【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
このシリーズの持ち味である怒涛のストーリー運びで、どんどん全体像が変化していくスリリングなミステリー。ジェットコースター的に息もつかせぬ展開で、振り落とされないように頭もフル回転させながら2時間目一杯楽しめる。

www.youtube.com 误杀3 | Octopus With Broken Arms Movie | Official Trailer | 正式预告片
【スタッフ & キャスト】
2024年 中国 109分
監督: 甘剑宇(ジャッキー・ガン)
主演: 肖央(シャオ・ヤン)、佟丽娅(トン・リーヤー)、段奕宏(ドアン・イーホン)、刘雅瑟(リウ・ヤースー、リウ・シン)、王龙正(ワン・ロンジェン)、冯兵(フェン・ビン)
【あらすじ】
東南アジアのある国で、経営者・郑炳睿【肖央(シャオ・ヤン)】の娘が誘拐され、身代金を要求された。自宅での誘拐だったので犯人は顔見知りに違いないと思いながらも、郑炳睿は要求通りに警察の追跡を振り切り身代金を運ぶ。だがそこから、彼の知られざる過去が明らかになっていく。
【感想】
このシリーズの持ち味である怒涛のストーリー運び、どんどん全体像が変化していくスリリングなミステリー。ジェットコースター的に息もつかせぬ展開で、振り落とされないように頭もフル回転させながら2時間目一杯楽しめる。
とにかくどんどん話が広がっていき、イメージもぐるぐる切り替わっていくので大変忙しい。気がつくとオープニングがどんなだったかも忘れてしまう位の没入感で楽しませてくれる、最高のエンタメ映画だ。
だが、子供が誘拐されるストーリーだし、その後の展開でも子供にまつわる辛いストーリーでややハードな描写もあるので注意はしておいても良い。

本作は2019年末に公開された「共謀家族(误杀、2019)」から始まる誤殺シリーズの第3作目。過去2作とも主演は本作と同じ肖央(シャオ・ヤン)で、我が子が巻き込まれた犯罪の為に立ち上がる父親のストーリーになっている。更にその舞台は非常にタイに似た東南アジアの架空の国になっていて、エキゾチックで熱気のある怪しげなムードの中、ダークなミステリーが展開するというのがお約束だ。そして本作もきっちりとお約束の作りで観客の期待に応えてくれている。
今回はより一層タイらしさが強まり、オープニングの川を前に、オレンジ色の袈裟を着た僧侶も立ち会って行う灌仏会(降誕会、花まつり)から始まり、水上マーケットなんかも登場して楽しい。華人の設定なので全編普通話でも違和感は少なく、すんなり話に入っていける。
それに加えて、犯罪が多そうだとかスラム的な整っていないエリアが多そうという、我々も持つようなタイへの負のイメージも上手く使った展開で、観光でタイを知る観客がより一層楽しめるような間口の広い作りで、売れる映画として綿密に作り込まれている事を感じさせる。

この売れる映画としての作り込みはシリーズを重ねる毎に徹底されてきていて、先ほど挙げた過去2作以外にも、実質的なシリーズ作として同じ陈思诚(チェン・スーチェン)プロデュースの"異国ものサスペンス"映画がもう2作、「妻消えて / ロスト・イン・ザ・スターズ(2023)」と「黙する者が生きし場所(2024)」があるのだが、本作とシリーズ最近作の「黙する者が~」の展開は、どちらも冒頭から息もつかせぬ怒涛の展開を見せ、何度も予想を裏切り、エンディングには最初のイメージがどんなだったか忘れてしまう程の地点にまで連れていってくれる、隙間までみっちりとアンコが詰まった鯛焼きみたいな超コスパのいい映画だ。
この詰め込みまくった作りは、もはやシリーズのフォーマットみたいになっていて、何なら製作陣も毎回どこまで行けるか実験している気配すら感じるのだが、個人的には映画館より配信を強く意識した作りに感じられ、やや忙しすぎると感じる人も多い気がする。張り巡らされた伏線、後半でも新たに登場する主要キャラなど、しっかりと理解しながら見ないと完全な理解は難しいし、見始める前にはちょっと気合いを入れてからの方が良いだろう。

主演のシャオヤンは前作同様のいつものキャラとして登場し、しっかりハマっているのだが、最近の彼の作品は「扫黑·决不放弃(2024)」や「浴火之路(2024)」など、シリーズ以外でも似たような役を演じていて、もはや全部同じ人物に見えてきそうな勢いだ。
そして、個人的には「迫り来る嵐(2017)」以来だろうか、久々に主演格として登場の段奕宏(ドアン・イーホン)が嬉しい。苦み走った雰囲気は相変わらずだし、こうしたダークな雰囲気の作品にこそ存在感が映える素晴らしい俳優だ。
シリーズお約束の濃い色味のダークな画面、妙に奥行きの少ないドラマっぽさもある撮影などの人工的な映像も含めて、シリーズ好きなら間違いなく楽しめる、怪しくエキゾチックな娯楽作だった。
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【トピック】
◯ 本作は年末の2024年12月28日から中国で全国公開。公開初週から4週間連続で興収ランキングトップを独走。易烊千玺(イー・ヤンチェンシー)主演「小さな私(2024)」や金晨(ジン・チェン)主演「“骗骗”喜欢你(2024)」を抑えての好成績で、興行収入は9.33億元(193億円)のヒット作となった。
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◯ 日本では「誤殺3~喪失の連鎖~」というタイトルで2025年10月21日からの東京・中国映画週間で上映される。
◯ 本作は「共謀家族(误杀、2019)」、「误杀2(2021)」に続く肖央(シャオ・ヤン)が主演する误杀(誤殺)シリーズの第3作となるが、同じ陈思诚(チェン・スーチェン)プロデュース、若手監督の"異国ものサスペンス"として朱一龙(チュー・イーロン)が主演した「妻消えて / ロスト・イン・ザ・スターズ(2023)」や、マレーシア的な国が舞台の「黙する者が生きし場所(2024)」という作品も含めた計5作が公開されている。
◯ 監督の甘剑宇(ジャッキー・ガン)は1988年重慶生まれ。香港演芸学園卒業後、短編を制作し高い評価を受ける。初長編の大鹏(ダーポン)主演のサスペンス映画「铤而走险 (2019) 」も上海国際映画祭コンペティション部門で高い評価を受けた。
本作が長編監督2作目の作品となる。

◯ プロデューサー、脚本を陈思诚(チェン・スーチェン)が担当。大ヒットシリーズ「唐人街探偵」の監督で知られるが、上記の「共謀家族(2019、原題:误杀)」シリーズのプロデューサーという方が本作ではわかりやすい。
そもそもは俳優としてキャリアを始め、大ヒット名作軍隊ドラマ「士兵突击 (2006)」で知られるようになる。婁燁(ロウ・イエ)監督の映画「スプリング・フィーバー(2009)」などにも出演。
2012年、自身が監督・脚本・主演したドラマ「北京爱情故事 (2012)」が大ヒットし、その映画版(2014)も自らで撮り上げ、こちらも興行収入4億元を越すヒットとなって監督としてのキャリアをスタートした。
本作の直後に、自身が監督した「唐人街探偵」シリーズ最新作「唐探1900(2025)」が公開され、大ヒットした。本作出演の女優・佟丽娅(トン・リーヤー)の元夫。

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肖央(シャオ・ヤン)
◯ 主人公・郑炳睿。化粧品ビジネスで成功し裕福な生活をしていたが、娘が誘拐され犯人の指示に従って身代金を運ぶことになる。
◯ 元々は筷子兄弟という音楽デュオの一人だが映画にもよく出演しており、「老男孩 (2010)」では出演と主題歌も歌ってヒットした。ちなみに主題歌はスキマスイッチ大橋卓弥「ありがとう」の中国語版である。
最近は「唐人街探案」シリーズ中2作、そして名作「シスター 夏のわかれ道(2021)」に出演しているので、ここでの存在感が大きい。また本シリーズや「人潮汹涌(2021)」など数多くの主演作がある。
昨年は本作以外にも、中国で公開された宮崎駿監督作「ハウルの動く城(2004)」での国王役の声を担当、刘昊然(リウ・ハオラン)主演の「デクリプト(2024)」にも出演、そして五百(ウーバイ)監督のクライムサスペンス「扫黑·决不放弃(2024)」と「浴火之路(2024)」の2作に出演。今年は本作公開のすぐ後、4月公開の主演作「阳光照耀青春里(2025)」も高評価を得ていて、相変わらずの売れっ子だ。

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佟丽娅(トン・リーヤー)
◯ 李慧萍。郑炳睿の娘の家庭教師として訪問していた時に誘拐事件が発生した。
◯ 佟丽娅(トン・リーヤー)は、今作の舞台である新疆ウイグル自治区出身。大ヒットドラマ「宮 パレス (2010)」や「クィーンズ 長安、後宮の乱(2009)」などで知られる。本作のプロデューサー・陈思诚(チェン・スーチェン)と結婚したが離婚。それまでは「唐人街探偵 NEW YORK MISSION(2018)」など、夫が関わる作品に出演することが多かった。
主な作品は、雷佳音(レイ・ジャーイン)とW主演のタイムスリップコメディ映画「ルームシェア(2018)」、主旋律映画「革命者(2021)」、大ヒットSF「流転の地球 -太陽系脱出計画-(2023)」、DVを扱った「我经过风暴(2023)」など。
もうすぐ日本でも公開される彭于晏(エディ・ポン)主演のハードボイルドな映画「ブラックドッグ(2024)」でも印象的な役を演じている。

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段奕宏(ドアン・イーホン)
◯ 誘拐事件を担当した警察官・张景贤。
◯ 1973年生まれ。デビュー間もない1999年のドラマ「刑警本色」で知られるようになり、「记忆的证明(2002)」や映画「二弟(2003)」に出演の他、婁燁(ロウ・イエ)監督の「天安門、恋人たち(2003)」にも出演した。
兵士の成長物語である大ヒット名作ドラマ「士兵突击(2006)」での厳しい上官役、その続編「我的团长我的团(2009)」で一気に知られるように。
そのイメージを踏襲した役柄の良作「烈日灼心(2015)」の後、「迫り来る嵐(2017)」では中国金鶏奨主演男優賞にノミネート。
最近の出演作は「1950 鋼の第7中隊(2021)」と「1950 水門橋決戦(2022)」、「志願軍 ~雄兵出撃~(2023)」、「蛟龙行动 (2025) 」などの戦争映画が多い。
いつの頃かの「好きな歌手」の質問には、日本人ボサノヴァ歌手の小野リサと答えている。

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刘雅瑟(リウ・ヤースー、リウ・シン)
◯ 郑炳睿の屋敷の庭師・阿卢の妻・雅音。
◯ 1989年湖南省生まれの刘雅瑟(リウ・ヤースー、リウ・シン)は地元テレビ局のオーディション番組から芸能界入り。本名から今の芸名に改名後、赵薇(ヴィッキー・チャオ)の初監督作「So Young 過ぎ去りし青春に捧ぐ(2013)」に出演。彭于晏(エディ・ポン)主演の「君といた日々(2014)」やドラマ「仙剑云之凡(2016)」、恵英紅(カラ・ワイ、クララ・ワイ)や陳家楽(カルロス・チャン)が知られる事となった感動作「幸福な私(2016)」にも出演の後、香港映画「ファストフード店の住人たち(2019)」で香港金像奨助演女優賞ノミネート。
最近では中国映画「前任4:英年早婚(2023)」や、日本でも公開された甄子丹(ドニー・イエン)監督・主演の香港映画「シャクラ(2023)」、そして謝霆鋒(ニコラス・ツェー)&張學友(ジャッキー・チュン)主演の海洋アクション香港映画「海關戰線(2024)」にも出演と、香港映画への出演が多い俳優だ。

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王龙正(ワン・ロンジェン)
◯ 郑炳睿達を追う謎の男・吴达毅。
◯ 1980年生まれ。体操選手として優秀な成績を発揮していたが、引退後は俳優を志望。演劇で多くの舞台に出演した。2010年頃からドラマ・映画へも進出。
ドラマ「心理罪 (2015) 」や「昼と夜 (DAY&NIGHT)/ デイ・アンド・ナイト(2017)」、「谍战深海之惊蛰 (2019) 」、「隐秘而伟大 (2020) 」などのサスペンスを中心に出演。
映画では、劉德華(アンディ・ラウ)主演の中香合作「フライト・フォース 極限空域(2024)」などに出演している他、若かりし頃には娄烨(ロウ・イエ)監督「天安門、恋人たち(2006)」にも出演した経歴がある。
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冯兵(フェン・ビン)
◯ 我が子の病気治療の援助を求めて事件直前に郑炳睿を訪問した男・施福安。
◯ 2014年に俳優デビュー。シルクロードの歴史を描いた歴史映画「丝路英雄·云镝 (2016) 」への出演で知られるようになる。2021年には映画「迫り来る嵐(2017)」の主演・段奕宏(ドアン・イーホン)がプロデュースまで手掛けたドラマ版「双探 (2021) 」に出演。
その後、「猟罪図鑑(2022)」、「冰雨火(2022)」、「特战荣耀 (2022) 」、上記の贾冰(ジア・ビン)も出演の「狂飙(2023)」、辛芷蕾(シン・ジーレイ)も出演の「慶余年2(2024)」、現在放映中の「暗夜与黎明 (2024) 」とヒットドラマへの出演が増加中となっている。
映画では主演作「绝命枪王 (2018) 」、张译(チャン・イー)主演の「三大队(2023)」、デリバリードライバーを描いた痛快な良作「アップストリーム ~逆転人生~(2024)」などがある。

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