中国映画レビュー&解説「涉过愤怒的海 Across the Furious Sea」

涉过愤怒的海 Across the Furious Sea: 豆瓣

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

 

 

涉过愤怒的海


www.youtube.com 《涉过愤怒的海》发布终极预告 黄渤极致情绪大爆发

 

 

 

【スタッフ & キャスト】

2023年 中国 144分
監督: 曹保平(ツァオ・バオピン)
出演: 黄渤(ホアン・ボー)周迅(ジョウ・シュン)祖峰(ズー・フェン)张宥浩(ジャン・ヨウハオ)周依然(ジョウ・イーラン)颜北(ヤン・ベイ)



 

【あらすじ】

漁師である金陨石【黄渤(ホアン・ボー)】の娘、小娜(シャオナー)【周依然(ジョウ・イーラン)】が、留学先の日本で殺された。金陨石は日本に行き、一緒にいたというコスプレ仲間の大学生、苗苗(ミャオミャオ)【张宥浩(ジャン・ヨウハオ)】に話を聞きに行くと、まさに目前で逃走されてしまう。苗苗(ミャオミャオ)を追って中国での追跡劇が始まるのだが…

 

 

【感想】

とにかく面白い。鬼気迫る主人公の圧によって物語もグイグイ展開していき、驚愕のエンディングまで一気に持っていかれる。一方で映像も手が込んだ美しさと意外なロケーションで、さすがの手練手管も堪能できる、まさに高品質なサスペンス映画だった。

こういう話題性もあり評価も高い映画で、さらに舞台が日本だとなると、日本人の中国映画ファンであれば絶対に見たくなる作品だったのだが、実際に見ても十二分に満足できる出来だった。中国映画はレイティングが無いのだが、本作はビジュアルに「建议十八岁以下观众谨慎选择观看(18歳以下は閲覧注意)」と書かれていて、残酷描写等を懸念していたが、配信版ではいくつかブラックアウトされ音声だけになる瞬間があったので、もしあれがそうだとすれば特に心配になる描写は無かったと言えるし、1秒も無かったので鑑賞にも支障はなかった。

 

涉过愤怒的海

 

とにかく、エンディングですべてが一変する。だからネタバレ無しには書きようも無いけれども、唸るような上手さで最後まで飽きる瞬間もなく見ていられるので、まずは見てみてほしい。筆者はとにかく大満足だったし、ネットでの高評価にも全く納得の出来だ。

今回は特にシンプルな構造なのに、全くダレずに緊張感が維持される。そして主人公の3人がどれも異常な人格なので、何をするのか予想もつかない。黄渤(ホアン・ボー)演じる漁師の金陨石も、娘を大変愛していた故に、延々と怒りが沸点に達したまま行動していて、もはや犯人の苗苗(ミャオミャオ)以上に恐怖を感じるキャラだ。そして印象的なのは、追跡劇の途中から徐々に徐々に迫ってくる嵐。ベタな演出だと思いつつも、途中から予想外の展開になり、上手いなあと思わせられる。

 

涉过愤怒的海

 

不穏な話なので、全体の映像はダークでくすんだトーンが多いのだが、いくつかのシーンでは大変美しい映像が広がる。中国側での舞台は大連。そこでの海岸周辺で、非常に美しい場所が選ばれ、ライティングも素晴らしい中、感情が爆発した粗暴なストーリーを展開させている。そのミスマッチが大変印象的だ。

日本のシーンも多々あり、コスプレも大事なキーワードになっているが、物語の根幹というよりは演出の大きなポイントとして使われている。ただ、若い2人の主人公は中国から日本に「離れる」ために来ていて、この感覚は日本に住む中国人を描いた「如果有一天我将会离开你(2021)」で見た時と同じだ。

 

涉过愤怒的海

 

映画についてひとつだけ言えるとすれば、本作のテーマのひとつには世代間の格差や断絶、乖離といったものが横たわっているように感じた。これは张艺谋(チャン・イーモウ)監督作「坚如磐石(2023)」を見た時にも感じたのだが、今の20代の若者世代にはもう、上の世代の考え方とは違う考え方、行動原理、なんなら拒否感みたいなものが標準的になっていて、もはや彼らと同じ価値観では行動しないと考えられているようだ。それ自体は良くある話だが、本作はそれを悪い事とは描いてない。だからこそ鑑賞後も、必ずしも悪くない後味で終わっているのであろう。深く残る余韻で考えさせられるのは間違いないが、だが大変に面白い映画であった。

 

余談だが、確かに本作は潘暁穎殺人事件を連想させる部分がある。本作がもし予定通り2021年夏に公開されていたら、香港デモからまだ間もなかったあの時期、私は本作を同じように評価しただろうか。
風化という言葉が頭をよぎる。
※詳しくはトピックの項を参照。

 

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【トピック】

◯ 2019年夏に撮影され、当初は2021年夏に公開予定だったが、コロナ禍のために公開延期。
2023年11月25日に全国公開。公開初週より2週間連続で興収ランキング1位を記録した。興行収入は5.4億元(110.7億円)に達した。

 

 

◯ 原作は脚本家・老晃による小説だが、一方で2018年に発生した台湾での潘暁穎殺人事件に似ているとの指摘もある。
この事件では、犯人の男は犯行後すぐに香港に帰国したのだが、この事件を契機に香港の逃亡犯条例の改正問題へと発展し、2019年-2020年香港民主化デモへと繋がっていった。

「逃亡犯条例」発端の殺人事件容疑者が出所、香港と台湾が対立 | ロイター

 

 

◯ タイトルの「涉过愤怒的海」は、高倉健主演の映画「君よ憤怒の河を渉れ(1976)」の同名原作小説の中文版「涉过愤怒的河」のもじりである。
「君よ~」は「追捕(1979)」というタイトルで、文化大革命後初の外国映画として中国で公開。無実の罪を背負わされる主人公と、文革での理不尽な扱いを重ね合わせた中国の人々の共感を呼んで、大変な人気を博した。
吴宇森(ジョン・ウー)監督、福山雅治&张涵予(チャン・ハンユー)主演のリメイク作「マンハント(追捕、2018)」も制作された。

 

 

◯ 曹保平(ツァオ・バオピン)監督は、人間の深部を描き出しながらもエンタメ作品として成立させた作風で、転落していく人生に共感しながらも、滑稽なものとして見ているような味が、井筒和幸監督なんかも思わせる味がある、個人的にも大変好みの監督だ。
過去9作の監督作品があるが、周迅と張涵予、邓超、王宝強らが共演した「李米的猜想(2008)」では金鶏奨主演女優賞を受賞、邓超、段奕宏らのノワールの名作「烈日灼心(2015)」でも監督賞にノミネートされている。范冰冰(ファン・ビンビン)主演作品「她杀」は、既に数年前には撮り終わっているものの、現在も公開延期が続いている。

涉过愤怒的海

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黄渤(ホアン・ボー)

◯ 遠洋漁業の漁師である金陨石。娘の金丽娜が殺され、犯人の李苗苗を追跡する。

◯ 黄渤(ホアン・ボー)は現在中国でのトップ俳優のひとり。

宁浩(ニン・ハオ)監督の「クレイジーストーン(2006)」がヒットしシリーズ化。シリーズ3作めの「疯狂的外星人(2019)」は「三体」で知られるSF作家・劉慈欣の原作である。
さらに徐铮&王宝强と主演した「ロスト・イン・タイランド(2012)」も大ヒット。3人を一気にスターダムにのしあげた。
監督として「アイランド/一出好戯(2018)」を制作した他、陳可辛(ピーター・チャン)監督の良作2作品「最愛の子(2014)」&「中国女子バレー 奪冠(2020)」でも主演している。
さらに2023年は、王一博(ワン・イーボー)との「熱烈」、大型時代劇「封神~嵐のキングダム~」、お受験映画「学爸」、そして本作と一気に4本もの出演作が公開された。

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周迅(ジョウ・シュン)

○ 李苗苗の母親、景岚。

○ 周迅(ジョウ・シュン)は、2000年前後に四小花旦として、趙薇(ヴィッキー・チャオ)、章子怡(チャン・ツィイー)、徐静蕾(シュー・ジンレイ)らと大人気になる。俳優としても高い評価を受けており、本作の曹保平(ツァオ・バオピン)監督作「李米的猜想(2008)」では金鶏奨主演女優賞を受賞している。監督作品にはそれ以来の出演となる。
その他、ロウ・イエ監督の「ふたりの人魚(2000)」や近日日本公開の「無名(2023)」、金城武との香港映画「ウィンター・ソング(2005)」、岩井俊二監督作「チィファの手紙(2018)」や映画「更年奇的な彼女(2014)」、ドラマ「如懿伝(にょいでん)~紫禁城に散る宿命の王妃~(2018)」、などに主演している。
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张宥浩(ジャン・ヨウハオ)

◯ 日本の京都大学に留学していた李苗苗。愛称は苗苗(ミャオミャオ)。コスプレが趣味。

◯ 古装劇「永遠の桃花~三生三世~(2017)」で知られるようになる。
その後、彭昱畅(ポン・ユーチャン)主演の青春ドラマ「风犬少年的天空(2020)」とその制作陣による映画「僕らが空を照らしたあの日(燃野少年的天空、2021)」、その他映画「1921(2020)」「了不起的老爸(2021)」「再见,少年(2021)」などに出演。
最近では刘昊然(リウ・ハオラン)主演「四海(2022)」や、雷佳音(レイ・ジャーイン)主演「交换人生(2023)」、陈凯歌(チェン・カイコー)監督の豪華主旋律映画「志愿军:雄兵出击(2023)」に出演と、特に映画で活躍を始めている期待の若手だ。

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周依然(ジョウ・イーラン)

◯ 金陨石の娘で、留学先の日本で殺されてしまう金丽娜。愛称:小娜(シャオナー)。演じたのは周依然(ジョウ・イーラン)。
「閃光少女(2017)」ドラマ版(2019)に出演、その後青春ドラマ「风犬少年的天空(2020)」や主演映画「好想去你的世界爱你(2022)」に出た後、ドラマ「三悦有了新工作(2022)」で主演した。映画「平凡英雄(2022)」にもCA役で出演している。

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祖峰(ズー・フェン)

◯ 李苗苗の父親、李烈。母親の景岚とは離婚している。
◯ 脇役ながら「封神伝奇 バトル・オブ・ゴッド(2016)」「妻への家路(2014)」「黄金時代(2014)」など名作中国映画に次々と出演している実力派。「この夏の先には(2021)」にも出演している。

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颜北(ヤン・ベイ)

◯ 金陨石が中国に戻って以来、彼を担当する事になった警官、戴震。

◯ 颜北(ヤン・ベイ)は、「李米的猜想(2008)」「延安爱情 (2010) 」「烈日灼心(2015)」「追凶者也 (2016)」と数多くの曹保平(ツァオ・バオピン)監督作に出演している、"曹組の俳優"といってよい存在だ。

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闫妮(イェン・ニー)

◯ 金陨石の別れた妻、顾红(画像右)。

◯ 闫妮(ヤン・ニー)も曹保平監督作には「追凶者也 (2016)」からの再登板組。
黄渤(ホァン・ボー)とは、つい最近も昨年夏公開の「学爸(2023)」で共演している。
邓超(ダン・チャオ)夫妻が主演の「チャイニーズ・フェアリー・ストーリー (2011)」に出演。その他、肖央主演のオフィスコメディ「ウーマン・イン・レッド (2016)」「閃光少女(2017)」「愛しの故郷(2020)」などに出演。黄晓明(ホアン・シャオミン)主演の「最后的真相(2023)」で中国金鶏奨主演女優賞にノミネートされた。
ドラマでは「一仆二主(2014)」「生活启示录(2014)」「少年派(2019)」シリーズ、「装台(2020)」などが知られている。

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孙安可(スン・アンコー)

◯ 金親子の日本に住んでいる姪、沈小琳を演じたのは孙安可(スン・アンコー)

◯ 2016年デビュー。主な作品はドラマ「倚天屠龍記(2019)」「宮廷の茗薇(2019)」「花咲く合縁奇縁(2021)」「乔家的儿女 (2021) 」、Netflixでの台中合作映画「The Soul: 繋がれる魂(2021)」など。

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阿部 力

◯ 日本に帰化した日本の中国人刑事、島津。中国語も話せる。

阿部 力(あべ つよし)は中国・黒龍江省生まれで後に日本人に帰化した俳優。ドラマ「花より男子(2005)」で知られるようになるが、2017年のスキャンダルでテレビ・映画などから遠ざかる事となった。
主な作品に映画「大停電の夜に(2005)」「劇場版 MOZU(2015)」「ハーフタイム(2023)」、ドラマ「今際の国のアリス(2020)」などがある。

涉过愤怒的海

 

 

 

ロケ地(日本・大連)

設定では日本での舞台は東京と京都周辺だが、ロケ地は関西が多い。

 

・神戸空港
・JR中央線・大久保駅北口
・JR/近鉄・鶴橋駅高架下
・近畿大学・東大阪キャンパス西門・18号館
・近鉄・大阪上本町駅(電車に乗っているシーンも同じく近鉄)
・京都大学・吉田寮
・秋葉原のカラオケ店 (BIG BANG "Fantastic baby"を歌っている)
・東京・新橋3丁目付近(JR東海道線・日陰橋ガード

 

神戸空港

近畿大学・東大阪キャンパス西門・18号館

近鉄大阪線・大阪上本町駅

京大・吉田寮
寮正面玄関内部から外側を見ている

涉过愤怒的海

寮の廊下

涉过愤怒的海

新橋・日陰橋ガード付近

涉过愤怒的海

 

 

◯ 後半の風景の多くは大連で撮影されている。

星海湾海上大橋

南山一条街(旧日本人街で現在は高級住宅地)

日本の設定になっている葬儀を行う寺:乔山墓园

大連国際会議中心

瓦房店の浜海路風景区・排石景区

 

 

コスプレ

◯ 李苗苗と金丽娜はコスプレが共通の趣味という設定で、劇中でも2001年から少年ジャンプで連載開始した漫画/アニメ「BLEACH」(中国版アニメタイトル:死神)のキャラ、ウルキオラ・シファー(李苗苗)と井上織姫(金丽娜)のコスプレで登場する。
日本のネット上では悪用している等の指摘が見受けられるが、エンディングまで見るとその指摘は当たらない事が理解できるだろう。

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