【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
突然自分の子供を育てることになった元ボクサーが、再びボクシングで自らの再起を図るという、一見よく聞くストーリーだがとっても丁寧にバランスよく作られ、王道のボクシング映画としてきちんと仕上がった良作。
張繼聰(ルイス・チョン)の驚異的にビルドアップした肉体に魅力的な脇役陣、中でも曾志偉(エリック・ツァン)&林雪(ラム・シュー)のベテランによる強力なサポートで高いクオリティに仕上がっていた。

www.youtube.com 電影《金童》正式預告 11日21日 破繭重生 "Golden Boy" in cinemas 21Nov 2025
【スタッフ & キャスト】
2025年 香港 92分 IMDb評価:6.2/10
監督:陳維冠(ジョー・チャン)
出演:張繼聰(ルイス・チョン)、劉皓嵐(リアンダー・ラウ)、曾志偉(エリック・ツァン)、韋羅莎(ロサ・マリア・ヴェラスコ)、林雪(ラム・シュー)、朱栢康(チュー・パクホン)
【あらすじ】
10年前のボクシング界で張力【張繼聰(ルイス・チョン)】は、数々の賞を獲得した天才ボクサー「金童」であったが、殴打事件で人を死なせてしまい服役することになった。
10年後、34歳となった張力が刑期を終えて出所すると、突然見知らぬ女性【韋羅莎(ロサ・マリア・ヴェラスコ)】が来て幼い子供・方圓【劉皓嵐(リアンダー・ラウ)】を押しつけようとする。なんと、張力が昔一瞬だけ付き合った女性との子供だという。
最初は嫌がっていた張力だが、次第に気持ちが変わっていき、ボクシングに対しても再び向き合おうとするのであった。
【感想】
突然自分の子供を育てることになった元ボクサーが、再びボクシングで自らの再起を図るという、一見よく聞くストーリーだがとっても丁寧にバランスよく作られ、王道のボクシング映画としてきちんと仕上がった良作。
張繼聰(ルイス・チョン)の驚異的にビルドアップした肉体に魅力的な脇役陣、中でも曾志偉(エリック・ツァン)&林雪(ラム・シュー)のベテランによる強力なサポートで高いクオリティに仕上がっていた。
ストーリーはあらすじの通り、ロッキーから連綿と続くボクシング映画の王道みたいなもので、その意味で観客も安心して見ていられる。その分盛り上がりまでの道のりを丁寧に丁寧に、笑いもあり、しんみりともさせながら展開させて、まったく退屈せず楽しめる。筆者は公開2週目の金曜夜に尖沙咀iSQUAREで見れたのだが、妙齢の男女が多数の観客で賑わい、笑いも頻繁に起きる、とっても楽しい回だった。

*公開延期がむしろ良い結果に
実は本作もまた撮影から公開までに6年もかかった難産の映画だ。またというのは、2025年は本作以外にも「風林火山(2025)」や「尋秦記(2025)」、「内幕(2025)」など、公開までに長期間かかった作品が多く公開された年だからで、筆者も「風林火山」と「阿龍(2025)」を見て、両作共にその影響は確かに感じられた。だが本作だけは、延期による悪影響よりむしろ更に良くなった気さえするという驚きの作品だ。
実際興行収入も好調で、ひょっとすると監督や張繼聰(ルイス・チョン)の予想よりも良いのかもしれない。
何よりも張繼聰(ルイス・チョン)の役作りとこの映画そのものへの熱意がすごく伝わってくる。試合のシーンでの身体の仕上がり具合は本当に驚異的で、特に肩回りの筋肉の盛り上がりといい、パンプアップされた腹筋といい、レベルの違う肉体になっていて驚いた。まさに10年前に「金童」と言われた才能ある元ボクサーという主人公の設定に相応しい姿だ。
ルイス・チョンは、本作の企画から関わり、延期となった時も自ら制作費を立て替えて完成にこぎ着けたという。脚本にも関わっており、彼の今までの出演作「星くずの片隅で(2022)」や「6人の食卓 飯戲攻心(2022)」での軽いノリのキャラがぴったりハマっている。

*魅力的な脇役陣
周囲の人物たちも魅力的で、李佳芯(アリ・リー)の映画初出演など、監督のTVBテレビ人脈が活用されている印象だ。特に秀才の息子を演じた劉皓嵐(リアンダー・ラウ)はとっても演技が上手いだけじゃなく描かれ方も良かった。頭が良いことを褒めすぎもせず茶化しもしないで、個性のひとつとして描いていて、かなり現在進行形にアップデートがされていた。そして友人でありインド人家族と同居している男、Dough-Boy演じる佐治も、いいスパイスだ。
なにより光っていたのは、曾志偉(エリック・ツァン)と林雪(ラム・シュー)というベテラン2人。彼らのいるだけで華やぐ存在感と、出すぎず抑えすぎずの絶妙にチューニングされた演技。彼らがいるからこそストーリーが引き締まっていた。
香港映画でボクシングを描いたものとして頭をよぎるのは、林超賢(ダンテ・ラム)監督で張家輝(ニック・チョン)&彭于晏(エディ・ポン)の「激戦 ハート・オブ・ファイト(2013)」で、正確にはMMA総合格闘技だが、出来も良くてとても印象深い。ストーリーも一見よく似ているが、本作以上に切実で深い話で、観た後の余韻はより一層切ない。むしろ中国映画だがボクシングに挑戦する女性を描いた「YOLO 百元の恋(2024)」の方が、より自分自身と向き合うストーリーとして似たものを感じた。

ファミリーで見ても楽しめる間口の広さもあるが、公開延期の間にやり直したという編集のテンポがすごく良くて、92分と短めの尺もあって万人が気軽に満足できる高いクオリティに仕上がっていた。できれば公開、せめて配信だけでも是非日本で見れるようにして欲しい良作だ。
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【トピック】
◯ 本作は2019年に撮影されたが、その後出資した制作会社が倒産するなどの理由で公開が延期。企画から関わっていた主演の張繼聰(ルイス・チョン)が制作費数十万香港ドル(数百万円)を立て替え、更なる編集などのブラッシュアップを経て、6年後となる2025年11月21日に香港で公開された。
公開初週の興収ランキングは「ウィキッド 永遠の約束(2025)」、「グランド・イリュージョン/ダイヤモンド・ミッション(2025)」に次ぐ3位。翌週からは2位に上昇し麥兆輝(アラン・マック)監督「内幕(2025)」と争った。興行収入は12月28日に1000万香港ドル(2億円)を突破しヒット作となったが2026年1月16日現在もまだ上映が続いている。
◯ 監督の陳維冠(ジョー・チャン)はテレビ局無綫電視(TVB)のプロデューサー兼ドラマ制作部長。1960年生まれで、当初は俳優として亞洲電視(ATV)に所属したが後にTVBに移籍。2010年代からプロデューサーとして数々のドラマを制作。「恋するパイロット2(衝上雲霄II、2013)」や曾志偉(エリック・ツァン)と共同プロデュースした「女人俱樂部(2014)」、「誇世代(2017)」、「七公主(2021)」などの数多くの大型ドラマで賞を受賞している。
本作の企画は2017年のドラマ撮影時(おそらく「誇世代」)に張繼聰(ルイス・チョン)と話している内に進んでいったという。

張繼聰(ルイス・チョン)
◯ 実力派ボクサーだったが事件により10年間服役していた男・張力。
◯ 子役から俳優のキャリアを始め、数多くの作品に出演している、今や香港映画で最も売れっ子のひとり。また歌手としても広く知られている。
「イップ・マン 継承(2015)」などから、
「L風暴(2018)」や「P風暴(2019)」などの風暴シリーズ、
「逃獄兄弟(2020)」からの投獄兄弟シリーズ、
大ヒット作「6人の食卓 飯戲攻心(2022)」とその続編「飯戲攻心2(2024)」、
郭富城(アーロン・クォック)&梁朝偉(トニー・レオン)がW主演の「風再起時 (2023)」やMIRROR3人主演で日本が舞台のクライムエンタメ作「盗月者 トウゲツシャ(2024)」や「祥賭必贏(2025)」などに出演している。
コロナ禍の人々を描いた「星くずの片隅で(2022)」では台湾金馬奨&香港金像奨の主演男優賞にノミネートされた。

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劉皓嵐(リアンダー・ラウ)
◯ 張力の子であった方圓。秀才で文才があり、既に著書が大人気の作家でもある。
◯ 2008年生まれで撮影時は11歳だったが、現在は既に17歳。子役として活動しながらストリートダンスにも打ち込み、2019年にはダンスチームジュニア部門の香港代表として世界大会へ出場した。そこからダンスを描いた映画「狂舞派3(2021)」にも出演している。
試當真が主催したオーディション番組「校花校草2022」に出場、校草第2位に選ばれる人気を得た。

曾志偉(エリック・ツァン)
◯ 張力のトレーナーとなる周耀山。
◯ 1980年代以降の数多くの香港映画で、出演だけでなく監督・プロデュース・司会・経営など多方面で関わり続けてきた香港エンタメ界の重鎮だ。
父親は呂樂(リー・ロック)の部下として廉政公署に汚職で摘発された警察官で、後に台湾に逃亡。曾志偉(エリック・ツァン)自身はプロサッカー選手からショウ・ブラザーズのスタントマンに転身して映画界のキャリアを始め「少林寺怒りの鉄拳(1977)」などに出演。脚本・監督業も始め、監督した「悪漢探偵(1982)」が大ヒットしてコメディ監督として知られるようになり、コメディ俳優としても「五福星(1983)」シリーズや「男たちのバッカ野郎(1987)」などに数多く出演。「最後勝利(1987)」などでのコメディ以外の演技でも高い評価を得て、「雙城故事(1991)」と名作「ラヴソング(1996)」で香港金像奨を受賞、「ホールド・ユー・タイト(1997)」で台湾金馬奨を受賞した。
この頃から映画会社を設立しプロデューサーとしての活動が本格化。上記「ラヴソング(1996)」や「君さえいれば/金枝玉葉(1994)」の陳可辛(ピーター・チャン)監督作や陳慧琳(ケリー・チャン)&金城武主演「世界の涯てに(1996)」などを制作。またテレビ局TVB(無線電視)では経営陣として多大な功績をあげ、司会者としては人気番組だけでなく香港金像奨やミス・香港コンテストなどもよく知られるなど、多方面で活躍している。
香港映画のスタントマンについての名ドキュメンタリー「カンフースタントマン 龍虎武師(2021)」でも当時の事を語っている。

韋羅莎(ロサ・マリア・ヴェラスコ)
◯ 亡くなった方圓の母・方靈の友人である法律事務(パラリーガル)の楊鐵芯(Queenie、画像左)。
◯ スペイン系アメリカ人の父と台湾人の母との間に台湾で生まれる。その後香港で育ち、俳優となってからは舞台劇を中心に活動。
映画では「暗色天堂(2016)」や「77回、彼氏をゆるす(2017)」、「ランアウェイ 香港脱出(2017)」、「アニタ 梅艷芳(2021)」、「全世界どこでも電話(2023)」、「年少日記(2023)」、「談判專家(2024)」などに出演。陳茂賢(アンセルム・チャン)監督「不日成婚2(2023)」と大ヒット作「ラスト・ダンス(2025)」にも出演している。

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林雪(ラム・シュー)
◯ ジムのオーナー・林逢春
◯ 杜琪峯(ジョニー・トー)監督作品を中心に数多くの香港映画で名脇役として出演している。1964年天津生まれで15歳で香港に渡り、エキストラ俳優からキャリアを開始。杜琪峯(ジョニー・トー)監督の目に留まり「ロンゲストナイト(1997)」や「デッドポイント(1998)」に出演。「カンフーハッスル(2004)」、「エレクション 死の報復(2006)」、「エグザイル/絆(2006)」、「MAD探偵 7人の容疑者(2007)」、「スリ(2008)」、「ドラッグ・ウォー 毒戦(2012)」などなど、無数の作品に出演している。
「ザ・ミッション 非情の掟(1999)」で台湾金馬奨ノミネート、「PTU(2003)」、「ミッドナイト・アフター(2014)」、「荒らし(2015)」、「大樹は風を招く(2016)」、「如珠如寶(2019)」、「黄昏をぶっ殺せ(2021)」などで高く評価されており、香港映画には欠かせない存在だ。
日本公開中の「長安のライチ(2025)」にも出演している。

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朱栢康(チュー・パクホン)
◯ ジムでの成長株のボクサー・Cyrus。
◯ 最近の香港映画では彼の姿を見ない作品は無いほど、無数の映画に出演している名脇役だ。
そもそもは、弟である朱栢謙(ジュー・パクヒム)とのバンドでの音楽活動で知られるようになったが、「私のプリンスエドワード(2019)」でのクズな男役で知られるようになり、「香港の流れ者たち(2021)」、「星くずの片隅で(2022)」、「白日の下(2023)」、「離れていても(2023)」、「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024)」、「祥賭必贏(2025)」と、続々と話題作に出演を続けている。
「作詞家志望(2023)」で台湾金馬奨、香港金像奨でそれぞれ助演男優賞にノミネート。そして大ヒット作「ラスト・ダンス(2024)」での素晴らしい演技で香港金像奨・助演男優賞を受賞。これからより一層の活躍が期待される俳優だ。
◯ 弟・朱栢謙(ジュー・パクヒム)も「白日青春(2022)」、「正義迴廊(2022)」、「星くずの片隅で(2022)」、「白日の下(2023)」などなど、出演作が増加中。

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その他の出演者
◯ 張力の友人で出所後の彼を住まわせてくれる佐治を演じたのは、ラッパー・プロデューサーであるDough-Boy(画像左)。
香港と台湾を基盤にしたヒップホップクルーBakery Crewのリーダーで、数多くのヒット曲を持ち映画「The Way We Dance -狂舞派-(2013)」の主題歌で香港金像奨・主題歌賞も受賞している。
また楽曲提供では台湾のクルー・兄弟本色の大ヒット曲「FLY OUT(2016)」など多数。アメリカLil Yachtyや台湾の熱狗 MC HotDog、中国のHigher Brothers、香港ではMC Jin、側田(ジャスティン・ロー)、鄭秀文(サミー・チェン)など錚々たるメンバーとのコラボレーション歴もある

www.youtube.com 【JP SUB】兄弟本色 G.U.T.S【FLY OUT】Official Music Video
◯ 周耀山の娘ながら、父に反発しているCarrieを演じたのは李靖筠(グラディス・リー)。
1993年生まれで香港中文大学在学中からモデルとして活動。英皇娯楽に歌手として契約し、作品リリースの他、音楽番組の司会でも活躍している。映画には本作以外にも「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件(2023)」や「內幕(2025)」などにも出演している。
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◯ 方圓の亡き母・方靈を演じたのは李佳芯(アリ・リー)。
1982年生まれでモデルとして香港マクドナルドなどのCMに出演後、有線電視と契約してデビュー。2012年に現在の芸名に改名と同時に無綫電視TVBと契約。以来、「巨輪II(2016)」や「律政強人(2016)」、「BB來了(2018)」、「白色強人(2019)」、「智能愛人(2021)」など数多くの主演ドラマで高い視聴率と評価を得て、TVBを代表する看板女優となった。2024年にTVBとの契約を満了しフリーで活動している。映画は本作がほぼ初出演作となる。

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