香港映画レビュー&解説「お父さん 爸爸 Papa」

爸爸 (2024年電影) - 維基百科,自由的百科全書

お父さん - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

実話の事件を元に、父親の側から心情を描く。展開も演出も、すべて父親の気持ちの揺れに寄り添って撮っていて、だからこそ時間が止まった遺族の思いまで再現されている、新しいリアリティを持つ映画だ。

 

 

爸爸


www.youtube.com 《爸爸》PAPA|正式預告|12月5日 唯愛解惑

 

 

 

【スタッフ & キャスト】

2024年 香港 127分
監督:翁子光(フィリップ・ユン)區焯文(アウ・チュクマン)
出演:劉青雲(ラウ・チンワン)谷祖琳(ジョー・コク)、蘇文濤(ディラン・ソウ)、熊諾頤



 

【あらすじ】

香港の荃灣(ツェンワン)で母親【谷祖琳(ジョー・コク)】と娘が惨殺される事件が発生し、15歳の息子【蘇文濤(ディラン・ソウ)】が犯人であることが判明する。被害者の夫かつ父であり、また、加害者の父でもあるユン【劉青雲(ラウ・チンワン)】は、このような悲劇を招いた原因は何だったのかを究明するかのように、裁判を傍聴し、収監中の息子との対話を試みる。

東京国際映画祭より

 

 

 

【感想】

実話の事件を元に、父親の側から心情を描く。展開も演出も、すべて父親の気持ちの揺れに寄り添って撮っていて、だからこそ時間が止まった遺族の思いまで再現されている、新しいリアリティを持つ映画だ。

映画館で見たのだが、時間を間違えて冒頭30分を見逃してしまった。という事でこれは正式な感想とは言えない。

さてこの作品、実質的には劉青雲(ラウ・チンワン)演じる阮永年(ユン)ただ一人だけが登場人物の映画だ。他に登場するといっても、妻と長男、娘の家族だけといっていい。この究極的に狭い世界が、いかにこの事件で彼が破壊されたか、それだけでも良くわかる。

 

お父さん 爸爸 Papa

 

長男によって妻と娘を殺されるという、悲惨な事件。被害者も加害者も家族、自分だけが家族で唯一の残されるという、自身の家族にまつわるものすべてが失われた世界。それは肉親そのものだけではなくて、家族についての価値観やひいては生きる意味も破壊されてしまった世界線だ。
犯人=長男を責めたとて、回り回って己れへと帰ってき、代わりに得たものなど何もなく、大きな大きな喪失だけが残った世界。

ニュースなどを見ていると、事件事故の遺族·被害者によるコメントとして「時間が止まったまま」とか「今も悲しみが癒えることはない」と聞く事があり、なんなら良く耳にすると言ってもいい。
しかし私達はあの言葉に含まれた気持ちを本当に理解しているのか?極論ある種の定型文みたいに思ってやしないか?そうした問いを観客に突きつけてくる。

 

お父さん 爸爸 Papa

 

映画は阮永年(ユン)の現在を見せる。ただ猫と過ごす無為な日々。その合間に過去の思い出が甦り、映画としては時制を行ったり来たりする。他の映画ならわかりにくくて妨げにも感じるが、今作ではむしろ、彼の心の動きそのものの再現である事がわかる。彼の「時間は止まったまま」、思い出が、哀しみが毎日毎日寄せては返す波の様にやってきて、彼はその度に涙に暮れる。思い出に縛られて、ぬかるみに足を取られている。でもそれは悪いことなのか?仕事もやめ、ただ無気力に何年も過ごしている、この状況から脱け出せないことは果たして誰のせいなのか。

阮永年(ユン)がただ、この状況に流されているだけの人物でない事は、色んなところから見える。出張マッサージを呼ぶくだりも、この変わらない日々を変えたい欲求だと見えたし、自閉症児との出会いもそうだ。そして何よりも息子への向き合い方だ。
息子の犯した罪への対処、彼への辛抱強く寄り添う姿勢は、ちょっと真似のできないレベルだ。自分の人生を破壊した犯人だというのに、ここまで冷静な判断ができ、しかもそれを維持し続けられた事に驚く。

 

お父さん 爸爸 Papa

 

この映画は実話を元にしているとはいえ、ドキュメンタリーではないし、思い出のシーンも数多くの登場して、印象としてはファンタジックですらある。でも阮永年(ユン)の目線からは徹頭徹尾リアルに描いてある、とてつもなくリアルな映画だ。エンディングの出来事も、決してそれで終わりではない。最後に深い余韻をもらって、観客も考えながら見終わる、そんな作品だ。

余談だが、この映画でも「ラスト・ダンス(2024)」のような葬儀のシーンが登場する。思わず比較してしまい興味深かった。

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◯ 堅尼地城にある高先電影院で鑑賞。こうした大型バナーが掲示されていた。



 

【トピック】

◯ 本作は2024年10月31日に東京国際映画祭でワールドプレミア。同年12月5日に香港で一般公開された。公開初週から興収ランキングで「ラスト・ダンス(2024)」に次ぐ2週連続の2位を獲得。
興行収入は2300万香港ドル(4.4億円)。

 

香港映画レビュー&解説「ラスト・ダンス 破·地獄 The Last Dance」 - daily diary

2024.tiff-jp.net

 

 

◯ 本作は香港電影発展局によって行われる、首部劇情電影計画という映画製作援助によって724万香港ドル(1.4億円)の援助を受けて制作された。この制作費支援はたとえば「毒舌弁護人(2023)」「流水落花(2022)」「年少日記(2023)」などがある。

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◯ 本作はアジア・フィルム・アワードで主演男優賞を受賞。香港金像奨では主演男優賞、助演女優賞、新人俳優賞の3冠受賞、作品賞や監督賞など11部門にノミネートされた。

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◯ 監督の翁子光(フィリップ・ユン)は1979年生まれ。香港映画批評家協会会員で制作と同時に批評を寄稿したりもしていて、2010年ころから監督作品を制作している。「ファイアー・レスキュー(2014)」の次作「九龍猟奇殺人事件(2015)」で香港金像奨で13部門ノミネート7部門受賞の快挙を達成した。前作は郭富城(アーロン・クォック)&梁朝偉(トニー・レオン)のW主演による60年代の警察汚職を描いた「風再起時(2022)」。話題になったサスペンス映画「正義迴廊(2022)」ではプロデューサーを務めている。

お父さん 爸爸

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◯ 共同監督の區焯文(アウ・チュクマン)はタレントとして知られていて、2002年頃からの児童番組の司会者として人気を博す。その後一旦キャリアは途絶えるが、王晶(ウォン・ジン / バリー・ウォン)プロデュースの下、監督した映画「鴨王(2015)」がヒット。映画界にカムバックした。
俳優として、今作監督の翁子光(フィリップ・ユン)の「微交少女(2013)」「風再起時(2022)」に出演。彼がプロデュースした「正義迴廊(2022)」では陪審員のひとりとして出演している。

「正義迴廊」での1シーン。左が區焯文(アウ・チュクマン)。
中央に座っているのは鍾雪瑩(ジョン・シュッイン)。

 

 


劉青雲(ラウ・チンワン)

◯ 阮永年(ユン)。家族で茶餐廳(食堂)を営んでいたが、事件により一変する。
◯ 今作で4度目の香港金像奨・主演男優賞を獲得した。
今や言わずとしれた香港映画のトップスターを張る大御所。
「我要成名(2006)」「インターセプション 盗聴戦(2014)」で香港金像獎主演男優賞をすでに2度受賞、「奪命金(2011)」で台湾金馬奨受賞。そして「神探大戦 (2022)」で3度めの香港金像獎主演男優賞受賞となった。
最近も「インテグリティ/煙幕(2019)」「バーニング・ダウン 爆発都市(2020)」、そして2022年は「神探大戦 (2022)」と年間香港興収1位の「未来戦記(2022)」と、主演作が続々ヒット。
直近はアクション映画「ホワイト・ストーム 世界の涯て(2023)」、とハリウッド映画「交渉人(1998)」のリメイク「談判專家(2024)」という邱禮潯(ハーマン・ヤウ)監督2作に連続主演した。

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谷祖琳(ジョー・コク)

◯ 妻・胡金燕。広東省惠州から働きに来ていた茶樓で阮永年(ユン)と出会い結婚した。娘を演じたのは熊諾頤。

◯ 今作で香港金像奨・主演女優賞を獲得した。
1977年生まれで歌手としても知られている。俳優/監督の谷德昭(ヴィンセント・コク)の姪として、彼が監督したジャッキー・チェン主演作「ゴージャス(1999)」などの映画に出演した他、「スー・チー in ヴィジブル・シークレット(2002)」などに出演している。直近の出演は、里親制度を描いた鄭秀文(サミー・チェン)主演の良作「流水落花(2022)」や吳君如(サンドラ・ン)主演のロマンス詐欺を描いたコメディ「ラブ・ライズ(2024)」などがある。
家族の死去から基金を設立したり、飲食店を経営したりと、俳優以外でも活躍している。

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お父さん 爸爸

 

 

 

◯ 長男・阮厚明を演じたのは蘇文濤(ディラン・ソウ)。今作が映画デビューとなり、香港金像奨・新人俳優賞を獲得した。

お父さん 爸爸

 

 

 

ベースとなった実話の事件

◯ 本作は2010年に発生した殺人事件がベースとなっている。様態や関係、その後の経過などほとんどがしっかり映画に再現されている。

zh.wikipedia.org

 

 

カラオケでの曲

◯ 阮永年(ユン)がプロポーズをした時に歌った歌は、泰迪羅賓(テディ・ロビン)によるヒット曲「這是愛(1981)」である。
周潤發(チョウ・ユンファ)主演による許鞍華(アン・ホイ)監督のベトナム難民についての映画「獣たちの熱い夜/ある帰還兵の記録(1981)」の挿入歌としてリリースされた。
ちなみに泰迪羅賓(テディ・ロビン)は昨年、映画「4拍4家族(2023)」に出演し香港金像奨・音楽賞を受賞している。

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www.youtube.com 這是愛 (電影 "胡越的故事" 歌曲)

 

 

 

 

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