中国映画レビュー 「長空之王 长空之王 Born to Fly」

長空之王 长空之王 Born to Fly

 

 

 

長空之王 长空之王長空之王 长空之王


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【スタッフ & キャスト】

2023年 中国
監督: 刘晓世(リウ・シャオシー)
出演: 王一博(ワン・イーボー)胡军(フー・ジュン)周冬雨(チョウ・ドンユィ)于适(ユー・レー)卜钰(ボ・ユウ)翟宇佳(ジャイ・ユージア)

 

 

 

【ストーリー】

空軍のトップパイロットとして戦闘機に搭乗していた雷宇【王一博(ワン・イーボー)】は、スクランブルの際にトラブルを起こすなどその才能を活かしきれず、成果を出せずにいた。
そんな時、その才能を見込んだテストパイロット隊長・张挺【胡军(フー・ジュン)】に誘われる。雷宇は過酷な試験を無事合格し、テストパイロットとして新型ステルス戦闘機の開発に取り組むことになるのだが、この世界は彼の予想を超える過酷なものだった。

 

 

 

【感想】

熱い想いを持って作られていて、誠実に物語を表現しようという意図も感じられる、良質な映画だった。

日本では「中国版トップガン」と報道されたり、実際中国でもその意気込みで制作されたようだが、映画自体はちゃんと地に足の付いた設定の元に書かれた脚本という印象で、主人公の成長譚というメインラインに、如何に試験飛行が危険であり、高い知識や技量を求められるかを煽り要素なく着実に描いていて、十分に好ましいものだった。

王一博(ワン・イーボー)演じる雷宇の目線で描かれるのだが、テストパイロットという新天地で一から少しずつ成長していく物語になっていて、彼がいくらトップアイドルといえども、成長の過程で様々な失敗を犯してしまう場面もきちんと描いていく。特にテストパイロットになる前、空軍のパイロット時代の失敗は機体についての知識不足や技術を過信した危険な操縦によるものに見え、謹慎処分も納得できる未熟さがきちんと描かれている。その後も決して簡単に成長できるわけではなく、しっかりとしたハードルが用意されていて、なおかつそれをちゃんと努力して乗り越えるので、ファンでなくてもしっかりと楽しめる映画になっていた。

そういう意味ではある種の青春もの的な描写も多く、チームメンバーとのやり取りやトレーニングシーン、それにボス気質高めの胡军(フー・ジュン)演じる张挺隊長による家庭への招待などなど、和気あいあいとした温かい部分もシリアスな職場にも関わらず結構多くて和むのだが、周冬雨の沈天然医師とのやり取りまで必要だったかは微妙だ。ちょっと類型的だしストーリーにあまり関係がなく残念ではあった。

中国が誇る第5世代ステルス戦闘機、J-20の飛行シーンが大画面で見れるのもお目当てになるだろうが、そこもガンガン見せてくれてサービスしているので大満足だろう。ただしCGやカット割がちょっと荒く、機動を追いかけているシーンなんかは昔ながらのミニチュアを特撮で撮っているように見えてしまう箇所があり、本家「トップガン・マーヴェリック」と比べるのは酷な気がする。

全体的にすごく練り込まれた映画だと感じられる。劇中で雷宇が発する「昔、欧米に技術で追い越された時、同時に自信も失った」という言葉は、多くの中国の人々の本音であろうし、その自信を今取り戻している時期に入っているのがよくわかる。邦画ではこのレベルの映画をものにする事は残念ながら不可能だし、スーパーハイクオリティな「流浪地球2」などを見れば一目瞭然だが、今の中国映画は既に自信を持って今作のようなハイクオリティ・ビッグバジェット映画を作る資格を持っていると思う。それをストーリーでも語ってみせるところが、本作のもう一つの主題なのだろう。

と、色々書いたが、今まで書いたようなことはすべてラストシーンを除いた場合に言えることだ。

個人的には、ラストシーンはまったく不要だし、中国主旋律映画の悪癖そのものがまた出てしまったかと嘆息してしまった。こういった、ストーリーにかこつけて自国を礼賛したり、他国を煽るようなシーンを入れてしまうと、今までの誠実な作りが一気に白けて見えてしまい、非常にもったいない。個人的にはこのラストシーンがあるならば日本での本作の公開はちょっと厳しいように感じた。まあ、中国映画あるあると言えば良いのかもしれないし、中国内の観客からの需要だけ見ても、この部分は絶対に入れざるを得なかったのであろうことも想像はできる。ただ、こういうシーンがなくなった暁には、きっと中国映画は世界中に愛されるものとなるだけに、ある意味で中国映画の現在地を示す映画のひとつだなと感じた。

 

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【トピック】

○ メーデーの連休にあわせて2023年4月28日に公開。初週に興収ランキング1位を獲得し、2週間で興収7億元(137億円)を突破した。
当初予定では2022年9月30日に公開予定だったが、下記の経緯で6ヶ月の延期を余儀なくされた。

 

○ 監督の刘晓世(リウ・シャオシー)は中国航空工業集団に所属し、中国初の空母「遼寧」のプロモーションフィルムや、軍事的に人民解放軍とつながりの深いパキスタン軍やエジプト軍のプロモーション映像を撮影していたという経歴で、商業映画は本作が初監督となる。

 

○  尹正(イン・ジョン)出演作「扬名立万(2021)」に続き、韩寒(ハン・ハン)がプロデューサーとして携わっている。
元々80后世代の作家として、忖度せずに発言する点などから若者に大人気となる。その後レース活動などと並行して映画の監督も開始。「いつか、また(2014)」を始めとして、「乗風破浪〜あの頃のあなたを今想う(2017)」「ペガサス/飛馳人生(2019)」とヒット作を監督し続け、昨年2月に刘昊然(リウ・ハオラン)主演で4作目となる「四海(2022)」を公開。

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王一博(ワン・イーボー)

○ 抜群の才能を持ちながらもチームプレーが苦手な、エースパイロットになるために賢明に努力する主人公・雷宇を演じた。

○ 中韓合同グループ『UNIQ』のメンバーで、大ヒットドラマ「陳情令(2019)」で主演しブレイクした、現在の中国を代表するトップアイドル。「陪你到世界之巅(2019)」「有翡(ゆうひ) -Legend of Love-(2020)」「風起洛陽~神都に翔ける蒼き炎~(2021)」「冰雨火~BEING A HERO(2022)」など多くの人気作に出演している。今年春節公開の「无名 無名(2023)」に続き、本作が映画主演2作目となる。

 

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胡军(フー・ジュン)

○ テストパイロット隊の隊長として、豊富な経験と家族やチームに深い思いやりを持つ张挺。

○ 24年前の「冲天飞豹(1999)」では、まさに本作と同じテストパイロットを演じており、本作の配役は当然この作品を踏まえている。
スタンリー・クアン監督による台湾金馬奨受賞のLGBT映画「藍宇 〜情熱の嵐〜(2001)」でブレイクし、ドラマ「天龍八部(2003)」や映画「インファナル・アフェア 無間序曲(2003)」「レッドクリフ(2008)」「1950 鋼の第7中隊(2021)」などなど大作にも多数出演している名優だ。

 

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冲天飞豹(1999)

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于适(ユー・レー)

○ 雷宇と同じか、それ以上の技量を持つライバルでありチームメイトの邓放役。

○ 複雑な経歴の俳優だ。2019年に制作されたが今年7月に公開予定となっている「封神三部曲」という映画のオーディションで映画界入りし、本作が2作めの出演となる。
「封神三部曲」は黄渤(ホァン・ボー)袁泉(ユエン・チュアン)陳坤(チェン・クン)などなど、大物も出演する3部に分けられた大作のようだが、2014年頃から約5年もかけて制作していたものの、2019~2020年に一旦予告編などが公開され始めたにも関わらず、おそらくコロナ禍に突入した為に公開予定を延期。映画公開と合わせてデビューの予定だった于适(ユー・レー)も同じく芸能活動をストップせざるを得なくなったのではないかと想像される。
「封神三部曲」が今年7月に公開となれば立て続けの出演作公開となり、もしかするとそこまで踏まえた本作の出演だったのかもしれない。

長空之王 长空之王

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卜钰(ボ・ユウ)

◯ テストパイロットチームのチームメイト

沈腾(シェン・トン)马丽(マー・リー)らを輩出し、「月で始まるソロライフ(2022)」「トゥ・クール・トゥ・キル(2022)」など、今や毎期ごとに大ヒット映画も制作している大人気喜劇集団「開心麻花」所属の俳優で、コメディをメインに開心麻花の演劇や「小品」という新喜劇的コントなどで活動していた。
「こんにちは、私のお母さん(2021)」でも、チンピラ役の陈赫(チェン・ハー)の子分役で出演している。

 

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翟宇佳(ジャイ・ユージア)

○ テストパイロットチームのチームメイト

○ ドラマ「妻子的选择 (2022) 」「我的青春也灿烂 (2018) 」「完美伴侣 (2022) 」など。

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王子宸(ワン・ズーチェン)

○ テストパイロットチームのチームメイト

○ 主な作品は映画「巅峰营救(2019)」、ドラマでは朝鮮戦争を描いた「跨过鸭绿江(2020)」やIT起業家についての「创业时代(2018)」など。

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芦鑫(ルー・シン)

○ テストパイロットチームのチームメイト

○ 主な出演作は「热带往事(2021)」「第7秒营救(2017)」など。

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周冬雨(チョウ・ドンユィ)

○ 試験飛行隊所属の医師、沈天然。
○ 1982年生まれだがもはや大御所と言ってもいい。自身の会社から出資するなど女優以外でも映画界で幅広い活躍を続けている。「サンザシの樹の下で(2010)」「ソウルメイト/七月と安生(2016)」「少年の君(2019)」という曾国祥(デレク・ツァン)監督の秀作2作、「僕らの先にある道(2018)」などなど、本当に数多くの映画に出演している。

 

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长空之王

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登場する機体

○ テストパイロット達が開発に従事するのはJ-20(歼-20)。人民解放軍初の第5世代ステルス戦闘機。2011年に初飛行し、2019年に配備開始。

J-20(歼-20)

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○ 雷宇が张挺隊長と共に搭乗する旧型の試験飛行機は、練習機JL-8(教练8型)。1990年代から配備が始まりパキスタンやエジプト、アフリカなどにも供給されている。

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○ 空軍パイロット時代の雷宇が乗っていたのはJ-10C(歼-10C)。デルタ翼の第4世代戦闘機で、Su-27(J-11)をサポートする目的で2002年から配備されたJ-10の改良型で、2018年から配備が開始された。

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○ エンジンテスト飛行ではJ-16(歼-16)が使用される。上のSu-27(J-11)の改良型J-11BSがベースの改修型。2014年から配備開始。

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Su-27(J-11)も飛行場に多数駐機されているのが映り込む。

◯ その他、Z-20(直-20)ヘリや、Y-20(运-20)輸送機H-6(轟炸六型)爆撃機なども写っている。

○ アメリカのF-35C ライトニング IIらしき機体も、もちろん敵側として搭乗する。第5世代ステルス戦闘機で、日本も2018年から導入している。

 

 

 



公開延期

徐开骋(シュー・カイチェン)が当初パイロットチーム3人目の序列で出演していたが、张天爱(チャン・ティエンアイ)古力娜扎(グーリーナーザー)との二股スキャンダルのせいで、当初予定の公開日直前の9月8日に降板し、公開は延期となった。

徐开骋(シュー・カイチェン)は、「旦那様はドナー(2019)」でブレイクし、「鳳舞伝(2020)」杨幂(ヤン・ミー)主演の「斛珠<コクジュ>夫人(2021)」などに出演している人気俳優で、この降板は映画の内容にも相当大きな影響を与えたのは間違いないだろう。

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