香港映画レビュー&解説「リンボ 智齒 Limbo」

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【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

2021年作。汚く猥雑、ゴミと湿度にまみれた世界、悲しみが暴発した者たちがぶつかり合う物語なのに、素晴らしくテンポのいい展開、全編モノクロながらむしろ見やすく感じるほどの画作りで最高に面白いR指定映画に仕上がっていた。続編と思う位「マッド・フェイト 狂運」と地続きであり、「トワイライト・ウォリアーズ」にも通じていく鄭保瑞(ソイ・チェン)監督の真骨頂的な作品。

 

 

智齒


www.youtube.com 《智齒》Limbo 正式預告片 Regular Trailer 11月18日 好好活著

 

 

 

【スタッフ & キャスト】

2021年 香港 118分
監督:鄭保瑞(ソイ・チェン)
出演:林家棟(ラム・カートン)劉雅瑟(刘雅瑟 / リウ・ヤースー / リウ・シン)李淳(メイソン・リー)、池內博之、廖子妤(フィッシュ・リュウ)

 

 

 

【あらすじ】

新人の刑事・任凱【李淳(メイソン・リー)】は、連続殺人事件の捜査に復職してきたベテラン刑事・斬哥【林家棟(ラム・カートン)】と組むことを命じられる。だが斬哥の捜査手法を理解できないまま、むしろ失態を犯していく。その捜査中、かつて妻子を死なせた若い女・王桃【劉雅瑟(刘雅瑟 / リウ・ヤースー / リウ・シン)】に出会った斬哥は再び怒りを燃やし、一方で任凱は拳銃を紛失。事態は混迷を深めていく。

 

 

 

【感想】

2021年作。汚く猥雑、ゴミと湿度にまみれた世界、悲しみが暴発した者たちがぶつかり合う物語なのに、素晴らしくテンポのいい展開、全編モノクロながらむしろ見やすく感じるほどの画作りで最高に面白いR指定映画に仕上がっていた。続編と思う位「マッド・フェイト 狂運(2023)」と地続きであり、「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024)」にも通じていく鄭保瑞(ソイ・チェン)監督の真骨頂的な作品。

とにかく目が釘付けになったまま2時間を駆け抜ける、最高に面白い映画だった。ただし最高に残酷でもあり、主役の一人である劉雅瑟(リウ・ヤースー / リウ・シン)が演じる若い女・王桃は無慈悲にボコボコにされるなど、現在の倫理観ではギリギリの描写の連続で、三級片(R指定)なのも納得だし、見る際には注意が必要だ。

 

リンボ

 

全編モノクロだしそこで躊躇するかもしれないが、まったく気にならない程テンポがいい。元々はカラー撮影だったのを編集段階でモノクロにした事により、残酷さを少し和らげて感じられるようにもなっているが、違和感もまったくなく、むしろ見やすい画面とすら感じるほどで、画作りの上手さがむしろ際立つ。
個人的に、例えば1950年代あたりの日活映画「地図のない町(1960)」なんかのような、モノクロ時代に数多く作られていた邦画サスペンスものにも似た手触りを感じたのは、刑事部屋の乱雑な昔風の机なんかもあるが、おそらく主役2人の刑事コンビのこだわりを感じる衣装にも依るところが大きい。時代錯誤的でもある斬哥のシャツや任凱のベスト着用などからも、クラシックな香りがほのかに漂う。

生々しくゴミが散乱した路地、大量の仏像やマネキン、太ももに注射器をぶっ刺す売人の女、そしてふり続く雨。匂いまで漂ってきそうな場所で生きる人々は、今の香港ではもう見なくなった風景であり、それはそのまま監督が「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦 (2024)」で描いた九龍城砦に繋がっていて、本作の世界から見返せばあの九龍城砦ですら色彩豊かで温かな場所にも見えてくる。

 

リンボ

 

本作での主演・斬哥役の林家棟(ラム・カートン)は、家族の喪失によって取り憑かれたような執着を見せ、事件とはまるで関係ない筈の女・王桃を巻き込んでいく。目つきまでおかしくなった異常者のサイコ演技が空恐ろしくなってくる。この圧倒的なキャラクターはそのまま監督の次作「マッド・フェイト 狂運(2023)」 の主役・許陽燊として続けて描かれている。そういえば「マッド~」もまた香港伝統の風水や民間宗教と結びついた物語だ。

そして今作のMVPであり、香港金像奨を受賞した王桃役の劉雅瑟(リウ・ヤースー / リウ・シン)が、文字通り身体を張った演技で忘れられない印象を残す。彼女の追い詰められ方は本当に容赦なく、もう見ている最中からこれは何かしらの賞をあげて欲しいと思う程だった。とはいえ、林家棟(ラム・カートン)の役もまた追い詰められた者であり、彼らの世界を描くことこそが鄭保瑞(ソイ・チェン)監督の持ち味なのだと、本作で再び実感させられた。
日本から参加の池内博之も、なかなか全貌を見せない奇怪な人物を強烈な迫力で見せている。

 

リンボ

 

筆者は、鄭保瑞(ソイ・チェン)監督作品は本作とその後の2作しか見ておらず、本作と絡めて語られる「ドッグ・バイト・ドッグ(2006)」などの過去作はまだ見れていない。
だが、これは監督の作家性がもっとも強く現れた作品であり、その後の作品にも強く繋がっていき、そして何よりめちゃくちゃ面白い。「トワイライト・ウォリアーズ」後の今ならばより一層、広く見られるべき作品だと思った。ぜひ今からでもいいから劇場公開して欲しい良作だ。

 

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【トピック】

◯ 2021年3月3日にベルリン映画祭・特別上映でワールドプレミア。同年11月18日から香港で一般公開された。公開初週の興収ランキングは「アニタ(2021)」「1950 鋼の第7中隊(2021)」「エターナルズ(2021)」などに次ぐ5位を記録した。
興行収入は220万香港ドル(4400万円)。

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◯ 日本では2021年11月の東京国際映画祭「ガラ・セレクション」で上映された。2022年11月の香港映画祭Making Wavesでも上映されている。

2021.tiff-jp.net

makingwaves.oaff.jp

 

 

◯ 本作は香港金像奨で脚本・主演女優(劉雅瑟(リウ・ヤースー))・撮影・美術の4冠を獲得、14部門ノミネート、台湾金馬奨でも脚本・撮影・美術・視覚効果の4冠を獲得した。

 

◯ 中国の作家・雷米による同名小説を原作としている。雷米は中国刑事警察学院の准教授でもあり、これまでに多くの小説を発表、本作以前にも「犯罪心理分析官(2017)」「心理罪之城市之光 (2017) 」の2作が映画化されている。

原作はここで読める。

www.99csw.com

 

 

◯ 監督の鄭保瑞(ソイ・チェン、画像右)は19歳から映画界に入り、林嶺東(リンゴ・ラム)監督「復讐のプレリュード(1995)」などで助監督を担当。古天樂(ルイス・クー)主演作で今年韓国版リメイク作が公開された「アクシデント(2009)」「モーターウェイ(2012)」「モンキー・マジック 孫悟空誕生(2014)」、トニー・ジャー&呉京(ウー・ジン)主演「ドラゴン×マッハ!(2015)」「マッド・フェイト 狂運(2023)」などを監督。
そして昨年は大ヒットのカンフーアクション「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024)」が公開。2026年には中国制作で台湾統一を描いた「澎湖海战」が公開予定となっている。

智齒

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◯ 脚本の歐健兒(アウ・キンイー)は、本作で香港金像奨&台湾金馬奨で脚本賞を受賞。
杜琪峯(ジョニー・トー)が設立した「銀河映像」のメンバーとして「デッドエンド 暗戦リターンズ(2001)」「PTU(2003)」「柔道龍虎房(2004)」などの脚本を手掛ける。監督の「マッド・フェイト 狂運(2023)」「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024)」両作の脚本も手掛けている。

 

 

 

林家棟(ラム・カートン)

◯ 妻の看病の為の休養から復職したベテラン刑事・斬哥。

◯ 林家棟は、国民党の兵士だった祖父らと共に幼少の頃に香港へ移住、当初は九龍城塞に住んでいた。その後、無綫(TVB)の訓練生として芸能界入り。張可頤(マギー・チョン)も出演のヒットドラマ「茶是故鄉濃(1999)」などに出演したが、2005年に杜琪峯(ジョニー・トー)監督の名作「エレクション 黒社会(2005)」への出演で俳優としての評価を決定づけた。「大樹は風を招く(2016)」で香港電影金像奨にて主演男優賞を受賞。その他も「イップマン(2008)」シリーズや「コールド・ウォー 香港警察 二つの正義(2012)」「SPL 狼たちの処刑台(2017)」「アニタ 梅艷芳(2021)」「臨時強盗(2024)」「惡行之外(2025)」など出演多数。中国との合作のスリラー映画「第八个嫌疑人(2023)」にも出演している。本作の監督次作「マッド・フェイト 狂運(2023)」でも主演している。

智齒

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劉雅瑟(刘雅瑟 / リウ・ヤースー / リウ・シン)

◯ 王桃。以前、ドラッグを吸引しながらの運転で斬哥の妻子を轢き、子が死亡、妻を意識が戻らない状態にする事故を起こした。

◯ 本作で香港金像奨・主演女優賞を受賞した。
1989年湖南省生まれ。地元テレビ局のオーディション番組から芸能界入り。本名から今の芸名に改名後、赵薇(ヴィッキー・チャオ)の初監督作「So Young 過ぎ去りし青春に捧ぐ(2013)」に出演。彭于晏(エディ・ポン)主演の「君といた日々(2014)」やドラマ「仙剑云之凡(2016)」、恵英紅(カラ・ワイ、クララ・ワイ)や陳家楽(カルロス・チャン)が知られる事となった感動作「幸福な私(2016)」にも出演の後、香港映画「ファストフード店の住人たち(2019)」で香港金像奨・助演女優賞ノミネート。
最近では中国映画「前任4:英年早婚(2023)」や、日本でも公開された甄子丹(ドニー・イエン)監督・主演の香港映画「シャクラ(2023)」、そして謝霆鋒(ニコラス・ツェー)&張學友(ジャッキー・チュン)主演の海洋アクション香港映画「海關戰線(2024)」にも出演と、香港映画への出演が多い俳優だ。

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李淳(メイソン・リー)

◯ 新人刑事・任凱。正論で捜査に取り組むが次第に現実の不条理に飲み込まれていく。

◯ 本作で台湾金馬奨・助演男優賞にノミネート。
1990年アメリカ生まれ。「グリーン・デスティニー(2000)」「ブロークバック・マウンテン(2005)」などで知られる台湾の巨匠・李安(アン・リー)の息子で、3歳の頃に父の監督作「ウェディング・バンケット(1993)」に出演しているが、俳優としては「ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える(2011)」でのTeddy役が本格的なデビュー作となる。
以来、父の監督作「ビリー・リンの永遠の一日(2016)」の他、台湾映画「目撃者 闇の中の瞳(2017)」や陈凯歌(チェン・カイコー)監督「空海 ーKU-KAIー 美しき王妃の謎(2017)」「郊外の鳥たち(2018)」「台北之戀(2023)」などに出演している。

智齒

 

 

池內博之

◯ ゴミ拾いをして現場周辺をうろついていたホームレスだが、実は失踪した日本人・山田收。

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廖子妤(フィッシュ・リュウ)

◯ 薬物の売人・Coco。

◯ 1990年生まれ。マレーシア、ジョホール州ムアル出身のモデル、俳優で、「レイジー・ヘイジー・クレイジー(2015)」「姉妹関係(2016)」に出演していたが、「アニタ 梅艷芳(2021)」で王丹妮(ルイーズ・ウォン)演じる梅艷芳(アニタ・ムイ)の姉、梅愛芳(アン・ムイ)を演じた事で一気に知られるようになる。
その後「6人の食卓(2022)」「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024)」「カウントダウン(2024)」と多くの大ヒット作へ出演。昨年以降は「これからの私たち - All Shall Be Well(2024)」やマレーシア映画「幼な子のためのパヴァーヌ(2024)」など、演技力を示すような出演作も公開されてきて、さらなるステップアップを予感させる。

智齒

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【ロケ地】

◯ 鄭保瑞(ソイ・チェン)監督は、下記の記事中で「「モーターウェイ(2012)」の撮影時にはもう香港で撮影できる場所は無いと感じていた。だが本作構想中にまだ撮影されていない場所がある事に気づいた。それらは間もなく消えてしまうだろうから、そうした場所をロケハンした」と語っており、明確に失われつつある風景を撮影する事を狙っていた事がわかる。実際に2017年の撮影が終わった後、消えてしまった風景が多い。

film-pilgrimage.com

 

1. ゴミ袋を漁って捜査するシーンは土瓜灣、環達街。既に現在はリニューアルされている。

 

2. 「ドッグ・バイト・ドッグ(2006)」でも登場する、同地区にあった愛華大廈も既に取り壊されている。

 

3. かつては繁華街であった觀塘・裕民坊はビルの屋上が後半のシーンに登場。こちらも再開発プロジェクトによって真新しく建て替えられた。

 

4. 大量の仏像が並んでいた場所は香港島南部にある団地・華富邨。8000体もの様々な像が海沿いに並んでいる。

 

 

 

 

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