【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
まだまだ知らない香港の風景があり、しかも毎年の春節にこんなハードなチャレンジが行われていたというタブルな驚きに魅入られる、とても興味深く楽しめるドキュメンタリー。
www.youtube.com 【電影預告】挑戰香港山跑界神級四徑！《香港四徑大步走》Four Trails ｜12月6日 毅力之巔
【スタッフ & キャスト】
2025年 香港 101分
監督：Robin Lee
主演：Andre Blumberg, Stone Tsang（曾小強）, Salomon Wettstein, Law Kai Pong（羅啟邦）, Will Hayward, Jacky Leung（梁俊強）
【あらすじ】
香港で毎年開催されている、制限時間72時間内に298kmものトレッキングコースを走り抜けるという過酷な大会「香港4トレイル・ウルトラチャレンジ」に参加するランナー達を描くドキュメンタリー。
【感想】
まだまだ知らない香港の風景があり、しかも毎年の春節にこんなハードなチャレンジが行われていたというタブルな驚きに魅入られる、とても興味深く楽しめるドキュメンタリー。
今まで香港のドキュメンタリーはそれほど見てこなかったのだが、本作は驚くことに香港金像奨の新人監督賞を受賞し、シンガポールやマレーシアなどの他国でも公開されるほどヒットしたという事もあって気になっていた。
もちろん、最近の香港のドキュメンタリーといえばまずは「理大囲城（2020）」や「時代革命（2021）」、「灰となっても（2023）」など、雨傘革命や反送中デモについて描かれた作品群がまず取り上げられるべきだし、内容の重み、政府からの制裁を受けてでも公開した制作者たちの覚悟を考えても、それらの作品を無視して語ることはできない。
この作品が金像奨を受賞した事も、そうした問題と"無関係"だからなのかも、思わなくもない。本当ならばそうした雑念を抱かずに楽しめるべきなのに。
とはいえ、この映画は本当に美しい風景が続々と登場し、こんなに感動的な山並みがあの馴染み深い香港の町並みのすぐそばに存在する事に、改めて感動させてくれる。数多くの香港映画を見たのに、これほど美しい風景は撮られてこなかった気がするくらいだ。
たとえば「縁路はるばる（2022）」も、典型的な香港から離れた素敵な場所たちを取り上げ、香港の別の魅力を新発見させてくれた素晴らしい映画だったが、この映画もまた同じく香港の新しい魅力を教えてくれている。
舞台となるイベント「香港4トレイル・ウルトラチャレンジ」もまた筆者が知らなかった凄いもので、合計300kmを3日間=72時間ぶっ続けで走りきる、しかも香港領内で！という、狭い香港を縦横無尽にフルに使いきるマラソンイベントだ。
コースとなるハイキングコースも面白くて、4つのコースが、香港領内のバランスよく存在する。だがその内ひとつのコースは香港島の南端から中国本土に近づく領内の北端までを南北に貫き、しかもヴィクトリアハーバーを渡ってコースが続いている。そしてこの4つのコースを走り抜けるには、美しい山並みの尾根づたいのランだけでなく、あのいつもの香港の町並みを通り抜け、MTRに乗り、フェリーにも乗らなければならないのだ。こんなバラエティに富んだマラソン、世界中で香港だけじゃないの!?と思えるすごいイベントだ。
本作ではもちろん様々な背景をもって走る参加者たちにも密着していて、海外から、香港から、女性も男性も色んな決意を持って走りだす姿を見せる。
夜明け前の街中からスタートし、ダム、山小屋、海の家を走り抜け、山を駆け降り、MTRに乗り込み、街を走る。その合間には眠り、売店で食事をして、さらに記録更新を目指す。もう飽きずに見ていられる。
決して目新しいやり方で作ってたりはしない、むしろシンプルで正統派なドキュメンタリー映画で、だからこそ素材の面白さが引き立つ、とてもいい作品だった。
香港映画レビュー&解説「縁路はるばる / 僻地へと向かう 緣路山旮旯 Far Far Away」 - daily diary
【トピック】
◯ 本作は2025年1月2日に香港で公開、その後シンガポールやマレーシアでも公開された。興行収入は1000万香港ドル（1.9億円）で、これは当初の予想を30倍も上回る結果だそうだ。
◯ 日本では2025年11月28日からの香港映画祭 Making wavesで上映予定。
◯ 本作は香港金像奨で新人監督賞受賞、2部門ノミネートとなった。
◯ 香港4トレイル・ウルトラチャレンジ（Hong Kong 4 Trails Ultra Challenge、HK4TUC）とは、香港の4つのハイキングコース総計298kmを制限時間60時間以内に走り切るという大会で、2012年以来毎年、春節の時期に開催されている。
コースには以下の4つのハイキングコースが組み込まれていて、もちろん一般の人も通ることができる。
1. マクリホース・トレイル（Maclehose Trail、100km)は、九龍半島北部・新界の山脈を一気に横断するコースの、1979年に香港で初めて作られたハイキングコース。
2. ウィルソン・トレイル（Wilson Trail、78km）は、香港島の南から九龍半島の北までを縦断するコースとなっていて、市街地を抜ける上に、ヴィクトリア・ハーバーを公共交通機関で渡るという設定になっている。
3. ホンコン・トレイル（Hong Kong Trail、50km)は、香港島内の尾根を伝って東西に横断するルートを辿るコース。
4. ランタオ・トレイル（Lantau Trail、70km)は、香港国際空港が立地しているランタオ島内を周回するルートとなっている。
