Fox Hunt フォックス・ハント - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
全編パリでのロケによる華やかな舞台、梁朝偉(トニー・レオン)の存在感を活かした華やかなクライムアクション。彼の前作「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件(2023)」での役にも近いが、よりアクション要素を強くスリリングな仕上がりに。


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【スタッフ & キャスト】
2025年 中国 105分
監督: 张立嘉(レオ・チャン)
主演: 段奕宏(ドアン・イーホン)、梁朝伟(梁朝偉、トニー・レオン)、夏侯云姗(エリカ・シアホウ)、张傲月(チャン・アオユエ)、オリヴィエ・ラブルダン、オルガ・キュリレンコ
【あらすじ】
上海を拠点に大規模な金融詐欺を行い、国際指名手配犯として7年間逃亡を続けていた戴逸宸(ダイ・イーチェン)【梁朝伟(梁朝偉、トニー・レオン)】が、フランス・パリに姿を現した。彼を長年追ってきた中国の経済犯罪捜査官・叶钧(イエ・ジュン)【段奕宏(ドアン・イーホン)】は、エリート捜査官で結成された特別チーム「フォックス・ハント」を率いて、盗まれた資産の回収に挑む。しかし、法の穴をかいくぐるダイ側の巧みな工作により、不正資金の行方は依然として闇の中だった。やがて、ダイの敏腕弁護士エルサやパリ警察の刑事ノエルらも絡み合い、国境を超えた駆け引きはさらに複雑さを増していく。
映画.comより
【感想】
全編パリでのロケによる華やかな舞台、梁朝偉(トニー・レオン)の存在感を活かした華やかなクライムアクション。彼の前作「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件(2023)」での役にも近いが、よりアクション要素を強くスリリングな仕上がりに。
映画全編に渡って中国映画っぽい雰囲気がまったくなく、華やかで国際的な雰囲気が漂う。さすがパリでロケしたのはこんなに効果的なんだなと思えるほど、カーチェイスシーンなんかですら中国でやるのとはまったく違って見えて、見ているだけで楽しい。

特に梁朝偉(トニー・レオン)の似合い方は尋常ではなく、いかにもヨーロッパな社交の場でのジャケットにサングラス姿の違和感のなさは、彼以外にはあり得ない。同じような役柄だがデフォルメを効かせた演技を見せていた前作「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件(2023)」とは違い、演技も素晴らしく自然で、普段からこんな所にもよく来てるんだろうなあと思わせる圧倒的なこなれ具合だ。特に、彼独特の印象的な微笑み。本作ではほとんど最後までこの微笑みを崩さない。
だが、そんな主役感ビンビンの梁朝偉(トニー・レオン)が、今回は実は悪役で、付き合いのある欧米人たちも全員悪事をしていて、スーパーゴージャスなゲスト、オルガ・キュリレンコですら引き立て役として彼に協力する。
そんな華やかな舞台に乗り込むのが、段奕宏(ドアン・イーホン)率いる中国警察の捜査員たち3人の、仕事人風情の漂う精鋭たちという布陣となっている。
パリでの彼らの行動は実直で慎ましく、いかにも限られた予算での出張というリアリティで、すぐに捜査に取りかかる生真面目さだ。フランス警察も、オリヴィエ・ラブルダンが演じる担当刑事からして、あからさまに信用しない態度を見せてくる。こうした異国の逆境の中でも、捜査班は地道に捜査を積み重ねていくのだ。

この中国警察の描き方がとっても生真面目で控えめな点は、映画全体にも感じられて、派手なアクションとか見せ場、特にカーアクションはリュック・ベッソン監督のチームを招聘して撮影しただけあって出色の面白さだが、そんな場面でも真っ当に作っている印象を受ける。
これは海外でもきっちり取り締まりをしている中国警察を描いた、たとえば「ノー・モア・ベット: 孤注(2023)」などに近い作りの「主旋律映画」なのだと理解すると納得できる。原題の「猎狐·行动」は下記の通り、習近平政権が2014年に行った「反腐敗」キャンペーンの一環となる国外逃亡犯の摘発作戦の名称そのまんまで、中国の人々ならタイトルだけで映画の内容は理解できるだろう。ちょうど周永康の失脚などと同じ時期のことである。
映画自体は海外が舞台だからプロパガンダ的な雰囲気は薄いとはいえ、例えば段奕宏(ドアン・イーホン)も含めた捜査班の3人のパーソナリティがあまり深く描かれない事も、そうした事と関係しているのかもしれない。
そうして本作の成り立ちを知った上でを見直すと、俳優・梁朝偉(トニー・レオン)がこうした映画にも出演する驚きと、とはいえ悪役だから引き受けたのだろうか、など色々想像するのも面白い。やはり本作は色んな意味で彼なしには成立しない映画だと再確認できた。
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【トピック】
◯ 本作はもともと2021年公開予定として2019年に撮影。2020年からティーザー予告の公開等が始まったが、コロナ禍の真っ只中であった事もあり2021年1月に公開延期を表明。4年後の2025年、清明節の連休に合わせた4月4日に中国で全国公開した。
公開初週の興収ランキングは同日に公開の「マインクラフト/ザ・ムービー(2025)」や、ロングランの超大ヒットアニメ「ナタ 魔童の大暴れ(2025)」、冯小刚(馮小剛、フォン・シャオガン)監督の新作「向阳·花(2025)」、もうすぐ日本公開のろう者が主人公の「愛がきこえる(2025)」に次ぐ5位。その後も4週間に渡って4~5位を維持して安定した集客を続けた。興行収入は8800万元(18.6億円)。
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◯ 日本では2025年10月21日からの東京・中国映画週間と続く名古屋・中国映画週間で上映。さらに12月26日から全国公開予定となっている。
◯ 監督の张立嘉(レオ・チャン)は、もともと地元河北省で劇団員をしていたが後に北京で劇団に所属。そこから音楽活動でも知られるようになり、1990年代には歌手としてヒット曲をリリースするまでになる。その後、2006年にはテレビの企画・制作会社を設立し大ヒット映画「クレイジーストーン(2006)」などに携わり、同時に脚本なども再び手掛けるようになる。2012年に初の監督映画「给野兽献花 (2012) 」を公開。紆余曲折を経て監督2作目にしてジャッキー・チェンが主演の「ポリス・ストーリー/REBORN(2017)」が公開。本作はそれ以来の監督作品となる。

◯ 撮影にはフランスはリュック・ベッソン監督のアクションチーム、韓国からも撮影チームを招聘し、パリ、ノルマンディーなどで撮影したという。
梁朝伟(梁朝偉、トニー・レオン)
◯ 金融詐欺の指名手配犯・戴逸宸(ダイ・イーチェン)。
◯ 言わずとしれた香港映画を代表する名優。「恋する惑星(1994)」、「ブエノスアイレス(1997)」などのウォン・カーウァイ作品群や、侯孝賢監督「悲情城市(1989)」、香港ノワールの代名詞「インファナル・アフェア(2002)」、汪兆銘政権の工作員を演じたヴェネツィア金獅子賞&金馬奨「ラスト、コーション(2007)」と、挙げるべき作品には枚挙にいとまがない。
昨年は郭富城(アーロン・クォック)と共に今作より少し前の時代の汚職警官を演じた「風再起時(2022)」に出演。そして、日中戦争時代のスパイを描いた「無名(2023)」で中国金鶏奨・主演男優賞を受賞し、これによって香港金像奨、台湾金馬奨と併せて3つの中華圏の大賞をすべて受賞した俳優となった。
昨年日本公開の「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件(2023)」が最近作となる。

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段奕宏(ドアン・イーホン)
◯ 中国警察の経済犯罪捜査官であり、チーム「フォックス・ハント」のリーダー・叶钧(イエ・ジュン)。
◯ 1973年生まれ。デビュー間もない1999年のドラマ「刑警本色」で知られるようになり、「记忆的证明(2002)」や映画「二弟(2003)」に出演の他、婁燁(ロウ・イエ)監督の「天安門、恋人たち(2003)」にも出演した。
兵士の成長物語である大ヒット名作ドラマ「士兵突击(2006)」での厳しい上官役、その続編「我的团长我的团(2009)」で一気に知られるように。
そのイメージを踏襲した役柄の良作「烈日灼心(2015)」の後、「迫り来る嵐(2017)」では中国金鶏奨主演男優賞にノミネート。
最近の出演作は「1950 鋼の第7中隊(2021)」と「1950 水門橋決戦(2022)」、「志願軍 ~雄兵出撃~(2023)」、「蛟龙行动 (2025) 」などの戦争映画が多い。今年の正月映画「誤殺3~喪失の連鎖~(2025)」にも出演している。
いつの頃かの「好きな歌手」の質問には、日本人ボサノヴァ歌手の小野リサと答えている。

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夏侯云姗(エリカ・シアホウ)
◯ チーム「フォックス・ハント」のメンバー・郭小佳。
◯ 1988年生まれ。本作監督の张立嘉(レオ・チャン)の初監督作「给野兽献花 (2012) 」に出演したほか、2作目のジャッキー・チェン主演の「ポリス・ストーリー/REBORN(2017)」では出演だけでなく脚本も担当。本作でも脚本も監督と共同で担当している。

张傲月(チャン・アオユエ)
◯ チーム「フォックス・ハント」のメンバー・赵毅。
◯ 1988年生まれで、当初はダンサーとしてコンテポラリーダンスの大会で高評価を得て芸能界入りした。その後「ファイナル・マスター(2015)」で映画デビュー。モントリオール映画祭出品の「刀背藏身 (2017) 」では台湾金馬奨・新人俳優賞にノミネート。「王朝の陰謀 闇の四天王と黄金のドラゴン(2018)」のほか、ドラマでは「東宮(2019)」や「民初八行伝(2020)」、「锦囊妙录 (2025) 」などに出演している。
今年は本作のほかに大ヒットシリーズの最新作「唐探1900(2025)」にも出演している。
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オリヴィエ・ラブルダン
◯ 中国警察チームをサポートするフランス警察のノエル。
◯ 1959年ノルマンディー生まれのフランス人俳優。フランス映画「神々と男たち(2010)」でセザール賞・助演男優賞にノミネートされたほか、「96時間(2008)」、「田園の守り人たち(2017)」、「ブラックボックス:音声分析捜査(2021)」、「ベネデッタ(2021)」、「オークション 〜盗まれたエゴン・シーレ(2023)」など、数多くの映画に出演している。

オルガ・キュリレンコ
◯ 戴逸宸(ダイ・イーチェン)の犯罪を法律面からサポートしている弁護士・エルサ。
◯ 1979年ウクライナ出身のモデル・俳優。なんといっても「007/慰めの報酬(2008)」でのボンドガールが知られているほか、「オブリビオン(2013)」や「その女諜報員 アレックス(2015)」、「ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲(2018)」、「ブラック・ウィドウ(2021)」、「タイラー・レイク 命の奪還2(2022)」、「サンダーボルツ*(2025)」など、スパイ役や兵士役を中心に多くの作品に出演している。

実話の事件
◯ 本作は2014年に習近平主席の元で中国政府が開始した、映画の原題と同じ名称の「猎狐行动(フォックス・ハント=キツネ狩り作戦)」という大規模な汚職犯罪捜査を元にしている。日本では「反腐敗」運動のひとつとして報道されることが多かった。
2013年頃から習近平政権は「虎もハエも一緒に叩く」という言葉などと共に、「反腐敗」キャンペーンを強化。国内での収賄などの汚職を一掃する活動で5万人以上の公務員を摘発。そうした中で2012年の重慶市トップ・薄熙来の逮捕、共産党序列9位の重鎮・周永康の逮捕など、政敵の摘発もこの時期に行われている。
そうした流れの中、2014年1月に国外に逃亡した容疑者の追跡、資産回収の強化を決議。中央規律検査委員会は国際協力局を設置し、2014年7月から「猎狐行动(フォックス・ハント=キツネ狩り作戦)」を正式に開始した。
12月に成果を公表。「国外逃亡した経済犯罪容疑者は前年の2.8倍となる428名を逮捕し、うち事件金額が1000万元以上の容疑者は141名、国外逃亡期間が10年を超える者は32名である。」とした。
だが、一方で対象となった国では「中国内に住む家族に圧力をかけたり、対象者を直接脅迫もしくは誘拐するため工作員を海外に派遣したりしている。」といった、非合法の手段を使っていると非難の声が上がり、2015年頃には相手国による承認がない限り当局者派遣を慎むように変更する事になった。