縁路はるばる - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
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www.youtube.com 映画『私のプリンス・エドワード』『縁路はるばる』予告編
【スタッフ & キャスト】
2022年 香港 95分
監督:黃浩然(アモス・ウィー)
出演:岑珈其(カーキ・サム/シャム)、蘇麗珊(シシリア・ソー)、張紋嘉(クリスタル・チョン)、梁雍婷(レイチェル・リョン)、陳漢娜(ハンナ・チャン)、余香凝(ジェニファー・ユー)
【ストーリー】
28歳のITオタク・ハウ【岑珈其(カーキ・サム/シャム)】は平凡だが温厚な内向的な性格。ある日突然、それぞれ個性の異なる5人の魅力的な女性と知り合うチャンスを得る。しかし5人の女性たちはみんな、「都会から離れた僻地に住んでいる」いう一風変わった共通点があった。ハウは彼女たちに会うために、香港中を旅することになる・・・
【感想】
良い意味で軽く見れるのだが、香港らしさが細かいところまで詰まっていて、今の新しい香港映画の潮流を最も体現していると言える、とても面白い映画だった。
ストーリー自体はシンプルだし描き方も穏やかで、流して見れば退屈と思われるかもしれない。だが細かなディテールを丁寧に積み重ねたエンタメ作品に仕上げてあって、いつまでも余韻が残る。
この映画の魅力は、なんといっても彼が向かう場所だ。5人の女性の住むところに向かうのだが、沙頭角や、流浮山、大澳などと、どこも日本人が思いそうな"香港"らしさからかけ離れた、驚くほどの僻地。どこまで行くの〜と思わせる、船で行く田舎の漁村であったり、ハイキングの果てにようやくたどり着く山村であったり、とにかく香港映画を見ているとは思えない風景がたくさん出てくる。
かといってその地をじっくり描くのではなく、それこそ日帰りで行く観光みたいなノリで描いている。実は僻地とはいえ香港の中なので日帰りは可能なのだ。毎回えっちらおっちらと出かけて行き、不思議な場所で初対面の女性とぎこちなく話し、夜にはもういつもの"香港"、いつもの自分に戻っている。この軽い感じが面白い。
トレンディというのでもなく、もっと自然なノリがいい。主人公の垢抜けない穏やかなキャラも、友人との3人のやり取りも、それぞれの女性との別れ方もすべて自然だし嫌味がなくて見やすい。音楽も、挿入歌の顏培珊「早晨」のようにシティポップ風味の選曲が良かった。
「流水落花(2022)」や「6人の食卓(2022)」、「香港ファミリー(2022)」、少し前だと「淪落の人(2018)」など(多くは首部劇情電影計画*1によるものが多い)、カンフーもあの街並みもド派手な爆発もハイテンポなやり取りもない、こういう香港映画は去年あたりからより一層目立つようになってきた。でも決してアート映画であったり重いテーマを胸元に突きつけるだけの骨太な映画ではない。本作の様に軽やかでエンタメで、でも香港だからこそ描ける事を描くそういう映画が面白い。
今作は正にそういう新しい流れの王道をいく作りで、質も高くて、香港の人々の評価が高かったのも納得だ。
香港映画レビュー「流水落花 Lost Love」 - daily diary
香港映画レビュー「6人の食卓 飯戲攻心 Table For Six」 - daily diary
香港映画レビュー「香港ファミリー 過時·過節 Hong Kong Family」 - daily diary
香港映画レビュー「淪落の人 みじめな人 淪落人 Still Human」 - daily diary
【トピック】
◯ 2021年11月14日に香港アジア映画祭でのクロージング作品としてワールドプレミア。2022年8月4日に香港で一般公開。
MIRRORのメンバーが出演する「ママの出来事(2022)」や大ヒット作「未来戦記(2022)」などが同時期に公開の中、公開2週目には興収ランキングで4位、3週目には2位にまで食い込んだ。興行収入は1070万香港ドル(2.0億円)に達した。
◯ 日本では、香港での一般公開より先に大阪アジアン映画祭にて2022年3月10日から公開。その後、同年5月19日からの新世代香港映画特集でも上映された。
◯ 発売されたBlu-ray盤には限定版として人気のプロジェクト奶茶通俗學 Milktealogyとのコラボパッケージが発売された。
これは主人公・邱志厚(ハウ)の開発したアプリ名「外賣仔 Takeaway Boy」が奶茶通俗學の人気キャラを引用していたところからの繋がりだ。
ちなみに「外賣仔=出前人」といえば周星馳(チャウ・シンチー)監督「最強の出前人(1994)」も連想される。
◯ 監督の黃浩然(アモス・ウィー)は、2000年ころから香港電台の元でドキュメンタリーや短編を制作していたが、初監督作「点対点(2014)」が香港金像奨新人監督賞にノミネート。本作にも出演の蘇麗珊(シシリア・ソー)が主演した第二作「逆向誘拐(2018)」を経て本作を監督。昨年最新作の「全世界どこでも電話(2023)」が公開された。
岑珈其(カーキ・サム/シャム)
◯ IT関連企業に勤務していてスマホアプリを開発している邱志厚(ハウ)。香港東部のニュータウン、将軍澳に住んでいる。
◯ 岑珈其(カーキ・サム/シャム)は俳優で歌手。子供の頃に見た劉德華(アンディ・ラウ)の「フル・スロットル/烈火戦車(1995)」を見て俳優になる事を決意。17歳で映画出演を果たし、その後も香港電台を中心に数多くのドラマに出演した。
さらに演劇の機会をもっと作るために4人の演劇ユニット・Playtimeを作るなどの活動をしていたが、香港野球チームを描いた「最初の半歩(2016)」や、陳詠燊(サニー・チャン)監督のヒット作「逆流大叔(2018)」に出演、ViuTVのヒットドラマ「IT狗(2022)」では本作に友情出演の陳湛文(チャン・チャームマン)と共演している。
日本では今作と一緒に公開された「私のプリンス・エドワード(2019)」や、今作と興収ランキングを争った「ママの出来事(2022)」、そしてこの年末に公開された梁朝偉(トニー・レオン)&劉德華(アンディ・ラウ)主演の「金手指(2023)」と、多くの人気作に出演している。
蘇麗珊(シシリア・ソー)
◯ 邱志厚(ハウ)の同僚、A Lee(エイリー)。香港北東部、深圳との境にある沙頭角に住んでいる(この地域は許可証を所有しないと入れない禁区が設定されている)。
『禁区・沙頭角に入る(1)』香港(香港)の旅行記・ブログ by 香港大好きさん【フォートラベル】
◯ 蘇麗珊(シシリア・ソー)は1992年生まれで2011年頃からモデルとしてオリンパス・ネスレ・ポカリスエットなどのCMに出演。その後演技の世界にも進出し、初出演の楊千嬅(ミリアム・ヨン)主演「私たちが飛べる日(2015)」で台湾金馬奨・香港金像奨で新人賞にノミネートされる。
新型コロナが始まる直前の2019年からアメリカに演技のために留学。主な出演作は主演作「逆向誘拐(2018)」や「棟篤特工(2018)」などがある。
香港「禁区」開放、中国と自由に行き来 「昔の田舎町」オーバーツーリズムに懸念(共同通信) - Yahoo!ニュース
張紋嘉(クリスタル・チョン)
◯ 友人のいとこ、戴花花(ファファ)は幼稚園の教師をしている。北部元朗の更に奥にある漁師町、美しい夕日で知られる流浮山に住んでいる。
『香港★元朗へ行こう1 牡蠣の養殖で有名な流浮山 ~歓樂海鮮酒家~』香港(香港)の旅行記・ブログ by 熱帯魚さん【フォートラベル】
◯ 張紋嘉(クリスタル・チョン)は3人組音楽グループ「HotCha」の元メンバー。グループ在籍時から俳優活動もしていたが、解散後もソロで歌手・俳優として活動していて、上の蘇麗珊(シシリア・ソー)が主演した「逆向誘拐(2018)」の挿入歌も歌っている。主な出演作は映画「点対点(2014)」や、香港版おっさんずラブ「大叔的愛(2021)」など。
梁雍婷(レイチェル・リョン)
◯ Mena(ミーナ)は資産運用で生活している。香港国際空港の更に西、大嶼山(ランタオ島)西部の漁村、大澳(タイオー)に住んでいる。
大澳は「いますぐ抱きしめたい(1988)」や「宵闇真珠(2017)」の舞台でもある。
[香港]ランタオ島にある大澳(タイオー)は、人々が棚屋で生活するのどかな漁村。100年以上続く伝統的儀式を継承する村だった。
◯ 梁雍婷(レイチェル・リョン)は「どこか霧の向こう(2017)」での猟奇的な少女を演じて香港金像奨新人賞ノミネート。
名匠陳木勝(ベニー・チャン)の遺作アクション「レイジング・ファイア(2021)」などにも出演しているが、特に本作以降の最近は「流水落花(2022)」、「燈火(ネオン)は消えず(2022)」、「白日の下(2023)」、「年少日記(2023)」と立て続けに香港新世代の映画に出ていて、今後が注目の俳優だ。
香港映画レビュー「レイジング・ファイア 怒火 Raging Fire」 - daily diary
陳漢娜(ハンナ・チャン)
◯ 邱志厚(ハウ)の中学時代のマドンナ、Lisa(リサ)。現在は芸術村で美術家をしていて、深圳との境近くの沙頭角から更に山奥、文化保存地区である荔枝窩(ライチーウォー)に住んでいる。
『2022年5月:香港で秘境気分を味わえる?荔枝窩とその周辺の村巡り[香港:荔枝窩-蛤塘-梅子林]』香港(香港)の旅行記・ブログ by エッグタルトさん【フォートラベル】
◯ 陳漢娜(ハンナ・チャン)はモデルで女優だが硬派な作品にも出演しており、デビュー作の「SPL 狼たちの処刑台(2017)」で金像獎最優秀新人賞を受賞したほか、「G殺(2018)」、「逃獄兄弟(2020)」などに出演。また下記の余香凝(ジェニファー・ユー)と同じく「四十四にして死屍死す(2023)」にも出演している。
香港映画レビュー「四十四にして死屍死す 死屍死時四十四 Over My Dead Body」 - daily diary
余香凝(ジェニファー・ユー)
◯ 大学の同期、Melanie(メラニー)も大嶼山(ランタオ島)の更に不便になる南側、澄碧村に住んでいる。
◯ 本作で台湾金馬奨や香港金像獎で助演女優賞にノミネートされた。
廖子妤(フィッシュ・リュウ)と共演した「姉妹関係(2016)」で香港金像獎新人賞ノミネート。また上記の陳漢娜(ハンナ・チャン)と同じく「四十四にして死屍死す(2023)」にも出演している。
香港映画レビュー「四十四にして死屍死す 死屍死時四十四 Over My Dead Body」 - daily diary
黃溢濠(ウォン・ヤッホー)
◯ 高校時代の友人で「茶果嶺三劍俠=茶果嶺三銃士」のひとり、羅子榮。九龍・觀塘地区にある村、茶果嶺に住む。
『中秋節絡めて香港♪ マジレトロ、時が止まった榮華冰室と茶果嶺散歩』香港(香港)の旅行記・ブログ by すーさん【フォートラベル】
◯ 黃溢濠(ウォン・ヤッホー)は岑珈其(カーキ・サム)が作った4人の演劇ユニット・Playtimeのメンバーでもある。14歳の時に映画「圍城(2008)」に出演。いくつかのドラマに出演する他、陳奕迅(イーソン・チャン)の「是但求其愛(2020)」や林家謙(テレンス・ラム)「下一位前度(2019)」などのMVに出演している。
映画「星くずの片隅で(2022)」にも出演している。
香港映画レビュー「星くずの片隅で 窄路微塵(きょうろみじん)The Narrow Road」 - daily diary
柯煒林 ( ウィル・オー )
◯ 高校時代の友人「茶果嶺三劍俠=茶果嶺三銃士」のもうひとり、黄大同
◯ 柯煒林(ウィル・オー) は今作主演の岑珈其(カーキ・サム/シャム)と共演した、香港野球チームを描いた「最初の半歩(2016)」で知られるようになった。映画では周潤發(チョウ・ユンファ)主演「別叫我「賭神」(2023)」、梁朝偉(トニー・レオン)&劉德華(アンディ・ラウ)主演の「金手指(2023)」、ViuTVドラマ「三一如三(2016)」、「二月廿九(2020)」などに出演している。
◯ 「6人の食卓(2022)」などで知られる陳湛文(チャン・チャームマン)が上司役で友情出演している。
香港映画レビュー「6人の食卓 飯戲攻心 Table For Six」 - daily diary
香港映画レビュー「飯戲攻心2 Table For Six 2」 - daily diary