【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
"影帝"ではなく今の周潤發(チョウ・ユンファ)っぽさを感じさせる、ほっこり&泣けるハートウォーミングな映画。タイトル通り"ゴッドギャンブラー"から卒業する映画で、自閉症少年の柯煒林が素晴らしい。
www.youtube.com 《別叫我“賭神”》港版預告|"One More Chance" HK Trailer
【スタッフ & キャスト】
2023年 香港 115分
監督:潘耀明(アンソニー・プン)
出演:周潤發(チョウ・ユンファ)、袁詠儀(アニタ・ユン)、方中信(アレックス・フォン)、廖啟智(リウ・カイチー)、安志杰(アンディ・オン)、黃德斌(ケニー・ウォン)
【あらすじ】
独身・ギャンブル好きでうだつの上がらない理容師・吳光輝【周潤發(チョウ・ユンファ)】。ある日前妻・李夕【袁詠儀(アニタ・ユン)】が少年と共に訪ねてきて、彼を預かってほしいと懇願する。なんとその少年・李陽【柯煒林(ウィル・オー)】は、吳光輝の息子で自閉症を持っていた。困惑しつつも一緒に過ごしていくうちに、徐々に新しい感情が生まれてくる。
【感想】
まるで当て書きのように、周潤發(チョウ・ユンファ)のイメージをうまく使ったキャラ造形になっていて、ファンなら間違いなく楽しめる。
自閉症の息子を演じる柯煒林(ウィル・オー)の演技力とふんわりとした雰囲気がかなり好印象で、彼の今後も楽しみになる、ハートウォーミングで泣けるそんな温かい映画だった。
賭神というタイトルからも「ゴッドギャンブラー」シリーズの続編を匂わせるのだが、特に関連は無いし、なんならストーリーも、タイトルで謳っている通りギャンブルやカジノはそんなに出て来ないので、シリーズ過去作を見ていなくても全く問題ない。
とはいえ、周潤發(チョウ・ユンファ)が演じるのは一応ギャンブラーだ。なので舞台はマカオ。街並みもさり気なくマカオ感が漂っているのが良いが、にもかかわらず腕も悪く博打グセが抜けずに自堕落に生きている、うだつの上がらない男を演じている。この、哀愁が漂うけどあんまり情けをかける気になれないという、典型的なダメ男がむしろ個人的には良かった。
そこに突然、自分の子だという自閉症の若者を連れて昔の嫁が訪ねてきて、こんな自堕落な男にその子を押し付けていくという、どちらかと言えば「過ぎゆく時の中で(1989)」の逆バージョンようなストーリーが始まる。この自閉症の息子を演じた柯煒林(ウィル・オー)がとても良かった。素晴らしく自然な演技で、微笑ましい気持ちにさせてくれる。ストーリーは王道だし、どこかで見たような印象も受ける小品といってもいい作品だが、最後まで楽しめるので変に期待せずに見るのが良いかと思う。
"影帝"の周潤發(チョウ・ユンファ)を期待して見るのは間違い…というより、むしろ最近の、マラソンしてる姿ばかりが目に入る彼を投影した役柄だし、そういう彼の自然な姿が見れる。昔の様に再びの大活躍を期待はしつつも、これはこれで暖かい気持ちになれる素敵な映画だ。
【トピック】
◯ 2023年6月21日に中国本土で先行公開、1週間後に香港・マカオで一般公開された。公開初週は香港興収ランキングで2位。興行収入は1299万香港ドル(2.6億円)。
◯ 監督の潘耀明(アンソニー・プン)は映画カメラマンとして1980年代から活動しており、陳木勝(ベニー・チャン)や麦兆輝(アラン・マック)といった錚々たる監督作品で撮影をしてきた。「ディバージェンス(2005)」と「サイレント・ウォー(2012)」、そして最新の「金手指(2023)」で香港金像奬・撮影賞を獲得。
映画監督としては黄轩(ホァン・シュエン)主演の「潜入捜査/ミッション:アンダーカバー(2017)」での麦兆輝(アラン・マック)との共同監督以来2作目、単独監督としては初作品となる。
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周潤發(チョウ・ユンファ)
◯ 理容店を営んでいる吳光輝
◯ 周潤發(チョウ・ユンファ)は言わずとしれた香港映画を代表する映画スター、"亜州影帝"である。「發哥」「發仔」と呼ばれることも多い。
1980年代から数多くの大ヒット映画に出演し、ドラマ「上海灘(1980、上海グランド)」が大ヒットした後、映画「風の輝く朝に(1984、台湾金馬奨)」、「男たちの挽歌(1986、香港金像奬)」、「友は風の彼方に(1986、金像奬)」、「誰かがあなたを愛してる(1987、金馬奨)」、「過ぎゆく時の中で(1989、金像奬)」と毎年のように主演男優賞を受賞。
ハリウッド進出後は「リプレイスメント・キラー(1998)」、「グリーン・デスティニー(2000)」、「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド(2007)」、「さらば復讐の狼たちよ(2010)」、「ラスト・シャンハイ(2012)」などに出演している。
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柯煒林(ウィル・オー)
◯ 吳光輝の所へ前妻・李夕とやってきた自閉症の少年・李陽。
◯ 柯煒林(ウィル・オー)は、本作共演の廖啟智(リウ・カイチー)が野球チームの監督を演じ、談善言(ヘドウィグ・タム)が香港金像奬新人賞にノミネートされた「最初の半歩(2016)」で映像デビュー。雨傘革命を描いた「散った後(2020)」で主演した他、「香港の流れ者たち(2021)」や「アニタ 梅艷芳(2021)」、「縁路はるばる(2022)」、「金手指(2023)」などに出演している。
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袁詠儀(アニタ・ユン)
◯ 吳光輝の前妻・李夕。ある事から息子・李陽を預けることを決意する。
◯ 1990年代を中心に数多くの映画に出演。劉青雲(ラウ・チンワン)との「つきせぬ想い(1993)」と張國榮(レスリー・チャン)との「君さえいれば/金枝玉葉(1994)」で2年連続香港金像奬・主演女優賞を受賞。
その他、梁家輝(レオン・カーフェイ)&梁朝偉(トニー・レオン)主演の「月夜の願い/新難兄難弟(1993)」、周星馳(チャウ・シンチー)監督作のコメディ「0061/北京より愛をこめて!?(1994)」、「金玉満堂(1995)」、「ボクらはいつも恋してる! 金枝玉葉2(1996)」、金城武主演「アンナ・マデリーナ(1998)」、「イップ・マン 最終章(2013)」など、陳可辛(ピーター・チャン)監督や王晶(バリー・ウォン)監督作を中心に数多く出演している。
黎明(レオン・ライ)が主演した"賭神"シリーズ「ゴッド・ギャンブラー/賭神伝説(1997)」に出演している。
廖啟智(リウ・カイチー)
◯ 理髪店のオーナー、花叔。
◯ 2021年に胃がんにより67歳で逝去した。遺作となる本作や「G風暴(2021)」以外にも撮影済未公開の作品がある。
周潤發(チョウ・ユンファ)の出世作であるドラマ「上海灘(1980、上海グランド)」でデビュー。「籠民(1992)」と「ビースト・ストーカー/証人(2008)」で香港金像奬・助演男優賞を受賞。その他「インファナル・アフェアII 無間序曲(2003)」、「SPL/狼よ静かに死ね(2005)」、「香港国際警察/NEW POLICE STORY(2004)」、「密告・者(2010)」、「プロジェクト・グーテンベルク(2018)」などに出演。ドラマでも「警界線(2014)」、「廉政行動2014」などの主演作がある。
今作共演の方中信(アレックス・フォン)とは「律政強人(2015)」で共に主演。同じく共演の柯煒林(ウィル・オー)のデビュー作「最初の半歩(2016)」では監督役で出演した関係でもある。
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方中信(アレックス・フォン)
◯ 理髪店の常連であり仲良しの友人でもある体育教師、中SIR。
◯ 1987年のデビュー作の役名から芸名を決めた方中信(アレックス・フォン)。「君を見つけた25時(1998)」、「ぼくの最後の恋人(2005)」、「盗聴犯 死のインサイダー取引(2009)」、「インターセプション 盗聴戦(2014)」の4作で香港金像奬・助演男優賞を受賞。「ワンナイト イン モンコック(2004)」では主演男優賞にノミネートされた。
数多くのドラマにも出演しているが、近年は中国ドラマへの出演も多く、特に「ミーユエ 王朝を照らす月(2015)」はよく知られている。