に孤児の役であった。今年はドラマ「漫长的季节」や「去有风的地方」に出演している。
王迅（ワン・シュン）
◯ 向腾辉（シャン・トンフイ）を慕い、サポートし続ける王凤役は王迅（ワン・シュン）
◯ 最近はより一層出演作が増えつつある演技派俳優。一癖あるワルそうな役が多く、「唐人街探偵 NEW YORK MISSION（2018）」や、「ビッグ・ショット（2019）」、「愛しの故郷（2020）」、そして昨年秋の大ヒット映画「万里归途（2022）」、「保你平安（2023）」にも出演している。人気バラエティ番組「极限挑战」のシーズン7と8にも出演して様々な体験をしている。
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张祎曈（チャン・ウェイトン）
◯ 苏木の姉を演じたのは张祎曈（チャン・ウェイトン）
◯ 2000年生まれ。現在のところは「致命少女姬（2022）」に出演している程度で、本作が最初の大作出演だ。
胡浩帆
◯ 孤児レスラーの苏小步役、胡浩帆
◯ 胡浩帆はオーディション番組「創造営2019」で芸能界入り。最終選考には残らなかったが合唱コンクール番組「合唱吧！300（2019）」で「創造営2019」で結成されたグループR1SEと共に出場した。
上の张祎曈（チャン・ウェイトン）と共に「致命少女姬（2022）」に出演している。
少年たち
少年時代のキャストである马虎と苏木役の周德柏文は、共に少年野球のドキュメンタリー映画とTVシリーズ「棒！少年（2020）」に出演していた。
www.youtube.com 【FILM】TOUGH OUT 棒! 少年
肖央（シャオ・ヤン）
◯ 向腾辉を格闘ジム開設へと誘う王敬福役には肖央（シャオ・ヤン）。
◯ 元々は筷子兄弟という音楽デュオの俳優。最近は今作と同じ陈思诚（チェン・スーチェン）が監督の「唐人街探案」シリーズ全作に出演しているので、ここでの存在感が大きい。詳しくは「シスター 夏のわかれ道（2021）」の項を参照。
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李晨（リー・チェン）
◯ ジムの理事、谢には李晨（リー・チェン）。
◯ 「唐人街探偵」シリーズや「妻消えて（2023）」などで知られる陈思诚（チェン・スーチェン）が監督/脚本/主演をしたドラマ「北京爱情故事（2012）」で知られるようになる。
大人気バラエティ番組「奔跑吧兄弟（2014～）」にも出演。范冰冰（ファン・ビンビン）と婚約までしていたが2019年に別れている。
「アウトブレイク ～武漢奇跡の物語～（2021）」、「1921（2021）」など出演の後、 巨匠3人が共同監督した「1950 鋼の第7中隊（2021）」&「1950 水門橋決戦（2022）」に出演。昨年は大ヒット作「万里归途（2022）」にも出演している。
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刘桦
◯ 少年格闘の興行を行うバーのオーナー、李は刘桦が演じた。
◯ 「クレイジーストーン 〜翡翠狂騒曲〜（2006）」のヒットで知られるようになる。「四戒（2012）」や冯小刚（フォン・シャオガン）監督「わたしは潘金蓮じゃない（2016）」、「龙虾刑警（2018）」など様々な作品に出演している。最近では大ヒットドラマ「慶余年（2019）」にも出演していた。
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李梦
◯ テレビでのインタビュアーは李梦。
◯ 史彭元（シー・ポンユァン）と同じく人気サスペンスドラマ「バッド・キッズ 隠秘之罪（2020）」に出演。劉德華（アンディ・ラウ）主演「誘拐捜査（2015）」にも出演している。
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李杨（リー・ヤン）
◯ 学校の理事長、陈には李杨（リー・ヤン）監督。
◯ 王宝强（ワン・バオチャン）が最初の大きな映画賞、台湾金馬奨新人賞を獲得しつつも、検閲のため中国大陸で公開されなかった映画「盲井 Blind Shaft（2003）」を制作した監督である。
◯ 向腾辉（シャン・トンフイ）が乗り続けている自家用車はフォルクスワーゲン・サンタナ。
サンタナは、大众桑塔纳という名前で1983年に中国で発売。以来400万台を売り上げ、改革開放期の未だ満足な国産車の無い中国社会を支えた。2012年までの実に29年間も生産され、多くの中国人に馴染み深いモデルとして、今のVWの中国での人気、中国車のスタンダードを作り上げた「中国車の心の故郷」だ。
映画「山河ノスタルジア（2015）」でも、1990年代のシーンで主人公の相手がサンタナを運転しているが、今作での使われ方は2011年になってもまだ20年前のクルマを乗っているという文脈だ。
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◯ このボンネットトラックは四川省の南骏汽车の製品。中国の大メーカー東風汽車が1978年から2000年頃まで20年以上生産した大ヒットモデルEQ140のコピー製品で、南骏汽车の地元である四川省ではよく売れたそうだ。EQ140自体デザインが1960年代から変わっていないが、設定の2001年でも既に20年以上前の古いトラックというイメージだ。
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