【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
心温まるストーリーがベースの刑事もの。
そこに市長や黒社会、出所受刑者など様々な社会の暗部が絡み合い、非道な事件の真相が明らかになっていく。昔ながらの風合いもありつつ、評判も納得の手堅い良作だ。
www.youtube.com Walk the Line (2024) 扫黑·决不放弃 - Movie Trailer - Far East Films
【スタッフ & キャスト】
2024年 中国 115分
監督: 五百（ウーバイ）
出演: 肖央（シャオ・ヤン）、余皑磊（ユー・アイレイ）、范丞丞（ファン・チョンチョン）、李诚儒（リー・チェンルー）、耿乐（ゴン・ロー）、杨皓宇（ヤン・ハオユー）、张艺凡（ジャン・イーファン）
【あらすじ】
刑事の李南北【肖央（シャオ・ヤン）】は穏やかな性格だが地道な仕事ぶりで、周囲からの信頼も厚い。幼馴染で同僚の段毅【余皑磊（ユー・アイレイ）】も彼を昇進させようと常に目をかけていた。そこへ長く逃亡していた凶悪犯が帰国し逮捕される。未解決事件の捜査が再び進み始めるが、李南北はそこである事に気づくのだった。
【感想】
心温まるストーリーがベースの刑事もの。
そこに市長や黒社会、出所受刑者など様々な社会の暗部が絡み合い、非道な事件の真相が明らかになっていく。昔ながらの風合いもありつつ、評判も納得の手堅い良作だ。
例えば张艺谋（チャン・イーモウ）監督の「坚如磐石（2023）」なども思い起こす、元ネタがありそうな社会派な事件が進行し、胸が痛む被害者が何人も発生する。だが、映画の焦点はむしろ肖央（シャオ・ヤン）が演じる主人公の刑事・李南北の心情にフォーカスされていて、例えば「踊る大捜査線」シリーズの青島刑事のように、あくまでも人の心が通った者同士の物語として描かれている。そのバランスがいかにも中国映画らしくもあり、この映画が少しクラシックな印象をもたらす理由のひとつでもある。
ストーリーは少し込み入っていて、そのお蔭で飽きない展開とは言えるのだが、2時間で描ききるにはちょっと頭が忙しく感じるかもしれない。誰が事件の首謀者か、全容はいったいどうなっているのか、様々な関係者はどう繋がっているのか、最後まで予想もできない展開が続く。
その中でもやはり際立っているのは、1人だけ"らしくない"存在として警察組織にいる主人公・李南北だ。常に謙遜し、悪者への激しい怒りなど見せない飄々とした存在。幼馴染の段毅がしきりと気にかけてくれるのに、出世にも興味を示さない。一方で皆の視線からこぼれ落ちる人々は決して見落とさず、つい彼らのそばに寄り添う事を優先してしまう。
例えば「シスター 夏のわかれ道（2021）」なんかでも見せる、肖央（シャオ・ヤン）の一見頼りなげなあの雰囲気が、まさに今作の主人公に相応しい素晴らしいキャスティングだし、または、「三大队（2023）」での张译（チャン・イー）が演じる、何年も何年もひたすら犯人を追い続ける一本気な主人公なども思い起こさせる、泥臭さにまみれた中でキラキラと輝く美しい心根を持つ男の物語だ。
できるだけ残酷な描写は抑えてあるものの、ストーリー上、どうしても気持ちが荒む可能性はあるので、そうした点を踏まえて見る方が良いかもしれない。
とはいえ、本国での好意的な評価も納得の、手堅くしっかりと作られた良質な映画であった。
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【トピック】
◯ 中国全土で2024年5月31日に先行上映、6月8日から一般公開された。一般公開初週の興収ランキングは、ヒットドラマ「ママと同級生（2020）」の映画版「我才不要和你做朋友呢 (2024) 」に次ぐ2位となった。なお同じ週に胡歌（フー・ゴー）主演「最高でも、最低でもない俺のグッドライフ」が公開され、5位につけている。興行収入は1.93億元（41億円）と1億元超えのヒット作となった。
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◯ 今作は、EXOレイらが主演してヒットした刑事ドラマ「扫黑风暴 (2021) 」の監督によって作られた「映画版的」な位置づけの作品となるが、それぞれストーリー、キャストなどの関連は無い。
◯ 監督の五百（ウーバイ）は1980年吉林省生まれ。監督したネットドラマ「刷车 (2012) 」で映画賞を受賞。その後、弧光联盟という映像制作のエージェント組織を結成。
以来、映画では「ビッグ・ショット（2019）」、ドラマでは「画江湖之不良人 (2016) 」、「古董局中局 (2018) 」、「逃れられない運命（2020）」などを監督。ヒットドラマ「デイ･アンド･ナイト（2017）」をプロデュースしている。
また先ごろ公開された吴磊（ウー・レイ）主演の映画「西湖畔に生きる（2024）」では警官役で出演もしている。
この10月の国慶節に公開され大ヒットした「浴火之路 (2024) 」が最新監督作となる。
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肖央（シャオ・ヤン）
◯ 刑事警察大隊長・李南北。真面目な仕事ぶりが評価されているが、本人は昇進を望んでいない。
◯ 元々は筷子兄弟という音楽デュオの一人だが映画にもよく出演しており、「老男孩 (2010)」では出演と主題歌も歌ってヒットした。ちなみに主題歌はスキマスイッチ大橋卓弥の「ありがとう」の中国語版である。
最近は「唐人街探案」シリーズ中2作、そして名作「シスター 夏のわかれ道（2021）」に出演しているので、ここでの存在感が大きい。また「共謀家族（2019） 」と続編「误杀2（2021）」や、「人潮汹涌（2021）」など数多くの主演作がある。
今年は本作以外にも、中国で公開された宮崎駿監督作「ハウルの動く城（2004）」での国王役の声を担当、刘昊然（リウ・ハオラン）主演の「デクリプト（2024）」にも出演している。
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余皑磊（ユー・アイレイ）
◯ 公安副局長・段毅。李南北の幼馴染であり、先に昇進しているものの親密な仲を保っている。
◯ 最近はますます出演作が増え、人気者になっているが、中でも「ワン・セカンド（2020）」、「崖上のスパイ（2021）」、「满江红（2023）」など、张艺谋（チャン・イーモウ）監督作への出演が多い。
最近の映画では「交换人生（2023）」、「扬名立万（2021）」、ジャッキー・チェン主演作「ライド・オン（2023）」、「スケッチ～彼女と描いた光～（2024）」などに出演している。
ドラマでは今年放映の「慶余年」シーズン2にも出演している。
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范丞丞（ファン・チョンチョン）
◯ 李南北の部下・俞青。
◯ オーディション番組「偶像練習生（2018）」で勝ち残り、番組から結成されたアイドルグループNINE PERCENTのメンバーとして芸能界のキャリアをスタート。1年の期間限定活動後は、ソロとして楽曲の発表や映画・ドラマへ出演している。姉はなんとあの女優・范冰冰（ファン・ビンビン）である。
主な出演作はドラマ「ウィッシャー 致命的な願い（2021）」や「The World of Fantasy 灵域 (2021) 」、映画では「门锁 (2021) 」、「了不起的夜晚 (2023) 」、そして乔杉（チャオ・シャン）主演の大ヒット・コメディ「人生路不熟 (2023) 」、そして今年の大ヒット春節映画「飞驰人生2（2024）」などがある。
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李诚儒（リー・チェンルー）
◯ 公安局長の于洪波。
◯ 俳優としても冯小刚（フォン・シャオガン）監督作「ハッピー・フューネラル（2001）」やドラマ「过把瘾 (1994) 」や「东边日出西边雨 (1995) 」、「重案六组 (2001) 」など数多くの作品に出演、自身の監督作品も7作ほどある。最近はテンセントが放映した俳優のリアリティ番組「演員請就位（2019～2020）」で審査員として出演して人気がある。開心麻花のSFコメディ「月で始まるソロライフ（2022）」や「二手杰作（2023）」にも出演していた。
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耿乐（ゴン・ロー）
◯ 事件の容疑者・曹小军。李南北によって国境付近で捉えられ入院中。
◯ 今年映画「ブラックドッグ（2024）」を公開した管虎（グェン・フー / グァン・フー/クワン・フー）監督による主演映画「头发乱了 (1994) 」でデビュー。だが、同年に出演した名作の誉れ高い中港合作「太陽の少年（1994）」での、主人公の兄貴分・イクー役で一気に知られることとなった。
映画「开往春天的地铁 (2002) 」、「天使は白をまとう（2017）」などで映画賞を受賞。その他「面引子 (2011) 」、「疯狂72小时 (2014) 」、「1950 鋼の第7中隊（2021）」と続編の「1950 水門橋決戦（2022）」、「1921（2022）」、ドラマでは「長歌行（2021）」、「天才基本法（2022）」などに出演。
今年は本作の後に公開された、葛优（グォ・ヨウ）と王俊凯 （ワン・ジュンカイ）主演の「刺猬 (2024) 」にも出演している。
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杨皓宇（ヤン・ハオユー）
◯ 炭鉱事故の責任を問われ10年間服役していた刘小满。行方不明の娘を探している。
◯ 1974年生まれで芸歴も長いが、日本に入っている出演作は王兵監督の映画「無言歌（2010）」ほどであった。
その後、映画「流転の地球（流浪地球、2019）」への出演から昨年のヒットSF映画「宇宙探索編集部（2023）」の主演へと繋がる。
以来、沈腾（シェン・トン）主演の「月で始まるソロライフ（2022）」、尹正（イン・ジョン）主演のミステリー「扬名立万（2021）」、ドラマでは张若昀（チャン・ルオユン）主演の「雪中悍刀行（2021）」、昨年末の王家衛（ウォン・カーウァイ）が監督した「繁花 (2023) 」などがあり、今年は张艺谋（チャン・イーモウ）監督の最新映画「第二十条（2024）」にも出演と、いまや人気俳優の一人となった。
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张艺凡（ジャン・イーファン）
◯ 刘小满の娘・刘满月
◯ 歌手としてオーディション番組「舞蹈风暴（2019）」に出場した事から芸能界デビュー。早速、名作「少年の君（2019）」に自殺する女子高生の役で出演する。
翌年ガールズグループのオーディション番組「創造営2020」に出場し上位7名に選出。その7名で結成されたグループ「硬糖少女303」のメンバーとなり2022年の解散まで活動した。
今年から本格的に俳優として活動、本作以外にも映画「雲の上の売店（2024）」やドラマ「新生 (2024) 」などに出演している。
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その他俳優
◯ 市長・王佟晖役の焦刚（ジャオ・ガン）は、山東省出身の俳優だが1999年から何度か日本で劇団四季のミュージカルに関する研修に参加。そこから児童演劇に携わるようになり、児童演劇の監督として受賞歴も複数ある。
映画「立春 (2007) 」、「万箭穿心 (2012) 」で中国金鶏奨・助演男優賞にノミネート。その他、「So Young～過ぎ去りし青春に捧ぐ～（2013）」、「記憶の中の殺人者（2017）」、「THE CROSSING ～香港と大陸をまたぐ少女～（2018）」、上記感想の中でも触れた张艺谋（チャン・イーモウ）監督作「坚如磐石（2023）」など。ドラマでは「叛逆者（2021）」や「去有风的地方 (2023) 」などに出演している。
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◯ 黒社会の大物・黎太平役の石兆琪（シー・ジァオチー / シー･チャオチー）は、1958年生まれ。80年代から数多くの作品に出演している。
最近の出演作には映画「风声 (2009) 」や「ウルフ・オブ・ウォー（2015）」と続編「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー（2017）」、大ヒットドラマ「狂飆（2023）」などがある。
◯ 事件の関係者であった宋根发役の刘欢（リュウ・ホァン）は、2000年頃から俳優としてのキャリアを開始。「你在微笑我却哭了 (2004) 」、「离婚律师 (2014) 」、「三国志〜司馬懿 軍師連盟〜 第一部（2017）」、「春を待ちわびて（2023）」など、数多くのドラマに出演。
映画では「门锁 (2021) 」や、张诒谋（チャン・イーモウ）監督の娘・张末（チャン・モー） 監督によるサスペンス「拯救嫌疑人（2023）」、そして今年は本作の前に公開されたハートフル・ストーリー「スケッチ～彼女と描いた光～（2024）」などがある。
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