共謀家族 誤殺~迷える羊の向かう先 误杀 Sheep Without a Shepherd: 豆瓣
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【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】「共謀家族 誤殺~迷える羊の向かう先 误杀」の感想や解説(データ、あらすじ、出演者プロフィール)などを記載しています。
www.youtube.com 《误杀》终极预告
www.youtube.com 『共謀家族』予告編 7月16日(金)より 全国ロードショー !
【スタッフ & キャスト】
2019年 中国
監督: 柯汶利(サム・クワー)
出演: 肖央(シャオ・ヤン)、谭卓(タン・ジョオ)、许文姗(オードリー・ホイ)、陈冲(ジョアン・チェン)、姜皓文(フィリップ・キョン)、秦沛(ポールチュン)
【あらすじ】
タイの中華街で穏やかに暮らす李维杰(リー・ウェイジエ)。彼の高校生になる娘が、ある日他校のドラ息子にレイプされ、その動画をネタに脅迫され始める。だがこのドラ息子スーチャットは市長候補と警察局長夫婦の子供であり、権力をかさにやりたい放題だ。人知れず悩む娘に気づいた母阿玉(アユー)は、娘を守るべく立ち向かったのだがその結果、運悪くも彼を殺す事になってしまう。
李维杰(リー・ウェイジエ)とその家族は、警察の捜査から逃れるための策略を巡らせる。
【感想】
ハラハラさせながらグイグイ引き込まれるスリリングな展開、決してハッピーエンドでは無いが、すとんと腹に落ちるエンディングで気持ちいいプログラムピクチャー。
冒頭は何せ暗く不穏で、この先が不安になるのだが、そこからじわりじわりと緊張感が増していく。しかも決してテンションが下がらずに、映画後半まで右肩上がりに高まっていくので、こちらも画面から目が離せなくなる。
画面のルックと言うのか、質感がすごい。暗くザラっとした荒さが濃厚で、不穏であり何が起こってもおかしくない雰囲気がプンプンする。タイの中華街が舞台なのだが、バンコクの中華街は実際ここまでじゃない。でも確かにこういうエッセンスはあるし、映画はあの雰囲気を何倍にもブーストしたような感じだ。ディテールもきちんとタイっぽいし、手は抜いてない。「ピースブレーカー(2017)」を思い出した。あちらはクアラルンプールが舞台だが、中国映画ではこの手の東南アジアを舞台にした作品にこういう質感は定番なのか?と思うくらい不穏な雰囲気が近い。
主人公がいい。彼ら一家か警察、どちらが悪か、どちらが尻尾を出すか、ギリギリまでわからない重層的なキャラクター。最初はパッとしない父親が、じわりじわりとすごい能力を発揮しはじめる。一方で警察側も少しずつ推理を固め始め、ついつい事件解決にも期待してしまう。観ている側もどちらにも肩入れできずに、不安定な立場を強いられて余計にハラハラさせられる。
そうしてハラハラさせられた後、きっちりカタルシスも味あわせてくれる事で、全体としてエンタメ映画として成立させている。決して鑑賞後の余韻に浸るようなノアール映画ではない。そこが王道中国映画らしくもあるが、そもそもこんな警察、中国国内の設定では絶対に制作できないだろう。国外の話という体だから作れるが、中身は結構国内向けでもある、このバランスがヒットの秘訣だろうか。
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【トピック】
○ 2015年のインド映画「ビジョン Drishyam」のリメイク。こちらの映画も現在Netflixで見ることができる。(この映画も2013年版のリメイクである。) 2015インド版の方が描写が大人しく犯罪内容も軽いものになっているのは、インドの表現規制によるものだろう。何より2時間半弱もある。展開や雰囲気も中国版の方がよりスリリングでスピーディになって、エンタメ映画方向へ改良してあるように思えた。トリックはインド版の方がわかりやすい。
○ 「唐人街探偵」シリーズ監督の陈思诚(チェン・スーチェン)がプロデューサーとして、新人である柯汶利(サム・クワー)監督をバックアップしている。陈思诚(チェン・スーチェン)はiQIYI 爱奇艺で配信されたウェブドラマ版「唐人街探案」でも彼に監督をさせるなどのサポートもしている。
○ 2019年12月13日に公開され初週の興収ランキング1位を取ったが、その後コロナ禍による映画館の休館や新作公開中止が相次ぐ中で上映延長が続き、結局3月末までの4ヶ月間に6度週間興収ランキング1位を取ることになった。
◯ 2020年の東京・中国映画週間で「誤殺~迷える羊の向かう先」というタイトルで公開された後、「共謀家族」と改題されて一般公開された。
○ 2020年末の第33回中国金鶏奨で、本作は作品賞、主演男優賞(肖央(シャオ・ヤン))、主演女優賞(谭卓(タン・ジョオ))、助演女優賞(幼い娘役の张熙然)など8部門ノミネートとなった。
◯ 筆者の2020-21年中国映画ベスト5で本作を第5位に選んだ。
肖央(シャオ・ヤン)
○ 主人公の李维杰(リー・ウェイジエ)役の肖央(シャオ・ヤン)は元々は筷子兄弟という音楽デュオの俳優。最近は今作と同じ陈思诚(チェン・スーチェン)が監督の「唐人街探案」シリーズ全作に出演しているので、ここでの存在感が大きい。詳しくは「シスター 夏のわかれ道(2021)」の項を参照。
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谭卓(タン・ジョオ)
○ 母阿玉(アユー)役の谭卓(タン・ジョオ)も多くの映画に出ている実力派。「ブレイブ 大都市焼失 / 烈火英雄(2019)」や「薬の神じゃない! 我不是药神(2018)」が有名だろうか。本作と同時期に公開された「被光抓走的人(2019)」にも出演している。
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许文姗(オードリー・ホイ)
○ 娘の平平(ピンピン)役の许文姗(オードリー・ホイ)は、警察局長役の陈冲(ジョアン・チェン)の実の娘である。まだ駆け出しというところか。
陈冲(ジョアン・チェン)
○ その陈冲(ジョアン・チェン)は「ラスト・エンペラー(1987)」での皇后役が有名だろう。「赤い薔薇 白い薔薇(1994)」などでも受賞歴がある。
姜皓文(フィリップ・キョン)
○ 警察局長の夫で市長候補役の姜皓文(フィリップ・キョン)は「ショック ウェイブ 爆弾処理班 (2017)」で知られている香港人俳優。「大楽師(2017)」にも出演していた。
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その他
○ 続編の「误杀2」が2022年公開予定で予告されている。サイモン・ヤムやジャニス・マン(文詠珊)などの香港勢の出演が謳われている。
○ 殺された警察局長の息子スーチャットが乗っていた、川に沈められる黄色いクルマは2003~2007年に生産されていたタイ仕様の7代目ホンダ・アコード。日本で言う4代目インスパイアである。
○ 作中で主人公が見ていた映画は、韓国映画「悪魔は誰だ(2013)」である。
筆者の2020-21年の中国映画ベスト5で本作を5位に選んだ。