狂舞派3 - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
前作のヒットから一転、実質的に別物の映画になったストリートダンスとヒップホップの映画。香港の変化に大きく影響を受け社会派作品へと変容していった、ドキュメンタリー的に濃密な異色作。「続編」ではなく「断絶の上に作られた続編」。

【スタッフ & キャスト】
2021年 香港 129分 IMDb評価:6.3/10
監督:黃修平(アダム・ウォン)
出演:顏卓靈(チェリー・ナガン)、蔡瀚億(ベイビージョン・チョイ)、楊樂文(ヨン・ロッマン / ロックマン・ヨン)、劉敬雯(リディア・ラウ)、霍嘉豪(Heyo)、劉皓嵐(リアンダー・ラウ)
【あらすじ】
龍城の工業地帯を拠点にダンスや音楽などのストリートアート活動を行う集団・KIDA(Kowloon Industrial District Artists)。彼らの存在が知られはじめ、徐々に人気も高まってきた。メンバーのひとり、ダンスで人気になったユーチューバー阿良は、この地域を開発するデベロッパー企業とコラボする事で、更に知名度をアップしようと企画する。だがそれは、若者たちの気持ちを逆撫でするものであった。コラボが始まるとKIDAには予想外の反応が発生し始める。
【感想】
前作のヒットから一転、実質的に別物の映画になったストリートダンスとヒップホップの映画。香港の変化に大きく影響を受け社会派作品へと変容していった、ドキュメンタリー的に濃密な異色作。「続編」ではなく「断絶の上に作られた続編」。
本作は2013年にインディーズで作られ、低予算ながら大ヒットになった第一作「The Way We Dance -狂舞派-」の続編だ。筆者は見れていないが、この第一作はダンスに情熱を捧げる若者達を描き、ローカルな香港に再び脚光を当てて、金像奨受賞など高い評価を得た。その続編という事で、多くの人は同じようなポジティブな内容を期待していた筈だが、公開された本作は期待とは大きく違った内容になっている。
まずタイトルは何故か"2"ではなく「狂舞派3」となっていて、その上に劇中では"2"と思しき映画が公開された直後の設定になっている。そして実際には、本作公開の直前に、ネット上で「狂舞派2」と題された7分程のコミカルなショートムービーが公開された。
この、かつての自作を否定するような設定から、観客からは「まるで黃修平(アダム・ウォン)監督による自傷行為のようだ」という声まで上がった。
www.youtube.com 試映劇場《狂舞派2》|試當真
*錚々たる若手人気キャスト
劇中に登場するのは前作の主人公たち。顏卓靈(チェリー・ナガン)や蔡瀚億(ベイビージョン・チョイ)、そしてトップアイドルMIRRORの楊樂文(ヨン・ロッマン / ロックマン・ヨン)、何啟華(ホ・カイ・ワ)、現在「私たちの話し方(2024)」で主演している游學修(ネオ・ヤウ)など、いまや香港エンタメのリーダー達の若々しい姿が眩しい。だがしかし、前作であれほど輝いていた彼らの表情は皆一様に冴えない。
劇中でも有名人となった彼らは、もはや地元の若者たちとは離れた立場になり、彼らの声を感じ取り代弁できる存在ではなくなっていた。その象徴的な事件がストーリーの核となる地元の再開発計画とのコラボ・プロモーションだ。

*香港デモ、国安法の影響
映画の公開は2021年。つまり2019年の香港を揺るがせた反送中デモ、そしてコロナ禍を経て国家安全維持法が成立したタイミングだ。
香港の若者を描いた作品で、彼らが多数参加し、最も影響を受けたあのデモを経て、本作がデモの影響を大きく受けたのは間違いない。国安法によってもはや明言はされないものの、黃修平(アダム・ウォン)監督のインタビューでも「分裂」「抑圧」といった言葉で、そうした意図を強く示唆している。
主題歌のラップ曲を製作したのは、出演者でもある霍嘉豪(Heyo)達だが、彼らのインタビューでは更に明確に、現在の「罠だらけ」で崩壊寸前な状態から「抵抗」すると語っている。
映画の冒頭、観塘の街の風景に霍嘉豪(Heyo)のラップが重なって始まっていく。
「不敢寫的詩 不敢講的志(書けない詩、語れない志)
真的很想追 追不至小的景致(本当に追いかけたい、追いつけない景色)」
何が書けないのか。何が語れないのか。
ただし劇中でそうしたものは描かれない。その代わりに彼らの悩み、もがきが綴られていく。地元のためにと動くことが却って壊していく事になってしまうこと。それぞれが消耗していき、ただ風景だけが確実に失われていくこと。その重さがボディブローのように効いてくる。
本当に語りたい事は語れず、その代わりにありとあらゆるモチーフを通し、比喩として何とか語ろうとする。このあまりのもどかしさに監督の絶望が透けてくる。

*「私たちの話し方」との対比
ストリートダンスの映画と言えば、本作の少し後に中国でも「熱烈(2023)」という、とっても良い出来の映画がある。それぞれにまったく関連は無いし、これはこれで1作目の「狂舞派」に近い作りの良作だ。香港の「狂舞派」が2013年に公開され、8年後の「狂舞派3」はもはや同じ作風では作れなくなり、一方で中国本土では純粋に情熱を傾ける映画が作られる。これ以上ない皮肉な時代の流れを感じざるを得ない。
現在公開されている「私たちの話し方(2024)」は、本作の次に撮られた黃修平(アダム・ウォン)監督作品で、本作から見てみると、再び若者を撮る一方、随分軽やかな語り口になった印象だ。本作のような社会を風刺するような雰囲気は見えてこない。
「狂舞派3」は間違いなくかなりの難産で、悩み抜いて作ったと思わせる。その闘いの結果、過去の自作を否定する”挫折と自己批判”まで内包させて完成した、濃密な作品だ。第一作から10年を費やした上でのほろ苦い結末であり、監督の誠実さが辿った記録だ。
そうした苦闘を経た上で、「私たちの~」はなぜ、一見軽やかで希望を感じさせる物語に辿り着いたのか。筆者は本作を見たことで、「私たちの~」への見方まで大きく変わる体験になった。
ダンス映画に偽装しながらデモ当時の香港の空気を閉じ込めていて、フィクションでありながら、同時にひとつの時代の記録でもある。2019年以降の香港そのものを映し込んだ、とても重要な作品だ。
香港映画レビュー&解説「私たちの話し方 看我今天怎麼說 The Way We Talk (2024)」 - daily diary
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◯ 監督と主題歌制作陣のインタビュー(広東語)
◯ 映画評論家・家明による秀逸なレビュー(広東語)
家明雜感:兩部港片 兩份心境——由《拆彈專家2》到《狂舞派3》 - 20210228 - CULTURE & LEISURE - 明報 Our Lifestyle
【トピック】
予告編
▶ 本国版予告編(クリックで開きます)
www.youtube.com 《 #狂舞派3》THE WAY WE KEEP DANCING 正式預告 Official Trailer
公開・配信・興行収入
◯ 本作は当初2020年12月24日に香港で公開予定であったが、コロナ禍の影響から翌年春節の2021年2月18日に公開が延期された。
公開初週は劉德華(アンディ・ラウ)主演「バーニング・ダウン 爆発都市(2020)」や「ワンダーウーマン 1984(2020)」などに次ぐ4位を記録。翌週翌々週には「ソウルフル・ワールド(2020)」に次ぐ3位に上昇した。興行収入は840万香港ドル
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◯ 日本では、本国公開から間もない2021年2月28日からの大阪アジアン映画祭で上映された。現在のところ日本で配信等の予定はない。
◯ 本作は台湾金馬奨で6部門ノミネート、香港金像奨では主題歌賞1部門にノミネートされた。
主題歌
主題歌「歡迎嚟到呢座城市」は、出演者のHeyoが阿弗、戴伟らと制作し、他の出演者も参加している。
www.youtube.com 《歡迎嚟到呢座城市》/《狂舞派3》The Way We Keep Dancing 主題曲 Theme Song - Official MV - Heyo/阿弗/Lydia/Jan Curious
監督
◯ 監督の黃修平(アダム・ウォン、画像左)は、1975年生まれ。思春期に宮崎駿の影響を受け映像制作を志す。「魔術男(2008)」で香港金像奨・新人監督賞ノミネート。ストリートダンスを描いた「The Way We Dance -狂舞派-(2013)」が低予算映画ながら口コミで大ヒットし、香港金像奨で新人監督賞ほか3部門受賞、3部門ノミネートの快挙となった。游學修(ネオ・ヤウ)も出演した「私たちが飛べる日(2015)」を経て本作を公開した。最新作であり聾者のコミュニティを描いた傑作「私たちの話し方(2024)」が今月日本でも公開された。
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顏卓靈(チェリー・ナガン)
◯ 売れっ子となり芸能活動で忙しくなったKIDAメンバーのひとり、ハナ(Hana)。
◯ 歌手としての方が知られている程だが、俳優としてはデビュー作「狼たちのノクターン 夜想曲(2012)」で映画界に知られるようになる。そして監督の前作「狂舞派(2014)」のヒット、若干19歳にして台湾金馬奨と香港金像奨で主演女優賞にノミネートされた事で一気に知られる事となった。その後の「大楽師(2017)」での被害者役の演技も高く評価された。「ロスト・レジェンド 失われた棺の謎(2015)」や「談判專家(2024)」にも出演している。

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蔡瀚億(ベイビージョン・チョイ)
◯ 人気ユーチューバーとなった阿良。今回のコラボを企画する。
◯ 1986年生まれで香港演藝學院を卒業し、歴史ある中英劇團にも在籍した経験がある。前作「The Way We Dance -狂舞派-(2013)」で香港金像奨・新人俳優賞を受賞し知られる事となった。その後「ショック ウェイブ 爆弾処理班(2017)」や「霊幻道士 こちらキョンシー退治局(2017)」、「29歳問題(2017)」、「シャドウズ(2020)」などのほか、任達華(サイモン・ヤム)の部下を演じた「ドラゴン×マッハ!(2015)」、「バーニング・ダウン 爆発都市(2020)」など、順調に映画・ドラマに出演している。

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楊樂文(ヨン・ロッマン / ロックマン・ヨン)
◯ ダンサーとして技術に磨きをかけたいメンバーのひとり、デイブ(画像右)。
◯ 香港を代表する大人気グループ・MIRRORのリーダー。だが既にグループ加入前に本作の前編となる映画「The Way We Dance -狂舞派-(2013)」に出演しており、加入後に続編となる本作に出演した。鄭保瑞(ソイ・チェン)監督「マッド・フェイト 狂運 (2023)」では、林家棟(ラム・カートン)とW主演で強烈にサイコパスな役を演じている。

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劉敬雯(リディア・ラウ)
◯ ダンサーであるKIDAメンバーのひとり・奶茶(画像中)。
◯ カナダ・トロント生まれのダンサー・歌手で、前作からKIDAメンバーとして出演している。24歳からストリートダンスを始めるが、香港に戻った2013年に監督にスカウトされ「The Way We Dance -狂舞派-(2013)」に出演した。その後歌手としての活動も開始し映画「最初の半歩(2016)」の挿入歌を歌った。作詞もしており「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件 (2023)」の挿入歌「Let's Get To The Top」の作詞(填詞)で香港金像奨にノミネートされている。
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霍嘉豪(Heyo)
◯ ラッパーとして活動するメンバー・Heyo。
◯ 役名と同じHeyoとして活動するラッパー。フリースタイルラップで人気を集め2012年にミックステープをリリースし、2016年にアルバム「花華」をリリースしてiTunes香港Hip Hopチャート1位を記録した。
前作「The Way We Dance -狂舞派-(2013)」にも出演していたが、本作では中心的存在を演じ、主題歌「欢迎嚟到呢座城市」も制作し、香港金像奨・主題歌賞にノミネートされた。監督の次作「私たちの話し方(2024)」にも出演している。
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劉皓嵐(リアンダー・ラウ)
◯ 少年ダンサー・佳仔(画像左)。
◯ 2008年生まれで撮影時は10歳ほどだったが、現在は既に17歳。子役として活動しながらストリートダンスにも打ち込み、2019年にはダンスチームジュニア部門の香港代表として世界大会へ出場した。張繼聰(ルイス・チョン)が制作・主演したボクシング映画「金童 (2025)」でも素晴らしい演技を披露している。
その後、試當真が主催したオーディション番組「校花校草2022」に出場、校草第2位に選ばれる人気を得た。
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何啟華(ホ・カイ・ワ)
◯ Heyoとツルんでいたラッパー・阿Dee役の何啟華(ホ・カイ・ワ)
◯ 阿Deeというニックネームでオーディション番組から結成された人気グループ・「ERROR」のメンバー。デビュー前には游學修(ネオ・ヤウ)と共に、雨傘革命(2014)と関連した劉德華(アンディ・ラウ)のパロディ曲「日日去鳩嗚 落場版」をバズらせたユニット・學舌鳥 Mocking Jerのメンバーであった。
「毒舌弁護人(2023)」の他にも、「香港ウェスト・サイド・ストーリー(2018)」や「ファストフード店の住人たち(2019)」、「散った後(2020)」、 鄭中基(ロナルド・チェン)主演の「闔家辣(2022)」、梁朝偉(トニー・レオン)&劉德華(アンディ・ラウ)が共演した「ゴールドフィンガー(2023)」など、もはや俳優としての地歩を完全に固めたと言っていい大活躍だ。今年の春節に公開され大ヒットした「夜王(2026)」にも出演している。

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游學修(ネオ・ヤウ)
◯ 阿良の同級生で、彼を取材するメディア記者に游學修(ネオ・ヤウ)(画像左)。
◯ 1990年生まれ。黃修平(アダム・ウォン)が監督した映画「私たちが飛べる日(2015)」に出演し、映画デビュー。一方で本作でも共演している現ERRORのメンバーの阿Deeこと何啟華(ホ・カイ・ワ)と共に、雨傘革命(2014)と関連した劉德華(アンディ・ラウ)のパロディ曲「日日去鳩嗚 落場版」をバズらせたユニット・學舌鳥 Mocking Jerのメンバーであった。
その後も映画「十年(2015)」などのドラマ・映画に出演を重ね、ViuTVで監督主演ドラマ「仇老爺爺(2019)」を制作するなど順風満帆であったが、コロナ禍によって休業状態に陥りYoutube配信を開始。岑珈其(カーキ・サム/シャム)や林家熙(ロッカー・ラム)もメンバーの有名YouTubeグループ試當真Trial & Errorを主宰し、彼らの映画「公開試當真(2024)」のプロデュース、「作詞家志望(2023)」にも出演した試當真のメンバー潘宗孝(ERN9、アーネスト・プン)とユニットを組んだりと、人気を博している。
そして公開が始まった監督の最新作の傑作「私たちの話し方(2025)」で、聾者の主演3人のひとりとして素晴らしい演技を見せ、台湾金馬奨・主演男優賞ノミネートされた。
古天樂(ルイス・クー)がオーナーのマネージメント会社・天高娛樂に所属し、最近作「バイタル・サイン (2023)」にも主演している。

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