【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
時代錯誤かと思うほどのゴリゴリの男の物語。でもそれが最高に泣けて心震わせられる。
信念なのか執着なのか、地の果てまで犯人を追い続ける隊長・张译。そして张子贤、魏晨、王骁、曹炳琨の泥臭いチーム感が最高で、だから映画も最高。
www.youtube.com 【悬疑犯罪电影】三大队(2023) | 预告 | 花絮
【スタッフ & キャスト】
2023年 中国 132分
監督: 戴墨（ダイ・モオ）
主演: 张译（チャン・イー）、李晨（リー・チェン）、魏晨（ウェイ・チェン）、曹炳琨（ツァオ・ビンコン）、王骁（ワン・シャオ）、张子贤（ジャン・ズーシェン）
【あらすじ】
程兵【张译（チャン・イー）】は警察での3番目の刑事チーム「三大隊」の隊長として、日々捜査で目覚ましい活躍を見せていた。ある夜、14歳の少女が性的暴行の上殺害される強盗事件が発生。三大隊は容疑者の1人を発見したのだが、感情的な取り調べから容疑者を死に至らしめてしまう。
6年の懲役刑に服し出所した程兵は、三大隊のメンバーと共に再び犯人探しを始める。
【感想】
ひたすらストイックに、尋常ではない執念で犯人を追い続ける元警察官。男しか登場せず、ただ義理を果たす為に人生をすべて賭ける、まるで昭和の泥臭い物語をきっちり描き切った良作だった。
ポリコレとか多様性とかの匂いは全くせず、昔から幾度となく語られ、もはや錆びついたような"男のあるべき姿"を追求する男達を、あえてこの2023年に描いているにも関わらず、なぜか時代錯誤感はまったく感じない。
それはつまり、リアリティを貫いている故の説得力と、ただひたすら主人公が徹底的と言えるほど貫いている信念があるからだ。シンプルとさえ言える演出だから、むしろ主人公の凄さが際立ち「この男だからこそ」と思わせてくれる。
とはいえ見せ場も盛りだくさんで、全く飽きずに2時間のめり込んでいられる。オープニングは刑事ものらしい捜査の過程をなぞりつつ、流れるようなスムーズさで、チームの仲の良さや、キャラクターとライバルの存在、師匠の人となりを描いていく。
ダークで残酷な事件だが、テキパキした手際の良い見せ方で、主人公の有能さを見せながらワクワクさせられるのが最高だ。
そしてその盛り上がりのまま、捜査チームは一気に犯人を追いつめていってしまう。残虐な犯人、師匠が怪我をさせられた事、上からのプレッシャー…色んな要素が重なったにせよ、取調べ中の犯人の死亡という、最悪の結末を迎えてしまう。こんな濃密なストーリーは、だがしかし、まだ序の口なのだ。
刑事でありながら過失致死で有罪となった主人公は禁固刑に服役し、6年後に出所。もはや刑事ではなくなり、元服役囚の一般人へと成り下がった彼は、同じく服役した元チームの部下たちと再会を果たす。彼らもまた主人公と同じく何もかも失ったのに、しかも被害者の為に警察官の本分を全力で全うし、だがそれは最悪の結果となってしまったにも関わらず、それでもなお彼らは「後悔はしていない」と言い、泣くのだ。これが泣かずにいられようか。そして、ここからようやく本当の物語が始まるのだ。
このように、描かれているのはゴリゴリのホモソーシャルな関係だし、女性は脇役でしか登場しない。全員の生活はストイックなほど24時間100%が犯人探しに充てられていて、空気感も昭和の刑事ドラマ「特捜最前線（1977～）」なんかを彷彿とさせるようなクラシックな泥臭さだ。
主人公は寡黙でありながら一本気で、ひたすら愚直にベストを尽くす。だが、彼もチームの皆も、仲間や被害者、周囲の人々に対する溢れんばかりの感情を常に携えていて、シンプルな演出だからこそ、その豊穣な感情の交わりが逆に際立っている。
ひたすら濃密で、だからこそ純粋に"ある人物の生き方"として見事に描き切った映画に仕上がっていた。最高の映画である。
【トピック】
◯ 2023年12月15日に中国で全国公開。公開初週は興収ランキングで1位を獲得した。冬休みや新年になっても「年会不能停！」や「金手指」などのヒット作に次ぐ5位周辺をキープし、最終的な興行収入は7.05億元（153.5億円）を記録した。
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◯ 小説家・深蓝による「请转告局长，三大队任务完成了（2016）」という短編のノンフィクション小説が原作である。この短編は以下のリンクよりネットで読むこともできる。書籍では「三大队：深蓝的故事精选集」に収録されている。
◯ ドラマ版「三大队（三大隊、2023) 」も制作され、映画とほぼ同時期の2023年12月21日より放映が開始された。こちらは秦昊（チン・ハオ）、李乃文（リー・ナイウェン）、陈明昊（チェン・ミンハオ）らが出演、杨新鸣（ヤン・シンミン）だけは映画/ドラマどちらにも出演している。同じ原作で制作されているが、ドラマ版の方がより原作からの脚色・改編が多めのストーリーになっている。
◯ 三大隊が巡るのは、瀋陽、長沙、貴州省銅仁、広西・梧州、広東省茂名、四川省徳陽、雲南省西双版納（シーサンパンナ）といった街である。
◯ 監督の戴墨（ダイ・モオ）は、2004年に名門中央戯劇学院の監督科を卒業したのだが、当初は俳優として、今回プロデューサーを務めた陈思诚（チェン・スーチェン）が主演のドラマ「北京爱情故事 (2012）」の他、「因为遇见你 (2017）」、「远大前程 (2018）」などに出演。
そこから「唐人街探偵 NEW YORK MISSION（2018）」で助監督を務め、ドラマ版「唐人街探偵－DETECTIVE CHINATOWN－（2020）」の1話を監督した後、「共謀家族（2019、原題：误杀）」の続編となる「误杀2（2021）」で映画監督デビューという、陈思诚（チェン・スーチェン）の手掛ける作品群を手がけている。
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◯ プロデュースした陈思诚（チェン・スーチェン、画像中）は、 「唐人街探偵」シリーズの監督であり、大ヒットサスペンス映画「妻消えて/ロスト・イン・ザ・スターズ（2023）」や上記の「共謀家族（2019）」&「误杀2（2021）」のプロデューサーでもある。
俳優としてキャリアを始め、大ヒットした名作ドラマ「士兵突击 (2006）」での演技で知られるようになる。婁燁（ロウ・イエ）監督の映画「スプリング・フィーバー（2009）」などに出演した。2012年、自身が監督・脚本・主演したドラマ「北京爱情故事 (2012）」が大ヒットし、その映画版（2014）も自らで撮り上げ、こちらも興行収入4億元を越すヒットとなった。女優・佟丽娅（トン・リーヤー）の元夫。
なお、ドラマ「士兵突击 (2006）」での縁は今でも続いており、今作では出演者だった张译（チャン・イー）、李晨（リー・チェン）、陈思诚（チェン・スーチェン）の3人が揃ったという事で、ネットでも話題になった。
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张译（チャン・イー）
◯ 捜査チーム・三大隊の隊長・程兵。冷静で有能な刑事で、寡黙だが粘り強く強い信念を持つ。
◯ 今や最も売れている俳優のひとり。
张艺谋（チャン・イーモウ）監督常連で、最新の「第二十条（2024）」をはじめ「満江紅（マンジャンホン）（2023）」、「狙击手（2022）」、「崖上のスパイ（2021）」、「ワン・セカンド（2020）」等、最近の彼の作品にはほぼ全て出演している。
さらに贾樟柯（ジャ・ジャンクー）、陈凯歌（チェン・カイコー）、冯小刚（フォン・シャオガン）、林超賢（ダンテ・ラム）などなど、あらゆる著名監督の作品でも活躍している。ドラマでは名作「士兵突击（2006）」や「我的团长我的团（2009）」など。
昨年は大ヒット映画「万里归途（2022）」に続くように、ドラマ「狂飆 (2023) 」から「他是谁 (2023) 」出演、映画では年末にかけて「无价之宝（2023）」、「刀尖 (2023) 」、そして今作と3作連続の主演作公開で超多忙ぶりを見せつけた。
今年のカンヌ映画祭"ある視点"部門受賞作「狗阵 (2024) 」にも出演している。
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王骁（ワン・シャオ）
◯ 三大隊のメンバーだった马振坤。事件で服役後は妻とともに飲食店を営み始めていた。
◯ 王骁（ワン・シャオ）は2002年デビュー。当初はドラマ「重案六组2 (2003) 」や映画「我的长征 (2006) 」などの警察や軍隊ものに多く出演。その後「永遠の桃花（2017）」や「夢幻の桃花（2020）」、「風はロンシーから吹く（2022）」などの古装劇でも知られるようになった。
昨年からは大ヒットドラマ「狂飆 (2023) 」や陈凯歌（チェン・カイコー）監督作「志愿军：雄兵出击（2023）」、张艺谋（チャン・イーモウ）監督最新作「第二十条（2024）」などに出演している。
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张子贤（ジャン・ズーシェン）
◯ 三大隊のメンバー・廖健。事件で服役後は、保険のセールスの仕事に就く。
◯ 最近特に多くの作品に出演している人気の脇役といった位置づけの俳優だ。大ヒット作「万里归途（2022）」、冯绍峰（ウィリアム・フォン）&黄晓明（ホアン・シャオミン）が主演の「平凡英雄（2022）」、2023年は王一博（ワン・イーボー）主演作「熱烈（2023）」、黄渤（ホァン・ボー）主演の「学爸」、ヒットドラマ「平凡之路」、10月に公開のコメディ映画「二手杰作」、そしてこの年末に公開された「三大队」などなど、ここ1年ほどでも多数の作品に出演している。
主な出演作はドラマ「受益人（2019）」や「大赢家（2020）」、「平凡的荣耀（2020）」や映画「二代妖精之今生有幸（2017）」、「薬の神じゃない！ （2018）」など。
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曹炳琨（ツァオ・ビンコン）
◯ 三大隊のメンバー・蔡彬。事件で服役後は離婚し、ひとり土産物店を営み始める。
◯ ドラマ「潜伏 (2008) 」の演技で注目される。その後ドラマ「青春期撞上更年期 (2010) 」や映画「カイジ 動物世界／動物世界（2018）」などに出演。
昨年2023年には映画「保你平安（2023）」にも出演。
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魏晨（ウェイ・チェン）
◯ 三大隊のメンバー・徐一舟。事件で服役後はドッグ・トレーナーの仕事に就いていた。
◯ 2007年に歌手のオーディション番組「快乐男声」からデビューした歌手・俳優。当初は歌手として活動し、ドラマ「一起来看流星雨 (2009) 」で俳優デビュー。映画「君といた日々（2014）」にも出演した。
最近では「エイト・ハンドレッド （2020）」や「バトル・オブ・ザ・リバー（2020）」、「志愿军：雄兵出击 (2023) 」などに出演している。
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李晨（リー・チェン）
◯ ライバルといえる二大隊のリーダー・杨剑涛。
◯ 「唐人街探偵」シリーズや「妻消えて（2023）」などで知られる陈思诚（チェン・スーチェン）が監督/脚本/主演をしたドラマ「北京爱情故事（2012）」で知られるようになる。
大人気バラエティ番組「奔跑吧兄弟（2014～）」にも出演。范冰冰（ファン・ビンビン）と婚約までしていたが2019年に別れている。
「アウトブレイク ～武漢奇跡の物語～（2021）」、「1921（2021）」など出演の後、 巨匠3人が共同監督した「1950 鋼の第7中隊（2021）」&「1950 水門橋決戦（2022）」、大ヒット作「万里归途（2022）」、さらに王宝强（ワン・バオチャン）監督主演作「ネバーギブアップ（2023）」、そして今年は良作「⼈⽣って、素晴らしい/Viva La Vida（2024）」にカメオ出演など、ゲスト出演が続いている。
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杨新鸣（ヤン・シンミン）
◯ 程兵の恩師といえる先輩刑事・张青良。事件の影響からか急逝する。
◯ 杨新鸣（ヤン・シンミン）は、やはり映画「薬の神じゃない！（2018）」かドラマ「明蘭～才媛の春～（2017）」で知られていると言えるだろう。
1980年代から俳優として活動。映画「阿妹的诺言 (2007) 」で中国金鶏奨にノミネート。ドラマ「小镇大法官 (2016) 」などにも出演しているが、「薬の～」のプロデューサー、宁浩（ニン・ハオ）による監督作「无人区 (2013) 」での出演が、「薬の～」へと繋がっていった形となる。「薬の～」の続編的な座組の易烊千玺（イー・ヤンチェンシー）主演映画「素晴らしき眺め（2022）」でも顔を出していたり、「愛しの故郷（2020）」にも出演している。
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