流転の地球 -太陽系脱出計画- 流浪地球2 The Wandering Earth 2: 豆瓣
流転の地球 -太陽系脱出計画- - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
絶対に映画館で見るべき圧倒的映像。吴京(ウー・ジン)&劉徳華(アンディ・ラウ)がヒーロー的&SFサイコ的の対象的な物語を展開する、両面作戦的な映画。そのせいで長かった!(2時間53分)
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【スタッフ & キャスト】
2023年 中国 173分
監督: 郭帆(グオ・ファン)
出演: 吴京(ウー・ジン)、刘德华(アンディ・ラウ、劉徳華)、李雪健(リー・シュエチェン)、沙溢(シャー・イー)、宁理(ニン・リー)、王智(ワン・ジー)、朱颜曼滋(シュ・ヤンマンツー)
【あらすじ】
2044年、太陽の巨大化により太陽系全体が消滅のおそれにある事が判明する。国際地球政府は地球に大量のロケットを設置し、地球ごと太陽系から離脱する事を計画する。
妻共々宇宙飛行士で、現在は国際宇宙ステーションで任務に就く刘培强【吴京(ウー・ジン)】や、妻と娘を事故で亡くした過去を持つ量子科学研究者の图恒宇【刘德华(アンディ・ラウ)】、連合政府中国代表大使の周喆直【李雪健(リー・シュエチェン)】らは、それぞれの立場からできる限りを尽くして地球の危機を救うべく奮闘する。
【感想】
★★★★★ 星5
圧倒的と言うほか無い。画面いっぱいに広がる精緻な映像美と、前作より遥かに練り込まれたストーリー。2023年現在の中国映画の最高技術が詰め込まれた、絶対に映画館の大画面で体験してほしいタイプの映画だ。しかし、前作より登場人物を深く描いて遥かにSF小説らしさが増したが、相当な長尺(2時間53分)でもあり、人を選ぶ作品ではある。
なにはなくとも映像に尽きる。もはやアトラクションと言える、しっかりとデザインされた非常に精緻な画面がどこまでも続く圧倒的な映像。オープニングを見ながらこんなにワクワクする体験はそうそうあるものではない。たとえば吴京(ウー・ジン)と師匠が戦闘機で廃墟のような地上から飛び立ち、巨大で壮観な地球エンジンの建設現場をかすめながら基地へと帰還するシーン、また彼が宇宙エレベーターに乗り込み、蹴飛ばされるような加速(9G!)で宇宙空間へと向かっていく際のカメラワークなど、映画館で見ていると思わず「これはヤバい…」と声が出るような、本当に酔いしれるような気持ちの良い瞬間であった。
ストーリーは基本的に前作「流転の地球 流浪地球(2019)」と同じ設定だ。太陽の危機とそれから逃れるための地球エンジンを多数設置して、地球を太陽系軌道から離脱させる、その計画にまつわる人々の話である。前作と同様、原作は設定だけに近く、一部分にフォーカスしたような切り取り方になっていて、切り取る部分は前作より少し前の時点だ。今作は前作とは違う人物、違う舞台で、更に作中のメインキャラもお互いに殆ど関わることがない、別の場所のストーリーだ。そして前作について簡単に言えば、映像は素晴らしいが「アルマゲドン(1998)」的な、結局は気合と火事場の馬鹿力でなんとかするような話で、SFで気になるロジックとか整合性とかは"そういう面倒くさい事はいいんだよ"と言いたげな感じの少々残念な映画だった。
今回もそういう面も多少残ってはいる。そもそも地球エンジンの理屈も、映像で見るとなおさら荒唐無稽ではあるし、それ以外にも観ていてノイズになるような論理の矛盾とか、おかしな理屈による引っ掛かりはまだまだ散見できた。筆者のような前作を知っている者ですらそう思うので、予備知識なしに見るとイラっとする方は一定数いるだろう。とはいえ、前作と比べれば比較にならないくらい改善されているのも間違いない。個人的には、もう前作は忘れても良いと思ったくらいだ。前作が映像に全振りして作っていたのだとしたら、今回はもっと映画としてバランスを考えて作られていると感じた。
今回は、登場人物の描写に相当力が入れられていて、長い上映時間も、何ならそれを見せるためと言えるほどだ。【吴京(ウー・ジン)と妻】、【刘德华(アンディ・ラウ、劉徳華)と失われた家族】、それに【李雪健(リー・シュエチェン)の中国大使と連合政府の人々】という、この3人にまつわる物語が語られる。中でもアンディ・ラウにまつわる物語がとても内省的で、SF小説的でもあり、前作との印象を大きく変える要素にもなっている。前作に好印象を持った観客は吴京(ウー・ジン)のストーリーを楽しみ、不満を持った観客はアンディ・ラウのストーリーを楽しめるという狙いだろうか。
ただし、その二人分のストーリーという両面作戦のお陰で、上映時間は正直長過ぎると感じるレベルになった。どちらのストーリーもしっかり描かれてはいるが、少し端折り気味にもなっているし、情報量は増えてこんがらがるし、冗長だが理解が追いつかないという場面が出てきていたように感じる。2人のストーリーはそれぞれで別の作品として作った方が良かったんじゃないだろうか。
前作と同じ内容で作る続編が可能だったならば、いっそ同じ時間軸の別キャラを描くシリーズものも可能だと思えるし、この調子でさらに技術もアップデートさせながら同じ時間軸の続編も見てみたい。
中国映画レビュー「流転の地球 流浪地球 The Wandering Earth」 - daily diary
【トピック】
○ 春節に合わせて2023年1月22日に中国・北米で同時公開。公開初週に興収ランキング1位を記録するも、张艺谋(チャン・イーモウ)監督作「满江红(マンジャンホン)」が翌週から上回る。その後改めて4、5週と1位を奪取し計3週1位を獲得。
興行収入は、中国内だけで2ヶ月半後の4月初頭に40億元(780億円)を突破し、中国映画史上10位の興収を記録した。その他中国外の興収も5.6億ドル(750億円)を超えている。
2023年の中国映画の総合興収ランキングで2位となった。
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◯ 2024年3月22日から日本公開予定。
◯ 筆者は本作を2023年中国/香港映画の個人的ベストの2位に選出した。
○ 全編IMAX撮影を謳っているが、更にポスターなどで表示されている「CINITY」とは、中国独自の華夏電影影院システムという映写システムで、4K/3D/120fpsでHDR対応というドルビーシネマを凌駕する高画質を標榜している。2019年に発表し、既に中国内に対応映画館が50館以上登場している。
本作はIMAXとCINITYに加え、2D、中国巨幕、4Dmovie、MX4D、ドルビーシネマ、4DXの各仕様で配給している。中国巨幕(CGS)は画質等の独自技術は無く通常より大型のスクリーンに映写する形で、安価で楽しめる仕様になっている。
○ 監督の郭帆(グオ・ファン)は、前作「流転の地球 流浪地球(2019)」までは周冬雨(チョウ・ドンユィ)主演の「同桌的妳(2014)」程度しか知られていなかったが、前作を制作する際に全財産を投じ、更に吴京 (ウー・ジン)のノーギャラ出演&出資を受けて、特大ヒット作の完成へとこぎ着けた。その後朝鮮戦争を描いた「バトル・オブ・ザ・リバー 金剛川決戦(2020)」に 管虎(グェン・フー)、路阳(ルー・ヤン)らと共同監督し、今作制作へと着手した。
大ヒット作「万里归途(2022)」の饶晓志(ラオ・シャオジー)監督と仲が良く、彼の前作であるアンディ・ラウ主演「人潮汹涌(2021)」の劇中では、郭帆(グオ・ファン)監督が映画監督役でカメオ出演し、さらにアンディ・ラウが宇宙服姿でSF映画に出演するという、まるで本作出演を予告するようなシーンがある。
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原作:劉慈欣 (刘慈欣 リュウ・ジキン)
○ 前作「流転の地球 流浪地球(2019)」と同様、アジア人初のヒューゴー賞受賞者のSF作家であり、大ヒット小説「三体」で知られる劉慈欣 (刘慈欣 リュウ・ジキン) による同名短編小説が原作となっている。ただし内容は原作から大きく改変されている。
なお、「三体」は今年1月から中国でドラマが放映されているし、一方でNetflixも大ヒットドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のクルーによって欧米人キャストで別に制作しており、今年放映の予定だ。
劉慈欣作品が原作の映画は、2019年の春節映画となった黄渤(ホァン・ボー)、沈腾(シェン・トン)主演の「疯狂的外星人(2019)」もある。
吴京(ウー・ジン)
○ 軍所属の宇宙飛行士、刘培强。妻の韩朵朵とは共に宇宙飛行士であり、宇宙エレベータープロジェクトの中で出会った。
○ 中国アクション映画のスーパースター。あらゆる有名アクション映画に出演しているだけでなく、最近は「万里归途(2022)」のように、むしろゲスト的に本人的キャラとして登場する事も多く、もはやアイコンと化している印象だ。本作の前作「流転の地球」制作時は志に共鳴してノーギャラ出演&出資するなど、人柄も尊敬を集めている。また、本作と同時期公開の春節映画「中国乒乓之绝地反击(2023)」にも出演して裏被りしている。
「ウルフ・オブ・ウォー(2015)」、「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー(2017)」のシリーズ、「SPL/狼よ静かに死ね(2005)」、「ドラゴン×マッハ!(2015)」、朝鮮戦争が舞台で豪華3大監督共作の「1950 鋼の第7中隊(2021)」とその続編「1950 水門橋決戦(2022)」など。
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刘德华(アンディ・ラウ、劉徳華)
○ 量子化学の研究を行う数学者でもあるエンジニアの图恒宇。家族を事故で失っている。
○ こちらは香港が誇るアジア映画のスーパースター。本人が出演を希望したとの話もある。
最近の出演作は、香港の爆発物処理班が題材の「ショック ウェイブ(2017)」と続編「バーニングダウン(2020)」、ドニー・イェンと共演した「追龍(2017)」、堺雅人主演「鍵泥棒のメソッド(2012)」のリメイクで韓国映画「LUCK-KEY ラッキー(2016)」などと同じ関係にある良作「人潮汹涌(2021)」など。
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王智(ワン・ジー)
○ 刘培强の妻、韩朵朵。
○ 大人気喜劇集団・開心麻花の初期の作品にはよく出演していて、彼らの初映画作品「夏洛特烦恼(2015)」や「恥知らずの鉄拳(2017)」、「人间·喜剧(2019)」などに出演している。人気オーディション番組「乘风破浪的姐姐(2020)」第一期にも出演していた。
前作「流転の地球」に出演し、今作もより大きな役で続投となった。
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佟丽娅(トン・リーヤー)、王若熹
○ 图恒宇の妻と、娘の图丫丫。二人は事故で既にこの世を去っている。
○ 佟丽娅(トン・リーヤー)は、言わずとしれた美人女優。新疆ウイグル自治区出身で、大ヒットドラマ「宮 パレス 〜時をかける宮女〜(2010)」で知られる。ヒット映画「唐人街探偵」シリーズで知られる陈思诚(チェン・スーチェン)と結婚したが離婚。最近は夫が関わる作品に出演することが多かったが、雷佳音(レイ・ジャーイン)とのタイムスリップコメディ映画「ルームシェア~時を超えて君と~(2018)」はおもしろかった。
○ 娘の图丫丫(トゥヤヤ)は、物語のキーとなる存在だ。演じた子役・王若熹はこれが映画デビュー作。
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宁理(ニン・リー)
○ 科学者の马兆。太陽系から離脱する「流浪地球プロジェクト」の中心的役割を担って、量子コンピュータ550Cを使って月を地球の引力から離脱させる計画に携わる。
○ 「バーニング・アイス -無証之罪-(2017)」や「ロング・ナイト 沈黙的真相(2020)」、「バッド・キッズ 隠秘之罪(2020)」など、最近の人気サスペンスドラマにはかなり頻繁に出演している。中国版のだめカンタービレ「キミと奏でる交響曲(2020)」や古装劇「燕雲台-The Legend of Empress-(2020)」などにも出演。
映画では、全編上海語の良作「白さんは取り込み中(2021)」に出演していた。
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李雪健(リー・シュエチェン)
○ 国際地球政府中国代表大使、周喆直。多くの意見や反対運動で議論が進まない中、強力にプロジェクトを進めていく。この役名は郭帆(グオ・ファン)監督の中学時代の恩師の名前。
○ 1980年代からの長いキャリアを持ち、「焦裕禄(1990)」や「杨善洲(2011)」などで多くの賞を受賞している。1996年に大型ドラマとして作られた「水滸伝 永遠なる梁山泊」で主演。他に馮小剛(フォン・シャオガン)監督「1942(2012)」や張芸謀(チャン・イーモウ)監督「上海ルージュ(1995)」にも出演している。
昨年秋のヒット作「万里归途(2022)」でも、中国大使という似たような役を演じている。
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朱颜曼滋(シュ・ヤンマンツー)
○ 国際地球政府中国代表の外交官、郝晓晞。家族から離れて周喆直をサポートし、地球を救うことを決意する。
○ 名前からもわかるように、古力娜扎(グーリーナーザー)などと近い内モンゴル自治区出身のモンゴル族俳優。青春ドラマ「小情书(2017)」の主演で知られるようになる(ちなみに主題歌は、あの中孝介である)。フー・ボー監督の映画「象は静かに座っている(2018)」や主演ドラマ「暗恋橘生淮南(2019)」、「私のバビロンの恋人(2021)」などがある。
沙溢(シャー・イー)
○ 刘培强の恩師である张鹏は、口は悪いが気は優しい、典型的な職人気質な宇宙飛行士。
○ ドラマでは大作「三国志 Three Kingdoms(2010)」への出演が知られている。映画では「項羽と劉邦 鴻門の会(2012)」など。先ごろ日本公開された張芸謀(チャン・イーモウ)監督「崖上のスパイ(2021)」にも出演していた。
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施設・機器ビジュアル
本作ではオリジナルデザインで様々な巨大施設や構造物、デバイスや機器類が登場してくるが、ビジュアルでもそれらの多くを紹介している。