妻消えて ロスト・イン・ザ・スターズ 消失的她 Lost In The Stars
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【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
www.youtube.com 《#消失的她》/ Lost in the Stars 曝终极预告 #朱一龙 #倪妮 #文咏珊“疯狂”对峙【预告片先知 | Official Movie Trailer】
【スタッフ & キャスト】
2023年 中国 121分
監督: 崔睿（ツゥイ・ルイ）、刘翔（リウ・シャン）
出演: 朱一龙（チュー・イーロン）、倪妮（ニー・ニー）、文咏珊（ジャニス・マン）、杜江（ドゥー・ジアン）、黄子琪（ホァン・ズーチー）
【ストーリー】
結婚して1年になる何非（ホー・フェイ）【朱一龙（チュー・イーロン）】は夫婦で東南アジアのリゾート地を旅行していた。その旅行中に突然、妻の李木子が失踪する。現地警察にも相手にしてもらえず途方に暮れていると、突然妻がホテルに帰ってきた。だがその妻と名乗る女【文咏珊（ジャニス・マン）】は、何非（ホー・フェイ）が見たこともない別人で…
【感想】
どんでん返しの連続で最後まで目が離せない、大ヒットも納得の最高に楽しませるサスペンス映画だった。
冒頭から無国籍な東南アジアのエキゾチックな風景、ダークな色調のルックで、いかにも「共謀家族（原題：误杀、2019）」などで知られる今作のプロデューサー、陈思诚（チェン・スーチェン）が関わった映画だとすぐにわかる特徴的な空気感だ。その怪しげな雰囲気が充満する中、不可思議な事件が幕を開ける。
夫・何非（ホー・フェイ）は必死になって彼女は妻ではない、別人だと説明するのだが、写真は何故かニセ妻とのものに変わっており、パスポートの照合も問題なし、ホテル従業員からもニセ妻が本人だと証言され…挙句の果てには彼自身にも問題が発生してしまう…ここまでまだ冒頭から15分程しか経過していない。
怪しい効果音をはじめとする如何にもサスペンスらしいサスペンス演出、過去作とほぼ同じような作風という、わかる人には予定調和がかなり強めの作りだ。だが、だからこそと言うべきか、事件はどんでん返しが休む間もなく連続し、先が読めないので、どんどんストーリーに没入していける。
プロデューサーの陈思诚（チェン・スーチェン）は、監督した「唐人街探偵 東京MISSION（2021）」をはじめとする「唐人街探偵」シリーズと、プロデューサーとして携わった「共謀家族」から始まる「误杀」シリーズの２シリーズで、両方共に海外を舞台にした犯罪映画をヒットさせている。
これらは、たとえば「唐人街」が明るく楽しめる正統派エンタメ映画で陽とすると、じっとりと陰湿で自国の倫理感が通用しない、悪い意味での海外の印象を描いた「误杀」は陰、というように明確な作り分けがなされており、なおかつ両方のシリーズともに、外国を舞台に設定して警察の描写などで不自由な中国での検閲をしっかりとクリアしながら、きっちりとヒットにも結びつけるエンタメ映画の方程式を模索してきた様に見える。
そういった過去作での模索を踏まえ、今作では陰の作風をベースにひとつの大きなミステリー=「妻にまつわる真相」が芯となり、陽でやっていたような様々な仕掛けをてんこ盛りを入れて飽きさせないという、自身が研究してきた映画作りのメソッドを極限まで追求したような作りになっている。個人的にはその狙いは見事に成功しているし、彼の作品の中でも集大成的な素晴らしい出来になっていると思う。
更に付け加えるなら、本作は至るところで香港映画的だなと感じる部分もあった。それらは例えば香港犯罪映画でもあるようなアクションシーンでの演出や編集だが、却ってより整理され見やすくなっている印象だ。香港ではない国を舞台にした香港映画のように見えた瞬間もあった。
無闇やたらにドンバチと大規模な火を使わないとか、忙しない程のテンポ感からの脱却だとか、もちろんそれらは香港映画らしさでもあるのだが、本作に関しては、それらからきちんと学びつつも、らしさという名の様式に囚われずにしっかり仕上げられてあると思えた。あえて言うなら、今の香港映画がもし潤沢な予算をバックに香港を舞台にしない犯罪映画を作れば、この作品のような出来になるかもと夢想すらした。
役者陣はもちろん素晴らしい。特に朱一龙（チュー・イーロン）の後半での鬼気迫る演技は、一段と彼のイメージを覆すエグみが際立つ最高の仕事で、今後更に仕事の幅が広がるだろう事は間違いない。
倪妮（ニー・ニー）も間違いない安定の演技だが、過去作ではクールな印象が強いだけにナース服での激昂する演技は、エンディングで真実を知った後で思い返すとなおさら迫真に迫る素晴らしさであった。
しかし、やっぱり印象的なのは文咏珊（ジャニス・マン）だろう。何を考えているのか全く読めない不穏な笑み、そして事あるごとに発する「老公…」は今後も思い出しそうな妖しさだ。
日本でもぜひとも公開して、多くの人に中国映画の印象を覆してほしい素晴らしい作品だ。
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【トピック】
◯ 中国のゴールデンウィーク的な連休である端午節にあわせて2023年6月22日公開。公開初週より興収ランキング1位を奪取し、3週連続1位を記録。公開1ヶ月の7月30日に30億元（606億円）の興収を達成し、既に歴代中国映画興収ランキング11位に至った。国慶節休暇直前の9月21日まで公開延長を決定し、さらに10月21日へさらなる延長が決定された。
日本でも10月1日より「妻消えて」のタイトルでNetflixで配信開始。10月17日からの中国映画週間では「ロスト・イン・ザ・スターズ」のタイトルで上映決定。
◯ 筆者は本作を2023年中国/香港映画の個人的ベストの7位に選出した。
◯ 1960年のフランス人劇作家ロベール・トマによる戯曲「罠」を原作としたソ連映画「Trap for a Lonely Man（1990）」が原作との事である。わざわざこの映画が原作となっている理由はよくわからないが、Wikipediaのトマの項にはヒッチコックがこの戯曲の権利を買い取ったとの記述がある。なお、この原作映画自体はヌードシーンもある軽いタッチのドタバタコメディといった風情だ。
电影《消失的她》改编自《为单身汉设下的陷阱》 A Trap for Lonely Man 1990 - YouTube
1969年放送の戯曲のラジオドラマも聞くことができる。（英語）
Trap For A Lonely Man - Lux Radio Theatre - South Africa - YouTube
◯ 2019年にタイ東北部で発生した中国人夫婦の殺人未遂事件も参考にされているようだ。この事件では妊婦が34メートルの崖から突き落とされたが木に引っかかり奇跡的に助かった。
◯ 2021年11月から翌年3月まで、全編ベトナム国境近くの海南島で撮影された。
◯ 監督の崔睿（ツゥイ・ルイ）、刘翔（リウ・シャン）という二人は、どちらも本作が初監督または2作めの監督作品となる。崔睿（ツゥイ・ルイ）は南カリフォルニア大学映画芸術学部を卒業、ローランド・エメリッヒ監督作「ミッドウェイ（2019）」では共同プロデュースの一員だったとの事である。今作が初監督作品。一方、刘翔（リウ・シャン）は田壮壮（ティエン・チュアンチュアン）監督がプロデューサーに就いた「不速来客（2021）」で監督・脚本を務め、今作が二作目の監督作品となる。
◯ プロデューサー、脚本を陈思诚（チェン・スーチェン）が担当。 「唐人街探偵」シリーズの監督で知られるが、「共謀家族（2019、原題：误杀）」、「误杀2（2021）」のプロデューサーという方が本作ではわかりやすい。女優・佟丽娅（トン・リーヤー）の元夫。
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朱一龙（チュー・イーロン）
◯ 失踪した妻を探す何非（ホー・フェイ）。
◯ 大ヒットサスペンスドラマ「鎮魂（2018）」で一気に知られることになり、古装劇「明蘭～才媛の春～（2018）」やスパイもの「叛逆者（2021）」、映画では「クラウディ・マウンテン 峰爆（2022）」やコロナ禍を描いた「穿过寒冬拥抱你（2021）」に出演した。
2022年公開の名作「星明かりを見上げれば」で主演し、中国金鶏奨主演男優賞を受賞した。
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倪妮（ニー・ニー）
◯ 何非（ホー・フェイ）に依頼され事件を調べる、どんな事件でも解決できるという有能な弁護士、陈麦
◯ 「28歳未成年（2016）」での二役を演じ分ける高い演技力が印象的だった。中国建国100周年映画の一つで大物俳優が大量出演する映画「1921（2021）」でも主演として出演し、香港映画「バーニング・ダウン 爆発都市（2020）」でも劉德華（アンディ・ラウ）の相手役を演じるなど着実にキャリアを積み上げ、今やトップ俳優として確固たる地位を築いた。
昨年末公開され池松壮亮らも出演する、福岡が舞台の映画「柳川（2021）」でも主演し、中国金鶏奨主演女優賞にノミネートされている。
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文咏珊（ジャニス・マン）
◯ 妻、李木子を名乗る謎の女
◯ 香港出身。「コールド・ウォー 香港警察 堕ちた正義（2016）」などに出演。今作プロデュース・脚本の陈思诚（チェン・スーチェン）とは、「唐人街探偵 東京MISSION（2021）」での長澤まさみの母役や「误杀2（2021）」など出演が多い。
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杜江（ドゥー・ジアン）
◯ 現地警察の刑事、郑成
◯ 大ヒット戦争アクション映画「オペレーション・レッドシー（2018)」でブレイクし、百花奨最優秀助演男優賞を受賞。
「ブレイブ 大都市焼失（2019）」や「フライト・キャプテン（2019）」、「在りし日の歌（2019）」など大作映画への出演が多い。この10月日本公開の「フラッシュオーバー 炎の消防隊（2023）」にも主演している。
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黄子琪（ホァン・ズーチー）
◯ 何非（ホー・フェイ）の記憶の中での本来の妻、李木子
◯ 2020年デビュー。カンヌ映画祭監督週間出品、そして東京国際映画祭でも上映の「白い小船（小白船、A Song Sung Blue、2023）」や「遇见你（2022）」などに出演している。
