【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
今年口コミで評判が広まった春節映画(賀歲片)でもあるクライムコメディ。どんどん話が転がって予想もつかないところに着地する。郭富城(アーロン・クォック)の出っ歯キャラ作りが強烈!佐敦・廓街などの観光エリアが出てくるのも嬉しい。
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【スタッフ & キャスト】
2024年 香港 98分
監督:麥啟光(アルバート・マック)
出演:郭富城(アーロン・クォック)、林家棟(ラム・カートン)、任賢齊(リッチー・レン)、張可頤(マギー・チョン)、林雪(ラム・シュー)、姜大衛(デビッド・チャン)
【あらすじ】
廓街(テンプルストリート)で両替商を襲う強盗が発生。梅藍天【郭富城(アーロン・クォック)】が率いる一味は奪った金を通りがかりのタクシーのトランクに入れて逃走した。
そのタクシーのドライバー、笠水【林家棟(ラム・カートン)】は友人の慕容輝【任賢齊(リッチー・レン)】と共に、その金で自分たちの現実を変えようと銃を手に入れようとするのだが…
【感想】
いきなり観光地でのド派手な強盗から始まり、と思ったらジェットコースター的にどんどん話が展開していくクライムコメディ的な面白い映画だった。郭富城(アーロン・クォック)の濃いキャラ、色んな登場人物が入り乱れてまったく飽きずに楽しめる。
テンポ良く、ブラックコメディな部分もあり、庶民のあがきを皮肉っぽく描いてたりもして、いかにも香港映画らしいエッセンスがいっぱい詰まっている。
冒頭は佐敦(ジョーダン)にある廓街(テンプルストリート)という、観光スポットのエリアが舞台。開始早々から早速両替所を襲う強盗が発生。かと思えば更に郭富城(アーロン・クォック)の一味がもう一段大掛かりな強盗を仕掛けて、観客は一気にクライムアクションの世界に放り込まれる。
しかし主役のもう2人、林家棟(ラム・カートン)と任賢齊(リッチー・レン)はまだ出てこない。彼らのストーリーは事件と同じエリアとはいえ、犯罪とは無縁そうな日常の悩みに汲々としているところから始まるのに、何故か彼らも犯罪へと巻き込まれていくのだ。ここらへんの、まるで坂道を転げ落ちるような、ピタゴラスイッチ的に深みへハマっていく展開が面白い。
特に彼らを強引に巻き込んでいく郭富城(アーロン・クォック)演じる梅藍天のキャラ作りがすごくて、一回この映画を見たらきっと忘れられなくなるだろう。超出っ歯にデカいサングラス、おまけに指で「GO」とやるなどの決め台詞満載の、1人だけロマンチックで劇画チックな特濃キャラが最高なのだ。
他にも林雪(ラム・シュー)や姜大衛(デビッド・チャン)演じる魚屋の裏稼業、彼らとは別に動いている若者たちなど、どう関わってくるのか予想もつかない妙なキャラがちょろちょろ画面を賑わせてくるのも楽しい。
梅藍天を代表に、全体にマンガ的だし、リアリティは薄めなので、そこを理解して見るのが正解だ。アクションや爆破、マフィアの抗争なんかも出てくるが、メタ的な描写でパロディとして描かれている。現代を風刺した寓話としても、とってもテンポ良く楽しめる、いかにも賀歲片(春節映画)にふさわしいエンタメ映画であった。
【トピック】
◯ 2024年の賀歲片(春節映画)として中国では1月19日、香港では2月9日から公開された。当初は大ヒット映画の続編「飯戲攻心2」やMIRRORのメンバーたちが出演する「盗月者」などの後塵を拝していたが、口コミの評判によって徐々に人気が上昇。3週目には興収ランキング1位を奪取した。興行収入は2100万香港ドル(3.8億円)。
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◯ 日本では「臨時強盗」というタイトルで、2024年11月1日からの香港映画祭「Making Waves 」で上映予定。
◯ 本作は爾冬陞(イー・トンシン)がプロデューサーを務めている。また、友情出演している姜大衛(デビッド・チャン)とは親戚の関係だ。
俳優、脚本、監督もこなす香港映画界の重鎮。1970年代に俳優でキャリアをスタートし、早くも「癫佬正传(1986)」から監督としてのキャリアを開始した。
主な監督作品だけでも、劉青雲(ラウ・チンワン)主演の「つきせぬ想い(1993)」や、彼と張栢芝(セシリア・チャン)と共演したマイクロバス(小巴)運転手のストーリー「忘れえぬ想い(2003)」、呉彦祖(ダニエル・ウー)「ワンナイト イン モンコック(2004)」&「トリプルタップ(2010)」、劉徳華(アンディ・ラウ)「プロテージ/偽りの絆(2007)」、ジャッキー・チェン「新宿インシデント(2009)」などなど数多くの作品がある。
中国映画の監督作もあり、映画スタジオ横店影視城を舞台にした「我是路人甲(2015)」や内モンゴルが舞台の「海的尽头是草原(2022)」などがある。
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◯ 監督した麥啟光(アルバート・マック)は、1965年生で主に助監督として「マッスルモンク(2003)」や杜琪峯(ジョニー・トー)監督「ドラッグ・ウォー 毒戦(2012)」などに携わり、今作プロデュースの爾冬陞(イー・トンシン)との仕事も多い。幾つかの監督作もある。
郭富城(アーロン・クォック)
◯ ベトナムから香港に来た梅藍天。強盗をして逃亡する際に笠水と慕容輝を拉致する。
◯ 1990年代から今もなお大人気で毎年数多くの出演作がある、現在の香港を代表する俳優であり、大人気歌手。膨大な出演作があるが、主なものは
杜琪峯(ジョニー・トー)監督「裸足のクンフー・ファイター(1993)」、「柔道龍虎房(2004)」、「リー・ロック伝/大いなる野望 PART II(1991)」、「父子(2006)」、「浮城(2012)」など。
さらに「コールド・ウォー 香港警察 二つの正義(2012)」と続編「コールド・ウォー 香港警察 堕ちた正義(2016)」、周潤發(チョウ・ユンファ)との「プロジェクト・グーテンベルク(2018)」、中国映画の「ピースブレーカー(2017)」、翁子光(フィリップ・ユン)監督の2作「九龍猟奇殺人事件(2015)」と梁朝偉(トニー・レオン)と共演した「風再起時(2022)」、スター3人の共演「ホワイト・ストーム 世界の涯て(2023)」、そして最近作となる大ヒット作「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024)」など数え切れない出演作がある。
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林家棟(ラム・カートン)
◯ タクシードライバーの笠水。彼らもまた強盗事件を計画する。
◯ 林家棟は、国民党の兵士だった祖父らと共に幼少の頃に香港へ移住、当初は九龍城塞に住んでいた。その後、無綫(TVB)の訓練生として芸能界入り。張可頤(マギー・チョン)も出演のヒットドラマ「茶是故鄉濃(1999)」などに出演したが、2005年に杜琪峯(ジョニー・トー)監督の名作「エレクション 黒社会(2005)」への出演で俳優としての評価を決定づけた。「大樹は風を招く(2016)」で香港電影金像奨にて主演男優賞を受賞。その他も「イップマン(2008)」シリーズや「コールド・ウォー 香港警察 二つの正義(2012)」、「SPL 狼たちの処刑台(2017)」、「アニタ 梅艷芳(2021)」、「マッド・フェイト(2023)」など出演多数。中国との合作のスリラー映画「第八个嫌疑人(2023)」にも出演している。
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任賢齊(リッチー・レン)
◯ 笠水の友人で老人ホームを運営する慕容輝。
◯ 台湾出身の歌手であるが、数多くの香港映画にも出演。「ブレイキング・ニュース(2004)」、「エグザイル/絆(2006)」、「奪命金(2011)」などの杜琪峯(ジョニー・トー)監督作品を筆頭に、林超賢(ダンテ・ラム)監督「コンシェンス 裏切りの炎(2010)」、「大樹は風を招く(2016)」、「私の胸の思い出(2006)」、台湾映画「若葉のころ(2015)」などに出演している。今年はあの大ヒット作「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024)」にも出演しカンフーを披露している。
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張可頤(マギー・チョン)
◯ 刑事の姜灝雯。
◯ イギリスの大学在学中、夏休みに香港に戻った際に徐克(ツイ・ハーク)らにスカウトされデビュー。1990年代から2000年代にかけて数多くのドラマに出演し大人気となった。主な出演作はドラマ「難兄難弟(1997)」や「茶是故鄉濃(1999)」、「婚前昏後(2000)」など。映画ではデビュー直後に「男たちの挽歌Ⅲ(1990)」に出演のほか、最近では昨年の「風再起時(2023)」などに出演している。
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姜大衛(デビッド・チャン)
◯ 水産物卸の裏でドラッグディーラーの顔も持つ蝦少。
◯ 九龍城塞で生まれ育ち、17歳の頃に兄の秦沛(ポール・チョン)に誘われて映画界入りする。邵氏(ショウ・ブラザース)と契約し、看板スターとして1970年代から数多くの映画に出演。「ヴェンジェンス/報仇(1970)」で映画賞も受賞する。80年代に入ると兄の秦沛(ポール・チョン)や親戚で今作プロデュースの監督・爾冬陞(イー・トンシン)らと監督業にも進出する。
主な作品は「新・片腕必殺剣(1971)」、「水滸伝(1972)」、「ブラッド・ブラザース 刺馬(1973)」、「少林寺列伝(1976)」などだが、つい先ごろ障害者施設の虐待を描いた社会派の良作「白日の下(2023)」での施設長役で、香港金像奨・助演男優賞を受賞した。
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その他の俳優
◯ 両替所を襲う強盗犯を演じた姜卓文(ジョン・チャン)は、上記の姜大衛(チャン・ダーウェイ)の息子で1995年生まれ。Viu TVでのドラマ出演などを経て「アニタ 梅艷芳(2021)」で映画デビューし、今作が2作目の映画出演となる。
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◯ 王頌茵(キャシー・ウォン)は今作が映画デビュー。主にViuTVでのドラマやバラエティ番組の出演が多い。
◯ 笠水の妻として出演している胡定欣(ナンシー・ウー)は1981年生の俳優・タレント。2000年代から「大唐雙龍傳(2003)」や「恋するパイロット(2003)」、「法證先鋒III(2011)」、「拳王(2012)」など数多くのドラマに出演し、受賞経験も豊富にある。
映画では吳鎮宇(フランシス・ン)主演のドラゴンボートについての映画「逆流大叔(2018)」以来、本作が2作目の出演となる。
CMにも多数出演している。
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◯俳優が本業ではない若手も登場する。
オーディション番組出身の歌手・俳優。映画では「作詞家志望(2023)」や「潜入捜査官の隠遁生活(2024)」などにも出演している。
歌手として有名で、映画では「黄昏をぶっ殺せ(2021)」に出演以来本作が2作目となる。下の曾比特(マイク・ツァン)とは音楽で共演したこともある。
www.youtube.com 《我不如 x 自動棄權》 - Mike 曾比特 & Calvert Fu符家浚
曾比特(マイク・ツァン)
オーディション番組で歌手として芸能界入り。映画は今作がデビュー作となる。