中国映画レビュー&解説「烈日灼心 The Dead End」

烈日灼心 The Dead End

 

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】 

 

 

 

烈日灼心烈日灼心


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【スタッフ & キャスト】

2015年 中国 139分
監督: 曹保平(ツァオ・バオピン)
出演: 邓超(ダン・チャオ)段奕宏(ドアン・イーホン)郭涛(グオ・タオ)王珞丹(ワン・ルオダン)吕颂贤(呂頌賢、ジャッキー・ルイ)高虎

 

 

【あらすじ】

福建省のある村で一家全員が殺される殺人事件が発生した。それから7年、事件の犯人だった3人の男たちは、社会に潜み、タクシードライバーや警官、漁師などで生計を立てていた。ある日、警官の辛小丰【邓超(ダン・チャオ)】の部署に、あの村を所轄していた警察署から伊谷春【段奕宏(ドアン・イーホン)」が転属してくる。伊谷春は当時あの事件を調べていたらしい。彼は事件のこと、辛小丰のことをどれ程知っているのか、3人に緊張が走る。

 

 

【感想】

終始張り詰めた緊張感、だがダイナミックなアクションが掛け合わされ、ビリビリと痺れるような感覚のまま見終わる。これぞノワールと呼ぶしかない最高に面白い映画だった。

特に映画賞を受賞した三役のキャラクターが素晴らしく際立っている。邓超(ダン・チャオ)が演じる、悪人であることそれ自体に不安を怯えつつ毎日を生きる辛小丰、郭涛(グオ・タオ)の、人の愛など触れたこともなかったタクシードライバー杨自道、段奕宏(ドアン・イーホン)の冷徹な鋭い目によって色気すら醸し出す、腐りきった社会のど真ん中で一切ブレずに警察官の本分を全うしようとする辛小丰の上司、伊谷春。
どの3人も影があり、だが己の最も大切なものには絶対に妥協しない意思の強さを持っている。だが、それすらも揺るがせにするような事態が発生し、三人が三様の苦悩へと突き落とされていくのだ。

この3人の演技もまた皆素晴らしい。邓超(ダン・チャオ)の常に虚ろであったり、泳ぐような視線。危なかっしさも持つ一方で何故か警官であり、それも非常に忠実な仕事っぷりを見せる、本性の見抜けない怪しげな若者。
タクシードライバー、郭涛(グオ・タオ)のいかにもな非道っぷり。キレると何をするかわからなそうな荒っぽい様相から、後半は全く違う姿を見せる。
そして段奕宏(ドアン・イーホン)のすさまじい孤高の姿。仕事には厳しく優秀で包容力を持って部下には接する。痺れるようなリーダーかくあるべしという理想的な上官のふるまいで、他の作品でもこういった彼の姿はイメージ通りではあるが、本作ではそんな教科書的な倫理観、平常心を崩壊させるようなジレンマに陥り、苦悩する。

 

烈日灼心

 

もうひとつ、本作が今もなお高評価を得て歴史に残る作品となったのは、あるBLシーンがある為でもある。筆者は知らずに見ていたのだが、邓超(ダン・チャオ)によるそのシーンは、一瞬何が起こっているのかわからなくなるほど突然始まり、思わず「あっ!」と言ったきり言葉を失ってしまった。およそ中国映画でLGBTQ描写が、しかもこれほどはっきりと描かれるとは、よもや想像だにしなかった。これが検閲が通過した事には驚きとしか言いようがないし、今後これ以上の描写がある作品はまず出て来ることは無いだろう。

 

烈日灼心

 

映画全体の質感は、もはや10年近く前となる、2014年という制作年を感じさせる"あの頃"の中国な雰囲気だ。描かれる風景やファッション、描き方自体も猥雑で埃っぽく混沌とした空気感を見せ、警察ですらあまり信用ならない。
さらにカメラワークも巧みだ。アクション、クルマの動き、画面が躍動するシーンではダイナミックにカメラが振られ、寄せ気味の動きのあるカットが連続してググッと惹きつけられる。
特にビルアクションがあるのだが、これが最高に痺れる。非常に上手い見せ方撮り方でゾクゾクするような緊張感に溢れた仕上がりになっている。

全体のテイストも刁亦男(ディアオ・イーナン)監督作「鵞鳥湖の夜(2019)」「帰れない二人(2018)」などの贾樟柯(ジャ・ジャンクー)映画に近い、まさにニューシネマや香港ノワールっぽいが、もっと動物的で本能的。混沌とした社会の中で、本人たちにもコントロールできない流れに翻弄されていく、独自のテイストに仕上がっている。
一方で春節の夜のドライブのシーンなど、まさにキャストの揺れ動く心情さながらにファンタジックなテイストが入り込んでくるシーンもあり、それがまた一筋縄ではいかない面白さになっている。
強いて言うなら、彼らが犯罪を犯したのかの動機を描く部分が物足りないが、これはおそらくカットされた影響によるのではないかと思え、そうならば非常にもったいない。

個人的には今まで邓超(ダン・チャオ)の人気の秘密があまり良くわかっていなかったのだが、今作での演技を見てその実力にようやく合点がいったというのが収穫であった。飛び道具的なシーンも含めて映画として非常に面白かったので、是非何らかの方法で見て欲しい一作だ。

 

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【トピック】

◯ 2015年6月の上海映画祭で上映、その後8月27日に全国公開。興行収入は公開1ヶ月で3億元(61億円)を突破した。

 

◯ 本作は、上海映画祭で監督賞と邓超(ダン・チャオ)、段奕宏(ドアン・イーホン)、郭涛(グオ・タオ)の主演三人が一緒に主演男優賞を受賞。
台湾金馬奨では主演男優賞ノミネート、中国金鶏奨では3部門ノミネートし邓超(ダン・チャオ)が主演男優賞を受賞した。

 

◯ 監督の曹保平(ツァオ・バオピン)は、1989年からの北京電影学院在学中に多くの脚本を書き、「ボーン・トゥ・フライ(2023)」出演の胡军(フー・ジュン) 主演によるパイロットの映画「冲天飞豹(1999)」などに脚本として参加した。
脚本・監督した「光荣的愤怒(2004)」で上海映画祭で新人監督賞にノミネート。周迅(ジョウ・シュン)、張涵予(チャン・ハンユー)、鄧超(ダン・チャオ)、王宝強(ワン・バオチャン)らが出演した良作「李米的猜想(2008)」ではサン・セバスティアン国際映画祭新監督賞、中国金鶏奨主演女優賞など数多く受賞した。本作の後、がむしゃらにもがく農村の若者を描いた「追凶者也(2016)」でも、刘烨(リウ・イェ)が上海映画祭主演男優賞受賞。他の作品も総じて評価が高い。
まだ未公開だが范冰冰(ファン・ビンビン)主演で本作「烈日灼心」の続編との位置づけの「她杀」という興味深い作品も予定されているが、その前に2019年に撮影したものの公開が延期になっていた、黄渤(ホアン・ボー)、周迅(ジョウ・シュン)、祖峰(ズウ・フォン)らが出演の「涉过愤怒的海」が、ようやく11月25日に公開される予定となっている。
曹保平(ツァオ・バオピン)

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邓超(ダン・チャオ)

◯ 協警・辛小丰。本作では演技などにも議論を重ねて撮影に臨み、自らキャラクターを作り上げていった。協警とは、警察の制服は着ているが逮捕などはできない正規の警官の補助的な仕事。

◯ 今や監督としても活躍する俳優、邓超(ダン・チャオ)は2000年デビュー。
映画監督としては2014年以来5作を制作。すべて俞白眉(ユー・バイメイ)と共同監督で制作した作品となり、すべて邓超(ダン・チャオ)自身が主演している。

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俳優としては、馮小剛(フォン・シャオガン)監督の映画「戦場のレクイエム(2007)」や張芸謀(チャン・イーモウ)監督作に夫婦で出演した「SHADOW/影武者(2018)」など数々のヒット作で主演している。
「奔跑吧兄弟」など長年バラエティ番組での出演も多く、そちらでの知名度の方がむしろ高い。

 

ちょうど本作公開の時期は周星馳(チャウ・シンチー)監督作「人魚姫(2016)」の主演や、自身の監督・主演作「恶棍天使(2015)」、大人気バラエティ番組「奔跑吧兄弟」が2年目に入るなど、邓超(ダン・チャオ)にとって非常に充実した時期であった。

烈日灼心

烈日灼心

 

 

 

段奕宏(ドアン・イーホン)

◯ 辛小丰の上司である警察官、伊谷春を演じたのは段奕宏(ドアン・イーホン)

◯ 1973年生まれ。デビュー間もない1999年のドラマ「刑警本色」で知られるようになり、「记忆的证明(2002)」や映画「二弟(2003)」に出演の他、婁燁(ロウ・イエ)監督の「天安門、恋人たち(2003)」にも出演した。

兵士の成長物語である大ヒット名作ドラマ「士兵突击(2006)」での厳しい上官役、その続編「我的团长我的团(2009)」で一気に知られるように。
本作の後、「迫り来る嵐(2017)」では中国金鶏奨主演男優賞にノミネート。「1950 鋼の第7中隊(2021)」「1950 水門橋決戦(2022)」にも出演している。

いつの頃かの「好きな歌手」の質問には、日本人ボサノヴァ歌手の小野リサと答えている。

烈日灼心

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郭涛(グオ・タオ)

◯ 事件後はタクシードライバーをしている杨自道の役には郭涛(グオ・タオ)。

◯  初期には馮小剛(フォン・シャオガン)監督の処女作「永失我爱(1994)」や张艺谋(チャン・イーモウ)監督の名作「活きる(1994)」に出演しているが、「クレイジーストーン 〜翡翠狂騒曲〜(2006)」のヒットで知られるようになる。

その後も「クレイジー~」の宁浩(ニン・ハオ)監督「黄金大劫案(2012)」「ドラッグ・ウォー 毒戦(2012)」、人気ドラマ「父母爱情(2014)」に出演。

本作出演の後も再び馮小剛(フォン・シャオガン)監督「わたしは潘金蓮じゃない(2016)」「MEG ザ・モンスターズ2(2023)」、ドラマでは「石头开花(2020)」、コロナを扱ったドラマ「在一起(2020)」、吴磊(ウー・レイ、レオ・ウー)主演の古装劇「星漢燦爛(2022)」など人気俳優であり続けている。

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烈日灼心

 

 

 

高虎

◯ 魚の加工業で少女・尾巴(ウェイバ)と一緒に暮らしている陈比觉。逃走時の事故で片目を失明し、知能に障害を持っている。

◯ 中央演劇学園では段奕宏(ドアン・イーホン)と同級生であった。ドラマ「北京夏天(1996)」でデビュー。その後「吕不韦传奇(2001)」「天龙八部(2003)」「水滸伝(2011)」などの古装劇で人気俳優になる。张艺谋(チャン・イーモウ)監督の「金陵十三釵(2011)」にも出演した。
今作の撮影にも参加し、公開を待つばかりの時期であった2014年8月12日、約7グラムのマリファナと約1グラムのメタンフェタミンを所有していた疑いで北京警察に逮捕される。高虎はこの件をもって芸能活動を引退した。公開延期については下記を参照。

黄渤(ホアン・ボー)とは幼馴染の友人であり、長年の付き合いがあった。特にまだ黄渤(ホアン・ボー)が売れない歌手やダンスのコーチなどをしていた頃、高虎が映画「上车走吧(2000)」の撮影に参加する際に、登場人物が黄渤(ホアン・ボー)にぴったりだと出演を誘ったことで、俳優の道へと踏み入れた。ここから彼は俳優へと転身する事になり、今の名優の立場へと上り詰める、そのきっかけを作った存在が高虎である。その後、高虎が別の事件を起こし謹慎した際は黄渤(ホアン・ボー)が出演を手助けした事もあったが、最終的に彼は引退する事となった。引退後は不動産投資をしていたが、現在は農業をしているという。

高虎:黄渤的恩人,如今退圈不再拍戏,他到底经历了什么?|管虎|上车走吧|段奕宏|印小天_网易订阅

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王珞丹(ワン・ルオダン)

◯ 伊谷春の妹、伊谷夏

◯ 王珞丹(ワン・ルオダン)は、2010年頃に大人気になった大女優。青春ドラマ「奋斗(2007)」「杜拉拉升职记(2010)」で知られている。この年にテンセントが選んだ新4大美女(四小花旦)にも杨冪(ヤン・ミー)黄圣依(ホアン・シェンイー)刘亦菲(リウ・イーフェイ)と共に選ばれている。
その後も陳凱歌(チェン・カイコー)監督作「捜索(2012)」、韩寒(ハン・ハン)監督の処女作「いつか、また(2014)」、古装劇「賢后 衛子夫(2013)」、医療ドラマ「急诊科医生(2017)」、黄渤(ホァン・ボー)主演の映画「被光抓走的人(2019)」などなど、多くの作品やテレビ番組で活躍中である。

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烈日灼心

 

吕颂贤(呂頌賢、ジャッキー・ルイ)

◯ 台湾人でデザイナーの富商は吕颂贤(呂頌賢、ジャッキー・ルイ)。

◯ 香港人俳優。香港TVBドラマ「笑傲江湖(1996)」の主演で知られている。他にも「勝者為王(1991)」「銀狐(1993)」「戲王之王(1993)」などの亞洲電視ドラマやTVBドラマ「離島特警(1998)」などに出演。最近は中国ドラマにも出演している。

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李晓川

◯ 貸家の大家だが、なにやら不穏な雰囲気の卓生发は李晓川が演じた。

◯ かまいたち山内氏にも似ている李晓川は、本作の頃はまだ役名がつくのも少なかったが、最近では易烊千玺(イー・ヤンチェンシー) 主演のドラマ「長安二十四時(2019)」と映画「送你一朵小红花(2020)」、马思纯(マー・スーチュン)&王俊凯 (ワン・ジュンカイ)主演のディザスター映画「断·桥(2022)」などに出演してる。

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烈日灼心

 

 

 

高虎の逮捕と公開延期

◯ 当初は2014年末に公開予定であったが、主演のひとり高虎が2014年8月12日に麻薬所持の疑いで北京警察に逮捕され、すべての芸能活動から引退した。本作も公開延期となり、高虎の出演シーンの多くをカットした上で6ヶ月後に公開となった。

 

 

 

 

 

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