【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
ポスター見るとチームものかと思いきや、女子学生が自殺を図るほど自分の記事をバズらせすぎた編集者が、真相を明かすために会社を辞めても奮闘する。
周冬雨(チョウ・ドンユイ)のヒーロー映画として楽しめる。
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【スタッフ & キャスト】
2023年 中国 121分
監督: 忻钰坤(シン・ユークン)
出演: 周冬雨(チョウ・ドンユイ)、宋洋(ソン・ヤン)、袁弘(ユェン・ホン)、王皓(ワン・ハオ)、陶海(タオ・ハイ)、石蕊(シ・ルイ)
【あらすじ】
ネットメディアの編集長、陈妙【周冬雨(チョウ・ドンユイ)】は荒っぽくも様々なテクニックで自社記事をバズらせる辣腕で知られていた。ところが、自社がバズらせた女子専門学校での事件記事のせいでネットは炎上し、加害者の女子学生には非難が集中する。陈妙は狙い通りと考えていたが、その結果、当事者の彼女が校舎から飛び降りてしまった。
共同創業者である何言【宋洋(ソン・ヤン)】と共に陈妙は対応に奔走していたが、実はこの事件には裏があることが判明する。
【感想】
最近多めの事件ものの中でもスピード感もあり、すっきり見れる映画だった。やや綺麗にまとめすぎている気もするが、周冬雨(チョウ・ドンユイ)が活躍するヒーロー映画として見るとかなり楽しめた。
この種の"SNSによる犯罪もの"は良くあるが、本作はそこにとどまらず次第に現実のダークサイドへと舞台が移っていく。しかも主人公はネットでの人々の動きを読んで仕事をしていた側の人々だ。ネット世論は手のひらで操る一方で、現実世界の悪には果たして同じように相手できるのか。彼女が使う技術や作戦で、中国のネット世論がどうやって形作られているのかも見れ、そのあたりも大変興味深い。
主人公の周冬雨こと陈妙は、あろう事か自身が意図した事自体が事件のきっかけとなってしまうという、マイナスからのスタートになっていて、どうやって彼女が事件を解決へと導く=リベンジできるかという物語になっている。
出資者である袁弘(ユェン・ホン)演じる岳鹏がいかにも悪そうな雰囲気プンプンの存在感で、最高の悪役だ。だが、彼とてラスボスではない。
ひとり立ち向かうことを決断する周冬雨というヒーローには、話題の映画「年会不能停! (2023) 」 にも出ている王皓(ワン・ハオ)演じる龚文らがチームとしてバックアップするようになっていく。
全体的に面白いのだが、ネット世界の描き方はやっぱり難しいなと感じる部分もあった。物語上は周冬雨こと陈妙ひとりがネット世界を動かしていく事になっているが、現実はそんなシンプルでは無いだろうし、彼女が手掛けるネットメディア界も、一社だけで世論が動くことも無いので彼女の存在自体がちょっと現実的ではない。劇中ではバズらせ賞的なものを受賞するというシーンがあるのだが、見ながら「この賞を貰うのって、むしろ世論誘導に長けているというアピールになるんじゃ?」と、むしろ良くない印象な気もした。
そういう訳でこの映画でも、この件によってネット社会全体が変わったというようなエンディングにはできないし、実際見終わっても結局何も変わっていないという、ある種の自己満というか諦観といったものを感じざるを得ない点はある。
そしてこの映画より、元ネタとなった実際の事件の方が、遥かにおぞましく酷い内容だ。
そういう意味ではよりエンタメ的な演出になっているので、いわゆるジャンル映画的というか、細かい所はおおらかな目で見て、ルールの無いネット社会でひとり巨悪に立ち向かう女性ヒーローの物語、として見ると遥かに楽しめる映画であった。
中国映画レビュー&解説「年会不能停! Johnny Keep Walking!」 - daily diary
【トピック】
◯ 2023年7月31日にまずFIRST青年映画祭で上映され、同年11月30日に一般公開。公開初週は興収ランキングで4位に入った。興行収入は6300万元(13億円)。
◯ 忻钰坤(シン・ユークン)監督は、デビュー作の東京国際映画祭中国現代映画特集2016でも上映されたブラックコメディ「心迷宮(2014)」が高い評価を得て、台湾金馬奨でも新人映画監督にノミネートされた。こちらも高評価の3作目「無言の激昂(2017)」を経て、本作が第4作目の監督作となる。
題材となった事件
◯ 本作は、2015年に発覚した貧困学生への援助を募集するウェブサイトの管理人による性的搾取事件"百色助学网"事件をベースにしている。この事件では、管理人の王杰は2006年のサイト開設以来9年間に渡って、連絡してきた14歳以下が多数を占める貧困女子学生に、援助と引き換えに性的奉仕を強要していた。広西チワン族自治区のテレビ局广西电视台《海案线》の記者によって事件が報道され、王杰は逮捕。懲役16年の実刑判決を受けた。
周冬雨(チョウ・ドンユイ)
◯ ネットメディアの編集長で創業者でもある陈妙。
◯ 1982年生まれだがもはや大御所と言ってもいい。自身の会社から製作に出資するなど女優以外でも映画界で幅広い活躍を続けている。「サンザシの樹の下で(2010)」でデビューし、「ソウルメイト/七月と安生(2016)」、「少年の君(2019)」という曾国祥(デレク・ツァン)監督の秀作2作、「僕らの先にある道(2018)」などなど、本当に数多くの映画に出演している。
2023年は本作以外にも「ボーン・トゥ・フライ」、「中国青年:我和我的青春」、刘昊然(リウ・ハオラン)との「燃冬」、「鹦鹉杀」、张艺谋(チャン・イーモウ)監督の社会派サスペンス「坚如磐石」と大量の出演作が公開された。
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宋洋(ソン・ヤン)
◯ 陈妙の共同創業者で経営でのパートナー、何言。
◯ 宋洋(ソン・ヤン)は忻钰坤(シン・ユークン)監督の前作「無言の激昂(2017)」以来の続投。
ピーター・ホー、エディ・ポンらが主演の歴史ドラマ「楊家将伝記 兄弟たちの乱世(2006)」で知られるようになり、「ソード・アイデンティティー(2011)」や「ソード・アーチャー 瞬殺の射法(2012)」、「ファイナル・マスター(2015)」などの武侠アクション映画への出演などで知られる。
「ジョンQ(2002)」のリメイク「误杀2(2021)」、ヴェネツィア国際映画祭出品作「不止不休(2020)」にも出演している。
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袁弘(ユェン・ホン)
◯ 陈妙のメディアへ出資をしている企業の幹部、岳鹏。陈妙が増資を求めていた。
◯ 1982年生まれ。デビュー2年後の主演ドラマ「上书房 (2008) 」そして「射雕英雄传 (2008) 」で知られるようになる。さらに翌年には「仙剑奇侠传(2009)」シーズン3に出演。
その他にも「宮廷女官 若㬢(2011)」、「秀麗伝(2013)」、「平凡的世界 (2015) 」、「解憂~西域に嫁いだ姫君~(2016)」、「鳳凰の飛翔(2018)」、「幻想神国記(2021)」と、古装劇を中心に数々のドラマに出演している。
映画では「青雲 ~投げ出した人生の拾い方~(2019)」などがあるが、公開が延期となっている周冬雨(チョウ・ドンユイ)の主演作「平原上的火焰 (2021) 」にも出演している。
王皓(ワン・ハオ)
◯ 編集部員のひとり、龚文。陈妙の後を追って編集部を去る。
◯ 1996年生まれの俳優だが、喜劇を主なフィールドにしていて、新喜劇的なコメディでここ数年人気になってきている。ドラマ「二十不惑」シーズン2に出演し、今作の後、2024年正月公開の大ヒット映画「年会不能停! (2023) 」 で主人公役・大鹏(ダーポン)の若い時を演じた。
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陶海(タオ・ハイ)
◯ 事件があった専門学校の校長、严育生。
◯ 1990年代後半から映画「横空出世 (1999) 」や「天上の恋人(2002)」、李連杰(ジェット・リー)&劉徳華(アンディ・ラウ)&金城武の「ウォーロード(2008)」、呉佩慈(ペース・ウー)主演の「夜幕惊魂 (2013) 」、ドラマ「忠诚 (2001) 」などに出演してきた。
2021年に人気ドラマ「雪中悍刀行 (2021) 」に出演した後、张新成(ジャン・シンチャン)主演の映画「这么多年 (2023) 」、本作、そして中国金鶏奨・中小作品賞を受賞した宋洋(ソン・ヤン)主演の「回西藏 (2022) 」と出演作が増加中だ。
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石蕊(シ・ルイ)
◯ 陈妙への出資企業の社長秘書、胡乔。
◯ 2011年デビュー。ドラマ「半妖の司籐姫(2021)」、周迅(ジョウ・シュン)主演の「小敏家 (2021) 」などに出演している。