香港映画レビュー&解説「6人の食卓 飯戲攻心 Table For Six」

飯戲攻心 Table For Six

6人の食卓 - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

香港映画史上歴代2位の実績もあるが、ドタバタなコメディの下に深い人情が溢れるウェルメイドで最高の映画。愛しい6人が繰り出す香港ネタ満載の会話に魅了されてじんわりと沁みるエンディングの素晴らしい作品。

 

 

飯戲攻心 6人の食卓飯戲攻心 6人の食卓


www.youtube.com 【電影預告】《飯戲攻心》新春賀歲 齊人開餐

 

 

 

【スタッフ & キャスト】

2022年 香港 118/124分
監督:陳詠燊(サニー・チャン)
主演:黃子華(ダヨ・ウォン)鄧麗欣(ステフィー・タン)張繼聰(ルイス・チョン)王菀之(イヴァナ・ウォン)林明禎(リン・ミンチェン)陳湛文(ピーター・チャン、チャン・チャームマン)

 

 

【あらすじ】

スティーブ【黃子華(ダヨ・ウォン)】、ベルナルド【張繼聰(ルイス・チョン)】、ルン【陳湛文(ピーター・チャン、チャン・チャームマン)】の三兄弟は、日々ささいなことで口喧嘩しながらも、亡き両親から受け継いだ家でにぎやかに暮らしている。
ある日、次男ベルナルドが恋人モニカ【鄧麗欣(ステフィー・タン)】を自宅に招くが、彼女は長男スティーブの元カノだった。三兄弟とそれぞれのガールフレンド、6人で囲む食卓は楽しい宴となるだろうか!? 

香港映画祭2022 Making Wavesより

 

 

 

【感想】

にぎやかで楽しく、かと思えばしんみりともさせてくれて、"あの6人"の事をいつまでも思い返したくなる。ロマンチックで温かい、とっても素敵な人情の映画であった。

正直に言えば、香港と広東語に通じた方でないと初見では面白いポイントが良くわからないかもしれない。香港人なら笑える要素、広東語ならではのジョークがたくさん詰め込まれた会話劇だし、ほとんどのストーリーがメインの6人のみによって展開していくので、香港好きであればあるほど楽しめる映画といえるだろう。
筆者は公開当時に見ることが叶わず、今回ちょうど続編となる「飯戲攻心2」が公開されたタイミングで、しかも広東語/英語字幕でようやく見れたのだが、最初は本作をいきなり見ても全然理解が追いつかず、どう見ても笑いどころがあるのにわからないまま見ていく事となった。

でも、あらためてDVDを入手してゆっくり見返すと、なるほどこれはとっても沁みる素敵な映画なのだと、俄然好きになってしまった。今でもわかっていない部分は多々残っているだろうから、爆笑といった事にはならない。でも、あの素敵な雰囲気、会話のテンポ感、そして6人それぞれの皆愛くるしいキャラクターを見ているだけでも、気持ちがじんわりと温まってくるのである。

 

飯戲攻心 6人の食卓

 

なんといっても長兄・スティーブ【黃子華(ダヨ・ウォン)】の、長男らしい責任感と配慮から来るナイーブな愛情がにじみ出るキャラが印象深いのだが、他の5人も皆それぞれに奥行きのある描写が軽やかに描かれていて、本当は一人ずつ書いていきたい位に愛おしい。
芸達者が揃った6人の俳優陣でも、阿Meow役の林明禎(リン・ミンチェン)の役回りと演技が印象的だった。彼女だけがやや"外人"的な視点なのもあって、ちょっと不憫な展開になってしまう。その一方ですごい演技力と存在感を発揮していて、次回作での活躍も納得の実力を見せていた。この二人がベランダでようやくお互いの思いを吐露しあう場面での、林明禎(リン・ミンチェン)の何重にも感情がこみ上げてくる表現は、驚きつつも泣けてしまうのだった。

演出も素敵だ。オープニングからジャズがかかり、三兄弟の家の装飾もアメリカンでもあり今っぽいポップさもあり、雑多な様で統一された今っぽいトレンディさ。いろんなところに日本要素もたくさん登場し、三男・ルンのTシャツ、日本語、草間彌生、キムタク、ドラえもんなどなど、探してみるのも面白い。
また、ジョゼフィーヌが作る料理も興味深い。火鍋、豚足などの中華系だけでなく、最後には白菜と豚バラのミルフィーユ鍋も登場していた。

 

飯戲攻心 6人の食卓

 

ストーリーは奇をてらわずシンプルで、ウェルメイドといってもいい。元カノとまさかの弟の彼女として再会する長兄の気まずさの話と、弟たちに対して「家族はやっぱり一緒が一番なんだ!」という長兄のある種の対立の話で、話がこんがらかるような事は無い。アップテンポのドタバタの後はしんみりしたやり取りのシーソーのリズムが、これまた香港映画らしくて気持ちよい。

香港を知れば知るほどこの映画の良さもわかる、そういう意味ではハイコンテクストだが、だからこそ「これこそ本物の香港映画」と香港人に言わしめるだけの作品で、香港映画史上歴代2位という驚異の興行収入を記録したのであろう。筆者は香港の人々とは別の楽しみ方をしたのかもしれないが、それでもとっても素敵で香港らしい、素晴らしい映画であった。

 

香港映画レビュー「飯戲攻心2 Table For Six 2」 - daily diary

 



【トピック】

◯ 当初は2022年2月1日の春節に合わせた公開を予定していたが、新型コロナの影響により延期となり、まずは2022年4月22日からのイタリア・ウーディネ極東映画祭でワールドプレミア。

Table For Six: Far East Film Festival


予定より半年後の中秋節に合わせた2022年9月7日から香港で一般公開。公開初週より大ヒットとなり、実に6週連続で興収ランキング1位をキープ。
同年の年間興収第1位の作品となった上、同時期に同じく大ヒットした古天樂(ルイス・クー)&劉青雲(ラウ・チンワン)主演の「未来戦記(2022)」に次ぐ7700万香港ドル(14.7億円)となり、香港映画史上歴代2位の興行収入を記録するモンスターヒット作品となった。

 

 

◯ 日本では2022年11月9日からの香港映画際2022にて公開された。

makingwaves.oaff.jp

 

 

◯ 本作は香港金像奨で王菀之(イヴァナ・ウォン)が助演女優賞を受賞、9部門ノミネートとなった。

 

◯ 中国版は、劇中でかかる張學友(ジャッキー・チュン)のにちなんだ「還是覺得你最好」と改題され、2022年9月9日に公開された。


www.youtube.com 【《飯戲攻心》電影宣傳曲《還是覺得你最好》】9月7日 今個中秋 齊人開飯

 

 

◯ 続編である「飯戲攻心2」が春節に合わせて2024年2月9日に公開された。

www.teppayalfa.com

 

 

◯ 監督の陳詠燊(サニー・チャン)は、当初は脚本家として「モンスター・ハント 王の末裔(2018)」などの映画に参加。
初監督したドラゴンボートに参加する中年男を描いた「逆流大叔(2018)」がヒット。今作が2作目の監督作品となる。

6人の食卓 飯戲攻心


◯ 原題の「飯戲攻心」はことわざ「飯氣攻心(腹八分目がいいという意味)」のもじり。

 

◯ 劇中では、
張愛玲(アイリーン・チャン)と著作「色・戒(ラスト、コーション)」
・王家衛(ウォン・カーウァイ)監督の専属スチルカメラマン・夏永康(ウィン・シャ)
・1990年代の大人気ティーン向け雑誌「Yes!」
などが言及されている。

ja.yes.com.hk

 

 

 

黃子華(ダヨ・ウォン)

◯ 広告などのカメラマンをしている長男・陳鴻(スティーブ、ホン)

◯ 漫談的なスタンダップコメディでの大人気コメディアンとして1990年代から大活躍し、ドラマや映画にも多数出演しているが、2018年でコメディのステージからは引退。映画での代表作は本作の他、「マジック・タッチ(1992)」「乜代宗師(2020)」「棟篤特工(2018)」、ドラマでは「復讐のプレリュード(1995)」「狀王宋世傑(貳)(1999)」「男親女愛(2000)」など。本作の後にこちらも大ヒットとなった「毒舌弁護人(2023)」に主演した。
今作の続編「飯戲攻心2(2024)」には出演していないが、もうすぐ公開予定の主演映画「破·地獄」では、「マジック・タッチ(1992)」以来、許冠文(マイケル・ホイ)と32年ぶりに共演している。

香港映画レビュー「毒舌弁護人~正義への戦い~ 毒舌大狀 A Guilty Conscience」 - daily diary

飯戲攻心 6人の食卓

飯戲攻心 6人の食卓

 

 

 

鄧麗欣(ステフィー・タン)

◯ 陳禮の彼女、馮靜(モニカ)は、一方で長男・陳鴻の元カノでもある。香港文化のリサーチをしている傍らで副業として広告会社に勤務する。骨董・アンティークをこよなく愛する。

◯ 鄧麗欣(ステフィー・タン)はボーカルグループCookiesのメンバーとしてデビュー。2005年の解散後はソロ歌手として活動する一方、俳優業も本格化する。
主な出演作は「十分愛(2007)」「紀念日(2015)」「空手道(2017)」「どこか霧の向こう(2018)」、そして「私のプリンス・エドワード(2019)」と、年を経る毎にどんどん本格的な作品に出演する実力派になってきている。

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飯戲攻心 6人の食卓

飯戲攻心 6人の食卓

 

 

 

張繼聰(ルイス・チョン)

◯ 陳禮(ベルナルド、ライ)。弟の陳熹とは母が同じだが、長兄の陳鴻とは父も母も違い血縁ではない。

◯ 子役から俳優のキャリアを始めた張繼聰(ルイス・チョン)も多くの作品に出演している。パトリック・タムと同じく「イップ・マン 継承(2015)」「L風暴(2018)」「P風暴(2019)」などの風暴シリーズ、「逃獄兄弟(2020)」からの投獄兄弟シリーズ、郭富城(アーロン・クォック)、梁朝偉(トニー・レオン)主演の「風再起時 (2023)」にも出演している。
コロナ禍での香港社会の苦しみを描いた昨年日本公開の「星くずの片隅で (2022)」では、台湾金馬奨の主演男優賞にノミネート。また歌手としても広く知られている。

飯戲攻心 6人の食卓

飯戲攻心 6人の食卓

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王菀之(イヴァナ・ウォン)

◯ 何嘉男(ジョゼフィーン)。一番下の陳熹と付き合っている。料理の才能があり、三兄弟の食事を作っている。

◯ 今作で香港金像奨・助演女優賞を受賞し、歌曲賞にノミネートされた。
2005年の正式デビュー前から楽曲制作の才能を認められ、張學友(ジャッキー・チュン)に提供した名曲「我真的受傷了(2001)」などを書く。デビュー後も「巴黎没有摩天轮(2006)」「月亮說(2009)」、個人的にも感動した素晴らしいピアノイントロから始まる張敬軒(ヒンス・チャン)とのデュエット曲「手望(2005)」などなど、数々の名曲を書く歌手。そして、本作の主題歌で香港金像奨ノミネート曲「狠愛狠愛你」も制作している。
日本好きでもあり頻繁に訪日しているが、新型コロナの渦中であった2020年4月には全編日本語詞でコロナについての歌「Mission for Everyone」を発表したりしている。

www.youtube.com Mission for Everyone

なぜか本作主題歌「狠愛狠愛你」は日本語版まで発表している。


www.youtube.com "飯戲攻心" 映画テーマ曲 / 電影主題曲日文版· -- 三兄弟

 

映画出演も割合多く、TVBドラマ「老表,你好嘢!(2013)」で好評となり、映画「金雞SSS(2014)」では香港金像奨助演女優賞&新人賞を受賞。その他「100回目の別れ(2014)」「一生の宝物(如珠如寶、2019)」、主演作「人生の運転手(ドライバー)(2020)」などがある。

飯戲攻心 6人の食卓

飯戲攻心 6人の食卓

 

 

 

林明禎(リン・ミンチェン)

◯ 王寶兒(阿Meow)。台湾人のモデルで広東語が上手くない。日本好きという設定。

◯ 1990年マレーシア・ペナン生まれでジョホール育ちのアイドル・歌手。2015年に台湾でデビュー。人気も高かったがコロナ禍中の2020年にレコード会社との契約を終了し、台湾を中心に演技・芸能活動をしている。20年の契約終了時、日本に行って芸能以外のビジネスを始める事を検討していたそうだ。
映画も、「霊幻道士 こちらキョンシー退治局(2017)」「ザ・フェイタル・レイド(2019)」「ワン セカンド チャンピオン(2020)」などほぼ毎年出演している。

飯戲攻心 6人の食卓

飯戲攻心 6人の食卓

 

 

 

陳湛文(ピーター・チャン、チャン・チャームマン)

◯ 三男・陳熹(ルン、ヘイ)。長兄の陳鴻とは父が同じ、真ん中の陳禮とは母が同じという関係。プロゲーマーをしており、何嘉男(ジョゼフィーン)と付き合っている。

◯ 香港演芸学院を優秀な成績で卒業し、以降は舞台劇で活躍。2020年頃から映画へも出演を始める。映画初出演のフルーツ・チャン監督「三人の夫(2018)」でも高い評価を得たが、特に本作の出演以降「香港怪奇物語(2021)」「白日の下(2023)」「年少日記(2023)」「全世界どこでも電話(2023)」と続々と話題作に出演している。「縁路はるばる(2022)」にも友情出演。
下記の通り、本作の舞台版にも出演している。

飯戲攻心 6人の食卓

飯戲攻心 6人の食卓

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◯ 三兄弟の母役として廖子妤(フィッシュ・リュウ)が出演した。

飯戲攻心 6人の食卓

 

 

彩蛋(特典映像)

◯ 本作には特典映像は無かったのだが、興収2000万香港ドルを突破した記念に公開される事となった。
監督の前作「逆流大叔(2018)」の出演者である黃德斌(ケニー・ウォン)&余香凝(ジェニファー・ユー)&胡子彤(トニー・ウー)、「アニタ 梅艷芳(2021)」の王丹妮(ルイーズ・ウォン)、そして姜皓文(フィリップ・キョン)などなどの豪華メンバーが出演。さらに古天樂(ルイス・クー)は本作への出資者であり、当初出演予定もあったが、スケジュールの都合によりこの映像のみに登場した。
なお、音声はすべて三男・陳熹役の陳湛文(ピーター・チャン、チャン・チャームマン)がひとりで吹き替えている。

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www.youtube.com 【《飯戲攻心》彩蛋曝光】古天樂王丹妮眾星齊撐

 

 

 

舞台化演劇作品

◯ 本作は監督の陳詠燊(サニー・チャン)の脚本で舞台化され、2023年2月17日より香港芸術節のひとつとして上演された。
キャストは
長男・陳鴻:周國賢(エンディ・チョウ)
モニカ:廖子妤(フィッシュ・リュウ)
次男・陳禮:梁仲恆(リャン・チョンホン)
ジョゼフィーン:胡麗英
Meow:黃呈欣
となっており、三男・陳熹役のみ陳湛文(ピーター・チャン、チャン・チャームマン)が映画と同じ役を演じた。

news.artsfestival.org

 

 

 

プロモーションソング

◯ 本作のプロモーションとして、2022年7月22日に久保田利伸「LA・LA・LA LOVE SONG」ならぬ(チャーシュー叉焼の)「叉叉叉Love Song」を、次兄・ベルナルド【張繼聰(ルイス・チョン)】とMonica【鄧麗欣(ステフィー・タン)】の出演で、1990年代日本のトレンディドラマ風MVが公開された。


www.youtube.com 【《叉叉叉Love Song》隆重登場】《飯戲攻心》今個中秋 齊人開飯

 

 

 

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