中国卓球～窮地からの反撃～ 中国乒乓之绝地反击 Ping Pong: The Triumph
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
www.youtube.com 『中国乒乓之绝地反击』预告：邓超/孙俪 国乒队重回巅峰之战
【スタッフ & キャスト】
2023年 中国 137分
監督: 邓超（ダン・チャオ）、俞白眉（ユー・バイメイ）
出演: 邓超（ダン・チャオ）、孙俪（スン・リー）、许魏洲（ティミー・シュー、シュー・ウェイチョウ）、段博文（ダン・ボーウェン）、蔡宜达（ツァイ・イーダー）、丁冠森（ディン・グワンセン）、孙浠伦（スン・シールン）、吴京（ウー・ジン）
【ストーリー】
幾多の勝利を数えてきた卓球王国・中国だが、男子は1980年代末になりスウェーデンをはじめとするヨーロッパが台頭し、遂に中国は王座から陥落することになった。この危機にイタリアでコーチをしていた戴敏佳は、中国代表チームのヘッドコーチに就任する。戦力を立て直し、卓球世界一に復活できるのか。中国男子代表の挑戦を描いた実話の物語。
【感想】
様々な苦労を乗り越えて栄光を掴み取る、ストレートで王道的なスポーツ映画だった。実話を元に描かれているので、当時を知る観客には懐かしくも感動を呼ぶだろう。
ただし、当時の卓球事情を知らなかった筆者はストーリーを把握するまで手間取ってしまった。改めて調べてみたが、80年代後半～90年代の中国の卓球事情を日本語で説明している記事は極めて少ないのでサラッとまとめておくと、
1960年代までの男子卓球界では日本が強かった。その後中国が台頭し始め、80年代半ばまでは最初の黄金期と言える圧倒的な強さを誇る。しかし徐々にヨーロッパ、なかでもスウェーデン代表が天才・ワルドナーを擁して、遂に中国を追い落とすまでに至ったのが、映画の冒頭にあたる1989年頃の事である。そして、この映画に描かれたような奇跡の大復活を遂げた後、中国は現在まで至る一大卓球帝国を築き上げる。
そういう大中国卓球帝国のはじまりを描いているという事で、ストーリーだけ読むと相当に興味を掻き立てる内容だが、映画を見てみると意外にも盛り上がりは控えめだ。
展開も変ではないし、試合をしっかり見せていて面白い。なにより、あの卓球のハードな試合シーンもすべて俳優たちが演じていて、これは並大抵の準備程度ではこの動きはできないのが一目瞭然だ。すごく自然に試合の雰囲気に没入できて、许魏洲（ティミー・シュー、シュー・ウェイチョウ）、段博文（ダン・ボーウェン）をはじめ、選手役の俳優たちはみんな素晴らしい仕事を成し遂げている。
ただ、中国のスポーツ映画といえば陳可辛（ピーター・チャン）監督の「中国女子バレー（奪冠、2020）」という素晴らしい出来の映画がある。こちらも1980年代の貧しかった中国が世界の頂点を目指す映画だが、めっぽう面白く仕上がっていて、どうしたってこれと比べてしまうのが辛いところだ。
本作は2022年の撮影なので、きっとあの映画の存在は無視できず色々と工夫はしたのだと想像するが、やはり若干展開が王道ドラマすぎて面白みに欠けたかもしれない。それと画面の質感が当時感を狙うあまりか、結構暗い。歴史考証は素晴らしくて、試合の雰囲気もすごい再現度で、あの当時を知る人には相当グッとくるだろう事は間違いない。だが、そのせいかどうしても少々暗くて古臭い雰囲気になっていて、試合のドラマチックな展開でもテンションが上がっていかなかった印象だ。
「中国女子バレー（奪冠、2020）」もスポ根ドラマなので同ジャンルなのだが、本作は男子チームなので当たり前だが男ばかりだ。時代も30年以上前なので、つまりゴリゴリの軍隊的規律と、"耐えてなんぼ"な価値観が画面に充満している。そこを強行突破するようなむき出しの欲望を前面に出したアツい主人公でもいればバランスも取れるだろうが、本作の主人公であるヘッドコーチ、戴敏佳はむしろ冷静でクール。選手たちが限界まで突き詰めていても離れたところで穏やかに見ていたり、自分の感情を押し殺してチームの為に動く態度だったので、なかなか感情移入しにくかったかもしれない。
おそらく男子卓球の90年代は、中国スポーツの歴史上でも極めて重要な地点だろう。そこを見れるというのは卓球ファンならずとも、とても面白いと思う。
【トピック】
◯ 春節に合わせて一旦2023年1月24日に公開したのだが、张艺谋（チャン・イーモウ）監督の大ヒット作「満江紅（マンジャンホン）」やSF超大作「流転の地球 -太陽系脱出計画-」などの春節映画と競合し、前売りの状況が芳しくない事から一部劇場のみの公開に縮小、2月17日に再度公開した。興行収入は3月21日に1億元（20億円）を突破した。
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◯ 10月17日からの東京・中国映画週間で「中国卓球～窮地からの反撃～」のタイトルで上映決定。
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◯ 1950～60年代の男子卓球界は日本が強く、その時期に活躍した金メダリスト荻村伊智朗が1959年に日本から中国やスウェーデンの卓球協会で指導した事もあり、その後1971年のピンポン外交などを挟んで中国やヨーロッパが大きく成長した。
中国は1970～80年代に最初の全盛期を迎えるが、一方で追いかけるスウェーデンやドイツ、フランスなどのヨーロッパ勢は新たなプレースタイルを身につけ、さらにラケット表面に塗る接着剤の改良も成功。80年代後半には中国を越えて世界一の座へと君臨するようになり、中国の10年以上に渡る卓球帝国は危機に陥ったのである。
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邓超（ダン・チャオ）
◯ 共同監督の邓超（ダン・チャオ）と俞白眉（ユー・バイメイ）の二人はこれが5作目だが、全5作とも二人の共同監督で制作した作品となり、すべて邓超（ダン・チャオ）が主演している。
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◯ 邓超（ダン・チャオ）は中国代表チームのヘッドコーチ、戴敏佳を演じた。
1992年のバルセロナオリンピックで中国代表が金メダルを獲得した際のヘッドコーチで、以降1990年代中国卓球の黄金時代を築いた蔡振華がモデル。「魔鬼」教官として、後の卓球界のレジェンド達となる馬文革、王濤、丁松、劉国梁、孔令輝という「五虎将」を率いて1995年に世界卓球選手権で頂点へと返り咲いた。
◯ 俳優としての邓超（ダン・チャオ）は2000年デビュー。
ドラマ「少年天子（2003）」や妻・孙俪（スン・リー）と共演した「幸福像花儿一样（2005）」などで知られるようになる。
馮小剛（フォン・シャオガン）監督の映画「戦場のレクイエム（2007）」で百花奨最優秀男優賞を受賞。
素晴らしい演技で金鶏奨最優秀主演男優賞も受賞した中国ノワールの良作「烈日灼心（2015）」、
周星馳（チャウ・シンチー）監督作「人魚姫（2016）」、
張芸謀（チャン・イーモウ）監督作「SHADOW／影武者（2018）」など
数々のヒット作で主演している。
「奔跑吧兄弟」など長年バラエティ番組での出演も多く、そちらでの知名度の方がむしろ高い。
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孙俪（スン・リー）
◯ 戴敏佳の妻、王盈を演じたのは孙俪（スン・リー）
◯ 女優であり、邓超（ダン・チャオ）の妻である。特に古装劇ドラマでの圧倒的人気を誇り、「宮廷の諍い女（2011）」、「ミーユエ（2015）」、「月に咲く花の如く（2017）」などの人気ドラマで主演した。
映画では張芸謀（チャン・イーモウ）監督作「SHADOW／影武者（2018）」を含めて夫、邓超（ダン・チャオ）と多くの作品で夫婦で共演しており、「恶棍天使（2015）」など彼の監督作での主演として共演も多い。
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许魏洲（ティミー・シュー）
◯ 代表チームに選ばれた白民和。1992バルセロナ五輪・銅メダルのレジェンドで、90年代前半に世界最高のプレイヤーと言われた馬文革（マ ウェンゲ）がモデルである。
◯ 许魏洲（ティミー・シュー、シュー・ウェイチョウ）は2015年デビューだが、2021年に卓球選手の青春ドラマ「栄光のピンポン（荣耀乒乓）」で主演している。
他には同性愛表現のせいと思われる理由で途中で打ち切りとなったドラマ「ハイロイン（2016）」や「恋愛できない僕のカノジョ（2020）」など。
段博文（ダン・ボーウェン）
◯ 黄昭。1996アトランタ五輪・金メダリストで元世界ランク1位。速攻卓球のレジェンドと言われる王濤がモデルである。
◯ 段博文（ダン・ボーウェン）は、頻繁に見る訳では無いが秀作ではきちんと存在感を示す、実力派の俳優だ。
张一白（チャン・イーバイ）監督作「秘岸（2008）」、青春映画の良作「左耳 ひだりみみ（2015）」、華語映画賞助演男優賞受賞の「追凶者也（2016）」、そして名作「シスター 夏のわかれ道（2021）」など。
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蔡宜达（ツァイ・イーダー）
◯役名は龚枫。95年世界選手権団体優勝メンバーで、「中国の秘密兵器」「史上最強のカットマンのひとり」として世界を震撼させた丁松がモデルだ。
◯ 蔡宜达（ツァイ・イーダー）の主な出演作は、映画ではジョン・ウー監督作で長澤まさみらも出演している「The Crossing -ザ・クロッシング- PartⅡ（2015）」
ドラマでは「項羽と劉邦 King's War（2012）」や「驪妃（2020）」などがある。
丁冠森（ディン・グワンセン）
◯ 侯卓翔。1996アトランタ五輪・金メダル2個獲得、10年以上も中国代表の総監督を務め、現在は中国卓球協会の会長である劉国梁がモデル。
◯ ハルビン出身で、映画では中国版「容疑者Xの献身（2017）」や「你的婚礼（2021）」。ドラマでは「笑傲江湖 レジェンド・オブ・スウォーズマン（2018）」や「月光変奏曲（2020）」、「花の都に虎（とら）われて（2020）」などに出演している。
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孙浠伦（スン・シールン）
◯ 董帅。1996アトランタ・2000シドニー五輪金メダリストで精密機械と呼ばれた孔令輝がモデル。
◯ 孙浠伦（スン・シールン）は子役として「銀河学習塾（2019）」で主演の邓超（ダン・チャオ）の子供役として出演。「平凡英雄（2022）」や「二代妖精之今生有幸（2017）」や大ヒットドラマ「山河令（2021）」にも出演している。
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阿如那（アラン・アルナ）
◯ 途中でチームから脱退することになる陈文。
◯ 演じた阿如那（アラン・アルナ）は内モンゴル自治区出身のモンゴル族俳優。
今年の大ヒットドラマ「狂飙（2023）」にも出演。映画では「古董局中局（2021）」、王一博主演の「热烈（2023）」、邱禮潯（ハーマン・ヤウ）監督「绝地追击（2023）」など、今年急速に知られるようになってきた。
コーチ陣。俳優は左から梁超、李李子、邓超（ダン・チャオ）、张懿曼、李晓强
