【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
www.youtube.com 《我爱你！》/ Love Never Ends 高甜催泪！发布终极预告 #倪大红 #惠英红 奋力相爱（倪大红 / 惠英红 / 梁家辉）【预告片先知 | Official Movie Trailer】
【スタッフ & キャスト】
2023年 中国/香港 116分
監督: 韩延（ハン・イェン）
出演: 倪大红（ニー・ダーホン）、惠英红（恵英紅、カラ・ワイ、クララ・ワイ）、梁家辉（梁家輝、レオン・カーフェイ）、叶童（葉童、セシリア・イップ、イップ・トン）、成果（チェングオ）、卢秋萍（ルー・チューピン）
【ストーリー】
常为戒【倪大红（ニー・ダーホン）】はひょんな事から、公園で廃品回収をしている李慧如【惠英红（恵英紅、カラ・ワイ、クララ・ワイ）】と揉めてしまう。後日、習い事で粵劇の先生に孫を連れて行くと、なんとそこには先生を介護している李慧如がいた。
李慧如と仲良くなり、彼女の仕事仲間の谢定山【梁家辉（梁家輝、レオン・カーフェイ）】とも知り合って、今までリタイア後の退屈だった常为戒の毎日が俄然輝き始めるのだが…
【感想】
様々な相反する要素が両立している映画。ファンタジックなストーリーなのにリアリティがある。大変な悲劇だがエンディングは明るい。老いの影を色濃く背負いながら新しい人生を夢見る。すごく重層的で、軽やかな仕上がりで、笑いもあって、もちろん涙なしには見れないシーンもある。大人が心から楽しめる、大変素晴らしいエンタテイメント映画だった。
主人公の倪大红（ニー・ダーホン）には強面な印象があって、オープニングでは病院に通いつつ一人暮らしをしているシーンを見ながらも共感できる部分は少ない。まして、病院帰りに公園で揉め事を起こすシーンなんか見てしまうと、それもムチ（！）を公衆の面前で振り回していて、言ってみれば暇を持て余した老害じいさん的なややこしい雰囲気しか出てこない。
この公園でのムチ振り回し爺さんに対して登場する惠英红（恵英紅、カラ・ワイ、クララ・ワイ）は、なんと一人でツカツカと向かっていってビシッと爺さんの動きを止めてみせるのだ。さすが香港ショウ・ブラザーズ伝説の女性カンフースターである。
惠英红（恵英紅、カラ・ワイ、クララ・ワイ）のセリフを聞いていると広東語と普通語を細かく使い分けて話している。「多謝」と広東語を言っていて、あれ？と思っていると、他の登場人物の多くも広東語や広東語訛りの普通語を使い分けて話している。本作の舞台は広東省広州。多くの香港映画俳優が登場していて、言葉だけでも広州という街のカラーが見えてくる。
主人公は独居老人、彼の周囲も老人たち。そんな老人たちだけの世界の中で、まずはボーイ・ミーツ・ガールが始まる。だが家族もありしがらみも多く、まして長い人生経験の果てに譲れない価値観を築き上げた者同士、若者のように簡単にくっついたり離れたりなんて事にはなれない。このあたりの微妙な機微を描くのがこの映画はとても上手い。惠英红（恵英紅、カラ・ワイ、クララ・ワイ）演じる李慧如の辛く苦しい人生と、それゆえの心の扉の重さが、軽やかなトーンを保ちつつ丁寧に描かれていて心に深く染み入る。
そして、梁家辉（梁家輝、レオン・カーフェイ）と叶童（葉童、セシリア・イップ、イップ・トン）の夫婦がまた重い。認知症を患う妻を介護しながら貧しい生活を続けており、子どもたちにも苦労していて、状況としてはとても厳しい。
だが、この夫婦がとても穏やかで明るく、素晴らしく素敵な雰囲気なのだ。まるで生活を楽しんでいるようでもあり、慎ましくも満足しているように見える、途中までは…
本作の良さはなんといってもこの軽やかなトーンだ。人間誰だって悲しい時や沈む日もある。でもできるならいつだって明るくありたいと思う。まるでその感覚を映画自体が漂わせているように、辛いエピソードがあってもすぐに明るさが帰ってくる。
社会問題もしっかりと描かれているが、それはそれとして、現にそこに生きている人はどう生きていけば救われるのか。永遠の愛情と言うのはたやすいが、現実にはどんなありようがあるのか。そういう問題も内包しながら、きちんとエンタテイメントに仕上がっている。実はとても深い射程まで見据えて作られている、滋味深い作品だ。
韩延（ハン・イェン）監督が「人生三部作」という、本作以外の「滚蛋吧！肿瘤君（2015）」と「送你一朵小红花（2020）」、それに「星明かりを見上げれば（2022）」はどれも同じように人生や死をテーマに取り上げつつも、クオリティの高い作品たちで、本作品はその集大成的な仕上がりになっていると思う。
李慧如が住み込みで介護もしている粵劇の先生の家は、家の中で小鳥がチュンチュンと飛び交っているという不思議な設定だ。そのシーン以外でも劇伴以上に耳の印象に残る素敵な演出だと思った。
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【トピック】
◯ 上海国際映画祭のオープニング作品として2023年6月9日に先行公開され、端午節の連休が始まる6月21日に全国公開。全国公開初週は朱一龙（チュー・イーロン）主演の大ヒットサスペンス映画「妻消えて（消失的她）」に次ぐ2位を獲得。公開2ヶ月の時点で興収4億元（80億円）を突破した。
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◯ 10月17日からの中国映画週間で「愛してる！」のタイトルで上映決定。
◯ 筆者は本作を2023年中国/香港映画の個人的ベストの4位に選出した。
◯ 韓国ネット漫画カンフル「I Love You（2007）」が原作の韓国映画「拝啓、愛しています（2011）」が原作である。
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◯ 舞台は広東省広州市。
◯ 監督の韩延（ハン・イェン）は、商業映画第一作の赵又廷（マーク・チャオ）とアンジェラベイビーが主演した「第一次（2012）」で上海国際映画祭で作品賞ノミネートと新人監督賞を受賞。さらに日本の大ヒット漫画が原作の「カイジ 動物世界（2018）」を監督。プロデューサーとしては 朱一龙（チュー・イーロン）主演の感動作「星明かりを見上げれば（2022）」を制作している。
「人生三部作」として、白百何（バイ・バイホー）主演の「滚蛋吧！肿瘤君（2015）」、易烊千玺（イー・ヤンチェンシー）&刘浩存（リウ・ハオツン）主演の「送你一朵小红花（2020）」を撮っていて、本作がその三作目となる作品である。両作品とも死を意識しつつも明るいタッチで描かれた秀作である。
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◯ 多くの香港人俳優が出演している。
倪大红（ニー・ダーホン）と惠英红（恵英紅、カラ・ワイ、クララ・ワイ）
◯ 仕事を引退し悠々自適だが退屈な生活をしている老人、常为戒を演じたのは倪大红（ニー・ダーホン）。カンフーなどで使う麒麟ムチを持ち歩いている。
◯ 1990年代から活躍する俳優。「泥鳅也是鱼（2005）」や「乔家大院（2006）」、「边境风云（2012）」、张艺谋（チャン・イーモウ）監督作「活きる（1994）」&「王妃の紋章（2006）」などで知られている。最近ではドラマ「狂飙（2023）」や共産党結党100年記念映画「1921（2020）」、そして再び张艺谋（チャン・イーモウ）監督の「崖上のスパイ（2021）」に出演した。
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◯ 仇美灵の介護をしながら廃品回収をして生活している李慧如役、惠英红（恵英紅、カラ・ワイ、クララ・ワイ）
◯ 香港人。当初はアクションができる女優として「ワンス・アポン・ア・タイム 英雄少林拳（1981）」や「レディクンフー 激闘拳（1980）」で活躍し香港金像奨主演女優賞を受賞。ドニー・イェン&金城武の「捜査官X（2011）」でもアクションを披露し「キョンシー／リゴル・モルティス（2013）」では再度香港金像奨の助演女優賞を受賞。
近年は「幸福な私（2016）」でまたも香港金像奨主演女優受賞、台湾映画「血観音（2017）」で金馬奨主演女優賞受賞、「サンシャイン・オブ・マイ・ライフ（2022）」、中国ドラマ「上陽賦（2021）」などで実力派俳優として活躍している。
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梁家辉（梁家輝、レオン・カーフェイ）と叶童（葉童、セシリア・イップ、イップ・トン）
◯ 妻を介護しつつ廃品回収業を営む谢定山役を演じた梁家辉（梁家輝、レオン・カーフェイ）
◯ 香港人。なんといっても「愛人 ラマン（1992）」の主演で知られているが、膨大な数の映画出演キャリアがある。
初期の主なところでは「火龍（1987）」、「炎の大捜査線（1991）」、「楽園の瑕（きず）（1994）」、「南京の基督（キリスト）（1995）」など。
主演作「西太后（1984）」、「黒薔薇VS黒薔薇（1992）」、Netflix配信中「エレクション（2005）」の3作では香港金像奨主演男優賞を受賞し、「大丈夫（2003）」で助演男優賞を受賞した。
最近も、「コールド・ウォー 香港警察 二つの正義（2012）」&「コールド・ウォー 香港警察 堕ちた正義（2016）」や主演作「追龍2：贼王（2019）」など、精力的に出演を続けている。
本作での妻役・叶童（葉童、セシリア・イップ、イップ・トン）とは「婚姻勿語（1991）」でも夫婦役として共演、さらに「ロアン・リンユィ／阮玲玉（1991）」でも共演している。
◯ 谢定山の妻、赵欢欣。認知症を患っている。演じたのは叶童（葉童、セシリア・イップ、イップ・トン）
◯ 香港人。「表錯7日情（1983）」と「婚姻勿語（1991）」で香港金像奨主演女優賞を受賞。「黄昏のかなたに（1989）」で助演女優賞を受賞している。ドラマでは台湾の「新白娘子伝奇（1992）」や「倚天屠龍記（1993）」、「香港愛情故事（2021）」などで知られている。黄秋生（アンソニー・ウォン）主演の良作「淪落の人（2018）」にも出演している。
本作での夫役・梁家辉（梁家輝、レオン・カーフェイ）とは「婚姻勿語（1991）」でも夫婦役として共演、さらに「ロアン・リンユィ／阮玲玉（1991）」でも共演している。
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成果（チェングオ）
◯ 常为戒の孫、小晴役を演じたのは成果（チェングオ）
◯ ドラマ「爱情公寓」第5シーズンや「破事精英（2022）」などに出演。
卢秋萍（ルー・チューピン）
◯ 粵劇の往年の名女優で、現在は李慧如に介護をされながら常为戒の孫に粵劇を教えていた仇美灵。演じたのは卢秋萍（ルー・チューピン、画像左）
◯ 粵劇（えつげき）とは、京劇が北京の戯曲なのに対して、広東語で演じられる南方での伝統的な戯曲。卢秋萍（ルー・チューピン）は、その粵劇の世界で実際に有名な女優だった。1960年代初頭から活躍し、当時の周恩来総理の前で主役として粵劇を披露し一躍知られることとなった。
◯ 広東省に近い、潮州の伝統芸能を潮劇と呼び、こちらは映画「母への挨拶（2022）」で登場する。
主人公の常为戒【倪大红（ニー・ダーホン）】が乗っている小さな三輪自動車は、昔からアジア各地で使われているトゥクトゥクとかオートリキシャなどの系統だが、最近の中国では更に進化が進み、電気自動車版や映画に登場したような封闭（封閉）式という、乗用車的な密閉された空間を持つタイプも登場していて、特に高齢者向けの手頃な足としても販売されている。
登場した車両は新阳光というブランドのモデル。150～250ccのガソリンエンジンを搭載しており、およそ5000元（10万円）程度で現在も販売しているというから、確かに日本で原付バイクを買うよりもさらに安く、ちょっと買おうかなと思えるような手頃さだ。常为戒自身も裕福な存在ではない事がよくわかる。
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