中国映画レビュー「误杀2 Fireflies in the Sun」
【スタッフ & キャスト】
2021年 中国
監督: 戴墨(ダイ・モー)
出演: 肖央(シャオ・ヤン)、任达华(任達華、サイモン・ヤム)、文咏珊(ジャニス・マン)、陈雨锶(チェン・ユシ)、宋洋(ソン・ヤン)、李治廷(アーリフ・リー)
【ストーリー】
林日朗(肖央 シャオ・ヤン)が病院一階で人質を取って立て籠もった。拡張型心筋症を患った彼の息子は高額の心臓移植しか助かる方法が無いと言われ、息子を助けるためにとあらゆる努力をした挙げ句、立て籠もりに至ったという。病院を取り囲む警察が彼との交渉を開始するが…
【感想】
前作同様に、シンプルな犯罪映画というこちらの予想を上回る展開の楽しめる映画であった。
「共謀家族 误杀(2019)」の2作目という事だが主人公以外のキャストも違うし、ストーリーも関連性はまったく無く前作が未見の場合でも全然問題なく楽しめる。
舞台は前作同様東南アジアのある国という設定で、前作はほぼタイだったが今回もタイ語は登場するものの「一応」タイではないような配慮がされてある。ただ見ていると、なんだかタイとして見て欲しくないというより、中国に酷似した別の国として見て欲しそうなのである。左ハンドル車が普通に登場したり、病院でのやり取りなどでもにじみ出てくる中国感のある雰囲気を隠そうともしておらず、意識的ではないかと感じるレベルだ。後半にある反権力的な展開を意識した演出、つまり本当は中国が舞台として描きたいけど検閲対策の微修正程度として外国が舞台という設定にしたように見えた。
さて、本作はデンゼル・ワシントン主演作「ジョンQ(2002)」のリメイクである。全体のストーリーもおおよそ原作を踏襲している。ひさしぶりに見返した原作は今見てもスピード感があり、よく練られたストーリーが素晴らしい、とっても良い映画だった。自分は中国版の本作を見ながらまったくこの映画の存在を忘れていたが、それでもこの中国版も後半に2度3度とどんでん返しがあり、ぐいぐい引き込まれていく。
「ジョンQ」はデンゼル・ワシントンの息子への強い愛情が映画の推進力となっていたが、今作もその点同じくらいに父親の強い愛が自然に表現されていて映画の面白さをぐっと引き上げている。中国くらい子どもたち、特に男の子への強い愛情を父親が示す文化の国も無いだろうし、その点で本作が自然に中国映画らしさを醸し出すのに成功しているといえる。
映画全体として本作は「ジョンQ」からの改変でよりエンタテイメント方向の作風を狙ったようだ。エンディングなどはよりドラマチックになっているし、そもそも後半の展開は大きな改変であり、「ジョンQ」の評価ポイントから大きくかけ離れた展開は賛否両論あるかもしれない。個人的には、主人公の人格が悪人か善人かはっきり見せないような演出にした点が、前作「共謀家族 误杀」を踏襲した、本当の犯罪者なのか実はいい人なのかわからない主人公になっていてハラハラできる。
ともあれ後半は、絶対に中国が舞台では描けないストーリーになっていて、中国映画っぽいのだが中国映画に無い、皆が見たいストーリーが成立しているのはある意味痛快だった。
【トピック】
○ 「唐人街探偵」シリーズ監督の陈思诚(チェン・スーチェン)がプロデューサーとして、新人で俳優であった戴墨(ダイ・モー)監督をバックアップ。さらにiQIYI 爱奇艺で配信されたウェブドラマ版「唐人街探案」でも彼に監督をさせるなどのサポート体制は、前作「共謀家族 误杀(2019)」と同じだ。
○ 2021年12月17日に公開され2週連続興収ランキング1位を獲得した。
○ 前作と同じく主人公の林日朗役を演じた肖央(シャオ・ヤン)は、元々は筷子兄弟という音楽デュオの俳優。最近は今作と同じ陈思诚(チェン・スーチェン)が監督の「唐人街探案」シリーズ全作に出演しているので、ここでの存在感が大きい。詳しくは「シスター 夏のわかれ道(2021)」の項を参照。
○ 主人公との交渉役となる刑事张正义役の任达华(任達華、サイモン・ヤム)は香港映画のレジェンド俳優の一人。「トゥームレイダー2(2003)」、「SPL/狼よ静かに死ね(2005)」、「レイジング・ファイア(2021)」などなど数多くの作品に出演している。
○ 妻の阿玲役を演じたのは香港出身の文咏珊(ジャニス・マン)。「コールド・ウォー 香港警察 堕ちた正義(2016)」や「唐人街探偵 東京MISSION(2021)」での長澤まさみの母役などで出演している。
○ TVキャスター役の陈雨锶(チェン・ユシ)は、映画「路过未来(2018)」や「閃光少女(2017)」、ドラマでは本作監督「唐人街探案(2020)」、「梦见狮子(2021)」などに出演している人気俳優。
○ 医師役の宋洋(ソン・ヤン)は映画「ソード・アーチャー 瞬殺の射法(2012)」、「ファイナル・マスター(2015)」、ドラマ版「深夜食堂(2017)」にも出演している。
○ 検察官役の李治廷(アーリフ・リー)は香港人の歌手/俳優。「歲月神偷(2009)」で香港電影金像奨新人賞を受賞。映画は「コールド・ウォー 香港警察 二つの正義(2012)」、「カンフー・ヨガ(2017)」などに出演、ドラマでも「武則天(2015)」や「白華の姫(2019)」などに出演の人気若手俳優である。