中国映画レビュー&解説「父に捧ぐ物語 我和我的父辈 My Country, My Parents」

我和我的父辈、My Country, My Parents: 豆瓣

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】「父に捧ぐ物語 我和我的父辈」の感想や解説(データ、あらすじ、出演者プロフィール)などを記載しています。

 

 

 

我和我的父辈 


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【スタッフ & キャスト】

2021年 中国

 

1 《乘风》

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監督: 吴京(ウー・ジン)
出演: 吴京(ウー・ジン)、吴磊(ウー・レイ、レオ・ウー)张天爱(チャン・ティエンアイ)李光洁 (リー・グアンジエ)余皑磊(ユー・アイレイ)魏晨( ウェイ・チェン)阿楠(ア・ナン)

 

 

2 《诗》

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監督: 章子怡(チャン・ツィイー)
出演: 章子怡(チャン・ツィイー)、黄轩(ホァン・シュエン)、袁近辉(ユアン・ジンフイ),陈道明(チェン・ダオミン)、海清(ハイ・チン)、任思诺、彭昱畅(ポン・ユーチャン) 

 

 

3 《鸭先知》

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監督: 徐铮(徐崢、シュー・ジェン)
出演: 徐铮(徐崢、シュー・ジェン)、韩昊霖(リウ・ハオラン)宋佳(ソン・ジア)欧豪(オウ・ハオ)陶虹(タオ・ホン)贾冰(ジア・ビン)张雨绮(キティ・チャン)

 

 

4 《少年行》

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監督: 沈腾(シェン・トン)
出演: 沈腾(シェン・トン)、洪烈、马丽(マー・リー)艾伦(アイルン、アレン・アイ)辣目洋子(ラームヤンズ)常远(チャン・ユアン)张小斐(チャン・シャオフェイ)

 

【あらすじ】

1. 《乘风》

第二次大戦中、马仁兴【吴京(ウー・ジン)】率いる騎兵団は自隊の存在を日本軍に察知された可能性に気づいた。息子の马乘风【吴磊(ウー・レイ、レオ・ウー)】も軍人として張り切って初参加する中、誘導作戦を行って村人や女性・子どもたちを逃がそうとするのだが…

父に捧ぐ物語 我和我的父辈


2. 《诗(詩)》

1965年頃、ソ連の技術供与を失い独自開発の道を進んだ中国のロケット開発は、苦難の途上であった。ロケット技術者夫婦【章子怡(チャン・ツィイー)と黄轩(ホァン・シュエン)】の息子、哥哥は何の仕事をしているのか教えてくれない両親に不満を持ち、素直に言いつけに従おうとしない。だが、ある日父親が帰ってこなくなり…

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3. 《鸭先知》

1970年代後半の上海で、中国初のテレビCMを作った男【徐铮(徐崢、シュー・ジェン)】の物語を、息子の目線から描く。

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4. 《少年行》

父を亡くした男の子のもとへ、ある日突然2050年からアンドロイド【沈腾(シェン・トン)】がやってくる。何でもできる万能のアンドロイドと出会い、父親代わりにと男の子は大変喜んで学校にも連れて行くが…

父に捧ぐ物語 我和我的父辈

 

【感想】

親の意味を考えさせる4篇のショートストーリーをまとめた作品だが、一本筋の通った強い主張がある映画というより、それぞれの監督の味を楽しむような作品だった。

タイトルや前作から想像して、見る前はもっと狭い定義の「親と子」というテーマで描いていくのかと想像していたが、もっと広い視点から扱っていた。4篇それぞれでテーマの広がりの方向も違うが、その割にはっきりした主張を見せて終わらせる訳でもないので、散漫な感じがしてしまう。ただ、どの作品もエンディングに向かってある種の感動のようなものを狙っているのは伝わってくるので、各編を見終わっても何が言いたいのかはっきり分からずに「えーと、どうしたらいいんかな??」という戸惑いが残るものが多かった。4人の監督それぞれは、章子怡(チャン・ツィイー)や沈腾(シェン・トン)のように初監督作品となる方、徐铮(徐崢、シュー・ジェン)のように既に監督として認知されている方それぞれだが、全体としての統一感は感じられなかった。やはり製作総指揮の不在が招いた結果なのだろうか。
どの話も、結局これ親よりも国家全体の話じゃない?という部分が垣間見える。親と子の関係がイコール国家と国民の関係となるという価値観という風に見えてきて、いかにも中国的だ。少なくとも日本であれば親子の関係は、核家族/一族へと収斂したり、ファミリーヒストリー的な家系図的なイメージになる気がするが、この映画ではそういう関係性はほとんど出てこず、個人対個人、でなければ一気に個人対国になる構図しか出てこない。

個人的に最も楽しめたのは《鸭先知》編だ。なにせ美術が素晴らしい。70年代後半の上海の町並みは、少しCG感もあるが大変綺麗でいつまでも見ていたくなった。母親役の宋佳(ソン・ジア)をはじめ、ファッションもセンス良く時代感を作り上げている。なにより当時のCMを今の感覚でずらずらっと見せてくれると、この40年の進歩を一目瞭然で体感できた。こんなテーマをチョイスした目線も驚きだし、短編にちょうど良かったと思う。
この「我和我的」シリーズは、過去2作からいわゆる主旋律=愛国映画の決定版的シリーズかと思っていたが、本作にその感じはあまり無い。ネタ切れという感じもあり、テーマの弱さからも強い意志を感じられない。好評だった前2作を見てなんとか続編を!という気持ちだけでひねり出した無理矢理感が割合見えてしまっている。やはりチャン・イーモウクラスの総監督の抜けた穴は大きかったか。過去2作を見ていた時には彼らの存在感はむしろ薄く感じて、その役割の大きさを思いもしなかったが、自分も含め、むしろいなくなって初めてわかった気分だ。

 


【トピック】

「愛しの母国 我和我的祖国(2019)」「愛しの故郷 我和我的家乡(2020)」に続く"国慶節三部作"の3作目。今回は前作で製作総指揮を担った张艺谋(チャン・イーモウ)は参加せず、総指揮のポストは不在となった。ただし、张艺谋(チャン・イーモウ)自身は《鸭先知》編に特別出演している。

○ 国慶節前日の9月30日に封切られ、大ヒット作「1950 鋼の第7中隊 长津湖」に阻まれたが3週連続で興収ランキング2位を維持、10月16日時点で興収13億元(約240億円)を達成した。

 

○ 章子怡(チャン・ツィイー)と沈腾(シェン・トン)の2人は今作が初監督となる。

 

○ 《乘风》編で日本軍大佐役を演じたのは阿楠(ア・ナン)という内モンゴル出身のモンゴル族俳優である。

父に捧ぐ物語 我和我的父辈

 

 

○ 《诗》編は1965~70年頃の長征1号のロケットエンジン開発に関する物語である。毛沢東対フルシチョフの中ソ対立の果てに、ソ連は中国へのロケット技術供与を停止し技術者をソ連へと引き上げさせた。その為中国は自力でロケットエンジン開発を進める事となった。

 

○ 《鸭先知》編での薬用酒のCMやその経緯は、現存していないものの実話のようである。同様の話が当時を知る人物によって語られている。


www.youtube.com 《四十年四十个第一》第二十集 第一条电视广告 | CCTV纪录

ネット上にあがっている80年代後半、本作から10年後の広告類を見ていても往時の様子を感じることができる。技術と演出手法のバランスが日本とはぜんぜん違っていて、牧歌的というかよく言えばお上品な、当時の日本のCMともまるで違う作風なのも面白い。


www.youtube.com 【80年代老广告】1987年1月央视CCTV1老广告(含水印)

 

○ 《鸭先知》編での张艺谋(チャン・イーモウ)はテレビ局局長役で特別出演している。

我和我的父辈

 

○ 《少年行》編には「こんにちは、私のお母さん 你好,李焕英(2021)」の张小斐(チャン・シャオフェイ)が同級生の母親役で特別出演している。

父に捧ぐ物語 我和我的父辈



 

 

○ 余談だが、《鸭先知》編での街のシーンでは70年代後半の風景が美しく再現されており、中国最初の市販自動車である上海牌SH760型(元は凤凰牌轿车)も登場する。現在の上汽集団による当初は上級役人向けのセダンで、後に市販される事になった。デザインはヒルマン・ミンクスなど(本当はおそらくモスクビッチ402などのソ連製乗用車)に似た50年代後半の様式だが、実に1991年まで生産されていた当時を知る人には思い出のクルマだ。

父に捧ぐ物語 我和我的父辈

SHANGHAI SH760

Herranderssvensson - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=15721654による

 


息子が母に時間稼ぎにと映画へ行く際、ポスターの前にたくさん3輪タクシーが停まっていた。上海250Kという1964年から上海三輪車管理所と上海自動二輪車製造工場が合同で設計生産したモデルだ。80年代までの上海では、トロリーバスとこの3輪タクシーが主な公共交通であった。

父に捧ぐ物語 我和我的父辈

上海250K

头条文章

 


もちろんバスについても当時の上海で使われていたモデルを使用している。上海のバスといえばトロリーバス=電気自動車で、70年半ばまでは作中の車両とほぼ同じ外観のSKD663型上海バス工場製=後に上汽集団に合併)の連節バスタイプのものが主流だった。作中では車体長も短く、トロリーバス特有の屋根上のポールが無いディーゼルエンジンタイプのSK644Aらしきモデルが使用されていた。

上海电车SKD663

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こちらのアルバムにある、1983年に上海を訪問した外国人による美しい写真にも、まだ上記タイプのトロリーバスが多数写っている。


Shanghai, Beijing West Road (北京西路), at Xizang Middle Road (西藏中路) - 2.1, 1983

 

 

 

 

 

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