中国映画レビュー「穿过寒冬拥抱你 Embrace Again」

「穿过寒冬拥抱你 Embrace Again」

 

 

穿过寒冬拥抱你


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【スタッフ & キャスト】

 

2021年中国
監督: 薛晓路(シュエ・シャオルー)
出演: 黄渤(ホァン・ボー)贾玲(ジア・リン)朱一龙(チュー・イーロン)徐帆(シュイ・ファン)高亚麟(ガオ・ヤーリン)吴彦姝(ウー・イエンシュー)

 

 

【ストーリー】

新型コロナの感染拡大により都市封鎖となった武漢。人々は街に閉じ込められ、外出もできない状況に追い込まれた。そんな中、人々はみずから自分のできる事を始めることでこの状況に立ち向かい始める… 

 

【感想】

中国がコロナ禍をどう捉えているかがよくわかる、いわゆる"感動巨編"的な映画ではあるのだが、むしろ色々と考えさせられた。

コロナ禍を描いた中国映画といえば「アウトブレイク ~武漢奇跡の物語~ 中国医生(2021)」があるが、「中国医生」があまり扇動的にならず割合冷静に"中国の偉業"を描いていて、外国人な自分たちでもある程度納得できる感想を抱いたのに対して、本作は、現地で監督やスタッフが取材を重ねたそうだが、3組の短編がどれもよりフィクション的でわかりやすいストーリーを描いており、どれも最終的には"中国の偉業"というエンディングへと収束していく感じに作られている。「中国医生」が医療関係者の物語とすれば、本作は市井の人々の物語でもある。登場人物は黄渤(ホァン・ボー)にしろ、贾玲(ジア・リン)にしろ、政治なんかに普段は興味のない労働者だが、未曾有の事態に思わず行動を始め、武漢の人々を救う先頭に立つ…という役割で、見ていた自分は「ああ、またアルマゲドン・パターンが来たな」と思ってしまった。最近の中国映画では、こんな感じの感動演出がよく出てくる。90年代までのアメリカ映画でよく見たような、ヒロイズム全開の単純な演出で涙とカタルシスを誘う感じで、わかりやすいど直球なやり方だ。あれだけアメリカを嫌っている筈なのに、非常にアメリカ映画を連想させるのだ。もちろん、エッセンシャルワーカーの方々の厳しい環境で奮闘には自分も感謝しかないし、彼らへの賛美はいくらあっても足りないくらいだとは思うが、この時代にこの演出では、いくらなんでも押し付けがましく感じる。

蛇足だが、最近の価値観の変化を内包して作られた映画を見慣れた、自分をはじめ一般的な観客はもはやこういうシンプルすぎる演出を見せられただけで、どこかのセンサーが反応して警戒感や違和感を覚えてしまうようになっていると思う。だが、もしかして中国ではそのセンサーは反応しないのだろうか。自分は本作を見ながらむしろ、現代にこの演出法に疑問を持たない事自体への違和感の方を感じながら見ることになった。「こんな演出ありえんって普通思わん?」という事だ。僕らのセンサーは反応するのに、なぜ彼らのセンサーは反応しないのか、いやもしかして反応してるが許容できるのか?それとも、むしろ僕らのほうが純粋な喜怒哀楽だけでは、もはや感動できない体になってしまったのか?多様性を排した国家体制で、価値観も多様性を排しているからだろうか。とはいえ、本作でも決して単純なストーリーだけを描いている訳ではない。犠牲者も出る。それなのに最後の着地点は成し遂げられた"偉業"にたどり着くのだ。

こうまで強く自分たちの偉業を誇示するのは、やはり褒められたい願望からなのかなあ…と邪推してしまう。コロナ禍を世界で唯一封じ込めに成功した事により、経済以外の分野でも遂に世界をリードする存在となった、そんな"事実"から更に自信を深めたにも関わらず、一方でまだ思ったほどの尊敬を世界から得られていない現実。その自己認識をお互いに共有し、褒め合い、自信を深めていこうという気持ちがあるんだろうか。確かにバブル期の日本もこれに近い位置にまでたどり着きはしたのだが、リードする前にバブルが崩壊した事で、結果的には調子に乗ることを防げたのかもしれない。だが中国は、それを超えて世界をリードする位置まで来たという自己認識ゆえ、その溢れる自尊感情を持て余しているんじゃないだろうかと思ったりもした。現状では自分も正解はわからない。思えば90年代のアメリカが本作みたいな自国礼賛的演出を多用していたのは、それだけのモチベーションを必要とする活動を湾岸戦争やソマリア、ボスニアにその後の911~イラクと世界各地で行っていたから、とも言える。とまあ、こうして本作のことを考えていると、どうしてもきな臭くなってしまうのだ。

 

【トピック】

○ 2021年12月24日から先行上映、31日に本格上映を始め、そこから5週連続で興収ランキング1位をキープ。1月26日時点で興収9億元(168億円)を突破した。

○ 薛晓路(シュエ・シャオルー)監督は、陈凯歌(チェン・カイコー)監督作「北京ヴァイオリン(2002)」で脚本を務めた後、ジェット・リーによる文芸作「海洋天堂(2010)」で初監督し、「愛しの母国(2019)」回归(回帰)編など現在までに4本の監督作がある。

○ 監督はキャスティングの最初から、舞台となる湖北省出身者の贾玲(ジア・リン)、朱一龙(チュー・イーロン)の二人を想定していた。

○ 主演で物資配給のボランティアを始める阿勇役の黄渤(ホァン・ボー)は「ロスト・イン・タイ(2012)」「最愛の子(2014)」、監督作「アイランド/一出好戯(2018)」、本作にも通じる「我和我的」シリーズなどで知られる大人気俳優。

○ もうひとりの主演、デリバリーボランティアを始める女性トラックドライバー武哥役の贾玲(ジア・リン)は、昨年スーパー大ヒットとなった「こんにちは、私のお母さん(2021)」の監督・主演である大人気コメディアン。

○ 武哥に優しく接する教師役を演じた朱一龙(チュー・イーロン)は、時代劇ドラマ「明蘭~才媛の春~(2018)」などでブレイクし、ドラマ「重启之极海听雷(2020)」「叛逆者(2021)」、ディザスター映画「峰爆(2021)」などの主演で最近さらに活躍が目立ってきている。

○ 旅行会社の女社長刘亚兰役には「唐山大地震(2010)」などの徐帆(シュイ・ファン)。

○ 刘亚兰の夫でスーパーを経営する李宏宇役は高亚麟(ガオ・ヤーリン)。ベテラン俳優だが知られているのは易烊千玺(イー・ヤンチェンシー)主演作「送你一朵小红花(2020)」での出演だろう。

○ コロナ病棟に復帰する元看護婦である谢咏琴を演じたのは吴彦姝(ウー・イエンシュー)。「再会の奈良(2021)」で主演し、「花椒の味(2019)」にも出演している。

○ 特別友情出演で
意図せずコロナ病棟での勤務となった看護師役として「サンザシの樹の下で(2010)」「ソウルメイト/七月と安生(2016)」「少年の君(2019)」「僕らの先にある道(2018)」等で多くの主演作がある周冬雨(チョウ・ドンユィ)が、

友情出演に
唐人街探偵シリーズで主演した刘昊然(リウ・ハオラン)
大ヒットドラマ「欢乐颂(2016)」「嫣语赋(2022)」で主演だった乔欣(チャオ・シン)
ドラマ「裸婚时代(2010)」や韓国ドラマのリメイク「逆転のシンデレラ~彼女はキレイだった~(2017)」に出演した王一楠(ワン・イーナン)ら、

特別出演に
「僕らが空を照らしたあの日(2021)」「再见,少年(2021)」で主演し最近知られるようになった张宥浩(チャン・ヨウハオ)
「唐人街探偵 NEW YORK MISSION(2018)」「カンフー・ヨガ(2017)」で知られる尚语贤(シャン・ユーシエン) 
が登場している。

 

 

コロナ禍を描いた中国映画

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薛晓路(シュエ・シャオルー)監督は本作「回帰編」を監督している。

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