ライド・オン - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
老境に達したジャッキーをうまく活かした設定のハートウォーミングな良作。彼の穏やかな演技の良さが心に残るが、スタントマンの裏側を考えさせるリアリティも隠し持つ。


www.youtube.com Ride On (2023) 龙马精神 - Movie Trailer - Far East Films
www.youtube.com 映画「ライド・オン」本予告60秒 5月31日(金)全国公開
【スタッフ & キャスト】
2023年 中国 126分
監督: 杨子(ラリー・ヤン)
出演: 成龙(成龍、ジャッキー・チェン)、刘浩存(リウ・ハオツン)、郭麒麟(グオ・チーリン)、吴京(ウー・ジン)、余皑磊(ユー・アイレイ)、容祖儿(容祖兒、ジョイ・ヨン / ジョーイ・ユン)
【あらすじ】
かつて香港映画界伝説のスタントマンと言われた罗智龙(ルオ・ジーロン)【成龙(成龍、ジャッキー・チェン)】。現在は第一線から退き、愛馬の赤兔(チートゥ)とともに、エキストラなどの地味な仕事をこなす日々を送っている。
債務トラブルをきっかけに、赤兔(チートゥ)が競売にかけられることとなったルオは、苦肉の策で遠縁になっていた法学部の学生である一人娘の小宝(シャオバオ)【刘浩存(リウ・ハオツン)】に助けを求める。そんな罗(ルオ)に、愛馬との共演というスタントマンのオファーが舞い込んでくる。年齢的にも危険をともなう撮影だったが、罗(ルオ)は赤兔(チートゥ)を守るため、危険なスタントシーンに挑戦していくこととなる。
映画.comより
【感想】
老境に達したジャッキーをうまく活かした設定のハートウォーミングな良作。彼の穏やかな演技の良さが心に残るが、スタントマンの裏側を考えさせるリアリティも隠し持つ。
生ける伝説・ジャッキー・チェンも、はや70歳を越え、本作の時点でも60代後半と、もはやアクションスターとしての映画を撮るのは現実的ではない年齢だ。日本での映画公開も少なくなっているが、中国では未だに毎年ジャッキー映画は作られ公開されている。もはや香港での映画製作ではなく中国で作られているのは、昨今の共産党に寄り添った言動からの、香港での人気低下が一因だろう。
そういう点もあって、最近の彼の出演作は他の香港映画の流れとも、中国の映画の主流とも少し離れた、ジャッキー映画独自の作り方みたいなものが感じられて、キャスティングとか監督選びとかからも、筆者の様に現代の中国や香港の映画を普段から見ている者には少々取っつきにくい映画になりつつあった。本作の前に見たのは「ポリス・ストーリー/REBORN(2017)」以来だ。

本作は久しぶりに中国映画らしい無理せず地に足の着いた作りになっている印象もあって、小品に見えるかもしれないが良くできた映画だった。
まず、きっちりアクションシーンが用意され、素直に彼のアクションを堪能できる。シーンは多くないとはいえ、観客の求めに応える彼らしい誠実さが嬉しい。
そしてなによりも、老いたスタントマンという本作の設定が、現実の彼とリンクして早々から切なくさせられるし、于荣光(ユー・ロングァン)や安志杰(アンディ・オン)などの周囲を固める脇役にも、ジャッキーとの関わりのある俳優達がキャスティングされ、そこからもまた現実とストーリーが自然に重なってきてしまい、ついつい胸に迫ってくる。
本作はもう、ここら辺が固まった時点で概ね目論みは達成しているようなもので、それも見越してか、監督も必要以上にこねくり回さずにシンプルなストーリーにしてあるのがまた良い。
そこに馬の相棒という、これまたとても可愛らしい助演が素晴らしい演技をしてくれていて、この子のお陰でより一層映画が楽しく切なく良いものになっていて、とっても満足して見終われた。

老いたスタントマンという設定は、例えばつい最近公開された香港映画「スタントマン 武替道(2024)」や素晴らしいドキュメンタリー「カンフースタントマン 龍虎武師(2021)」にも通じる、中華アクション映画で最近再び取り上げられるテーマでもある。それをレジェンドのジャッキー、そして現役トップの吴京(ウー・ジン)が向き合って話しているという、ここだけ見たら現実のインタビュー場面みたいにすら見えてしまう、少々生々しい場面ですらある。劇中でも「カンフースタントマン」で何度も出た「スタントマン never say NO(絶対NOと言わない)」の台詞も登場する。彼の元で働いている樱子(インズ)の惨劇という、まさに心配が現実になる場面など、過去のジャッキーや彼のスタントチームも何度も遭遇した場面であろう。うっすらと漂うリアリティの重みがある。
ジャッキー・チェンのキャラクターをうまく活かした良作だが、次作「シャドウズ・エッジ(2025)」では同じく監督ながら180度違う形でジャッキーの主演映画を撮り、近作では驚異的な大ヒットとなっている。映画自体も非常に面白く、もうすぐ日本公開になるので是非ともこちらも見て欲しい。
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【トピック】
◯ 2023年4月7日に中国で一般公開。公開初週は興収ランキングで大ヒットしていた「すずめの戸締まり(2022)」に次ぐ2位となったが、翌週には1位を獲得し、その翌週にはその週から公開された「THE FIRST SLAM DUNK(2022)」にその座を譲る形となった。中国映画での次点は「ハチ公物語(1987)」の中国版リメイクである良作「忠犬八公(2023)」。興行収入は2.10億元(43.6億円)。
日本では1年後の2024年5月31日に公開された。
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◯ 監督の杨子(ラリー・ヤン)は、1981年中国・黒龍江省生まれ。アメリカ留学の後北京電影学院で映画を学び、英エジンバラ大学でも更に映画製作の研修を受ける。2011年に長編映画を初監督し、5作目の監督作「喊·山 (2015) 」が高い評価を受け台湾金馬奨にノミネートされる。ペットへの愛情を描いたハートフルな映画「モフれる愛(2019)」を監督した後、本作を監督。今年、再びジャッキー・チェン主演の犯罪アクションの良作「シャドウズ・エッジ(2025)」を監督した。
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成龙(成龍、ジャッキー・チェン)
◯ かつて香港映画界伝説のスタントマンと言われた罗智龙(ルオ・ジーロン)。産まれた頃から愛馬・赤兔(チートゥ)を大切に育てている。

刘浩存(リウ・ハオツン)
◯ 罗智龙(ルオ・ジーロン)の娘だが、長らく連絡を取っていなかった小宝(シャオバオ)。法学部の学生をしている。
◯ 巨匠张艺谋(チャン・イーモウ)監督の映画「ワン・セカンド(2020)」で大抜擢され一気に知られるようになった、巩俐(コン・リー)や章子怡(チャン・ツイイー)らと並ぶ、いわゆる「谋女郎(イーモウガールズ)」の最も新しい女優。その後の監督作「崖上のスパイ(2021)」にも出演している。
デビュー当時に幾つかのスキャンダルがあったが、佳作だった易烊千玺(イー・ヤンチェンシー / ジャクソン・イー)主演の映画「送你一朵小红花(2020)」、韩寒(ハン・ハン)監督・刘昊然(リウ・ハオラン)主演の「四海(2022)」、韓国映画「君が描く光/ケチュンばあちゃん(2016)」のリメイク作「スケッチ(2024)」、今秋の東京国際映画祭出品作である姉妹の物語「ガールズ・オン・ワイヤー (2025) 」、ドラマ「脱轨 (2023) 」などなど、順調に出演を重ねている。

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郭麒麟(グオ・チーリン)
◯ 小宝(シャオバオ)の大学の先輩であり、弁護士となったばかりの卢乃华(ルー・ナイホァ)。
◯ 中国漫才・相声の芸人で俳優。父親は大人気相声団体で多くの人気芸人を輩出してもいる德云社(徳雲社)の創設者で、本人も超有名漫才師の郭德纲(グオ・ダーガン)。
1996年生まれ。15歳で学校を退学して父と同じ漫才師の道に進む。芸人としても成功し2019年のフォーブス誌での30歳以下精鋭の一人に選ばれる。
映像作品では映画「モフれる愛(2019)」、大ヒット古装劇ドラマ「慶余年(2019)」とそのシーズン2、主演作「贅婿(2021)」、ロビン・ウィリアムズ主演「ディア・ダディ 嘘つき父さんの秘密(2009)」のリメイク映画「二手杰作(2023)」などに出演している。
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吴京(ウー・ジン)
◯ アクションスター・陈元威(ユェン・ウェイ)。かつて罗智龙(ルオ・ジーロン)を慕ってスタントマンをしていた。
◯ 中国アクション映画のスーパースター。あらゆる有名アクション映画に出演しているだけでなく、最近は「万里归途(2022)」のように、むしろゲスト的に本人的キャラとして登場する事も多く、もはやアイコンと化している印象だ。
「ウルフ・オブ・ウォー(2015)」、「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー(2017)」のシリーズ、「SPL/狼よ静かに死ね(2005)」、「ドラゴン×マッハ!(2015)」でのアクションで世界的に知られるようになったし、朝鮮戦争が舞台で豪華3大監督共作の「1950 鋼の第7中隊(2021)」とその続編「1950 水門橋決戦(2022)」、陈凯歌(チェン・カイコー)監督による再び朝鮮戦争を描いた三部作の一部「志愿军:存亡之战(2024)」などもあるが、やはり最近では大ヒットSF「流転の地球(2019)」とその続編「流転の地球 -太陽系脱出計画-(2023)」での宇宙飛行士役が印象深い。

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余皑磊(ユー・アイレイ)
◯ 今も罗智龙(ルオ・ジーロン)のスタントチームの一員である虾毛(シアマオ)。
◯ 最近はますます出演作が増え、名脇役になっているが、中でも「ワン・セカンド(2020)」、「崖上のスパイ(2021)」、「满江红(2023)」など、张艺谋(チャン・イーモウ)監督作への出演が多い。
最近の映画では「交换人生(2023)」、「扬名立万(2021)」、「扫黑·决不放弃(2024)」、今作出演の刘浩存(リウ・ハオツン)が主演した「スケッチ~彼女と描いた光~(2024)」などに出演している。
ドラマでは昨年放映の大人気シリーズ「慶余年」シーズン2にも出演している。

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容祖儿(容祖兒、ジョイ・ヨン / ジョーイ・ユン)
◯ 罗智龙(ルオ・ジーロン)のスタントチームの一員である樱子(インズ)。
◯ 1980年香港生まれの大人気歌手。ビッグエコー主催のカラオケ大会からデビューし、1999年のデビュー作が大ヒットしてすぐさま人気歌手となる。以来「痛愛(2001)」や「隆重登場(2001)」など数多くのヒット曲を歌い、これまでに38枚のアルバムをリリース。中国でも強く支持されている歌手であり続けている。
映画にも陳奕迅(イーソン・チャン)主演の「百分百感覺2(2001)」や「神經俠侶(2005)」、「12金鴨(2015)」、「你咪理,我愛你!(2019)」といった賀歳片(春節映画)などに出演している。

www.youtube.com 容祖兒 JOEY YUNG《痛愛》[Official MV]
www.youtube.com 容祖兒 Joey - 我的驕傲 MV
その他の俳優
◯ 赤兔(チートゥ)を買い取る実業家・何欣(ホー総裁)を演じたのは于荣光(ユー・ロングァン)。
北京出身だがジャッキーと同じく幼い頃から京劇を学んだ正統派香港アクションのキャリアを持ち、「天山回廊/ザ・シルクロード(1987)」、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアンモンキー(1993)」、「D&D/完全黙秘(1995)」などなど、多くの香港映画で主演または敵役、特に甄子丹(ドニー・イェン)と数多く共演してきた事で知られてきた。中国では数多くのドラマ出演でも知られている。
ジャッキーとも古くから親交が深い事でも知られ、「シャンハイ・ヌーン(2000)」、「香港国際警察/NEW POLICE STORY(2004)」、「THE MYTH/神話(2005)」、「ベスト・キッド(2010)」、「ポリス・ストーリー レジェンド(2013)」といった作品で共演も数多い。

◯ 借金取り・大米(ダミー)を演じたのは安志杰(アンディ・オン)。
1977年アメリカ生まれで、母は台湾人歌手で日本でも活動した事のある金燕で、俳優を志望して香港へ渡る。徐克(ツイ・ハーク)に見出され俳優活動を開始。香港映画での演技の幅を広げるため、武術の素養は無いものの幼い頃からジャッキー映画に親しんでいた事から、少林寺で訓練を受けるなどの特訓を経て、アクション俳優として知られるようになっていく。
主な出演作は「インビジブル・ターゲット(2007)」、「酔拳 レジェンド・オブ・カンフー(2010)」、「項羽と劉邦(2011)」、「ブラッド ウェポン(2012)」などがあるが、ジャッキー・チェンとも「香港国際警察/NEW POLICE STORY(2004)」で既に共演経験がある。

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◯ 馬を引き取りに来た弁護士・李岩を演じたのは小沈阳(シャオ・シェンヤン)。中国・東北部の地方芸能であるお笑い、「二人転」と「小品」の大家である趙本山(チャオ・ベンシャン)に師事する。2009年に春節のテレビ番組「春節聯歓晩会」での小品(コント)で一躍有名になった。その後は小品を主としつつ、映像作品にも色々と出演している。主な作品は张艺谋(チャン・イーモウ)監督作「女と銃と荒野の麺屋(2009)」、「唐人街探偵 THE BEGINNING(2015)」、肖央(シャオ・ヤン)主演の「ウーマン・イン・レッド(2016)」、「西遊記 女人国の戦い(2018)」など。昨年日本で公開された王一博(ワン・イーボー)主演のダンス映画の良作「熱烈(2023)」にも出演している。

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