香港映画レビュー&解説「從今以後 All Shall Be Well」

從今以後 - 維基百科,自由的百科全書

All Shall Be Well(英題) - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

終の住処での2人の日々。それが一瞬でフッと消えてしまう、胸に締め付けられる前半が印象的なLGBTQ映画。高齢者の女性カップルゆえの問題が、より一層苛烈に重くのしかかる。

 

 


www.youtube.com 【《從今以後》ALL SHALL BE WELL👩‍❤️‍👩】香港版 正式預告 5月1日 獻映

 

 

 

【スタッフ & キャスト】

2024年 香港 93分
監督: 楊曜愷(レイ・ヨン)
出演: 區嘉雯(パトラ・アウ)李琳琳(マギー・リー)太保(タイポー/タイ・バオ)許素瑩(ホイ・ソーイン)梁仲恆(リャン・チョンホン)廖子妤(フィッシュ・リュウ)

 

 

 

【あらすじ】

60代のレズビアンカップルの汪紫盈(アンジー)【區嘉雯(パトラ・アウ)】と胡碧玉(パット)【李琳琳(マギー・リー)】は、長年支え合って生きてきた。しかしパットが急死したことで、葬儀や遺産を巡って、それまで良好な関係だったパットの親族とアンジーの間に溝が生まれてしまい…。

大阪アジアン映画祭より

 

 

 

【感想】

終の住処での2人の日々。それが一瞬でフッと消えてしまう、胸に締め付けられる前半が印象的なLGBTQ映画。高齢者の女性カップルゆえの問題が、より一層苛烈に重くのしかかる。

前半の穏やかな時間は、もし退屈に感じたとしても是非じっくりと楽しんで欲しい。
朝お茶を淹れ、大きな2人用の鏡台で手短に整え、それぞれのファッションで出かければ好きな事を話しながらも腕は組み、そしていつもの花屋でお喋りする、そんな素敵な日々。
それは唐突に終わりを告げ、その時間に戻りたくても、もう還ってくる事はない。後半になればなるほど、それをより一層実感し、その事が後々まで響いていく。

 

從今以後

 

法的に結婚していない、それも老境を迎えたカップルの、当事者の残酷な現状を告発するストーリーで、その点は知的障害者への虐待を描いた「白日の下(2023)」や路上生活者についての「香港の流れ者たち(2021)」、里親制度の「流水落花(2022)」などにも通じる、昨今の新世代香港映画に通底する感覚だ。
だが、今作の監督は既に前作「ソク・ソク(2019)」から、同じ老いたLGBTQの人々をテーマに扱っている。筆者は前作が見れていなくてとても残念なのだが、恐らく監督の目線は両作とも同じところなのだろうし、それだけに何とかそれぞれを見比べたいところだ。

 

從今以後

 

今作で言えば、特に太保(タイポー/タイ・バオ)演じる長男・胡志成の描写が非常に真摯で、深く印象に残る。汪紫盈(アンジー)を、妹・胡碧玉(パット)が最も深く付き合った人物として理解する、少なくともその努力はしている事までは見えるし、行動を起こす片鱗にまでは辿り着いているのだが、環境が彼にそんな余裕を与えない。
それは彼の妻・許素瑩(ホイ・ソーイン)演じる沈月美による、アンジーへの「ずっと羨ましく思っていた」という言葉からも伝わってくる。監督は決して一方の側からの糾弾という次元にはとどまらず、両側の「それぞれの地獄」のようなものから観客に問いかける。

あれだけ優しかった息子・Victor、親しげに軽やかに衝撃的な言葉をアンジーに言い放つ娘・Fanny。そこからの散骨に向かう船のシーン。集まった顔ぶれが現実を物語り、そこから陸を離れ純粋にパットへと向き合うアンジーは、象徴的ですらある。

家族をはじめとする脇役たちが、全員達者揃いによる深みのある人物になっているのが、この映画の白眉だ。特に妻、長男、長女のリアリティが凄まじい。長女・Fanny役の廖子妤(フィッシュ・リュウ)など、いつもとは全然違う化粧っ気のない存在感が、彼女の演技にもうひとつ引き出しを増やした印象だった。

 

從今以後

 

広く見ればこの物語は、性的指向に関わらず誰しもが当事者になる話でもある。パットがもう少し準備できていたら…と思わざるを得ない。だが、だからこそ、筆者はアンジーの気持ちにより一層「自分ごと」として共感できた気がするし、それこそがわざわざ同じテーマで再び撮った監督の狙いではないかと思うのである。區嘉雯(パトラ・アウ)や太保(タイポー/タイ・バオ)ら、わざわざ同じ俳優をキャスティングしている点もそうだ。ぜひとも彼の前作が見て監督の狙いを全て理解したいと思える、良作であった。

 

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從今以後


 

【トピック】

◯ 2024年2月16日ベルリン国際映画祭でワールドプレミア。同年5月1日から香港で一般公開された。興行収入は302万香港ドル(5800万円)。

 

◯ 日本では2025年3月14日からの大阪アジアン映画祭で上映予定。

oaff.jp

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◯ 本作はベルリン国際映画祭・テディ賞受賞、観客賞第三位を獲得。台湾金馬奨では作品賞・監督賞・主演女優賞など4部門ノミネート。香港金像奨では5部門にノミネートされて、4月の結果発表を待っている。

 

 

◯ 監督の楊曜愷(レイ・ヨン)はイギリス留学後、弁護士資格も持っているが、自身で映画製作も開始。その後、米コロンビア大学芸術学院で改めて映画製作について学んだ。
高齢者LGBTを描いた前作「ソク・ソク(2019)」で台湾金馬奨・脚本賞ノミネート、香港金像奨では2部門にノミネートされた。

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區嘉雯(パトラ・アウ)

◯ 汪紫盈(アンジー)。30年間胡碧玉(パット)と同居していたが、パットに先立たれてしまう。

◯ 英文教師をしながら舞台劇に出演しており、数多くの賞を受賞した。本作の楊曜愷(レイ・ヨン)監督の前作「ソク・ソク(2019)」で香港金像奨助演女優賞を受賞。その後も大ヒットとなった「正義迴廊(2022)」「星くずの片隅で(2022)」「白日青春-生きてこそ-(2022)」「全世界どこでも電話(2023)」と、続々と話題作への出演が続いている。

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李琳琳(マギー・リー)

◯ 胡碧玉(パット、画像左)。汪紫盈(アンジー)の長年のパートナーだったが急死してしまう。

◯ 1963年にデビュー以来、ショウ・ブラザーズと並ぶ映画会社キャセイ・オーガニゼーション(国泰機構)に所属。30作以上の主演作をはじめ、「蛇姦(1974)」など数多くの映画・ドラマに出演した。1980年代にテレビで司会者として活躍、1990年にカナダへ移住していたが、2007年に香港へ戻る。
昨年、香港が舞台となるニコール・キッドマン主演のアメリカドラマ「エクスパッツ(2024)」に出演。本作が復帰後2作目の出演作となる。

なお、最近では「白日の下(2023)」「臨時強盗(2024)」に出演している名優・姜大衛(デビッド・チャン)は夫。

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太保(タイポー、タイ・バオ)

◯ パットの兄、胡志成。しがない駐車場の管理人をしている。

◯ 今作の楊曜愷(レイ・ヨン)監督の前作「ソク・ソク(2019)」では、LGBTQの高齢者を演じ香港金像奨・主演男優賞を獲得した。

数多くの香港・台湾映画に出演する名バイプレイヤー。幼少期を台湾で過ごしたため"臺保"と呼ばれ、そこから今の芸名となった。
1980年代以降の香港・台湾映画、特に成龍(ジャッキー・チェン)や洪金寶(サモ・ハン・キンポー)の作品に数多く出演した。
「公僕(1984)」で台湾金馬奨ノミネート、宮沢りえ主演の台湾映画「運転手の恋(2000)」で金馬奨・助演男優賞を受賞した。
主な出演作は「ヤング・マスター/師弟出馬(1980)」「プロジェクトA(1983)」「五福星(1984)」「ポリス・ストーリー 香港国際警察(1985)」「新Mr.Boo!香港チョココップ(1986)」「サイクロンZ(1988)」「悲情城市(1989)」などという、錚々たるフィルモグラフィだ。最近では「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件(2023)」でも印象的な演技を披露している。

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許素瑩(ホイ・ソーイン)

◯ 胡志成の妻、沈月美。ホテルで客室清掃の仕事をしている。

許素瑩(ホイ・ソーイン)は、香港金像奨作品賞受賞作「半邊人(1983)」で主演でデビュー。自身もこの作品で主演女優・新人賞にノミネートされた。だがその後はテレビ局香港電台に入社し、俳優ではなく裏方として業界に携わり続けていく。
劉德華(アンディ・ラウ)の「桃さんのしあわせ(2011)」で再び映画出演。「チャットガールズ ~微交少女~(2014)」に出演後は「私のプリンス・エドワード(2019)」「正義迴廊(2022)」などに出演している。

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梁仲恆(リャン・チョンホン)

◯ 胡志成の息子、胡振威(Victor)。付き合っている彼女がいるが、安定した仕事が見つからない。

◯ 演じた梁仲恆(リャン・チョンホン)は、香港演芸学院を首席で卒業した後、俳優の道へと進む。甄子丹(ドニー・イェン)主演作「スーパーティーチャー 熱血格闘(2018)」「ゼロからのヒーロー(2021)」などに出演。
さらに最近では「白日の下(2023)」「作詞家志望(2023)」「臨時強盗(2024)」、そして放射能漏洩事故を描いたディザスター映画「カウントダウン(2024)」などなど、話題の出演作への出演が増加している。

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廖子妤(フィッシュ・リュウ)

◯ 胡志成の娘、胡詩韻(Fanny)。結婚して2人の子がいる。

◯ マレーシア、ジョホール州ムアル出身のモデル、俳優で、「レイジー・ヘイジー・クレイジー(2015)」「姉妹関係(2016)」に出演していたが、「アニタ 梅艷芳(2021)」で王丹妮(ルイーズ・ウォン)演じる梅艷芳(アニタ・ムイ)の姉、梅愛芳(アン・ムイ)を演じた事で一気に知られるようになる。
その後「6人の食卓(2022)」「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024)」「カウントダウン(2024)」と大ヒット作への出演が続いている。

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黎濟銘(ライ・チャンミン)

◯ Fannyの夫・琛を演じたのは黎濟銘(ライ・チャンミン)

◯ 2016年に演劇学校卒業後、舞台やMVに出演していた。昨年以来「盗月者 トウゲツシャ(2024)」「臨時強盗(2024)」「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024)」「談判專家(2024)」「カウントダウン(2024)」と一気に数多くの人気作品に出演を果たしている。

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梁雍婷(レイチェル・リョン)

◯ 胡振威(Victor)の彼女、Kittyを演じたのは梁雍婷(レイチェル・リョン)

「どこか霧の向こう(2017)」での猟奇的な少女を演じて香港金像奨新人賞ノミネート。
名匠陳木勝(ベニー・チャン)の遺作アクション「レイジング・ファイア(2021)」などにも出演しているが、特に香港新世代映画の良作「縁路はるばる(2022)」でさらに知られる事となる。

以降「流水落花(2022)」「燈火(ネオン)は消えず(2022)」「正義迴廊(2022)」「年少日記(2023)」と立て続けに新世代の映画に出演。「白日の下(2023)」での素晴らしい演技で香港金像奨・助演女優賞を受賞した。
昨年はスーパー大ヒット作「ラスト・ダンス(2024)」でも印象的な役を演じている。

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