中国映画レビュー「爱情神话(愛情神話)B for Busy Myth of Love」

爱情神话(愛情神話)B for Busy

 

 

爱情神话


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【スタッフ & キャスト】

2021年 中国
監督: 邵艺辉(シャオ・イーホイ)
出演: 徐铮(徐崢、シュー・ジェン)马伊琍(マー・イーリー)吴越(ウー・ユエ)倪虹洁(ニー・ホンジエ)周野芒(ジョウ・イエワン)黄明昊(ジャスティン、ホアン・ミンハオ)

 

 

 【ストーリー】

画家の老白【徐铮(シュー・ジェン)】は、上海の昔ながらの町中で下宿人と共に生活している。少し良い仲になりそうな広告会社に勤務するシングルマザーの李小姐【马伊琍(マー・イーリー)】と、そこに出入りする絵画教室の生徒の格洛瑞亚(グロリア)【倪虹洁(ニー・ホンジエ)】や、元妻の蓓蓓【吴越(ウー・ユエ)】らとのやり取りが、彼の友人、息子たちとの日々、美しい上海の街並みと共に描かれていく。

 

 

【感想】

知らずに見るとお洒落に纏められた大人のストーリーという程度で終わるのだが、実は奥深くまで練り込まれた会話、全てに意味があるそれぞれのシーン、大変美しい美術と、しかもそれを最後までユーモアで包んでいく事で素晴らしく緻密に仕上げられた映画だ。何度でも見直しては新しい発見があるような、考察を読むことでより楽しめるような、軽やかかつ深みのある作品であった。

この映画はまさに「上海」を描いた作品なので、観客の上海への理解や経験によって感想は大きく変わるだろう。筆者も実は上海にゆかりも思い入れも無く、また映画への事前情報もなく見始めたために、最初は一種の80年代「金曜日の妻たちへ」的な大人のトレンディドラマみたいな感じかと軽く受け取っていた。
欧米文化を端々に取り入れた生活、日本人にも馴染みのある料理や演劇などの文化への接し方、自転車で近所の店を回るような気取らない生活…上海旧市街ならではのライフスタイルを、ただ美しいだけではない、現実を切り取ってきたような高度にバランスの取れた美しいシーンを並べながら見せていく。

全編上海語での会話を中心に展開していく物語なのだが、その会話も意味があるような無いような、軽くとりとめのない感じだが、端々にそれぞれのバックグラウンドが垣間見えてくる。会話によって「上海で生きるとは」の本当の姿を見せてくれる。
あらためて見てみると、登場人物たちはそれぞれが上海的な特徴を備えている典型的な上海人たちだ。主人公であるバランスよく文化全般に精通した文芸中年の老白。外国人と結婚するも昔ながらの上海での生活を捨てられない李小姐。男性と同じように生きようとする元妻の蓓蓓。生活に余裕がありつつどこか満たされていない風な格洛瑞亚(グロリア)。海外の感覚を持ちつつどこか得体が知れずロマンチックな事を追求しているような老乌。彼らは皆、ギラギラした他の都市の生活者とは違って軽やかな感覚を昔から持ち合わせている様子でもある。

この感じ、ちょっとゴダールやクロード・ルルーシュ的フランス映画のようでもあるし、時折出てくる前衛的な演出のシーンは個人的には60年代の日活などの現代劇的にも感じた。中上流クラスのちょっといい生活を貶す訳でなく描く感覚もやっぱりトレンディドラマ的でもある。とても好ましい素敵な感覚だ。考えさせるストーリーであっても、なんでもかんでも湿っぽくなる必要はない。

後味が残る、でも決して暗くない。観終わって色々と考えながら映画を反芻したくなる。改めて日本語でじっくり観たくなるが、でも絶対上海語で観たい。ぜひ日本に持ってきてほしい映画だ。

 

 

 

【トピック】

○ 2021年12月24日に公開され、初週5位につけるがその後も口コミのせいで長くランクインし続け、興収2.6億元(約53億円)を記録した。映画評口コミサイト豆瓣では実に8.1点もの高評価をつけている。

爱情神话 (豆瓣)

 

○ 2022年11月の第35回中国金鶏奨で脚本賞を受賞、他7部門でのノミネートと全作品中2位のノミネート数を記録した。

 

○ 全編上海語で制作された映画は潘虹、劉青雲(ラウ・チンワン)主演の「股疯(1994)」以来、実に27年ぶりとなる。


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○ 作中に登場する上海の街は、安福路、巨鹿路、五原路、永嘉路、武康路、天平街道、外滩などのエリアである。主人公の老白は武康路、五原路あたりに住んでいる設定だ。

 

○ バックに飾られ、老白の作品として登場する絵画は赵宏によるデジタル絵画である。彼自身もまた映画同様、上海の文芸中年との事だ。

Vol.22 デジタル絵画で表現する上海の女性たち | Rocky’s report from Shanghai | 花椿 HANATSUBAKI | 資生堂

每日头条 设计人物|赵宏:后疫时代更可贵的数字艺术表达

 

○ 監督の邵艺辉(シャオ・イーホイ)は、本作でまず2020年の第14届FIRST青年电影展で注目を集め、初監督として長編作品として公開までたどり着いた90後世代の女性である。山西省の出身だが北京電影学院卒業後6年ほど上海に住んでいた。

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○ 美術の傅英彰は、「ザ・マジックアワー(2008)」「キル・ビル vol.1(2003)」「金陵十三釵(2012)」などを手掛けた種田陽平に師事した後、演劇の美術に携わる。その後「阳台上(2019)」「扫黑·决战(2021)」など映画美術を手掛けている。

 

 

○ 主演の老白役で、本作のプロデュースも務めている徐铮(徐崢、シュー・ジェン)は、俳優や監督にとどまらない大活躍の映画界の超大物となったが、特に本作のような目新しさや新機軸を持った作品には頻繁に顔を出している印象で、すごい目利きのイメージがある。彼の扱う作品には上品で穏やかなテイストのものが多く、その点でもマッチしたキャスティングだ。上海生まれ。

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○ 马伊琍(マー・イーリー)が演じるのは広告会社に勤務するシングルマザーの李小姐。イギリス人元夫との間の娘を育てており、上海旧市街らしい昔ながらの古く入り組んだ集合住宅に母親と住んでいる。马伊琍は上海市虹口区生まれ。幅の広い演技をする実力派だ。特に「選ばれざる路 未择之路(2018)」での粗野な演技には唸らされた。

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○ 老白とある理由で離婚することになった元妻、蓓蓓を演じるのは吴越(ウー・ユエ)。上海市闵行区生まれ。名作「少年の君(2019)」にも出演していた。

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○ 倪虹洁(ニー・ホンジエ)が演じる格洛瑞亚(グロリア)は財産にも余裕がある有閑夫人だが、台湾人の夫は出奔したまま戻ってこない。
倪虹洁自身は江蘇省の生まれだが1歳で上海の祖母の元へと引っ越し、その後上海の同済大学を卒業している。90~2000年代に多くの上海企業の広告に出演していた事もあり、同世代の上海人には大変馴染みのある俳優だ。

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○ 老白の近所の友人であり、フランス企業の代理店をしている老乌は周野芒(ジョウ・イエワン)が演じた。上海生まれ。

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○ 黄明昊(ジャスティン、ホアン・ミンハオ)は老白の息子であり、カフェの店長で美容にも大変詳しい、白鸽を演じた。上海語はあまり話さない。
韓国のオーディション番組「PRODUCE 101 シーズン2」に登場後、中国の「偶像练习生」を経てNINE PERCENTのメンバーとしてデビュー。現在は乐华七子 NEXTのメンバーである。過去に日本のラッパーKOHHとの曲もリリースしている。

【歌詞/和訳】MARIA 【KOHH/Justin(黄明昊)】 - YouTube

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○ 白鸽の彼女、洋洋役は王影璐。「最后的真相(2022)」にも出演していた。

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○ イギリス人との子供だが中国語を話す李小姐の娘、玛雅(Maya)役は冯玛娅

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○ 二階を借りているイタリア人留学生、亚历山大(Alexander)役はHamzah Mohamed Nagi Al-Salami

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○ 靴の修理屋役は宁理。個人的にはこのシーンの美術は本当に美しい。壁にかけられた小物の色調、陽光のライティングなど微に入り細を穿つように拘ってある。宁理は、徐铮が監督した「父に捧ぐ物語(2021)」の「鸭先知編」にも出演していた。

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