香港映画レビュー&解説「星くずの片隅で 窄路微塵(きょうろみじん)The Narrow Road」

窄路微塵(きょうろみじん)The Narrow Road

星くずの片隅で - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

 

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

コロナ禍でバランスを失ったシングルマザーの物語を、あえて他者の目線から描いていて、じわじわと見せる。上手い。張繼聰(ルイス・チョン)がいつもと違う穏やかさで素敵だ。音楽も最高。

 

 

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www.youtube.com 窄路微塵|正式預告Official Trailer|張繼聰 袁澧林 區嘉雯 朱栢康 董安娜 12月22日 沿路相依


www.youtube.com 映画『星くずの片隅で』予告編2023.07.14 RoadShow

 

 

 

【スタッフ & キャスト】

2022年 香港 115分
監督:林森(ラム・サム)
出演:張繼聰(ルイス・チョン)袁澧林(アンジェラ・ユン)區嘉雯(パトラ・アウ)朱栢康(ジュー・パクホン)、董安娜(トン・オンナー)、朱栢謙(ジュー・パクヒム)

 

 

 

【あらすじ】

停滞する経済や人口流出により厳しい状況にある香港に、新型コロナウイルスの流行が襲いかかる。清掃会社を経営するチャク/ザク【張繼聰(ルイス・チョン)】は、仕事が減り、消毒液が不足するなか、会社の維持に苦労している。
盗みを働いて生きのびてきたシングルマザーのキャンディ【袁澧林(アンジェラ・ユン)】は、娘のためにまともな金を稼ごうと、チャク/ザクの下で仕事をするようになる。二人は徐々に絆を深め、会社を軌道に乗せていくが、キャンディのかつての悪習がすべてを危うくする。

OAFF2023より

 

 

 

【感想】

香港のコロナ禍、なかでも最も影響を受けた低所得層を描いている。だがその手法は静かで丁寧で、真綿の様に彼らの首を締めていった事が観客にも伝わってくる、苦しくも良い映画であった。

最初、コロナ禍を描いた映画だという程度の認識で見始めたら、やはりオープニングは防護服を着て消毒作業のシーンで始まって、香港でのお仕事映画的な雰囲気になっていく。主人公のチャク/ザク【張繼聰(ルイス・チョン)】は、店舗や厨房の消毒だけでなくアパートでの孤独死などの特殊清掃とか何でも引き受けているようで、事務所も貧相で、かなり零細な業者なのかなと想像される。そんな彼は黙々と、だが倦怠感とともに仕事を片付けていく。

 

星くずの片隅で 窄路微塵(きょうろみじん)

 

香港でのコロナ禍は、2003年のSARSで多くの犠牲者を出した経験もあり、当初からセンシティブに対応していたが、日本と同じかそれ以上に大変な状況下での香港が描かれている。多くの場面が夜であり、人も少ない。孤独な状況だが、チャク/ザクだけの仕事の場面では、ある意味で独り身ゆえの気楽さみたいな部分も感じるところであった。

そんな所にやって来た1人の若い女がキャンディ【袁澧林(アンジェラ・ユン)】。だが、なぜか小さな娘がおり、なぜか職探しに苦労しており、という少し怪しげな感じだが、彼から仕事をもらう事になる。彼も最初はあまり信用はしていないが、少しずつ実情を知り、少しずつ見過ごせなくなり、段階を踏みつつ、そうやってシングルマザーの現実がいかに過酷なのかを少しずつ知らされていく。ここら辺の描き方がとても良い。
たとえばコンビニに親子がいる事を発見し、それもアイスクリームを万引きしているところを、店外から発見してしまう場面。さりげなくその場を凌ぐけれど、どうにも残るしこりが、こういう場面の積み重ねで少しずつ大きくなっていく。
胸に迫りつつ決して声高では無く、だから観客が自発的に「あ、この親子はどうもギリギリだぞ」という兆候を発見してしまうのだ。その"ギリギリ"とはシングルマザーゆえの不安定な境遇の事で、以前なら回避できていたのに、コロナ禍での失業で一気にバランスを失ってしまった人々だ。まっさきに助けられるべき人なのに、見つけられる事もなく沈んでいく人々。
銅鑼灣や尖沙咀みたいに派手で綺麗ではなく、深水埗のような、雑多な街なかで目にする人々の風景と、チャク/ザクやキャンディの人となりが重なってくる。

 

星くずの片隅で 窄路微塵(きょうろみじん)

主人公を演じた張繼聰(ルイス・チョン)を普段よく見ている人ほど、今作での彼の穏やかだが倦怠感のある演技はギャップがあって、とても印象的だろう。もっとひょうきんで活発な印象な彼だから、余計に状況の深刻さが伺えてくる。

音楽も素晴らしい。アコースティックの弦楽器の音楽が使われているのだが、ギターでは無いバンジョーの音色、フレーズも古楽の様な民族音楽的な曲なのだ。たとえば先に挙げたアイス万引きのシーンでは、盗んだところから曲が歪み始めるなど、細やかな使われ方がされている。エンディング曲などは空気公団を思わせて、それも良かった。

最近、たとえば「流水落花(2022)」「縁路はるばる(2021)」 のような、少し前までの香港映画ではあまり表に出てこなかったような、社会の端を照らすような作品がきちんと評価され始めているのを感じる。予算がかかってなくともこうした新しい視点を持った作品たちがどんどんと生まれ、しかもどれも出来が良い。この映画も、そんな新しい香港映画の筆頭に立つ一本だと感じた。

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【トピック】

◯ 2022年12月22日に一般公開。公開2週目の興収ランキングは3位。最終的な興行収入は846万香港ドル(1.6億円)。

◯ 日本では2023年3月10日からの大阪アジアン映画祭コンペティション部門で「窄路微塵(きょうろみじん)」のタイトルで公開。同年7月14日から「星くずの片隅で」と改題されて全国一般公開された。

www.oaff.jp

 

 

◯ 本作は台湾金馬奨で音楽賞受賞&2部門ノミネート、香港金像奨でも音楽賞受賞&9部門ノミネートされた。

黃衍仁によって制作された劇伴と主題歌。歌っている611という名の女性歌手は当時エジプトを"放浪"していたので、現地で録音したそうだ。
黃衍仁は映画「香港の流れ者たち(2021)」の劇伴も担当している。


www.youtube.com 《在路上》|電影《窄路微塵》主題曲 Lyric MV

 

◯ ロケ地は、母親の住居が石硤尾の公団住宅、土瓜湾(トゥ・クワ・ワン)や赤柱廣場(スタンレープラザ)などである。

香港魂: 降りてみたくなる駅~石硤尾

カラフルな建物群は必見!土爪灣へは開発が進む前に行くべし | OLコムギの週末弾丸旅ブログ

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キャンディが万引きをするセブンイレブンは紅磡・佛光街にある。

 

 

◯ 香港でのコロナ禍は、2003年のSARSで多くの犠牲者を出した経験もあり、当初からかなりセンシティブに対応していたが、一方で国際都市ゆえに2021年後半のオミクロン株以降は感染者数が中国でも最も多い地域となってしまい「コロナを中国へ持ち込む入口」というレッテルを貼られるような状況であった。規制も日没後の店内飲食禁止や2名以上の集会禁止、マスク着用義務などもあり、さらに21年以降はビル封鎖や強制検査も実施を始めるなど、日本と同じかそれ以上に大変な状況であった。

 

 

◯ 監督の林森(ラム・サム)は、ドキュメンタリーなどを撮影していたが、2017年に制作会社mm2による新人監督計画に応募し入選。今作を初長編監督する事となった。先に日本で公開された作品に、共同監督として2019年香港デモにまつわる若者を描いて香港上映禁止となった「少年たちの時代革命(2021)」がある。

星くずの片隅で 窄路微塵(きょうろみじん)

www.ridai-shonen.com

 

 

 

張繼聰(ルイス・チョン)

◯ ピーターパンクリーニングをひとり切り盛りする陳漢發/窄哥(チャク/ザク)。

◯ 子役から俳優のキャリアを始めた張繼聰(ルイス・チョン)も多くの作品に出演している。パトリック・タムと同じく「イップ・マン 継承(2015)」「L風暴(2018)」「P風暴(2019)」などの風暴シリーズ、「逃獄兄弟(2020)」からの投獄兄弟シリーズ、郭富城(アーロン・クォック)、梁朝偉(トニー・レオン)主演の「風再起時 (2023)」、大ヒット作「6人の食卓 飯戲攻心(2022)」とその続編「飯戲攻心2(2024)」にも出演している。
本作で台湾金馬奨&香港金像奨の主演男優賞にノミネート。また歌手としても広く知られている。

星くずの片隅で 窄路微塵(きょうろみじん)

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袁澧林(アンジェラ・ユン)

◯ シングルマザーのキャンディ。

◯ 1993年生のモデル、俳優。2015年にレストラン美心MXなどで知られる美心食品お正月広告で注目を集める。その後もモデルとしてマクドナルド香港Beautylaboボシュロムなど多くのCMに出演。
アーティストMVもDear Jane「哪裡只得我共你(2016)」、林峯(レイモンド・ラム)の「不計前嫌(2021)」、そして銀杏BOYZの2017年の3枚のシングル「エンジェルベイビー」「骨」「恋は永遠」、そしてアルバム「ねえみんな大好きだよ(2020)」のジャケットなどに出演した。
本作出演後も、MVでは日本のVaundy「Tokimeki(2023)」、CMでは香港MTR(港鐵)の2023年キャンペーンなど大きな作品に出演が続いている。
映画も本作で9作目となるほど出演しているが、主な作品は鄭中基(ロナルド・チェン)主演「闔家辣(2022)」や毛舜筠(テレサ・モウ)「香港ファミリー(2022)」、東京国際映画祭出品作「離れていても(2023)」などがある。

星くずの片隅で 窄路微塵(きょうろみじん)

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ねえみんな大好きだよ(初回盤)

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  • アーティスト:銀杏BOYZ
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www.youtube.com Tokimeki / Vaundy:MUSIC VIDEO

香港MTR(港鐵)の2023年キャンペーンムービー


www.youtube.com 《每一程,滿載期待》:夢想篇 (足本版) Hope-filled Journey Ahead: Dreams and Passion (Full Version)​

 

 

 

董安娜(トン・オンナー)

◯ キャンディの娘、細朱(ジュー)を演じた。

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區嘉雯(パトラ・アウ)

◯ ザクの母親、黃英。

◯ 英文教師をしながら舞台劇に出演しており、数多くの賞を受賞した。高齢者LGBTを描いた映画「ソク・ソク(2019)」で香港金像奨助演女優賞を受賞。その後も大ヒットとなった「正義迴廊(2022)」「白日青春-生きてこそ-(2022)」「全世界どこでも電話(2023)」と続々と話題作への出演が続いている。

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星くずの片隅で 窄路微塵(きょうろみじん)

 

 

 

朱栢康(ジュー・パクホン)と朱栢謙(ジュー・パクヒム)

◯ 修理工場で働く男たち二人は、実際にも兄弟である。

◯ 兄である朱栢康(ジュー・パクホン)は「私のプリンス・エドワード(2019)」で台湾金馬奨、香港金像奨でそれぞれ助演男優賞にノミネートされた。
一方、弟の朱栢謙(ジュー・パクヒム)は、舞台演劇「大龍鳯(2014)」で受賞歴あり。映画「暗色天堂(2016)」「ファストフード店の住人たち(2019)」「正義迴廊(2022)」「白日青春-生きてこそ-(2022)」などの作品に出演している。

星くずの片隅で 窄路微塵(きょうろみじん)

 

 

 

 

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