93國際列車大劫案:莫斯科行動 Moscow Mission: 豆瓣
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
1993年の実話の事件を映画化。张涵予(チャン・ハンユー)&アンディ・ラウに「芳華-Youth-」の黄轩って座組だけで心が躍る。年4作公開で現在超多忙なハーマン・ヤウ監督、彼らしいケレン味超大盛のクライムアクション。
www.youtube.com Moscow Mission International Trailer|《莫斯科行动》国际预告
【スタッフ & キャスト】
2023年 中国 128分
監督: 邱禮潯(ハーマン・ヤウ)
出演: 张涵予(チャン・ハンユー)、刘德华(アンディ・ラウ、劉徳華)、黄轩(ホァン・シュエン)、文咏珊(ジャニス・マン)、谷嘉诚(グー・ジアチェン)、赵炳锐(ジャオ・ミンルイ)
【あらすじ】
1993年に北京からモスクワへと向かう国際列車で、走行中に乗客が次々に襲われる強盗事件が発生した。犯人達を追って中国刑警の捜査員らがモスクワへと向かう。犯人を逮捕できるのか、実際の事件を元にした犯罪アクション。
【感想】
豪華なキャスティング、スリリングな展開、ど派手なアクションで、邱禮潯(ハーマン・ヤウ)監督の持ち味を知っていれば存分に楽しく見られるクライム・アクション映画だった。
とにかく映画を見るまでの期待値の上がり方がすごかった。キャスティングも面白い。アクションでは中国人俳優トップといっていい张涵予(チャン・ハンユー)、悪人でも面白くなる劉徳華(アンディ・ラウ)、そしてそこに絡むのが「芳華-Youth-(2017)」での文芸青年風味が色濃い黄轩(ホァン・シュエン)だ。それぞれ誰が主人公か悪役か?どういう関わり方をするか?
そして描かれるのが1990年代の大列車強盗だ。走行中のアクション、ロシア色がどう描かれるかも期待できる。見る前から期待値が上がってしまう内容だ。
オープニングから既に列車はモスクワへ向けて走っており、1993年当時のレトロな列車旅行の雰囲気と、札束を数えているビジネス客が多数いる怪しげな空気感が車内に充満している事がわかる。そこを通る場違いな美女が文咏珊(ジャニス・マン)演じる真真。そして彼女が食堂車で腰掛けるとやって来るのが、ヘッドホンで大音量のクラシックを聴いている黄轩(ホァン・シュエン)=苗青山だ。そうしてまだ誰がどういう役割なのかもわかっていないまま、真真が苗青山へメモを渡すと、途端に彼は仲間と共に早速乗客に襲いかかる。テンポよくあっという間に、列車が密室で逃げ場のない狂乱の襲撃現場へと変貌する。
ドラマチックな展開でスリリングなカメラアングルでテンションも一気に上がるが、CGのクオリティは結構荒っぽい。邱禮潯(ハーマン・ヤウ)監督は前作「バーニング・ダウン(2020)」でも香港・青馬大橋をぶっ壊すような大技を繰り出すタイプなので、CGでも細かく見るよりもむしろアイデアを面白がる方が楽しめるだろう。
中国刑警の刑事を演る张涵予(チャン・ハンユー)は、今回はちょっと地味めな役かなと思いきや、アクションになった途端、刑事とは思えない一人だけレベルの違うキレッキレの動きをしていて、きっちり魅せてくれる。
そして劉徳華(アンディ・ラウ)はモスクワで巨財を成す密輸商人として悪人の面を見せてくる。これが設定上90年代なファッションなので、ついつい懐かしの「天若有情(1990)」などの頃の彼を重ねて見てしまう。とはいえ今作での悪役度合いは、例えば「インファナル・アフェア(2002)」での悪役より、もっとシンプルに悪い役なので演じていて楽しそうだ。文咏珊(ジャニス・マン)とのやり取りのシーンでは香港人同士、広東語で話していて、そういう細かい演出も楽しい。
基本的にストーリーはほとんどモスクワで行われるので、中国内での撮影だが至る所にロシア語であったりモスクワらしい風景が登場し、90年代のダンスポップが多数かかって、そういう時代感もかなり楽しめる。
余談だが、劇中では韓国か日本の偽造パスポートが重用されているのだが、日本の偽造パスポートの名義が山本五十六となっていて、苦笑してしまった。
列車強盗にバイクでの下水道アクション、そしてまさかの戦闘機まで出てきた挙げ句に、最後のもうひとつ大アクションという、アクション好きには大満足の映画に仕上がっている。警察側の諜報作戦もしっかり描かれていて盛りだくさんだ。プロットは大雑把といえばそうだし、それぞれの描写もちょっと強引ではあるが、楽しく最後まで見られるエンタメ映画になっていた。
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【トピック】
◯ 国慶節休暇に合わせた2023年9月29日に一般公開。公開初週は张艺谋(チャン・イーモウ)監督の現代劇「坚如磐石」、人気シリーズの第4作「前任4:英年早婚」、陈凯歌(チェン・カイコー)監督の戦争映画「志愿军:雄兵出击」に次ぐ興収ランキング4位。興行収入は6.64億元(132億円)。
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◯ 本作は、张涵予(チャン・ハンユー)主演・林超贤(ダンテ・ラム)監督の「オペレーション・メコン(湄公河行动、2016)」&「オペレーション:レッド・シー(红海行动、2018)」と合わせて、「国家行動3部作」の最終作という呼ばれ方もされている。
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◯ 監督の邱禮濤(ハーマン・ヤウ、画像左)はドニー・イェン主演ではない方の、デニス・トーやアンソニー・ウォンが主演している「イップ・マン」シリーズの監督として知られている。
最近では劉德華(アンディ・ラウ)主演の爆弾処理班を描いた香港映画「ショックウェイブ(2017)」&「バーニング・ダウン 爆発都市(2020)」を監督した。
それ以外に「洩密者們(2018)」や、アンディ・ラウ&ルイス・クー主演の「ホワイト・ストーム(2019)」や、アクション以外のジャンルでは「77回、彼氏をゆるす(2017)」や、チャン・シンチーとの共同監督となった中国映画「新喜劇王(2019)」などの意外な作品も手掛けている。
今年は本作以外にも、劉青雲(ラウ・チンワン)&郭富城(アーロン・クォック)&古天樂(ルイス・クー)の豪華3人主演の「掃毒3 人在天涯」、同じく古天樂(ルイス・クー)主演の「暗殺風暴」、中国映画の「绝地追击」と驚異的な4本もの監督作が公開という、尋常ではない年となっている。
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◯ 劇中ではソ連製自動車のラーダ・1200やラーダ・ニーヴァ、日本製の初代トヨタ・エスティマ、トヨタ・クラウンセダンなどが登場する。またソ連製Su-27 / Су-27 フランカー戦闘機も登場する。
张涵予(チャン・ハンユー)
◯ 中国刑警の刑事、崔振海。列車強盗捜査の指揮官としてモスクワにやって来た。
◯ 中国でトップクラスのアクションスターの一人。アクション俳優として主な作品は馮小剛(フォン・シャオガン)監督作「戦場のレクイエム(集结号、2007)」、「オペレーション・メコン (湄公河行动、2016)」、「オペレーション:レッド・シー (红海行动、2018)」、福山雅治と共演した「マンハント(追捕、2017)」など。
その後、劉偉強(アンドリュー・ラウ)監督によるシリーズ、航空パニックもの「フライト・キャプテン(2019)」とコロナ禍での医療もの「アウトブレイク(2021)」で主演し、3人のオールスター監督による朝鮮戦争を描いた大ヒット作「1950 鋼の第7中隊(2021)」と「1950 水門橋決戦(2022)」に出演した。
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刘德华(劉徳華、アンディ・ラウ)
◯ モスクワの貿易商、瓦西里(ヴァシリー)。密輸で大きな財を成してきた富豪。
◯ 言わずとしれたアジア映画のスーパースター。
最近の出演作は、香港の爆発物処理班が題材の「ショック ウェイブ(2017)」と続編「バーニングダウン(2020)」、ドニー・イェンと共演した「追龍(2017)」、堺雅人主演「鍵泥棒のメソッド(2012)」のリメイクで韓国映画「LUCK-KEY ラッキー(2016)」などと同じ関係にある良作「人潮汹涌(2021)」、そして大ヒットSF映画「流転の地球 -太陽系脱出計画-(2023)」など。
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黄轩(ホァン・シュエン)
◯ 列車強盗の実行犯リーダー、苗青山。大のクラシック好き。
◯ 馮小剛(フォン・シャオガン)監督作「芳華-Youth-(2017)」で知られる。
婁燁(ロウ・イエ)監督「ブラインド・マッサージ(2014)」での主演で知られるようになり、同年ドラマ版「紅いコーリャン(2014)」にも出演する。
以来「ミーユエ 王朝を照らす月(2015)」、「私のキライな翻訳官(2017)」、「海上牧雲記(2017)」と立て続けに人気ドラマに出演。
「芳華-Youth-」出演後も、中国共産党100周年記念のオールスター映画「1921(2021)」で主演、大ヒット作「1950 鋼の第7中隊(2021)」で毛沢東の息子役、「父に捧ぐ物語(2021)」、人気ドラマ「風起洛陽(2021)」と数多くの作品に出演している。
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文咏珊(ジャニス・マン)
◯ 列車強盗への情報提供役・真真。弟分・苗子文と付き合っている。
◯ 香港出身。「コールド・ウォー 香港警察 堕ちた正義(2016)」などに出演。今年は陈思诚(チェン・スーチェン)がプロデュース・脚本した大ヒット作「妻消えて(2023)」での非常にミステリアスな役を好演した。「唐人街探偵 東京MISSION(2021)」での長澤まさみの母役や「误杀2(2021)」など、陈思诚(チェン・スーチェン)関連の出演作が多い。
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谷嘉诚(グー・ジアチェン)
◯ 苗青山の弟分、苗子文。
◯ 肖战(シャオ・ジャン)らと共にボーイズグループ「X玖少年団(X NINE)」のメンバーとしてデビュー。その後俳優として古装劇のドラマ「華麗なる皇帝陛下(2018)」で主演、李沁(リー・チン)&秦昊(チン・ハオ)主演の「驪妃(2020)」などに出演している。
映画では梁朝偉(トニー・レオン)主演「モンスター・ハント 王の末裔(2018)」や黄晓明(ホアン・シャオミン)主演の消防士の映画「ブレイブ 大都市焼失(2019)」、本作同様に张涵予(チャン・ハンユー)主演の「アウトブレイク(2021)」、そして今年は本作の邱禮濤(ハーマン・ヤウ)監督作「绝地追击(2023)」にも出演している。
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赵炳锐(ジャオ・ミンルイ)
◯ 崔振海の部下である刑事、毛晓明。
◯ 1984年生まれ。「命运速递(2015)」でFIRST青年映画祭主演男優賞を受賞。他の主な出演作は謝君豪(ツェー・クワンホウ)主演の中国映画「英雄喋血(2011)」、娄烨(ロウ・イエ)監督「二重生活(2012)」など。
张本煜(チャン・ベンユー)
◯ 強盗グループのメンバー、一撮毛。
◯ 2013年からのドラマ「报告老板!」シリーズや「万万没想到(2013)」など、刘循子墨(リウ・シュンズーモオ)監督のドラマによく出演しており、その縁で尹正(イン・ジョン)主演のヒット作「扬名立万(2021)」に出演した。「乗風破浪(2017)」、「ペガサス/飛馳人生(2019)」と韩寒(ハン・ハン)監督作2作にも出演している。
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尚语贤(シャン・ユーシエン)
◯ 強盗グループのメンバー、赵娜。
◯ 王宝强(ワン・バオチャン)&刘昊然(リウ・ハオラン)主演の大ヒット映画「唐人街探偵 NEW YORK MISSION(2018)」でのKIKO役で知られるようになる。その後、コロナ禍を描いた「穿过寒冬拥抱你(2021)」にも出演。
ドラマ「贅婿~ムコ殿は天才策士~(2021)」にも出演している。
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劇中での使用曲
黄轩(ホァン・シュエン)演じる苗青山がヘッドホンで聴いており、その後もテーマ的に使用されるのが、ショスタコーヴィチ作曲の交響曲第5番だ。
これは、スターリンに批判され立場が危うくなったショスタコーヴィチが、起死回生のために書いたとも言われる、シンプルで高揚感が特徴の曲だ。初演も共産党20周年となる1937年に行われ、社会主義の歴史と密接に関わっている曲である。
www.youtube.com ショスタコーヴィチ 交響曲第5番「革命」第4楽章
1990年代のヒット曲が多数使われている。
www.youtube.com Boney M. - Rasputin (Sopot Festival 1979)
www.youtube.com Mao Amin 毛阿敏 - 思念
www.youtube.com 黑豹樂隊 Black Panther【Don't Break My Heart】Official Music Video
ベースとなった実話の事件
◯ 本作は実話を元に描かれている。
1993年5月26日に中国発ロシア行きのK3次列車内で、モンゴル国内を走行中は警察官が同乗していない事を利用した大規模な強盗事件が発生した。車両の個室を次々に襲い、6日間に渡って4つの強盗グループが20人以上の中国人を襲い、総額7000ドル以上の被害にあった。
事件が発生したK3/4次列車は、1959年以来、中ソ間の政情に関わらず長年運行されてきた歴史のある優等列車で、週1回、北京からモスクワまでの7,800kmを130時間をかけて走る形で運行されている。北京発がK3、モスクワ発がK4列車。なお、2020年2月5日に新型コロナ対策を名目に一旦運休となったまま、現在も再開していない。
当初は政府関係者や高級幹部が主な乗客だったが、1990年代のソ連崩壊後は物資が不足するロシアへと、多くの中国人がビジネス目的で、多額の米ドルを携えてこの列車で国境を超えていった。そういった状況下でこの事件は発生した。
K3/4次列車 - Wikipedia ※事件についても記述がある。
◯ この事件を描いた作品は、他に「新流星胡蝶剣(1993)」、「SEX&禅(1991)」などの麦当傑(マイケル・マック)監督による映画「中俄列车大劫案(1995)」や、夏雨(シア・ユー )主演のドラマ「莫斯科行动(2018)」などがある。