【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
いかにも春節映画らしいドタバタ喜劇だが、なぜか朱栢康(チュー・パクホン)の魅力が大爆発していて、そこだけを目当てに見るのも楽しいシンプルに楽しめる作品。
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【スタッフ & キャスト】
2025年 香港 105分
監督:羅耀輝(アンディ・ロー、ロー・イウファイ)
出演:蔡卓妍(シャーリーン・チョイ)、張繼聰(ルイス・チョン)、朱栢康(チュー・パクホン)、邱士縉(スタンリー・ヤウ)、吳家忻(ン・カヤン、”ジーニー”)、胡楓(ウー・フォン)
【あらすじ】
病的なギャンブラーの文菁【蔡卓妍(シャーリーン・チョイ)】は、菓子店の御曹司・全守正【張繼聰(ルイス・チョン)】と出会い、やがて結婚する。 しかし、全守正は大のギャンブル嫌い。なんとか文菁はギャンブル癖を隠し、克服するために努力する。
一方、全守正の小学校時代の同級生、孫敏俊(Ian)【朱栢康(チュー・パクホン)】は、幼い頃の出来事が原因で彼を憎んでおり、密かに復讐を企てるが…
【感想】
いかにも春節映画らしいドタバタ喜劇だが、なぜか朱栢康(チュー・パクホン)の魅力が大爆発していて、そこだけを目当てに見るのも楽しいシンプルに楽しめる作品。
ポスターを見ても分かるとおり、張繼聰(ルイス・チョン)&蔡卓妍(シャーリーン・チョイ)を筆頭に良く見知ったスター達が勢揃いの、今年公開の「臨時決鬥(2025)」とか昨年の「飯戲攻心2(2024)」に通じる典型的な春節映画っぽいドタバタコメディだ。
ギャンブル依存症、とはいえ悲壮感は微塵も無さそうな妻が、これまた何故か異常にギャンブルを毛嫌いしている夫にバレないよう、なんとか依存症から抜け出そうと頑張るというのがメインのストーリー。
だがそんなストーリーより、途中から登場してくる敵役・孫敏俊(Ian)を演じる朱栢康(チュー・パクホン)が、ちょっと尋常でない存在感を発揮していて、意味不明なほど面白い。もう正直、主役の2人を食ってしまってるし、後半になればなるほど一層ブーストがかかって彼の独壇場になっていくという、訳がわからない作りなのだ。
登場シーンから謎の韓流キャラでカマしてくるし、彼の芸達者ぶりを存分に活かした色んな表情で最高に楽しめる。まるで撮影途中で監督の気が変わったかのようなほど前/後半で扱いが違っていて、見終わった後は、もはや彼が裏の主役であり、彼の代表作が「ラスト・ダンス(2024)」だとしたら、ここで裏の代表作が爆誕したような気さえする。
彼ら3人以外にも様々な面白キャラがいて、そうした脇役を見ていても楽しい。胡楓(ウー・フォン)の愛くるしいお爺ちゃん、勝ち気な妹・吳家忻(ン・カヤン、”ジーニー”)、おかしなギャンブラー・楊偉倫(ヨン・ワイルン)、何故か夫・全守正に惚れている楊偲泳(レンシ・ヨン)、そして路上の女"賭神"の謝安琪(ケイ・ツェ)…正直もっと掘り下げてほしいキャラ達が、惜しげもなく登場してくる。
映画自体は、本地製作という「逃獄兄弟」シリーズや、昨年公開のクラシックな任侠作品「紮職3(2024)」的なジャンルもの、またはいわゆる三級影片という18歳以上指定作品(日本ならPG15程度に相当か)を中心に制作している制作会社らしい、やや雑然と詰め込まれた脚本、ほんのりと漂う低予算感、ドラマ的なグレーディングの画質など、全体に一昔前の香港映画感あふれるテイストだ。
映画の質とかを語るようなタイプの作品じゃないが、とにかく朱栢康(チュー・パクホン)が気になっている人は絶対に見た方がいい、楽しく見れる娯楽作だ。
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【トピック】
◯ 春節に合わせた2025年1月28日から香港で一般公開。公開初週の興収ランキングは同じく春節映画として公開の「臨時決鬥(2025)」に次ぐ2位につけたが、翌週には逆転して1位を記録した。
興行収入は1100万香港ドル(2.01億円)。
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◯ 監督の羅耀輝(アンディ・ロー / ロー・イウファイ、画像中左)は、脚本家として「神經俠侶(2005)」と劉青雲(ラウ・チンワン)主演「我要成名(2006)」の2つの映画で香港金像奨脚本賞にノミネート。甄子丹(ドニー・イエン)主演「在一起 Together(2013)」などの脚本も手掛けている。
初監督作した映画「幸福な私(2016)」が高い評価を受け、陳家楽(カルロス・チャン)が世に知られると同時に、往年の女優・恵英紅(カラ・ワイ)が今作で香港金像奨・主演女優賞を受賞し、再び人気俳優として今日の多忙さに繋がるきっかけとなった作品となった。その後「ブルー・ムーン(2024)」を監督し、今作が3作目の監督作となる。
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蔡卓妍(シャーリーン・チョイ)
◯ 病的なギャンブル好き・文菁。
◯ 蔡卓妍(シャーリーン・チョイ)こと阿Saは、雑誌モデルとしてデビューしたが出演した香港電台ドラマ「青春@Y2K(2000)」でブレイク。翌2001年から鍾欣潼(ジリアン・チョン)との超人気アイドルユニット、ツインズを結成。
映画出演はツインズとして「ツインズ・エフェクト(2003)」を始めとする主演シリーズ、さらに単独では「香港国際警察/NEW POLICE STORY(2004)」や「プロジェクトBB(2006)」、「77回、彼氏をゆるす(2017)」と続編「感動她77次(2021)」など多数ある。
劉青雲(ラウ・チンワン)と共演した、妊娠中の刑事によるアクションというムチャクチャ設定だが面白い「神探大戦(2022)」に続き、80年代香港バブルの実録映画「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件(2023)」でのゴージャスな秘書役が最近作。
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張繼聰(ルイス・チョン)
◯ 文菁と結婚したがギャンブルは大嫌いな全守正。
◯ 子役から俳優のキャリアを始め、数多くの作品に出演している、今や香港映画で最も売れっ子のひとり。また歌手としても広く知られている。
「イップ・マン 継承(2015)」などから、
「L風暴(2018)」や「P風暴(2019)」などの風暴シリーズや、
「逃獄兄弟(2020)」からの投獄兄弟シリーズ、
大ヒット作「6人の食卓 飯戲攻心(2022)」とその続編「飯戲攻心2(2024)」、
郭富城(アーロン・クォック)&梁朝偉(トニー・レオン)がW主演の「風再起時 (2023)」やMIRROR3人主演の日本が舞台のクライムエンタメ作「盗月者 トウゲツシャ(2024)」などに出演している。
コロナ禍の人々を描いた「星くずの片隅で(2022)」では台湾金馬奨&香港金像奨の主演男優賞にノミネートされた。
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朱栢康(チュー・パクホン)
◯ 韓国系の血を引く金持ち・孫敏俊(Ian)。全守正とは幼なじみで嫌がらせをしてくる。
◯ 最近の香港映画では彼の姿を見ない作品は無いほど、無数の映画に出演している名脇役だ。
そもそもは、弟である朱栢謙(ジュー・パクヒム)とのバンドでの音楽活動で知られるようになったが、「私のプリンスエドワード(2019)」でのクズな男役で知られるようになり、「香港の流れ者たち(2021)」、「星くずの片隅で(2022)」、「白日の下(2023)」、「離れていても(2023)」、「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024)」と、続々と話題作に出演を続けている。
「作詞家志望(2023)」で台湾金馬奨、香港金像奨でそれぞれ助演男優賞にノミネート。そして大ヒット作「ラスト・ダンス(2024)」での素晴らしい演技で香港金像奨・助演男優賞を受賞。これからより一層の活躍が期待される俳優だ。
◯ 弟・朱栢謙(ジュー・パクヒム)も「白日青春(2022)」、「正義迴廊(2022)」、「星くずの片隅で(2022)」、「白日の下(2023)」などなど、出演作が増加中。
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邱士縉(スタンリー・ヤウ)
◯ 文菁の弟・文明。
◯ 大人気グループMIRRORのメンバー。加入前からダンサーとして活動しており、郭富城(アーロン・クォック)らのバックダンサーもしていた。2022年からはソロとしても活動している他、ドラマ出演も多く、香港版おっさんずラブ「大叔的愛(2021)」やヒットドラマ「IT狗(2022)」などに出演。ソロとしての映画出演は今作が初となる。
吳家忻(ン・カヤン、”ジーニー”)
◯ 全守正の妹・全知盈。
◯ 2020年にデビュー以来モデルとして活躍し、その後YouTubeグループ試當真Trial & Errorの動画に出演、後にメンバーとなる。2021年7月にリリースされた楽曲「係咁先啦」にKayan9896という名義で参加。この曲が大ヒットした事で、歌手としての活動も開始することになった。
ドラマ2作ほどに出演の後、試當真メンバーも出演する良作の映画「作詞家志望(2023)」で映画デビュー。今作が2作目の出演となる。
www.youtube.com MC $oHo & KidNey -《係咁先啦》ft. Kayan9896【 Official MV 】
※「係咁先啦」のリリックには実は深い意味が込められている。一読の価値ある解説記事。
胡楓(ウー・フォン)
◯ 胡楓(ウー・フォン)は、1932年生まれで1950年代から映画界で活躍し、現在92歳になんなんとする名脇役。ドラマではTVB「義不容情(1988)」、「妙手仁心(1998)」、「男人之苦(2006)」など。
映画では「忌廉溝鮮奶(1981)」、「上海ブルース(1984)」、「ポリス・ストーリー 香港国際警察(1985)」、「上海エクスプレス(1986)」、「プロジェクトA2(1987)」、「狼たちの絆(1991)」などなど膨大な出演作がある。
最近の出演作は「白日の下(2023)」や「飯戲攻心2(2024)など。
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その他俳優
◯ 楊偉倫(ヨン・ワイルン)は、異色のヒット作「正義迴廊(2022)」での鬼気迫る演技によって一気に知られる事となった。以来「闔家辣(2022)」、「全世界どこでも電話(2023)」、「作詞家志望(2023)」、「12怪盜(2024)」、「談判專家(2024)」と、いまや引っ張りだこの人気俳優となっている。
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◯ 楊偲泳(レンシ・ヨン)はドラマやバラエティ番組で活躍してきたが、女友達との微妙な関係を描いた映画「はじめて好きになった人(2021)」で話題になった。黃子華(ダヨ・ウォン / ウォン・ジーワー)主演の大ヒット作「毒舌弁護人(2023)」にも助手の裁判官役で出演している。
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◯ 洪嘉豪(ジョーイ・ホン)は人気歌手として、2018年以来6枚のアルバムを発表。「逆時車站」をはじめ多くのヒット曲を持ち、自身で作詞作曲もしている。
映画には「ゼロからのヒーロー(2021)」などに出演している。
www.youtube.com 洪嘉豪 Hung Kaho - 逆時車站 Time Travel (Official Music Video)
◯ 女"賭神"を演じた謝安琪(ケイ・ツェ)。1977年生まれ。歌手として絶大な人気を誇り、「鍾無艷(2008)」や「囍帖街(2008)」などの数多くのヒット曲を持つ。「四台聯頒音樂大獎」、「叱咤我最喜愛女歌手」、「最優秀流行女歌手大獎」、「港台十大中文金曲」などなど無数の音楽賞も受賞している大スター。
映画出演もしており、「恋人のディスクール(2010)」、張家輝(ニック・チョン)主演「狼たちのノクターン 夜想曲(2012)」、ミュージシャンの心温まる良作「4拍4家族(2023)」や「潜入捜査官の隠遁生活(2024)」で主演している。
大人気俳優となった本作主演の張繼聰(ルイス・チョン)とは、2007年以来の夫婦である。
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◯ 岑珈其(カーキ・サム/シャム)は俳優で歌手。子供の頃に見た劉德華(アンディ・ラウ)の「フル・スロットル/烈火戦車(1995)」を見て俳優になる事を決意。17歳で映画出演を果たし、その後も香港電台を中心に数多くのドラマに出演した。
香港野球チームを描いた「最初の半歩(2016)」や、陳詠燊(サニー・チャン)監督のヒット作「逆流大叔(2018)」、ViuTVのヒットドラマ「IT狗(2022)」に出演。日本では同時公開した「縁路はるばる(2022)」では主演し、「私のプリンスエドワード(2019)」に出演の他、「ママの出来事(2022)」や梁朝偉(トニー・レオン)&劉德華(アンディ・ラウ)主演の「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件(2023)」と、多くの人気作に出演している。
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◯ その他、映画「G殺(2018)」や「流水落花(2022)」などに出演の陸駿光(アラン・ロク)、そして「正義迴廊(2022)」や「四十四にして死屍死す(2023)」を監督した何爵天(ホー・チェクティン)らも出演している。
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