中国映画「我和我的祖国」(私と私の祖国)レビュー

 

中国建国70周年の昨年の国慶節には、多くの中国で「主旋律映画」といういわゆる愛国映画が公開されたが、中でもこの映画が興行収入トップで最もヒットした愛国映画となった。

我和我的祖国

 

 

我和我的祖国


【十一献礼】电影《我和我的祖国》完整版预告

 

 

【スタッフ & キャスト】

2019年 中国

総監督:陈凯歌(チェン・カイコー)

1. 《前夜》
監督:管虎(グェン・フー)
出演:黄渤(ホァン・ボー)、王千源(ワン・チェンユエン)、欧豪(オウ・ハオ)、梁静(リャン・ジン)、佟大为(トン・ダーウェイ)、魏晨( ウェイ・チェン)、耿乐

2. 《相遇》
監督:张一白(チャン・イーバイ)
出演:张译(ジャン・イー)、任素汐(レン・スゥシー)、张嘉译(チャン・ジャーイー)、周冬雨(チョウ・ドンユイ)、彭昱畅(ポン・ユーチャン)、罗海琼

3. 《夺冠》
監督:徐铮(徐崢、シュー・ジェン)
出演:吴京 (ウー・ジン)、马伊琍(マー・イーリー)、刘涛(リウ・タオ)、韩昊霖(リウ・ハオラン)、樊雨洁

4. 《回归》
監督:薛晓路(シュエ・シャオルー)
出演:杜江(ドゥー・ジアン)、朱一龙(ジュー・イーロン)、王洛勇(ワン・ルオヨン)、惠英红(カラ・ ワイ)、任达华 (任達華、サイモン・ヤム)、高亚麟、王道铁

5. 《北京你好》
監督:宁浩(ニン・ハオ)
出演:葛优(グォ・ヨウ)、龚蓓苾、王东、马书良、程禹森、郭晓小

6. 《白昼流星》
監督:陈凯歌(チェン・カイコー)
出演:刘昊然(リウ・ハオラン)、陈飞宇(チェン・フェイユー)、田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)、江珊

7. 《护航》
監督:文牧野(ウェン・ムーイエ)
出演:宋佳(ソン・ジア)、佟丽娅(トン・リーヤー)、张子枫(ウェンディー・チャン)、雷佳音(レイ・ジャーイン)、韩东君、陶虹(タオ・ホン)、王砚辉(ワン・イェンホイ)、郭京飞(グオ・ジンフェイ)、袁文康(ユエン・ウェンカン)、梁缘、宋楠惜(ソン・ナンシー)

 

【ストーリー】

中華人民共和国成立後の歴史上の大きな出来事を、それぞれの当事者の目から描いていく7つのオムニバス・ストーリー。

1. 《前夜》
1949年、中華人民共和国が成立する前夜の、国旗掲揚台の電動掲揚システムを制作する技師林治远(黄渤、ホァン・ボー)の奮闘を描く。不眠不休の中、必要な金属を人々の協力によって手に入れ、無事に共和国が成立する。

2. 《相遇》
1964年、原子爆弾開発に従事する技師高远(张译、ジャン・イー)は、機密保持のため3年間家族とも会えない生活であったが、トラブルによる被爆により街に出た際、以前恋人であった方敏(任素汐、レン・スゥシー)と偶然再開する。自己犠牲の葛藤の中、2人の思いは交錯し…

3. 《夺冠》
1984年、女子バレーボール中国代表はロサンゼルス・オリンピックでアメリカを撃破し優勝する。その模様を路地に住む人々は少年・陈冬冬(韩昊霖、リウ・ハオラン)の家にあるテレビを持ち出して、みんなで観戦する。同級生の女子が気になりつつも、冬冬は結局みんなの観戦のために努力する。

4. 《回归》
1997年、香港が返還される際の式典を巡る外交官(王洛勇)、兵士(杜江、ドゥー・ジアン)、香港警察(惠英红、カラ・ ワイ)達の奮闘を描く。香港の街角で長年時計修理を営む华哥(任达华、サイモン・ヤム)は、偶然にも香港警察の女性隊長とイギリスの在香港外交官の時計修理を同時に受ける。それは、どちらも返還式典のスケジュールを司る重要人物の時計であった。

5. 《北京你好》
2008年の北京オリンピックが近づくなか、タクシー運転手の张北京(葛优、グォ・ヨウ)はタクシー会社から1枚の開会式チケットを手に入れた。我が子にあげようと得意になっていた矢先、四川から来たという男の子にチケットを盗まれる。怒って捕まえたその子は、実は四川大地震で亡くなった父親が開会式会場の建設に携わっていたのでやって来たと聞き…

6. 《白昼流星》
2016年、中国は有人宇宙船神舟11号を打ち上げた。内モンゴルで何の目標もなく家から逃げだした兄弟である沃德乐(刘昊然、リウ・ハオラン)と哈扎布(陈飞宇、チェン・フェイユー)は、近所のおじさん老李(田壮壮、ティエン・チュアンチュアン)に連れられ、神舟11号の着陸の場面に遭遇し、自国の最先端の技術を目の当たりにする。

7. 《护航》
2015年の中国人民抗日戦争(第二次大戦)勝利70年記念式典で、中国空軍の女性エースパイロットであった吕潇然(宋佳、ソン・ジア)は、記念飛行では補欠としてサポート役に回ることを指示される。誰よりも努力し、後輩たちへの道を切り開いてきた吕潇然はショックを受けるが…

 

 

【感想 & トピック】

ひとことで言うならば、国の歴史にそれを支えた人あり。というのがテーマだろうか。なにより”純粋”というほどの愛国心の強烈さは、強力に伝わる。それぞれの時期に人々がどう感じていたか、改めて知ることができる新鮮さもあったし、絵は豪華だし、何と言っても中国映画界のオールスターが細かいところでも大勢出てきて、それを探すのも楽しい。そんなところも含めて、中国映画好きには楽しめる映画だったと思う。

それぞれのストーリーに関連はなく、トーンも違うし手法もバラバラで、1話およそ20~30分と短いこともあって、それぞれの話はwebなどでよく公開されているショートストーリーといった感覚だ。だが一話一話が王道ド直球ではなく、その当時いたであろう人々の心情を少しずつ違う角度から描いていて、新しい発見をさせられたのは事実だ。ただ全体としてはまごうかたなき愛国映画であり、エンディングの五星紅旗が埋め尽していく場面など、鼻につく場面もある。嫌悪感を持つ人もいるだろう。それでも今の中国映画の力を見せるだけの力量はあったと思う。エンディングの場面を見ながら、冷静に「(こんな映画を堂々と作って)すげえな」という感情と、感情的に「(このパワーはやはり)すげえな」と、ふたつの「すごい」が合わさって感慨深くなったのは正直なところだ。

それぞれの話について語るなら、
1. 《前夜》は歴史ドラマっぽいオーソドックスな作り。多くの人が想像する中国映画っぽい、ちょっと大げさな演出。最後の場面での、当時の映像との合成はなかなか不穏な気持ちにさせられる。
監督は「ロクさん(2015)」などの管虎(グェン・フー)。

2. 《相遇》では、核兵器の話だけあって、冒頭から不穏な雰囲気全開である。核開発施設はまるで悪の組織本部みたいでもあり、よくこんなノスタルジックな設備で核兵器作ってたんかと言いたくなる貧素な設備だ。だがそれは冒頭だけであり、その後はほぼ全編元恋人から主人公へのやり取りだけであり、主人公の张译(ジャン・イー)はほぼ表情だけで演技する。けっして声高には言わない複雑な感情が二人だけでなく演出からも伝わってくる、ハイレベルな映画だ。核兵器による犠牲も、想いの途中で死んでいったにも関わらずただ物静かに見せる。諦観や情熱なんかのわかりやすい感情では描かない。皮肉すら感じる深い演出だった。
監督の张一白(チャン・イーバイ)は、最近だと「君といた日々(2014)」で有名だろう。今年の春節映画の目玉になる筈だった、女子バレー中国代表の映画「夺冠」のプロデュースもしている。古くは本木雅弘と赵薇(ヴィッキー・チャオ)の「夜の上海(2007)」や、日中合作のオムニバス映画「about love アバウト・ラブ(2005)」での塚本高史が出演する上海編の監督などもしている。

一転して3. 《夺冠》は朝ドラチックなわかりやすい喜劇。賑やかにあの頃を描く。ただ主人公の少年を「国家の一大事に貢献」したように描くのが鼻につく。不憫に思ってしまった。
最近ノリにノッている徐铮(徐崢、シュー・ジェン)が監督/プロデュースする作品は、「ロスト・イン・タイランド(2012)」「私は薬の神ではない(我不是药神、2018)」にしろ、深い感情を描くより、バランス感覚が評価されている印象なので、今作はそのバランスを求められての起用かと想像する。

4. 《回归》は香港返還の話で、さてどう描くのかと内心楽しみでもあったが、声高に中国の主張を描くことはしない。香港人目線をきちんと入れ、むしろその場に立ち会う人々の戸惑いまで匂わせていたので、かえって好印象になったかもしれない。中国映画あるあるである、それほど大した仕事でもないのにやたらと大変そうに描く部分など、中国人側の話は類型的。やっぱり広東語の柔らかさに和みながら、香港映画スターの惠英红(カラ・ ワイ)と任达华(サイモン・ヤム)の言葉を抑えた共演に気持ちがどうしても揺り動かされる。
薛晓路(シュエ・シャオルー)監督は、陈凯歌(チェン・カイコー)監督作「北京ヴァイオリン(2002)」で脚本を務めた後、ジェット・リーによる文芸作「海洋天堂(2010)」で初監督し、現在までに4本の監督作がある。

この話の最後に、羅大佑(ルオ・ダーヨウ)の「東方之珠(東方の真珠)」という香港を歌った歌が流れる。香港の美しさについて歌い上げた曲だが、返還の際にも映画と同様に街中にこの曲が流れたそうだ。ただ、歌詞の捉え方については香港人と中国人ではやや違うようで、香港人なら素直に喜べない思いまで含んでしまうようだ。

www.youtube.com 罗大佑-东方之珠-国语

chinesesong.blog.jp

japanese.cri.cn

5. 《北京你好》オリンピックの北京市民の雰囲気を描いたこの話は、不思議に味があって自分ではもっとも心に残ったかもしれない。まず、主役のキャラがいい。適度にお調子者でノリもよく、ただ粗雑で下品で、でもホロッとさせてという。子役もいいキャラだ。ああいう無愛想な子供は、中国映画では相当いい味を出す子が多い気がする。じんわりと、あのオリンピックの時の人々の気持ちを、想像させてくれる。北京の人々はこれを見て同じように懐かしくなったのだろうか。
監督の宁浩(ニン・ハオ)はコメディ「クレイジー・ストーン ~翡翠狂騒曲~(疯狂的石头、2006)」を始めとする"疯狂的"シリーズで知られていて、2018年には「私は薬の神ではない(我不是药神、2018)」も徐铮(徐崢、シュー・ジェン)と共同プロデュースするなど、徐铮とは作風も感覚も近い位置にいる監督だ。

6. 《白昼流星》では内モンゴルの美しい風景が見れる。そこにいる夢も希望もない若者、日本ならヤンキーとなるような若者が、彼らを暖かく見守る年長者に導かれて最先端の技術に触発されるという感じか。書けば悪くない話だが、ちょっとヤンキー二人組が無軌道というかバカっぽくて共感しづらい。この話を見ながら、結局こういう国家の偉業みたいなものは人々の希望であり、荒っぽく言えば核兵器もロケットも国威発揚なのだなと思いながら見ていた。
この話は総監督、陈凯歌(チェン・カイコー)によるものだ。言わずとしれた大監督で「さらば、わが愛/覇王別姫(1993)」や上記「北京ヴァイオリン(2002)」「空海-KU-KAI-(2017)」などなど。

7. 《护航》はまた最初に戻ってきたような雰囲気である。1話目のようなトーン、ただし舞台は現代。題材も含めてトップガンの焼き直しみたいなプロモーション映像感が満載だ。そして、そこから人民解放軍→人々の合唱のエンドロールへと繋がっていく。
この話はなんと「私は薬の神ではない(我不是药神、2018)」の監督、文牧野(ウェン・ムーイエ)によるものである。"我不是药神"関連の人物が3話でメガホンを取るという、驚くような人選だった。もちろん"药神"も悪い映画じゃないがいかにも極端でおもしろい。企画は総監督の陈凯歌(チェン・カイコー)と「オペレーション・メコン(2016)」のプロデューサーでもある黄建新により、2018年冬に始まったそうなので、2018年夏に公開された"药神"のヒットが影響したのは間違いないだろう。

 

さて、この映画の主題歌はその名も「我和我的祖国」といい、1984年に書かれよく知られている曲だが、今回フェイ・ウォンが歌ったことで話題になっている。


王菲 -《我和我的祖國》主題曲剪輯版MV (1080p)

フェイ・ウォンは、日本では何と言っても1994年の香港映画「恋する惑星」の歌と演技だろうが、彼女の生い立ちを知った上でこの曲を聴くとまた印象が変わる。

彼女は元々中国出身だが香港で歌手になった。その際の芸名、キャラクターもすべて作られたもので、小ヒットはしたものの彼女は我慢ができず、アメリカへと去ってしまう。だが2年後に改めて名前も本名に戻し、より自らに忠実な歌を歌って大ヒット。自身で作詞も始めていく。そうして香港芸能界から離脱し、中国人の、北京語の歌手として大きく飛躍していくことになった。そんな彼女にとって、中国の歴史を総括する本作で、人々によく知られたこの曲を歌う事は、すなわち彼女自身の半生の集大成的な意味合いに感じてしまう。

彼女については、大変おもしろく詳細に語られた記事があるので、興味がある方はぜひご一読頂きたい。

note.com