香港ファミリー - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
家族の鬱憤が暴発して8年、家庭不和は更に深刻さを増して…という、私たちにもリアルな話。エンディングが予想外だがすごく丁寧で良い。どれも本当に良質な新世代香港映画の一本。
www.youtube.com 【前導預告】《過時·過節》 11月24日 一家人齊齊整整🍚
www.youtube.com OAFF2023『香港ファミリー』Hong Kong Family [過時·過節] 予告編 Trailer
【スタッフ & キャスト】
2022年 香港 114分
監督:曾慶宏(エリック・ツァン・ヒンウェン)
出演:毛舜筠(テレサ・モウ)、謝君豪(ツェー・クワンホウ)、呂爵安(イーダン・ルイ)、談善言(ヘドウィグ・タム)、袁澧林(アンジェラ・ユン)、盧瀚霆(アンソン・ロー)、馮素波(アリス・フォン)
【あらすじ】
傷害事件スレスレの家族内トラブルをきっかけに、家庭崩壊が始まった香港の中流家庭。
8年後、失職した夫【謝君豪(ツェー・クワンホウ)】はタクシー運転手となり、「会話する」言葉を失った。妻【毛舜筠(テレサ・モウ)】は家政婦のバイトを始め、シングルファーザーの雇い主に密かに心ときめいている。離婚し、実家に出戻った娘【談善言(ヘドウィグ・タム)】は就職をせずに街を彷徨う。そして、父と対立した息子【呂爵安(イーダン・ルイ)】は、あれから家に戻っていない。ひとり、老人ホームで暮らす祖母は、冬至の日に一家団欒の食事を願うのだが……。
OAFF2023より
【感想】
決してハッピーエンドでは無いが、しかし人生とは時に痛みを伴いつつ最良の着地へとたどり着くこともある。そういう意味で我が事としても見れる、リアルで心に残る良質な映画であった。
最初から最後までピリピリとした緊張感が続き、似たような実体験がある人にとってはなかなか辛い映画かもしれない。イライラを隠そうともせず家族みんなに小言を繰り返す毛舜筠(テレサ・モウ)が素晴らしい。今更のようにそれを我慢しつつ適当にやり過ごしながら、冬至の日に実家に向かう家族たち。ところが、実家では更に口煩い母親がいて、息子たちの長年の鬱憤を爆発させてしまう。彼女こそがこの団欒を楽しみにしていたのに…
このスピーディでわかりやすいオープニングが素晴らしくて、もう物語に一気に引き込まれてしまう。劇的なだけでなく、喧嘩をしながらも全員の問題点が明らかにされ、そこから刃物まで飛び出す「事件」へと一気に突っ走ってしまうのだ。ああ、これは取り返しがつかないわ…
そして第二幕。更に物語自体も一気に8年も経過し、悪化したままもはや回復は望めなそうな状況から本当の物語がスタートする。
家族の絆をどうやって取り戻すかには、男と女で、また親と子どもでやり方は違えども、この映画ではとてもフラットで均等に描いているのも好ましい。誰もが悩み、それゆえにたどり着く答えもそれぞれ違っている。だからこそ、エンディングも深い余韻を残す仕上がりになり、彼らの行く末が見終わってもなお気になってしまうのだ。
特に謝君豪(ツェー・クワンホウ)が演じる夫/父親が非常に印象的だ。普段の彼が演じる役とは全く違うし、彼の出す結論も驚愕だが、同時にすごく腑に落ちる、ある意味強靭な意思を持つキャラクターだ。もちろん彼とて妻や家族の気持ちを汲み取れていないのも見えてくるし、子供たち二人も同様に深く傷ついている一方で完璧ではなく、どの役にも共感して見ることができる繊細さがある。
息子役の呂爵安(イーダン・ルイ)が上手い。映画2作目とは思えないほど若く鬱屈した雰囲気を全身から伝えてきて、存在感がある。その後の活躍も納得の実力がすでにここでも見えている。
とにかくエンディングが印象的だ。こういうやり方もあるのか、と目から鱗の終わり方だし、漂う雰囲気は開放的というか、穏やかでもあり、じわりと染み入る。
あと、ロケーションが良い。実家のある場所は、香港的な喧騒のエリアから遠く離れた新界奥深くの山深い場所で、ゆったりとした時間を感じて、いかにも家族だけが入ってこれる小さな「世界」なのだ。
家庭不和だけでここまで描いた映画というのも珍しいし、空気は重たいがダイナミックなシーンも多いのでまったく飽きずに最後まで見れる、とても良い映画だった。最近立て続けに出てきた新世代の香港映画の一本として、記憶に残る映画だ。
【トピック】
◯ 2022年10月7日からの釜山国際映画祭でワールドプレミアされ、翌月の11月24日から一般公開。初週の興収ランキングは「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー(2022)」、異例の大ヒットとなった「正義迴廊(2022)」に次ぐ3位となり、翌週には2位に上昇して数週間ランキング上位を維持する人気作となった。
興行収入は1251万香港ドル(2.4億円)。
香港映画レビュー&解説「正義迴廊 The Sparring Partner」 - daily diary
◯ 日本では2023年3月10日からの大阪アジアン映画祭で公開された。
◯ 今作は、「流水落花(2022)」などと同じく香港電影発展局によって定期的に行われる、首部劇情電影計画という新人監督発掘オーディションによって325万香港ドル(6300万円)の援助を受けて制作された。詳しくは「流水落花(2022)」の項を参照。
香港映画レビュー「流水落花 Lost Love」 - daily diary
◯ 今作の曾慶宏(エリック・ツァン・ヒンウェン)監督は、1988年生まれ。映画監督を目指して独立して短編映画を中心に作品を制作。1分の短編映画「下雨天(2018)」で鮮浪潮の大賞を受賞。そして上記の首部劇情電影計画に入選し、初の長編映画を監督する事となった。独立して活動していた為、映画界とのコネクションはほぼ何もなかった。
エドワード・ヤン監督の「ヤンヤン 夏の想い出(2000)」が好きだと語っている。そして監督自身も、呂爵安(イーダン・ルイ)演じる息子・陽と同じく、若い頃に違和感を感じ、家を出て何年も戻っていなかったそうである。
◯ 実家となる家の撮影は、北部新界北東部・粉嶺の營盤村で倉庫を借りて行われた。
毛舜筠(テレサ・モウ)
◯ 妻であり二人の子供の母親、玲。裕福なシングルファーザーの家政婦をしている。口数が多い。
◯ 1970年代後半の10代の頃から映画やバラエティで活躍。「早熟 〜青い蕾(つぼみ)〜(2005)」で金像獎助演女優賞、「黃金花(2018)」で金像獎主演女優賞を受賞。
今作と同じ年にもう一本主演作「ママの出来事(2022)」が公開、翌年の「四十四にして死屍死す(2023)」 では今作同様に呂爵安(イーダン・ルイ)と共演している。他にも「夜の珍客(2015)」、「燃えよデブゴン/TOKYO MISSION(2020)」などにも出演している。
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香港映画レビュー「四十四にして死屍死す 死屍死時四十四 Over My Dead Body」 - daily diary
謝君豪(ツェー・クワンホウ)
◯ 父親で夫の陳旭真。エンジニアの仕事を辞めタクシードライバーをしている。非常に寡黙で感情を表すことも少ない。
◯ 数多くのドラマ、映画に出演している。「南海十三郎(1997)」で金馬奨主演男優賞受賞。映画では「天作之盒(2004)」や「バーニング・ダウン 爆発都市(2020)」での犯人役や、大ヒット作「未来戦記(2022)」に「風再起時(2022)」、「毒舌弁護人(2023)」、「ホワイト・ストーム 世界の涯て(2023)」、「飯戲攻心2(2024)」など昨今更に大作出演が増加中の一方で、「香港の流れ者たち(2021)」などの深いテーマの作品にも出演している。
ドラマでは古装劇「月に咲く花の如く(2017)」や「三国志 Secret of Three Kingdoms(2018)」など。
香港映画レビュー「バーニング・ダウン 爆発都市 拆彈專家2」 - daily diary
香港映画レビュー「毒舌弁護人~正義への戦い~ 毒舌大狀 A Guilty Conscience」 - daily diary
香港映画レビュー「風再起時 Where the Wind Blows」 - daily diary
香港映画レビュー「飯戲攻心2 Table For Six 2」 - daily diary
呂爵安(イーダン・ルイ)
◯ 息子・陽。家族関係に嫌気が差し、家を出た。ゲームのプログラムをしている。監督の経験が反映されている。
◯ 呂爵安(イーダン・ルイ)は、アイドルグループMIRRORのメンバーとして2018年にデビュー。名門・香港大学卒の優等生だ。俳優デビューで主演ドラマ、香港版おっさんずラブ「大叔的愛(2021)」には今作で共演の盧瀚霆(アンソン・ロー)とカップル役であった。「闔家辣(2021)」で映画に初出演。映画2作めとして今作に出演後、「四十四にして死屍死す(2023)」で毛舜筠(テレサ・モウ)と再び共演している。
今年は春節映画として「盜月者(2024)」、翌月には「12怪盜(2024)」とMIRRORメンバー全員が出演する映画が立て続けに公開されヒットした。
香港映画レビュー&解説「闔家辣 Chili laugh story」 - daily diary
香港映画レビュー「四十四にして死屍死す 死屍死時四十四 Over My Dead Body」 - daily diary
談善言(ヘドウィグ・タム)
◯ 妹の琪。一度結婚したのだが離婚し、実家に戻ってきた。兄のように家族を見捨てることも出来ないが、一方で深く悩んでもいる。
◯ 1990年生まれ。方力申(アレックス・フォン)や余文楽(ショーン・ユー)、蔡卓妍(シャーリーン・チョイ)などを輩出した人気ドラマ、Y2Kシリーズのひとつ「DIY2K(2012)」で人気になる。香港野球チームを描いた「最初の半歩(2016)」で香港金像奨新人賞にノミネート。「小男人週記3之吾家有喜(2017)」や「告別之前(2017)」などに出演した後、楊偲泳(レンシ・ヨン)とのLGBT映画「はじめて好きになった人(2021)」で大阪アジアン映画祭ABCテレビ賞を受賞した。鄭秀文(サミー・チェン)主演の「流水落花(2022)」にも出演している。
香港映画レビュー「流水落花 Lost Love」 - daily diary
袁澧林(アンジェラ・ユン)
◯ 明の娘・悅(JOY)。イギリス在住だが冬至に帰省する。
◯ 1993年生のモデル、俳優。2015年にレストラン美心MXなどで知られる美心食品のお正月広告で注目を集める。その後もモデルとしてマクドナルド香港、Beautylabo、ボシュロムなど多くのCMに出演。
アーティストMVもDear Jane「哪裡只得我共你(2016)」、林峯(レイモンド・ラム)の「不計前嫌(2021)」、そして銀杏BOYZの2017年の3枚のシングル「エンジェルベイビー」、「骨」、「恋は永遠」、そしてアルバム「ねえみんな大好きだよ(2020)」のジャケットなどに出演した。
本作出演後も、MVでは日本のVaundy「Tokimeki(2023)」、CMでは香港MTR(港鐵)の2023年キャンペーンなど大きな作品に出演が続いている。
映画も本作で9作目となるほど出演しているが、主な作品は鄭中基(ロナルド・チェン)主演「闔家辣(2022)」や、東京国際映画祭出品作「離れていても(2023)」、そしてコロナ禍でのシングルマザーを演じた良作「星くずの片隅で(2022)」などがある。
香港映画レビュー「星くずの片隅で 窄路微塵(きょうろみじん)The Narrow Road」 - daily diary
盧瀚霆(アンソン・ロー)
◯ 息子・陽の友人で、一緒に仕事もしている雀仔(KOL)。
◯ 盧瀚霆(アンソン・ロー)も呂爵安(イーダン・ルイ)と同じくMIRRORのメンバーだ。上記の通り、香港版おっさんずラブ「大叔的愛(2021)」では呂爵安(イーダン・ルイ)とカップル役であった。
映画は主演作「假冒女團(2021)」に続いて、今作が2作目の出演。今年は春節映画として「盜月者(2024)」、翌月には「12怪盜(2024)」とMIRRORメンバー全員が出演する映画が立て続けに公開されヒットした。
馮素波(アリス・フォン)
◯ 妻・玲の母親。うるさく二人に口を出していたが、大喧嘩となり深く後悔している。
◯ 馮素波(アリス・フォン)は映画監督の父、兄弟にカンフー映画の名脇役・馮克安(フォン・ハックオン)や女優・馮寶寶(フォン・ボーボー)がいるなど、芸能一家に生まれた。
1960年代に広東映画の若手女優「七公主」の一人として大人気になる。ドラマ「壹號皇庭(1992)」、「情濃大地(1994)」、「神鵰俠侶(1995)」、「笑傲江湖(1996)」など無数の映画・ドラマに出演している大女優。
梁祖堯(ジョーイ・レオン)
◯ 妻・玲の弟・明。悅(JOY)の父親である。母親に疎まれている不満が爆発し離縁する。
◯ 友情出演の梁祖堯(ジョーイ・レオン)は、「調教你男友」の続編としてMIRRORにが出演し、ヒットしたリアリティ番組「調教你MIRROR(2020)」で"調教役"として共演している。
本来は俳優・舞台監督として舞台演劇を長年手がけている。映画では郭富城(アーロン・クォック)主演の「浮城(2012)」や、「29歳問題(2017)」、昨年公開の話題作「年少日記(2023)」などに出演している。
香港映画レビュー&解説「年少日記 Time Still Turns The Pages」 - daily diary