香港映画レビュー&解説「阿龍 Atonement (2025)」

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【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

撮影から7年を経て公開されたことで、作品の印象が大きく変わって見える映画。
鄭中基(ロナルド・チェン)が監督として手がけた本作は、全編タイを舞台にした異国情緒と香港的なアクションを併せ持ちながら、その“時間差”を強く意識させる。

 

 

阿龍


www.youtube.com 《阿龍 Atonement》正式預告 Regular Trailer



 

【スタッフ & キャスト】

2025年 香港 96分 IMDb評価:5.5/10
監督: 鄭中基(ロナルド・チェン)胡耀輝(マーク・ウー)
出演: 鄭中基(ロナルド・チェン)、周秀娜(クリッシー・チャウ)姜皓文(フィリップ・キョン)、傅舜盈(フー・シュンイン)

 

 

 

【あらすじ】

娘・瑩瑩【傅舜盈(フー・シュンイン)】と2人きりで貧しくも穏やかに暮らしていた王龍【鄭中基(ロナルド・チェン)】は、旅行に行ったタイで娘を誘拐されてしまう。すべてを捨て執念の塊となって必死に娘を探す王龍は、復讐の鬼と化していくのであった。

 

 

 

【感想】

撮影から7年を経て公開されたことで、作品の印象が大きく変わって見える映画。
鄭中基(ロナルド・チェン)が監督として手がけた本作は、全編タイを舞台にした異国情緒と香港的なアクションを併せ持ちながら、その“時間差”を強く意識させる。

*鄭中基(ロナルド・チェン)自ら監督

俳優として今や安定したキャリアを持つ鄭中基(ロナルド・チェン)が自ら監督した映画で、公開をとても楽しみにしていた。ただし「四十四にして死屍死す(2023)」「年少日記(2023)」などのコロナ禍を経た後の彼の容貌は一気に貫禄を増していて、2018年に撮影された本作での、特に前半での娘が誘拐される前の時代のスッキリした容貌は、金像奨にノミネートされた「大樂師 為愛配樂(2017)」の頃までの時代に戻ったかのようだった。カツラだろうが髪型まで少年のような刈り上げになっていて、そのミスマッチも微笑ましい。

 

阿龍

*タイを舞台に湿っぽいムード

香港から旅行に来たタイで娘を誘拐された父親が、何としても犯人を探し出すためにタイに引っ越し、さらに周秀娜(クリッシー・チャウ)演じる華人の女と結婚してまで復讐しようとする、強烈な男の物語だ。
ほぼ全編タイが舞台なので東南アジア的な風景も数多く登場するし、アクションシーンもしっかり用意される。何ならストーリーは古天樂(ルイス・クー)主演「SPL 狼たちの処刑台(2017)」などにも似ているのだが、あちらがバリバリの純粋アクション映画なのに対して、こちらはより湿っぽく演歌調な東南アジアムードを醸し出す。
主人公・王龍の性格も、もちろん娘を失った悲しみは何よりも深いのだが、それ以上に陰湿とも言えるような執念深さを感じるし、妻となった阿蘭も知ってか知らずか彼を支える一歩下がった役割で、全体を貫く価値観が少々時代がかった印象を受ける。

 

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*公開延期の影響

観ていて頭をよぎるのは何といっても「共謀家族(誤殺)」シリーズだ。あちらは中国映画だが同じくタイっぽい異国が舞台、華人が主人公、シリーズ3作とも我が子に対する犯罪に立ち向かう父親のストーリーになっている。そしてヒットメーカー・陈思诚(チェン・スーチェン)がプロデュースしているだけあって、ダークな話だが圧倒的にスリリングで見せ場作りが上手い。肖央(シャオ・ヤン)が演じた父親のキャラ造形も意図的に不穏で怪しげになっていて、観客に信用させない事で最後まで展開が読めない良作だ。
本作「阿龍」は2018年に撮影されたが、下記のいくつかの事情によって公開が延期され、7年もの期間を経てようやく公開となった難産の作品だ。
そして「共謀家族」は1作目の公開が、まさにコロナ禍が始まったその時の2019年12月公開であった。もし本作が滞りなく公開されていれば一足早い2018年か2019年公開となっていた筈で、より新鮮な設定と感じられていた可能性が高い。

 

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鄭中基(ロナルド・チェン)は真の姿が明らかになるにつれて体格も大きくなり「共謀家族」の肖央(シャオ・ヤン)以上に悪人ぽい雰囲気を増していく。脇役で良いキャラの姜皓文(フィリップ・キョン)も、後の「未来戦記(2022)」でのキャラを思わせるいい存在感だ。ストーリーも捻りが入って予想外の展開を見せていく。つまり良作となる素材は揃っているのだが、2025年の映画として見ると少し前時代感が見えてしまった感じがとてももったいない事になった。2018年の映画としてエモーショナルな華人的"情"の物語を楽しみたい人にはしっかり楽しめる作品だ。

 

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【トピック】

◯ 本作は2025年9月4日に香港で一般公開。公開初週の興収ランキングは日本アニメ「劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章(2025)」やアメリカ映画「死霊館 最後の儀式(2025)」、中国映画「南京照相館(2025)」などに次ぐ5位。興行収入は200万香港ドル(4030万円)となった。

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◯ 日本では現在のところ公開/配信の予定はない。

 

◯ 本作の撮影は2018年に行われ、本来ならそのまま公開の予定であったが、7年もの長期の延期を経てようやくの公開となった。コロナ禍も理由のひとつであるが、監督主演の鄭中基(ロナルド・チェン)がアルコール依存症治療のため活動を一時休止した事もある。
更に、当初110分版を完成させて中国本土での公開許可を取得していたが、短縮した96分版で再度申請すると担当者が替わった事から幾つかのアクションシーンが暴力的、反権力的という理由から修正を迫られたという。
昨年は、本作以外にも「風林火山(2025)」「尋秦記(2025)」「内幕(2025)」といった長期の延期が続き、「実は作られていなかったのでは」という都市伝説も囁かれたような話題作たちがようやく日の目を見た年ともなった。

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鄭中基(ロナルド・チェン)

◯ 本作では監督と脚本を担当し、さらに主人公・王龍を演じた。

◯ 1996年のデビュー以来ヒット曲を多数持つ有名歌手だが、俳優でも知られていて、「低俗喜劇(2012)」で金像獎助演男優賞を受賞、「大樂師 為愛配樂(2017)」でも金像獎主演男優賞にノミネート。
「恋の風水バトル(2003)」「ドラゴン・フォー(2012)」シリーズ、「スペシャルID 特殊身分(2013)」などの他、最近では「闔家辣(2022)」「四十四にして死屍死す(2023)」そして良作「年少日記(2023)」に主演した。
映画監督は既にコメディ「心想事成(2007)」で経験しており、本作が2作目となる。

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◯ 共同監督を務めた胡耀輝(マーク・ウー)は、脚本家として彭順(オキサイド・パン)らパン兄弟が監督したタイ合作ホラー「the EYE 3(2005)」のほか、「アイスマン 超空の戦士(2014)」「アイスマン 宇宙最速の戦士(2018)」の甄子丹(ドニー・イェン)主演作を担当。
初監督となったコメディ「猛龍特囧(2015)」に鄭中基(ロナルド・チェン)が主演しており、そこからの関係と思われる。

 

 

 

周秀娜(クリッシー・チャウ)

◯ タイで出会い結婚した阿蘭。

◯ 広東省潮州で生まれ育ち、10歳の頃に香港へと移民した。20歳にスカウトから芸能界入りし、映画出演も開始。特に2010年頃はモデルとしても絶大に人気を誇り、東京ガールズコレクションにも出演した。
映画では周星馳(チャウ・シンチー)監督「西遊記 はじまりのはじまり(2013)」「100回目の別れ(2014)」「大楽師(2017)」「女子監獄(2023)」、林超賢(ダンテ・ラム)監督「爆裂點(2023)」などに出演。「29歳問題(2017)」「馬達・蓮娜(2021)」で香港金像奨・助演女優賞にノミネートされている。今年の春節映画「臨時決鬥(2025)」ではボクサー役で出演している。

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姜皓文(フィリップ・キョン)

◯ 獄中を仕切っており、王龍に良くしてくれる阿彈。

◯ 杜琪峯(ジョニー・トー)監督「奪命金(2011)」で映画賞受賞以来、数多くの映画に出演している。主な作品は「大樹は風を招く(2016)」、LGBT映画「トレイシー(2018)」「ショックウェイブ(2017)」&「バーニング・ダウン 爆発都市(2020)」、中国映画だが無国籍的な設定のサスペンス「共謀家族(2019)」&「误杀2(2021)」、香港では珍しいSF作品「未来戦記(2022)」、林超賢(ダンテ・ラム)監督「爆裂點(2023)」などがある。

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傅舜盈(フー・シュンイン)

◯ 娘・瑩瑩役を演じた傅舜盈(フー・シュンイン)は、楊千嬅(ミリアム・ヨン)&古天樂(ルイス・クー)主演の幼稚園を描いた「小さな園の大きな奇跡(2015)」にも幼稚園児役で出演している。撮影時期などから考えると2010年頃の生まれのようなので、現在は既に中学生くらいの筈だ。

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