中国映画レビュー「フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話 中国机长 The Captain 中国機長」

 中国机长 The Captain 中国機長 フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話

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【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

 

 

中国机长フライト・キャプテン


《中国机长》终极预告(张涵予 / 欧豪 / 杜江 / 袁泉)【预告片先知 | 20190930】


チャン・ハンユー×アンドリュー・ラウ監督の超弩級スカイ・パニック・アクション『フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話』予告

 

【スタッフ & キャスト】

2019年 中国
監督: 刘伟强(劉偉強、アンドリュー・ラウ)
出演: 张涵予(チャン・ハンユー)欧豪(オウ・ハオ)杜江(ドゥー・ジアン)袁泉(ユエン・チュアン)张天爱(チャン・ティエンアイ)李沁(リー・チン)

 

 

【ストーリー】

四川航空3U8633便はチベット・ラサへと向かう飛行中に操縦席の窓ガラスが突如破損するトラブルが発生する。
高度9800メートルでの事故により気圧と温度は大幅に低下し、計器も使用不能に陥る中パイロットたちは必死でコントロールを試みる。
酸素マスクが垂れ下がり大混乱の客室でも、客室乗務員が乗客を必死で誘導しながら、クルーへの信頼を勝ち取り無事に着陸するまでの奇跡を描く。

 

【感想】

見終わって「ああ良い映画だった」と素直に思える素晴らしい映画だった。
真に見ごたえのある映像、抑えた演出、わかりやすいテンポの良さ、クルーたちのキャラクター、良い仕事をする豪華な脇役たち…挙げるべき点は幾つもある。今の中国映画の美点を知るには最良の一本ではないだろうか。
まずこの題材をたった9ヶ月で完成させた手腕が驚異的だ。費用だけの問題では無いのは容易に想像がつく。また、テンポがとても良い。朝3時のクルーの出勤~搭乗前のクルー~機材の準備~テイクオフと、普段利用しながら見ることが無い「航空機が出発するまで」の裏側を、オープニングからわかりやすく見せてくれ、クルー全員がただの給仕でもなく、"綺麗どころ"の役割でもなく、保安要員として飛行機の安全運行を司る役割である事の重要性を、再認識させつつスピーディに見せてくれて楽しい。このシークエンスが後の事故発生の場面できっちり効いてくる。
クルー達のキャラクターも、男女問わず基本的には仕事に熱心でありながら、なおかつそれぞれの個性も豊かな様子を描いていて、それぞれの会話も面白い。印象的なセリフが幾つも登場する。
CAチーフである袁泉(ユエン・チュアン)による緊張感あるシーンでの

「私達は皆、誰かの息子や娘、父や母です。ご家族は皆帰りを待っています。全員で帰りましょう。」

というセリフには泣いた。
本作は、いわゆる"愛国映画"ビッグ3のひとつと呼ばれたが、見た感じでは"愛国的"演出は過剰には思わなかった。強いて言うなら、チベットが目的地なためか、極めて自然にチベット系の人物やカトマンズの風景が何度も挿し込まれる点くらいか。おそらく、題材が既に"言わずとも愛国的"だから更に演出で煽る必要はない、という適切な判断があったからだろう。この題材を選び、建国70周年の"この時期"に公開にこぎつけた判断は、正直慧眼と言わざるを得ない。
そういった鼻につく演出もなく、文句なく感動作であるこの映画は、ぜひ日本でも本格公開して多くの人に見てほしい。

自分の2019年版中華系映画ベストテンでは堂々1位に入れた。

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【トピック】

○ 2018年5月に発生した実際の事故を元にした映画である。

○ 今年の国慶節の、建国70周年を祝う”愛国映画”ビッグ3のひとつ(あと2つは「我和我的祖国」「攀登者(クライマーズ)」)。2019年の中国年間興収ランキングでもハリウッド映画を含む総合順位で5位を記録した(中国映画なら4位)。

○ とてつもない短期間で制作されている。この事故はわずか映画公開11ヶ月前に発生。そこから2ヶ月半で既に脚本の準備稿が国家映画局に承認されている。5ヶ月後の1月にクランクインから2ヶ月でクランクアップ。そこから1ヶ月後の4月には北京国際映画祭で上映されている。本公開は9月30日であった。

○ リアルな”飛行体験”を映像化するため、3億元(約47億円)をかけて原寸大のエアバスA319の模型を制作し、高度9800mの飛行を再現した。更にハリウッドの「スターウォーズ」シリーズ、「キャプテンアメリカ」などを手掛けた特殊効果チームを招聘した。

○ 制作前に、张涵予(チャン・ハンユー)、袁泉(ユエン・チュアン)らは実際にパイロットと面会し当時の状況をインタビューした。また、パイロット役、クルー役ともに訓練を受けてから撮影に臨んでいる。特にパイロット役の3人は撮影日の午前中は飛行理論の座学を受け、午後に撮影に臨んでいた。また欧豪(オウ・ハオ)の顔面の特殊メイクは準備に3時間に及び、アレルギーによって発疹が発生したが撮影を続行した。

○ 監督の刘伟强(劉偉強、アンドリュー・ラウ)は香港出身。「インファナル・アフェア」シリーズ「風雲 ストームライダーズ(1998)」「頭文字D THE MOVIE(2005)」などで知られる。

 

 

张涵予(チャン・ハンユー)

○ 機長役の张涵予(チャン・ハンユー)は中国でトップクラスのアクションスターの一人だ。「戦場のレクイエム(集结号、2007)」「オペレーション・メコン (湄公河行动、2016)」「オペレーション:レッド・シー (红海行动、2018)」「マンハント(追捕、2017)」など。

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杜江(ドゥー・ジャン)

○ 第2機長役の杜江(ドゥー・ジャン)は「オペレーション・レッドシー(红海行动、2018)」でブレイクした。今年は本作以外にも「烈火英雄 The Bravest 烈火英雄 ~戦士達に贈る物語~」や中国建国70周年映画「私と私の祖国(我和我的祖国、2019)」など話題作に続々出演している。

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欧豪(オウ・ハオ)

○ 副操縦士役の欧豪(オウ・ハオ)は「ひだりみみ(左耳, 2015)」で知られるようになった。杜江(ドゥー・ジャン)と同じように「烈火英雄」「我和我的祖国」などに出演して活躍を始めている。

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袁泉(ユエン・チュアン)

○ 客室乗務員のチーフ役である袁泉(ユエン・チュアン)は「舞台劇の女王」と呼ばれている。主な出演作は「美丽的大脚(2002)」「ラスト・シャンハイ(大上海、2012)」「いつか、また(后会无期、2014)」など。

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张天爱(チャン・ティエンアイ)

○ 张天爱(チャン・ティエンアイ)は、2015年にネットドラマで有名になった女優で、翌年にはRenovo、ハーゲンダッツ、ロレアルパリなどのブランドCMに出演。高校時代に日本に留学している。映画では「君のいる世界から僕は歩き出す (从你的全世界路过、2016)」「空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎(2017)」など。

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李沁(リー・チン)

○ 李沁(リー・チン)は2008年にドラマのオーディションから芸能界入り。特に広告業界でよく知られており、シャネル、ジバンシー、アルマーニ、ロレアル、コーセー雪肌精、SK-IIなどなど、錚々たるブランドのCMに出演している。

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その他

○ 脇役にも錚々たる俳優たちが出演している。杜江(ドゥー・ジアン)の恋人役にはアンジェラ・ベイビー(Angelababy)、空港での救急隊副主任に吴樾(呉樾、ウー・ユエ)、空軍の管制官役に余皑磊(ユー・アイレイ)などなど。

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○ 第32回東京国際映画祭の中国映画週間でゴールドクレイン賞(金鶴賞)最優秀作品賞、最優秀男優賞を受賞。

○同じ監督・スタッフ・主演によるシリーズものの2作目「中国医生」が7月に公開された。新型コロナ発生時の医師たちの奮闘を描く。

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