香港映画レビュー&解説「母性のモンタージュ 虎毒不 Montages of a Modern Motherhood」

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母性のモンタージュ - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

子育ての辛さを描いた作品だが、母親の「追い詰められる感覚」を体感させるために一見「よくある事」をひたすら積み重ねていく。聞いたことのあるエピソードを積み重ねるが、そこからの驚くようなエンディング。リアリティだけで出来たような重い映画。

 

 

虎毒不


www.youtube.com 《虎毒不》MONTAGES OF A MODERN MOTHERHOOD|正式預告|4月24日 獻映



 

【スタッフ & キャスト】

2025年 香港 112分
監督:陳小娟(オリヴァー・チャン)
出演:談善言(ヘドウィグ・タム)盧鎮業(ロー・ジャンイップ)彭杏英(ジャニス・パン)馮素波(アリス・フォン)區嘉雯(パトラ・アウ)

 

 

 

【あらすじ】

パン職人として慎ましくも充実した日々を過ごしてきた淑貞(ジェン)【談善言(ヘドウィグ・タム)】。だが子供が産まれて生活が一変する。体調の悪化、常に睡眠不足、望まぬやり方で子守を手伝う義母【彭杏英(ジャニス・パン)】。夫【盧鎮業(ロー・ジャンイップ)】も愛情は感じるが無理解と彼自身の長時間労働…ついに淑貞(ジェン)は仕事もクビとなり、限界に達する。あれだけ望んでいた子供を持つことに絶望を感じるのであった。

 

 

 

【感想】

子育ての辛さを描いた作品だが、母親の「追い詰められる感覚」を体感させるために一見「よくある事」をひたすら積み重ねていく。聞いたことのあるエピソードを積み重ねるが、そこからの驚くようなエンディング。リアリティだけで出来たような重い映画。

本作はむしろ子育てを経験していない者の方が深く受け取るかもしれないし、経験者であっても共感の度合いには差がありそうな作りで、それによって評価は分かれそうにも感じる。

 

母性のモンタージュ

 

主人公の淑貞(ジェン)は一人目の子供を出産し、子育てが始まって、予想以上に様々な困難が降りかかってくる。監督自身がデビュー作「淪落の人(2018)」発表の後、出産子育てを経験して感じたことから構想が始まったという事で、いろんな形のエピソードが描かれる。家でも仕事場でも搾乳しなければならない手間、義母との育児方法の食い違い、常に睡眠不足…はたまた夫の理解不足や仕事との両立、そして託児所が見つからない問題…ひとつひとつはよく聞く話ではあり、香港でも変わらないのだなと感じる。育児にしろ仕事にしろ、母親への過度な期待とそれを妨げる社会の環境が行く手を阻む。

この映画は、そうしたあるある話をただ並べた=モンタージュしたのではなく、全部足し算していく。何人かの母親のエピソードではなく、すべてが淑貞(ジェン)一人の身に降りかかってくるのだ。もしひとつずつのエピソードだけなら、もしかして何とかなるかもしれないが、まだひとつ目もクリアしていないのに次の困難が乗っかり、更にまた困難が…と一直線に辛さを増していく。疲労した身体にさらに疲労が積み重なり、談善言(ヘドウィグ・タム)がドすっぴんで演じる淑貞(ジェン)の表情はどんどん影を深めていく。そこには生易しい、ドラマ的な緩急ある展開などは無い。

 

母性のモンタージュ

 

とにかく観ていてひたすら辛くなってくる展開だ。夫や義母、実母や託児所、職場、誰も彼女のそばに寄り添ってくれない。いや、本当は寄り添おうとしているのだが、そこに香港の社会事情も絡まってくる。例えば不安定な仕事、例えば託児所の数、移民の問題、そして伝統的な価値観などの、簡単に解決できない問題が見えてきて、彼らの事も単純に悪く思えないようになっている。

そうして解決策もなくどんどん辛くなっていく中で、母親は追い詰められ、限界が近づいていく。気持ちが折れそうになり、視野が狭まっていく。そこで、ああこれは単純に育児の辛さを告発する映画ではないのだ、と気づいた。

 

母性のモンタージュ

 

本作はもう、談善言(ヘドウィグ・タム)の入魂の演技に尽きる。どんどんとやつれていく表情、生気を失っていく眼。彼女を見るのは「香港ファミリー(2022)」以来だが、桁違いの存在感で彼女の代表作になったのは間違いない。

エンディングは予想外で、最初は面食らう。だが、監督はもっとリアリティのある母親像を描きたかったのだと思えば、とても腑に落ちるものだった。タイトルの母性とは、この言葉から連想するシンプルなもの、イメージとしての母親 (それこそが彼女たちを縛るもの) ではなく、より深く、よりリアルで、より本質的な「母性とはなにか」を考えていたように感じられる。見ているうちに「なぜそれでも人は母になりたいと思うのか」と感じた瞬間もあり、それこそが監督のメッセージでもあるように感じた。監督自身は当初、もっとハードな結末を構想していたらしい。そっちがどうなっていたのかがむしろ興味が湧く。

 

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【トピック】

◯ 本作は2024年10月7日に釜山国際映画祭でワールドプレミア。同月10月28日からの東京国際映画祭・ウィメンズ・エンパワーメント部門に出品された後、翌2025年4月24日から香港で一般公開された。
公開初週の興収ランキングは「マインクラフト/ザ・ムービー(2025)」「ザ・コンサルタント2(2025)」などに次ぐ8位。興行収入は214万香港ドル(4270万円)。

2024.tiff-jp.net

 

 

 

◯ 監督の陳小娟(オリヴァー・チャン)は、高齢香港人とフィリピン人ヘルパーの交流を描いた長編初監督「淪落の人(2018)」が香港金像奨で主演男優、新人監督、新人俳優の3冠、5部門ノミネートの快挙を果たす。本作が2作目の監督作となる。

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虎毒不

 

 

◯ 劇中で登場する童話は、「Little Red Hen」というイソップ童話で働き者のニワトリを描いた物語である。日本では谷川俊太郎の訳により「おとなしいめんどり」という邦題で出版されている

 

 

 

談善言(ヘドウィグ・タム)

◯ 淑貞(ジェン)。パン職人として充実していたが、子供が産まれ生活が一変する。

◯ 1990年生まれ。方力申(アレックス・フォン)や余文楽(ショーン・ユー)、蔡卓妍(シャーリーン・チョイ)などを輩出した人気ドラマ、Y2Kシリーズのひとつ「DIY2K(2012)」で人気になる。香港野球チームを描いた「最初の半歩(2016)」で香港金像奨新人賞にノミネート。「小男人週記3之吾家有喜(2017)」「告別之前(2017)」などに出演した後、楊偲泳(レンシ・ヨン)とのLGBT映画「はじめて好きになった人(2021)」で大阪アジアン映画祭ABCテレビ賞を受賞した。陳茂賢(アンセルム・チャン)監督のラブコメディ「不日成婚(2021)」とその続編「不日成婚2(2023)」、鄭秀文(サミー・チェン)主演の「流水落花(2022)」やMIRROR呂爵安(イーダン・ルイ)らが出演した家族崩壊の物語「香港ファミリー(2022)」、今年4月公開の主演作「搗破法蘭克(2025)」などに出演している。

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盧鎮業(ロー・ジャンイップ)

◯ 淑貞(ジェン)の夫・偉。配達員の仕事は長時間労働の上薄給だったが、昇進して喜ぶ。

◯ 本作で香港金像奨・助演男優賞にノミネートされた。
大学卒業後に自主映画の制作を始める他、俳優業も開始。「ソク・ソク(2019)」出演後、「私のプリンスエドワード(2019)」「花椒の味(2019)」などに出演し、傑作「年少日記(2023)」で主演した。

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彭杏英(ジャニス・パン)

◯ 同居する義母だが、ソリが悪くいちいち気に障る存在。

◯ 香港最大で最も歴史のある香港話劇團の俳優であり、デビュー以来舞台で活躍してきた。中国映画「小伟 (2019) 」に出演している他、謝君豪(ツェー・クアンホウ)、呂爵安(イーダン・ルイ)主演のドラマ「光明大押(2025)」などに出演している。

虎毒不

 

 

馮素波(アリス・フォン)

◯ 保育施設を運営する女性。息子はカナダに移住している。

◯ 馮素波(アリス・フォン)は映画監督の父、兄弟にカンフー映画の名脇役・馮克安(フォン・ハックオン)や女優・馮寶寶(フォン・ボーボー)がいるなど、芸能一家に生まれた。
1960年代に広東映画の若手女優「七公主」の一人として大人気になる。ドラマ「壹號皇庭(1992)」「情濃大地(1994)」「神鵰俠侶(1995)」「笑傲江湖(1996)」など無数の映画・ドラマに出演している大女優。「香港ファミリー(2022)」

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區嘉雯(パトラ・アウ)

◯ 淑貞(ジェン)の実母。優しい母だが、既に兄夫婦の子どもたちの世話で手一杯になっている。

◯ 本作で香港金像奨・助演女優賞を受賞した。
英文教師をしながら舞台劇に出演しており、数多くの賞を受賞した。「ソク・ソク(2019)」の後も大ヒットとなった「正義迴廊(2022)」「星くずの片隅で(2022)」「白日青春-生きてこそ-(2022)」「全世界どこでも電話(2023)」と、続々と話題作への出演が続いている。
本作の楊曜愷(レイ・ヨン)監督の次作「これからの私たち - All Shall Be Well 從今以後(2024)」では主演を務めた。

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