マッド・フェイト - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
かなりクセのある、画作りもストーリーも独特なサイコホラー風味のクライム・サスペンス。
まるで精神を病む寸前のボーダーライン上にいる人々を、サイコパス側から描いているような作品。
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【スタッフ & キャスト】
2023年 香港 108分
監督: 鄭保瑞(ソイ・チェン)
出演:林家棟(ラム・カートン)、楊樂文(ヨン・ロッマン)、吳廷燁(ン・ティンイップ)、伍詠詩(ン・ウィンシー)、陳湛文(ピーター・チャン、チャン・チャームマン)
【あらすじ】
ある雨の夜、ひとりの売春婦が部屋で残虐なやり方で殺害された。偶然そこにいた出前の配達員・少東【楊樂文(ヨン・ロッマン)】は、その凄惨な現場を見てむしろ興奮してしまっている自分に気づく。そこにいた許陽燊【林家棟(ラム・カートン)】は、彼の背負っているただならぬ悪運を感じて思わず彼を止めようと駆けつける。
【感想】
かなりクセのある、画作りもストーリーも独特なサイコホラー風味のクライム・サスペンス。まるで精神を病む寸前のボーダーライン上にいる人々を、サイコパス側から描いているような作品。
筆者は個人的にこういったホラー的なテイストの作品はあまり見ていなかったのだが、香港映画ではよりはっきりと恐ろしい事件や化け物、妖怪、亡霊などが登場するホラーやスリラー的作品は多いので、そういう要素を併せ持っている作品と考えるのが良いのかもしれない。
一度見た時は、林家棟(ラム・カートン)が演じる許陽燊を始めとした、登場人物が全員揃って異様なせいもあってうまく理解ができなかった。再度見直してようやくストーリーを理解できたといった感じだ。
猟奇的なシーンもあるし、CGとはいえ猫好きにはショッキングなシーンがあるので、その点でも充分注意して見た方が良い作品だ。
占い師の主人公が、見た瞬間に悪い運を感じて救おうとする相手。それが楊樂文(ヨン・ロッマン)演じる出前の配達員・少東だ。彼は血やナイフを見ると異常に興奮してしまう悪癖を持ち、主人公の占いによって更に悪い運命、命に関わるほどの悪運が待ち受けている事がわかる。自らの運命を変えるため、少東と許陽燊は様々な対策に奮闘する。
だが、見えもしない運命を変える方法とは?そんな方法はあるのか?そうして実体の無いものを恐れ始めてしまった2人は、風水的なものを置いたり寺院で祈ったりいろんな事を試していく。
この、本人にとっては異常から正常に戻す為の必死の努力が、足りないと感じて更に努力し、そうして努力すればするほど更に異常な行動へと突き進む悪循環は、まさにこの映画が進行するにつれて進んでいく。
結局は運命への捉え方が変わらない限り、そこに囚われたまま抜け出せない。
また一方で、主人公・許陽燊は自身の精神的な異常を発症する/しないのギリギリで均衡を保とうする人物でもある。発症していない時は相手を改善させようとするが、発症すると真逆になる天使と悪魔の様な二面性も持つ。
そして映画では彼の眼を通して、社会から落ちこぼれそうになる言いようのない不安な心理を、"サイコパス"側の目線で描いてあるのがすごく面白い。そしてその目線から見ると、おそらく主人公だけでなく、少東も残虐な理学療法士【陳湛文(ピーター・チャン、チャン・チャームマン)】も同じような心理なのが見えてくるのだ。
とにかくこの主人公・許陽燊を演じた林家棟(ラム・カートン)が素晴らしい。独特の動きと重層的な性格を見事に演じていて、彼でなければ許陽燊は存在しないと感じるほどだ。
さらに驚くのは配達員・少東を演じた楊樂文(ヨン・ロッマン)で、とても大人気アイドルグループのリーダーとは思えない、深い感情を眼の演技で見せる、素晴らしい仕事をしている。攻撃的だがその奥に不安さや臆病さが見え、さらに血やナイフを目にした時の表情も印象深い。
ストーリーはかなり緻密で細かく展開があり、実はテンポも速い。ピタゴラスイッチ的に連鎖反応で進行しながら、通奏低音のように裏でずっと鳴っていた主題がじわじわ浮かび上がってくる。
登場人物も多くないが、入れ替わり立ち替わりストーリーに関わり続け、最後まで消えない。まさに上手い脚本とはこういうものと感じる映画だ。
【トピック】
◯ 2023年2月19日にベルリン映画祭・ベルリナーレ・スペシャル部門に招待されワールドプレミア。翌月の香港国際映画祭のオープニング作品に選ばれた後、4月20日に香港・マカオで一般公開された。公開初週と2週目は「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー(2023)」、「四十四にして死屍死す(2023)」に次ぐ3位を記録した。
興行収入は1140万香港ドル(2.1億円)。中国大陸では公開されなかった。
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◯ 日本では2023年11月2日〜5日に香港映画祭2023「Making Waves」で上映された。
◯ 本作は香港金像奨で監督・脚本・編集賞の3冠、10部門ノミネートを果たした。
◯ 監督の鄭保瑞(ソイ・チェン、画像中)は今作で香港金像奨・監督賞を受賞した
(画像左は林家棟(ラム・カートン)、右は脚本・プロデュースの游乃海(ヤウ・ナイホイ))。
19歳から映画界に入り、林嶺東(リンゴ・ラム)監督「復讐のプレリュード(1995)」などで助監督を担当。古天樂(ルイス・クー)主演作で今年韓国版リメイク作が公開された「アクシデント(2009)」や「モーターウェイ(2012)」、「モンキー・マジック 孫悟空誕生(2014)」、トニー・ジャー&呉京(ウー・ジン)主演「ドラゴン×マッハ!(2015)」、「リンボ/リンボー(2021)」などを監督。
そして今年は大ヒットのカンフーアクション「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024)」が公開された。
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◯ プロデュースは杜琪峯(ジョニー・トー)が就いている。
◯ 脚本を担当したのは游乃海(ヤウ・ナイホイ、上画像右)。今作で「マッスルモンク(2003)」、「エレクション 黒社会(2005)」に次ぐ3度目の香港金像奨・脚本賞を受賞した。上記2作や「PTU(2003)」、「柔道龍虎房(2004)」という台湾金馬奨受賞作などの、数多くの杜琪峯(ジョニー・トー)作品で脚本を担当。「天使の眼、野獣の街(2007)」の監督も務めた。杜琪峯(ジョニー・トー)の助監督として以外で、自監督作で鄭保瑞(ソイ・チェン)監督が游乃海(ヤウ・ナイホイ)の脚本を撮るのは今作が初めてとなる。
◯ 劇中ではベートーヴェンの「運命」とケネス・アルフォード作曲「ボギー大佐(Colonel Bogey March)」がかかる。
「ボギー大佐」は1914年に作曲されたものだが、映画「戦場にかける橋(1957)」で使われて広く知られるようになった。
youtu.be The Bridge on the River Kwai - Colonel Bogey March (HD)
林家棟(ラム・カートン)
◯ 占い師・許陽燊。
◯ 林家棟は、国民党の兵士だった祖父らと共に幼少の頃に香港へ移住、当初は九龍城塞に住んでいた。その後、無綫(TVB)の訓練生として芸能界入り。張可頤(マギー・チョン)も出演のヒットドラマ「茶是故鄉濃(1999)」などに出演したが、2005年に杜琪峯(ジョニー・トー)監督の名作「エレクション 黒社会(2005)」への出演で俳優としての評価を決定づけた。「大樹は風を招く(2016)」で香港電影金像奨にて主演男優賞を受賞。その他も「イップマン(2008)」シリーズや「コールド・ウォー 香港警察 二つの正義(2012)」、「SPL 狼たちの処刑台(2017)」、「アニタ 梅艷芳(2021)」、「臨時劫案(2024)」など出演多数。中国との合作のスリラー映画「第八个嫌疑人(2023)」にも出演している。
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楊樂文(ヨン・ロッマン)
◯ 飲食店の配達員・少東。ナイフと血を見ると興奮する。
◯ 大人気アイドルグループ・MIRRORのリーダー。だがグループ加入前に映画「The Way We Dance -狂舞派-(2013)」に出演しており、加入後に続編「狂舞派3(2021)」に出演。本作が3作目の出演映画となる。
伍詠詩(ン・ウィンシー)
◯ マンションの一室での売春婦である祖。
◯ 1997年生まれで、インディ映画「逆さま(對倒、2018)」の主演で映画デビュー。こちらもインディ映画「レモン、牛乳(檸檬,牛奶、2020)」の他、「バーニング・ダウン 爆発都市(2020)」、「七人樂隊(2021)」、「神探大戦(2022)」、「飯戲攻心2(2024)」などにも出演している。
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吳廷燁(ン・ティンイップ)
◯ 事件を捜査する刑事・老差骨。
◯ 1980年代から俳優として活動しているが、特に1998年からの「我和殭屍有個約會」シリーズというATVのホラーコメディドラマで日本人を演じて人気となる。
映画では、名作「インファナル・アフェア(2002)」と続編「インファナル・アフェアIII 終極無間(2003)」や、王家衛(ウォン・カーウァイ)監督で木村拓哉が主演した「2046(2004)」、そして「エレクション 黒社会(2005)」、「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を(2009)」などの杜琪峯(ジョニー・トー)作品や「ドラッグ・ウォー 毒戦(2012)」、「グランド・マスター(2013)」などの錚々たる作品に出演している。
陳湛文(ピーター・チャン、チャン・チャームマン)
◯ 理学療法士
◯ 香港演芸学院を優秀な成績で卒業し、以降は舞台劇で活躍。2020年頃から映画へも出演を始める。映画初出演のフルーツ・チャン監督「三人の夫(2018)」でも高い評価を得たが、特に名作「6人の食卓(2022)」と続編「飯戲攻心2(2024)」の出演以降「香港怪奇物語(2021)」、「白日の下(2023)」、「年少日記(2023)」、「全世界どこでも電話(2023)」と続々と話題作に出演している。
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