李米的猜想 The Equation of Love and Death: 豆瓣
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
周迅、邓超、张涵予、王宝强の組み合わせという、今となっては不可能な豪華キャスティング。粗雑で埃っぽいのにファンタジックな最高の映画!評判も納得の、本当に見て良かった2008年作品。
www.youtube.com 李米的猜想 预告片 The Equation of Love And Death
【スタッフ & キャスト】
2008年 中国 96分
監督: 曹保平(ツァオ・バオピン)
出演: 周迅(ジョウ・シュン)、邓超(ダン・チャオ)、张涵予(チャン・ハンユー)、王宝强(ワン・バオチャン)、王砚辉(ワン・イェンホイ)、王柠(ワン・ニン)
【あらすじ】
昆明でタクシー運転手をしている女、李米(リーミー)【 周迅(ジョウ・シュン)】は、仕事のかたわら毎回乗客に写真を見せて、方文(ファンウェン)【邓超(ダン・チャオ)】という男を探している。
ある時、男二人組の乗客を乗せると李米(リーミー)を脅して金を要求してきた。何故かそこから方文(ファンウェン)にまつわる話も進んでいくことになるのだが…
【感想】
以前から見たいと思っていたがそれでも期待を上回る、ファンタジックで素晴らしいラブストーリーであった。
誰もが指摘するように周迅(ジョウ・シュン)の演技力を堪能できる。怒りや恐怖、様々な状況に翻弄されて感情が溢れる役を見事に表現する技術力と、実際にいそうでいない絶妙なリアリティある佇まい。李米(リーミー)が今もまだ舞台となった昆明に実在して、元気にやっているんじゃないかと思わせる愛らしさがある。
また、スタイリングが素晴らしい。オーバーサイズの男物シャツの袖を捲り上げ、ブーツカットのジーンズという、やりすぎないバランスなのにすごくカッコいい。タイヤ交換まで自分でやる男っぽい仕事をこなす気概と、身の丈を理解したクレバーな彼女の性格が素晴らしいサイズ感でびったり表現され、男たちの野暮ったさとは格の違う存在感が立ち上がっていた。
15年前の低予算中国映画なので、色んな部分が古臭いのは仕方ない。劇伴は70年代みたいだし、演出も雑なところもあるし、なにより画面の色味が平板で、もはや古いというより安っぽい。しかし、そんな事はどうでも良くなる程、作り手の情熱が伝わってくる。この感じ、昔の香港映画的でもあるし、数は多くなくとも世界を驚かせていた"あの頃"の中国映画的なようにも感じた。
ストーリーはとても切ないラブストーリーだ。逃げ場のない男たちが、なんとかして愛する女の為に成功しようともがく。どん詰まりの階層社会の底辺で無数にいるカップルの、今もなお沢山あるであろう物語だ。
王宝强(ワン・バオチャン)演じる彼が、ピエロ的にその構造を一層強調して見せていて、とても良いキャラだけに殊更に切ない。李米(リーミー)は自立した人物だが、それだけに彼女の感情が溢れてしまうシーンには、こちらの気持ちまで揺さぶられてしまう。
ある種悲しいストーリー、泥臭く埃っぽい環境だが後味は爽やかだ。
この感じ、アジア映画好きだったらきっと理解できるであろう、良い作品に特有のあの爽やかさがある。見た人はきっと彼らの事をいつまでも忘れないだろう。評価に違わぬ素晴らしい映画であった。
【トピック】
◯ 2008年9月9日に公開。興行収入は1100万元(2.2億円)。香港では「愛失償」と改題され翌年3月に公開となった。
◯ 本作は以下のように多くの映画賞を受賞した。
・サン・セバスティアン国際映画祭新監督賞
・アジア・フィルム・アワード女優賞
・中国映画金鶏賞女優賞受賞、監督賞・音楽賞・録音賞ノミネート
・台湾金馬奨助演男優賞ノミネート
◯ 曹保平(ツァオ・バオピン)監督は、人間の深部を描き出しながらもエンタメ作品として成立させた作風で、転落していく人生に共感しながらも、滑稽なものとして見ているような味が、井筒和幸監督なんかも思わせる味がある、個人的にも大変好みの監督だ。
過去9作の監督作品があるが、本作で金鶏奨主演女優賞を受賞、邓超、段奕宏らのノワールの名作「烈日灼心(2015)」でも監督賞にノミネートされている。ようやく公開された話題作「涉过愤怒的海(2023)」の他にも、范冰冰(ファン・ビンビン)主演作品「她杀」は、既に数年前には撮り終わっているものの、現在も公開延期が続いている。
本作では劇中にカメオ出演している。
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周迅(ジョウ・シュン)
○ タクシー運転手をしながら方文(ファンウェン)という男を探している李米(リーミー)。
○ 周迅(ジョウ・シュン)は、2000年前後に四小花旦として、趙薇(ヴィッキー・チャオ)、章子怡(チャン・ツィイー)、徐静蕾(シュー・ジンレイ)らと大人気になる。俳優としても高い評価を受けており、本作では金鶏奨主演女優賞を受賞。
その他、ロウ・イエ監督の「ふたりの人魚(2000)」や金城武との香港映画「ウィンター・ソング(2005)」、映画「更年奇的な彼女(2014)」、岩井俊二監督作「チィファの手紙(2018)」、近日日本公開の「無名(2023)」、ドラマでは「如懿伝(にょいでん)(2018)」などに主演している。
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邓超(ダン・チャオ)
◯ 方文(ファンウェン)によく似ている男、马冰(マービン)。
◯ 今や監督としても活躍する俳優、邓超(ダン・チャオ)は2000年デビュー。
映画監督としては2014年以来5作を制作。すべて俞白眉(ユー・バイメイ)と共同監督で制作した作品となり、すべて邓超(ダン・チャオ)自身が主演している。
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◯ 俳優としては、馮小剛(フォン・シャオガン)監督の映画「戦場のレクイエム(2007)」や張芸謀(チャン・イーモウ)監督作に夫婦で出演した「SHADOW/影武者(2018)」など数々のヒット作で主演している。
「奔跑吧兄弟」など長年バラエティ番組での出演も多く、そちらでの知名度の方がむしろ高い。
张涵予(チャン・ハンユー)
◯ 警察官の叶倾城。裘水天を取り調べる過程で李米(リーミー)に話を聞く。
◯ 中国でトップクラスのアクションスターの一人。アクション俳優として主な作品は馮小剛(フォン・シャオガン)監督作「戦場のレクイエム(集结号、2007)」、「オペレーション・メコン (湄公河行动、2016)」、「オペレーション:レッド・シー (红海行动、2018)」、福山雅治と共演した「マンハント(追捕、2017)」など。
その後、劉偉強(アンドリュー・ラウ)監督によるシリーズ、航空パニックもの「フライト・キャプテン(2019)」とコロナ禍での医療もの「アウトブレイク(2021)」で主演し、3人のオールスター監督による朝鮮戦争を描いた大ヒット作「1950 鋼の第7中隊(2021)」と「1950 水門橋決戦(2022)」に出演。昨年はロシアへの国際列車での強盗事件の映画「93國際列車大劫案:莫斯科行動(2023)」に出演している。
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王宝强(ワン・バオチャン)
◯ 裘火贵についてやってきた裘水天。ある女性を探している。
◯ 王宝强(ワン・バオチャン)は、監督として「大闹天竺 (2017)」と昨年の「ネバーギブアップ(2023)」の2作を手掛けている。
◯ 中国一有名な喜劇役者のひとりであり、そのキャリアは、少年時代に嵩山少林寺で武術修行からスタート。農村出身の兵士の成長物語である大ヒット名作ドラマ「士兵突击(2006)」での印象的な役柄で全国的に知られる事となる。
その後、徐铮(徐崢、シュー・ジェン)、黄渤(ホアン・ボー)と主演した「ロスト・イン・タイランド(2012)」も大ヒット。「唐人街探偵 東京MISSION(2021)」をはじめとする唐人街探偵シリーズ、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督「罪の手ざわり(2013)」、陈凯歌(チェン・カイコー)監督「道士下山(2015)」のほか、周星馳(チャウ・シンチー)監督「新喜劇王(2019)」など多くの映画に主演しているが、特に最近は印象的なドタバタ演技が彼の十八番であった。
「奔跑吧兄弟」などバラエティ番組での出演も多く、そちらでの知名度も高い。
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王砚辉(ワン・イェンホイ)
◯ 裘水天と共にタクシーに乗ってきた裘火贵。チケットを持つ男が眼の前で転落死し、途方に暮れる。
◯ 王砚辉(ワン・イェンホイ)は1969年昆明生まれ。日本では「薬の神じゃない!(2018)」への出演がわかりやすいが、2006年の曹保平(ツァオ・バオピン)監督の商業初監督作「光荣的愤怒(2006)」で知られるようになり、以来本作、「烈日灼心(2015)」、「追凶者也 (2016) 」と監督の作品では常連となっている。
その他、映画「无名之辈 (2018) 」や「ビッグ・ショット(2019)」、ドラマ「リトルハピネス~小歡喜 (2019) 」などに出演。
昨年秋には陈凯歌(チェン・カイコー)監督作「志愿军:雄兵出击(2023)」に出演している。
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王柠(ワン・ニン)
◯ 马冰(マービン)と連れ添っている女、艾菲菲(画像左)。
◯ 王柠(ワン・ニン)はドラマ「京港爱情线 (1997) 」の主演で俳優デビュー。梁家輝(レオン・カーフェイ)と共演した「天上の恋歌(1999)」ではカンヌ映画祭・パルムドールにノミネートされる。
2004年からは大人気の舞台「恋爱的犀牛」で段奕宏(ドアン・イーホン)と共演。
その他、映画では「开往春天的地铁 (2002) 」や「象は静かに座っている(2018)」などに出演。ドラマでは「刀锋1937 (2005) 」や昨年秋の医療ドラマ「问心 (2023) 」などに出演している。