中国映画レビュー「愛しの故郷 我和我的家乡(我和我的家郷) My People My Homeland」

我和我的家乡(我和我的家郷) My People My Homeland 愛しの故郷

愛しの故郷 - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

 

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MY PEOPLE, MY HOMELAND 《我和我的家乡》 Full Trailer — In Cinemas 8 October


映画『愛しの故郷(ふるさと)』新予告編

 

【スタッフ & キャスト】

2020年 中国

製作総指揮:张艺谋(張芸謀、チャン・イーモウ)

1. 《北京好人 / 続・Hello 北京》

監督:宁浩(ニン・ハオ)
出演:葛优(グォ・ヨウ)张占义(チャン・ジャンイー)刘敏涛*章宇(チャン・ユー)*杨新鸣*郝云(ハオ・ユン) *友情出演

我和我的家乡

 

2. 《天上掉下个UFO / 空からUFOが!》

監督:陈思诚(陳思誠、チェン・スーチェン)
出演:黄渤(ホァン・ボー)王宝强(ワン・バオチャン)刘昊然(リウ・ハオラン)王砚辉(ワン・イェンホイ)王迅(ワン・シュン)董子健(ドン・ズージェン)*佟丽娅(トン・リーヤー)*彭昱畅(ポン・ユーチャン) *特別出演

我和我的家乡

 

3. 《最后一课 / 最後の授業》

監督:徐铮(徐崢、シュー・ジェン)
出演:范伟(ファン・ウェイ)、徐铮(徐崢、シュー・ジェン)、卢靖姗(セリーナ・ジェイド)张译(チャン・イー)于和伟(ユー・ハーウェイ)

我和我的家乡

 

4. 《回乡之路 / 故郷への旅》

監督:邓超(鄧超、ダン・チャオ)俞白眉(ユー・バイメイ)
出演:邓超、闫妮(ヤン・ニー)王子文(オリビア)王源(ワン・ユエン)苗阜、*吴京(ウー・ジン) *特別出演

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5. 《神笔马亮 / マーリャンの魔法の筆》

監督:闫非(閆非、イェン・フェイ)彭大魔(ポン・ダーモ)
出演:沈腾(シェン・トン)马丽(マー・リー)魏翔(ウェイ・シャン)张一鸣辣目洋子

我和我的家乡

 

 

 

【ストーリー】

北京、貴州、杭州、陝西、瀋陽を舞台にした5つのオムニバス・ストーリー。

1. 《北京好人 / 続・Hello 北京》

《北京你好》の続編として、葛优(グォ・ヨウ)演じる駐車場の管理人・张北京を描く。ある日北京に住み、タクシー用の車両の買い替えを考える彼の元に、従兄弟の表舅(张占义、チャン・ジャンイー)が訪ねてくる。喉のできものを取る費用を借りにやって来た叔父に、名前を偽り自分の健康保険を使って治療させようと計画するが…

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2. 《天上掉下个UFO / 空からUFOが!》

中秋節の夜、貴州省黔南(けいなん)にある電波望遠鏡の付近でUFOが目撃された。お陰で村は観光客で大にぎわい。真相を探るために地元出身の学者(董子健、ドン・ズージェン)と共にTVプロデューサー(王宝强、ワン・バオチャン)が村へとやって来る。村の知名度アップを狙い、村長と開発業者が歓待する。一方、日々様々な珍奇な発明を行っている発明家の黄大宝(黄渤、ホァン・ボー)にも引き合わされるのだが、どうも彼らがUFO騒動を捏造したのでは疑い始める。

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3. 《最后一课 / 最後の授業》

スイスで水墨画を指導していた老教授(范伟、ファン・ウェイ)がある日病に倒れた。脳梗塞によって記憶が1992年に戻ってしまったという教授を助けるために、子どもたちが当時の勤務地である杭州の山村へと連れて行き、村人総出であの頃の小学校を再現する。記憶の通りの風景へと戻ってきた老人は、あの頃のように授業を始めるが…

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4. 《回乡之路 / 故郷への旅》

ネットショッピングの有名インフルエンサーである闫飞燕(闫妮、ヤン・ニー)は、故郷の陝西省ムウス砂漠にある小学校の40周年式典に招待され、久々に帰郷することにした。ところが道中でとても胡散臭いリンゴ商(邓超、ダン・チャオ)に出くわす。その男につきまとわれながら故郷へと向かう羽目になってしまい…

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5. 《神笔马亮 / マーリャンの魔法の筆》

画家の马亮(マーリャン)(沈腾、シェン・トン)は、過疎が進む中国東北部の故郷に戻る希望を妻、秋霞(马丽、マー・リー)に否定されロシアに行く事となっていた。だが実際には故郷へと戻り、あたかもロシアにいるふりをして生活していた。村人総出でその演出を手伝っていたある日、突然妻の秋霞が故郷へとやって来た。

我和我的家乡

 

【感想】

基本的には穏やかな笑いが全編を支配するコメディの短編が5篇という構成。つまり、中国各地に素晴らしい地域があり、それぞれの場所で人々が穏やかに暮らしているよというテーマだ。それに超豪華な出演者が続々と登場する。

だがそのせいか、似たようなムードが延々と続いて少々飽きてしまった。ただし、個人的にはまさにこれこそが中国映画の良さなのだ。コメディこそ中国映画の最も得意とするところで、それを存分に楽しめるのは間違いない。

とはいえ、見ているうちに映画のディテールを楽しむようになってくる。俳優の誰々がここに出てきた、この衣装はなんだろうなどなど、色々な仕掛けが各所に潜んでいる。それぞれが短編だからか、細かなディテールはどれも本当に丁寧に作られていて、むしろそういったディテールにこそ製作陣の思いが詰まっているように思えた。本作を見ていても、制作総指揮であるレジェンド、チャン・イーモウの個性が見える場面はほぼ無い。想像するに、おそらく全体のストーリーや地域などをチャン・イーモウが決定し、各監督はディテールで個性を発揮したのではないだろうか。

一方で、引きの大画面で見せる風景は、まるで観光PVのような迫力ある美しさで圧倒される。いろんなシーンにもさりげなく各地域の名産や文化風習がちょこちょこ入れ込まれてて、途中から「まるで寅さんか火曜サスペンス見てるようだ」という気分になるし、実際のところそうなのだと思われる。なんだかディスカバージャパンの頃の昭和な邦画を見ている気分になった。

人々にとって、ここ30年くらいの時代の急激な変化はたぶん、日本人で言う1950~80年代と同じような見え方なんだろう。3話のような古ぼけた教室も、彼らにとっては地続きのリアリティある過去で心のなかで消え去っていないし、根本的に人は変わっていないんだと自ら再確認しているように見えた。

全体的にも、1990年代初頭の邦画が湛えていたあの妙にファンタジックな雰囲気(夢と希望に溢れていたからだろうか)を、この映画の中いっぱいに感じられた。特に3話はその要素が強く、テーマはオーセンティックだが上品なセンスで、徐铮(シュー・ジェン)監督の今後はさらに面白くなりそうに思える。

 

主旋律映画とはつまり愛国的映画で、その点では本作も間違いなく愛国的映画だ。だが前作よりその愛国的表現が遥かに巧妙で、むしろ自然とさえ言える。自然すぎて無害化されてると言えるほどだ。それは意図的なのだろうか。もはや製作者サイドが政府の意向を内面化したような、良いか悪いか俄かに判断できないレベルでテーマが映画に溶け込んでいる。

 

 

 

【トピック】

映画について

○ 2019年に公開された「愛しの母国 我和我的祖国」の続編となり、今回は中国の東西南北中、5つの地域の市井の人々を描く。

 

○ 第1話《北京好人 / 続・Hello 北京》の監督で、今作での総監督・宁浩(ニン・ハオ)によると、前作で最も評判が良かったエピソード《北京你好》の要素「喜劇」「主旋律」「郷土愛」を全編に拡大したのが、今作となる。

 

○ 国慶節の10月1日に公開された本作は3週連続興収トップとなり、2020年全世界興収ランク3位の大ヒットとなった。

 

○ 各エピソードの監督も、基本的にはその地域出身の監督がメガホンをとっており、
a) 上海出身の徐铮(シュー・ジェン)が3話の杭州(東)
b) 西安出身の俞白眉(ユー・バイメイ)が4話の陝西省北部(西)
c) 東北喜劇代表の闫非(閆非、イェン・フェイ)&彭大魔(ポン・ダーモ)は5話で遼寧省瀋陽(北)
を舞台にしている。1話については前作内エピソード《北京你好》と同様に宁浩(ニン・ハオ)が監督した。

 

○ 制作は2020年5月からスタートしたが、まさにコロナ禍での撮影となった。特に《北京好人 / 続・Hello 北京》編の撮影は、北京で感染が拡大する最中の病院での撮影となり、急遽セットを制作するなどの対応が必要だったという。

 

 

1. 《北京好人 / 続・Hello 北京》

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○ 第1話の主人公・张北京役の葛优(グォ・ヨウ)は、80年代から活動する国家一級演員の俳優で主に舞台で知られる喜劇役者の大御所。2011年に陈凯歌(チェン・カイコー)監督の「運命の子」で華表奨最優秀男優賞を受賞し、同監督の「さらば、わが愛/覇王別姫 (1993)」での役も有名だ。馮小剛(フォン・シャオガン)監督の作品にも多く出演している。

○ 朴訥とした従兄弟役が印象的だった张占义(チャン・ジャンイー)は、2019年に映画「平原上的夏洛克」という上海映画批評家協会賞受賞の映画でデビューしたばかりの農民俳優だ。ここでの準主役は大抜擢と言えるだろう。中国ならではの電動バイクに乗り、ウーバーイーツドライバー的な仕事をしている従兄弟は、张占义(チャン・ジャンイー)本人と同じ河北省衡水市出身の設定となっている。北京から250kmほど離れた場所だ。

○ この従兄弟が去り際に主人公に渡したキャンディは、大白兔奶糖という60年以上昔から作られているミルク味のキャンディの"ようなもの"である。日本で言うならミルキーだろうか。

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○ 友情出演となっている、食事のテーブルに回ってくる流しのギター弾き役である郝云(ハオ・ユン)は、2006年デビューのシンガーソングライター。民謡歌手出身だが北京をテーマに歌い、前作「我和我的祖国(愛しの母国)」でも「回到那一天」が挿入歌として使用されている。

○ 主人公が買おうとしているクルマはORA(欧拉)iQという電気自動車で、中国の長城汽車が2018年に発足した電気自動車ブランドORA(欧拉)から同年発売された。価格も手頃で200~300万円で最大450km走行できる。

日本人デザイナーが手掛けたらしいORA(欧拉)ブランドについて。

第552回:北京モーターショー2018の展示内容に見た 中国の高級車ブランド・ホンチーの本気度! 【マッキナ あらモーダ!】 3ページ目 - webCG

 

 

2. 《天上掉下个UFO / 空からUFOが!》

我和我的家乡

○ 舞台となる貴州省黔南(けいなん)は中国南部にあり、ミャオ族やプイ族など多くの少数民族が住むエリアだ。劇中でも多くの民族衣装の人々が登場していた。また500mもある世界一巨大な電波望遠鏡も有名で、レストランの名物料理がこの望遠鏡型の鍋に入れられていた。

○ 監督の陈思诚(チェン・スーチェン)や王宝强(ワン・バオチャン)、刘昊然(リウ・ハオラン)の組み合わせは、まさに監督の代表作「唐人街探案(唐人街探偵 僕はチャイナタウンの名探偵)」シリーズの監督・主役である。このシリーズは2月の春節にも新作が本土で公開される。

natalie.mu

※無事に日本でも公開された

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○ 今やコメディ映画の大スター、TVプロデューサー役の王宝强(ワン・バオチャン)については「新喜劇之王 (2019)」の項を参照。

○ 発明家役の黄渤(ホアン・ボー)も今や超売れっ子だ。「ロスト・イン・タイランド (2012)」の大ヒット以来、多くの作品に出演している。「最愛の子 (2014)」「疯狂的外星人 (2019)」などに出演し、2018年は初監督作「アイランド/一出好戯」も制作した。前作「我和我的祖国(愛しの母国)」の1話にも主演している。

○ 特別出演している思い出の彼女役である佟丽娅(トン・リーヤー)は監督、陈思诚(チェン・スーチェン)の妻。素晴らしい映画だった「ルームシェア~時を超えて君と~(2018)」の項も参照。

○ 村長役の王砚辉(ワン・イェンホイ)、村の開発業者役の王迅(ワン・シュン)は共に名脇役と言える程多くの映画に出演しているが、二人とも「ビッグ・ショット “大”人物 (2019)」に出演している。王迅(ワン・シュン)は「唐人街探偵 NEW YORK MISSION(2018)」での悪役が有名だ。

○ 科学者役の董子健(ドン・ズージェン)は、「山河ノスタルジア (2015)」中国版「ナミヤ雑貨店の奇蹟 (2017)」に出演するなど、実力派の若手俳優である。詳しくは「脱单告急 (2018)」の項を参照。

 

 

3. 《最后一课 / 最後の授業》

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○ 3話の舞台となる浙江省杭州は中国東部にあり、千島湖というダム湖の美しい風景で知られる。また、最後に登場する美しくライトアップされた小学校も、この千島湖の近くに実在する上、実際の小学校として2019年より使われている。

○ 監督で教師の息子役でもある徐铮(徐崢、シュー・ジェン)は、最近ではあらゆる映画で大活躍している。詳しくは大ヒット作「薬の神じゃない! (2018)」の項を参照。

○ その教師を演じている范伟(ファン・ウェイ)は、相声という中国漫才の芸人でもある。俳優としての活動も数多く、「ミスター・ノー・プロブレム (2016)」で台湾金馬奨最優秀主演男優賞受賞。以前見た馮小剛(フォン・シャオガン)監督「わたしは潘金蓮じゃない (2016)」にも出演している。

○ 息子の妻役の卢靖姗(セリーナ・ジェイド)「李茶的姑妈 (2018)」の項を参照。村の書記役の张译(チャン・イー)は、前作「我和我的祖国(愛しの母国)」2話《相遇》編でも主演した、多くの映画に出演している実力派だ。個人的には「最愛の子 (2014)」での深い感情を湛えた演技が思い出深い。

○ 村人の中には中国初の本格的アイドルグループTF BOYSのリーダー王俊凯(ワン・ジュンカイ)「ルームシェア~時を超えて君と~ (2018)」などで有名な雷佳音(レイ・ジャーイン)、90後世代4人娘(90后四小花旦)の一人杨紫(ヤン・ズー)、それに監督・主演の徐铮(徐崢、シュー・ジェン)の妻で女優の陶虹も出てくる。

 

 

4. 《回乡之路 / 故郷への旅》

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○ 4話でインフルエンサーの故郷となる陝西省のムウス(毛乌素)砂漠は中国西部にある。省都西安の北に位置し、1960年代からの緑化運動によって2000年代には80%のエリアを緑化し人の住める地域へと改良した。映画はまさにその歴史を踏まえたストーリーとなっている。

○ 共同監督し、主演もしている邓超(鄧超、ダン・チャオ)と俞白眉(ユー・バイメイ)は基本的に二人の共同監督作品が多い。詳しくは彼らの前作「銀河学習塾 (2019)」の項を参照。

○ 吴京(ウー・ジン)がどこに出ているのか…と思ったら驚きの、途中の休憩地でのレストラン店主という役で登場。言わずとしれたアクション・スターである。「SPL/狼よ静かに死ね (2005)」でブレイクし、「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー」シリーズで中国で最も知られたアクション俳優となった。

○ インフルエンサー役の闫妮(ヤン・ニー)は「チャイニーズ・フェアリー・ストーリー (2011)」「立ち退き (2016)」「追凶者也 (2016)」「ウーマン・イン・レッド (2016)」などに出演している。

○ 旅行ガイド役の王源(ワン・ユエン)TF BOYSのメンバー。舞台となる陝西省西安が本籍地である。アイドルとして大人気となってから、俳優としても活動している。

 

 

5. 《神笔马亮 / マーリャンの魔法の筆》

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○ 共同監督である闫非(閆非、イェン・フェイ)、彭大魔(ポン・ダーモ)は二人とも、今をときめく喜劇集団・開心麻花の所属。しかも両人とも1983年生まれ38歳と若い。開心麻花については、この二人の前作「西虹市首富 (2018)」の項を参照。

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○ そして、主演の夫婦役である沈腾(シェン・トン)、马丽(マー・リー)や他の俳優も多くが開心麻花の所属でつまり、この5話は実質的に開心麻花の映画ということだ。

○ 二人ともここ数年多くのヒット作にひっぱりだこの売れっ子だ。沈腾(シェン・トン)については「ペガサス/飛馳人生 (2019)」の項、马丽(マー・リー)については「恥知らずの鉄拳 (2017)」「完璧な他人 ~スマホが暴く秘密たち~ (2018)」の項も参照。

○ 妻の付き添い役の辣目洋子は、まだ数は多くないが目立つ佇まいで最近多くの映画で見かける事が増えている。「ミッション・デブポッシブル! (2018)」「悲しみは逆流して河になる (2018)」の項も参照。

 

 

 

前編「我和我的祖国 愛しの母国」の記事はこちら。

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続編「父に捧ぐ物語 我和我的父辈」の記事はこちら。

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