幸福な私 - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
最近の恵英紅(カラ・ワイ)"再"大活躍への転機となった2016年の映画。認知症が出始めた女性と陳家楽(カルロス・チャン)の鬱屈した若者との交流。7年前の香港の風景と、この2人の行く末に思い巡らせる、いい映画。
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【スタッフ & キャスト】
2016年 香港 113分
監督:羅耀輝(アンディ・ロー、ロー・イウファイ)
出演:恵英紅(カラ・ワイ、クララ・ワイ)、陳家楽(カルロス・チャン)、刘雅瑟(リウ・ヤースー、リウ・シン)、張繼聰(ルイス・チョン)、呉日言(ヤン・ン)、銭小豪(チン・シュウホウ)
【あらすじ】
不器用でせっかちな若い男、陈介旭【チャン・カイヨク(阿旭、ヨク)】は何をやっても上手くいかず、常にイライラして何かに怒っていた。仕事もクビになり部屋も追い出された彼は、仕方なく貸家をやっている女性のところに行ってみるが、ひとり住まいの彼女には密かにアルツハイマーが進行していた。彼はふとそれに気づいて以来、その事が気になってしまうのだった。
【感想】
日本の環境に似ている描写も多い内容で、かなり共感して見入ってしまった。リアルな部分も多々あるし引っかかる部分も多く、それが故に見終わった後も彼らの事が気になる、いつまでも記憶に残る映画だった。
筆者も母親が似たような状況にあり、なおさら主人公の陳家楽(カルロス・チャン)にも恵英紅(カラ・ワイ)にも思いが重なってしまって、いたたまれなくなりながら見ていた。
映画として正直に言えば、そこまで出来が良いとは思わない。色々なノイズがあって物語への没入を阻害する。特に陳家楽(カルロス・チャン)演じる主人公の若者がなかなかの厄介者で、見ながらもどうしてそんな事しちゃうのか…としかめ面になってしまう場面がいっぱいある。
でも、それが良い。見続けながら、次第にこの頃の自分を思い出して、自分もこんな恥ずかしい人間だった事に直面するのだ。いつも彼は苛立ちながら罵声を浴びせ、でもふと後悔のような翳りのある表情が浮かべるのだ。
一方で恵英紅(カラ・ワイ)の演じる女性もまた一癖ある人物だ。若者への優しい面を見たと思ったら不意に癇癪を起こしてしまい、彼女もまたそれをコントロールする事ができない。日陰のような住まいで、本心を見せずに過ごせるかのように隠れるように暮らしている。
物語はひょんな事から二人が交流し、空き部屋を貸してもらいと、ステップを踏むに連れて徐々に彼女にアルツハイマーが出始めている事や、彼の空回りする感情と境遇が明らかになってくる。このステップが、スムーズでは無いのだが自然で、本当の付き合いとは本来こういうものだろうと思わせる、違和感があるのだが納得のいく展開なのだ。
だからこそ二人の信頼がより深く突き刺さるし、彼の心の傷もまるで親戚や同僚の若者の話のように近く感じられ、思わず手を握ってやりたくなる。
周囲の人々の、気にしてないようなさり気ない適度な距離感が、見ている観客にも心地良い。
彼女が道に迷うのは西九龍駅の、まだ広州に向かう高鉄の巨大駅が建設中だった数年前の懐かしい風景だ。それを見ながら、何年か前の彼と彼女は今頃どうしているのだろうかと、見終わった後も思い巡らせてしまう、そんな映画だった。
「心魔(2009)」での母親役と本作以降、主演の恵英紅(カラ・ワイ)は従来のアクションのイメージを覆すドラマ・文芸作品での出演で数多くの高評価を得て、50歳を超えてから続々と人気作へ出演する事になった。そんな彼女の転機となった作品という意味でも、見る価値のある映画である。
【トピック】
◯ 2016年8月26日から中国で先行公開し、2週間後の9月8日に香港で公開を開始した。
◯ 2021年11月27日から香港映画祭にて日本公開が開始したが、1週間後の12月2日に権利元の都合により公開が中止された。
◯ 本作で恵英紅(カラ・ワイ)が香港金像奨・最優秀主演女優賞を受賞した。
◯ 監督の羅耀輝(アンディ・ロー、ロー・イウファイ)は、脚本家として「神經俠侶(2005)」と劉青雲(ラウ・チンワン)主演「我要成名(2006)」の2つの映画で香港金像奨脚本賞にノミネートされる。本作が初監督作品となる。他の脚本作品に甄子丹(ドニー・イエン)主演「在一起 Together(2013)」など、今年の香港映画祭2023にて監督第2作「ブルー・ムーン」が日本上映された。
◯ 音楽は米ニュージャージー生まれ、香港在住の波多野裕介が手掛けた。
他にも香港・中国映画の劇伴を手掛けており、「ソウルメイト/七月と安生(2016)」で香港金像奨音楽賞を受賞。その他「花椒の味(2019)」、「映画 真・三國無双(2021)」などがある。
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陳家楽(カルロス・チャン)
◯ 陈介旭【チャン・カイヨク(阿旭、ヨク)】。父親に見放され孤独に育った。
◯ 陳家楽(カルロス・チャン)は2003年デビュー。今作での演技が評価され、最近はより多くの映画出演を果たしている。
主な出演作はドラマ「逆緣(2017)」、1970年代香港のバンド温拿樂隊(Wynners)についての映画「兄弟班(2018)」、「ハード・ナイト(2019)」、「我的筍盤男友(2020)」、「アニタ 梅艷芳(2021)」でのアダム・チェン役、「神探大戦(2022)」など。
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恵英紅(カラ・ワイ)
◯ 谢婉芬【ツェー・ユエンファン(芬姨、ファニー)】
◯ 恵英紅(カラ・ワイ)は、本作の公開後に母を亡くしたのだが、その亡き母が同じくアルツハイマーであったそうだ。
当初はアクションができる女優として「ワンス・アポン・ア・タイム 英雄少林拳(1981)」や「レディクンフー 激闘拳(1980)」で活躍し香港金像奨主演女優賞を受賞。ドニー・イェン&金城武の「捜査官X(2011)」でもアクションを披露し「キョンシー/リゴル・モルティス(2013)」では再度香港金像奨の助演女優賞を受賞。
近年は「心魔(2009)」、そして本作で香港金像奨で主演女優を再び受賞し、張曼玉(マギー・チャン)の5回に次ぐ4回の金像奨受賞女優となった。
それ以来、台湾映画「血観音(2017)」で金馬奨主演女優賞受賞、「サンシャイン・オブ・マイ・ライフ(2022)」、中国ドラマ「上陽賦(2021)」、今年公開の素晴らしい中国映画「愛してる!(2023)」の後も、张小斐(チャン・シャオフェイ)主演でヒット中の中国サスペンス映画「拯救嫌疑人」などで実力派俳優として大活躍している。
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刘雅瑟(リウ・ヤースー、リウ・シン)
◯ 恵まれない人々へのNPO団体で働く小月。広州出身。
◯ 1989年湖南省生まれの刘雅瑟(リウ・ヤースー、リウ・シン)は地元テレビ局のオーディション番組から芸能界入り。本名から今の芸名に改名後、赵薇(ヴィッキー・チャオ)の初監督作「So Young 過ぎ去りし青春に捧ぐ(2013)」に出演。彭于晏(エディ・ポン)主演の「君といた日々(2014)」やドラマ「仙剑云之凡(2016)」に出演の後、香港映画「ファストフード店の住人たち(2019)」で香港金像奨助演女優賞ノミネート。
この秋に公開された「前任4:英年早婚(2023)」や来年正月から日本公開予定の甄子丹(ドニー・イエン)監督主演作「シャクラ」にも出演している。
携帯電話のOppoが制作したネット動画「看不见的TA之美男宅急便(2020)」では易烊千玺(イー・ヤンチェンシー)らTF BOYSと共演し、日本への留学生を演じている。
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張繼聰(ルイス・チョン)
◯ 甘世荣(阿甘)は、福祉法人の為に集めてきた野菜で料理を作る料理人。
◯ 子役から俳優のキャリアを始めた張繼聰(ルイス・チョン)も多くの作品に出演している。パトリック・タムと同じく「イップ・マン 継承(2015)」や「L風暴(2018)」や「P風暴(2019)」などの風暴シリーズ、「逃獄兄弟(2020)」からの投獄兄弟シリーズ、郭富城(アーロン・クォック)、梁朝偉(トニー・レオン)主演の「風再起時 (2023)」にも出演している。
コロナ禍での香港社会の苦しみを描いた今年日本公開の「星くずの片隅で (2022)」 では、台湾金馬奨の主演男優賞にノミネートされた。また歌手としても広く知られている。
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呉日言(ヤン・ン)
◯ 福祉法人の主管、方姑娘。
◯ 歌手でラジオDJで、女優でもある。主な出演作はドラマ「奇幻潮(2005)」、「學警出更(2006)」、映画「AV(2005)」など。
銭小豪(チン・シュウホウ)
◯ 陈介旭【チャン・カイヨク(阿旭、ヨク)】の父親、陈峰。既に再婚し、子供が別にいる。
◯ 銭小豪(チン・シュウホウ)は霊幻道士シリーズで知られる。第一作「霊幻道士(1985)」以来多くのシリーズ作品に出演している。その他「少林拳対武当拳(1980)」、「叉手(1981)」、「沖霄樓(1982)」、ジェット・リー主演「フィスト・オブ・レジェンド(1994)」など。
ロケ地
◯ ロケ地については、このサイトが詳しく紹介しているので、いくつか抜粋してみよう。
◯ ポスタービジュアルにもなっている歩道は、堅尼地城(ケネディタウン)の科士街(Forbes St)にあり科士街樹墻と呼ばれる。
◯ 陈介旭【チャン・カイヨク(阿旭、ヨク)】に落とした買い物の卵を拾ってもらうシーンは正街(Center St)。港鉄(MTR)港島線の西営盤駅の近くにある坂道だ。
◯ さらに谢婉芬【ツェー・ユエンファン(芬姨、ファニー)】の家がある場所も、正街からわずか30mほど横の同じエリアである。兩儀坊(Leung I Fong)という路地の第三街へと出る場所が映る。