【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
シンプルなストーリー展開、ハードなエピソードもあるがハッピーエンドで、主人公の幸せを祈らずにはいられない心温まる映画。
韓国映画「君が描く光/ケチュンばあちゃん(2016)」のリメイク。韓国初のアカデミー受賞女優・ユン・ヨジョンと「トッケビ」のキム・ゴウンが主演。
www.youtube.com 【刘浩存】电影《灿烂的她》「告白」版终极预告 | Movie "Remember Me" Final Trailer
【スタッフ & キャスト】
2024年 中国 116分
監督: 徐伟(シュー・ウェイ)
出演: 惠英红(恵英紅、ワイ・インホン、カラ・ワイ、クララ・ワイ)、刘浩存(リウ・ハオツン)、张子贤(チャン・ズーシェン)、刘欢(リュウ・ホァン)、苇青(ウェイ・チン)、刘奕铁(リウ・イーティエ)
【あらすじ】
祖母である江秀枝(ジャン・シュージー)【惠英红(恵英紅、ワイ・インホン、カラ・ワイ、クララ・ワイ)】が、12年前に不慮の事故で行方不明になった孫娘との再会を描いた物語。再会を果たすがどこかぎこちない二人。生活を共にするうちに、それぞれの秘密が明らかになる。
孫娘の徐嘉怡(シュー・ジアイー)【刘浩存(リウ・ハオツン)】は誘拐された後、盗みを強要され、食うや食わずの生活を送っていた。数々の残酷な出来事に遭遇し、心に深い傷を負った彼女は、人生に希望を抱くこともできず、長い間暗闇の中で光を見いだせずにいた。そんな中、自分を限りない愛と優しさで包みこんでくれた祖母。再び家族の温もりを感じたジアイーは次第に心を解きほぐし、新たな人生を切り開いていく。
中国映画週間より
【感想】
シンプルなストーリー展開、ハードなエピソードもあるがハッピーエンドで、主人公の幸せを祈らずにはいられない心温まる映画だった。
韓国映画「君が描く光/ケチュンばあちゃん(2016)」が原作。日本では東京国際映画祭でのみ上映され、配信/DVDでの公開となった。こちらの評価もかなり高く、実際原作を見ても今作と同じくオーソドックスな作りなのにあらゆる点でポイントを外さない、見事に泣かされるウェルメイドな良い映画だった。特に主演のキム・ゴウンはあまり表情に表さないし、祖母役のユン・ヨジョンもどこにでもいそうな典型的お婆さんキャラなのに、2人それぞれの細やかな演技も相まって却って観客を惹きつけていて本当に素晴らしかった。
そうした原作に比べると、今作はより現代的でリアリティを増していて、その分ハードなシーンが多めになっている。描写そのものがハードでなくても、描かれているのはより厳しい中国の現実を反映するかのように息苦しく、心の重しとなって観客に迫ってくる。
一方、舞台は名もなき海辺の片田舎になっていて、冒頭から祖母や地域の人々の営みである、海女や小船での漁の風景が大変美しく描かれる。
今作の刘浩存(リウ・ハオツン)が刘昊然(リウ・ハオラン)と共演した「四海(2022)」なども思い起こさせる、美しく、でも贅沢とは無縁の昔から変わらない生活。
例えば祖母がキャッシュカードをお菓子の缶に無造作に保管しているような、穏やかで現代中国のハードな現実とは無縁な、ファンタジックにすら見える地域。だがそんな心安らぐ場所にまで侵食してくるリアリティに、次第に居た堪れなくなってくる。
俳優陣では、张子贤(チャン・ズーシェン)が演じた叔父の人となりが大変印象的だ。彼自身も色々と感じる事はありつつも、母親と姪の暮らしを常に朗らかに、寄り添うように支えていて、2人の生活だけでなくストーリー自体にも安定感を与えている。
原作から足されたハードなエピソードのせいか、ややわかりにくい部分もあり、特に母親との関係や絵画教師の人物造形がもう少し整理されていたらと惜しむ点もあるが、主人公が深い傷にもめげず強い意志で立ち直る姿には応援せざるをえない。
余談だが、今作は地方の片田舎が舞台なのに方言は出てこない。いっとき方言で話される映画が急に目立ち始め、一種のトレンドみたいになっていたが、最近はまた減ったように思われる。この点も今作がファンタジックで寓話的な印象を覚えるひとつの理由かもしれない。
今作での祖母役・惠英红(恵英紅、ワイ・インホン、カラ・ワイ、クララ・ワイ)のカタカナ表記はワイ・インホンとなっている。香港人俳優である彼女の、最近の香港映画の上映時にはカラ・ワイ表記が多いが、中国映画週間では普通語読みのワイ・インホンとなっている。長い芸歴だけあって、古くはクララ・ワイという表記も多かった。彼女のように中国映画にも出演する香港人俳優は映画の国籍によって表記が変わる事があるのだが、可能であればアンディラウやトニーレオンのように、映画の制作国に関わらず日本での表記は統一する方が良いかと思うところだ。
中国映画レビュー&解説「四海 Only Fools Rush In」 - daily diary
【トピック】
◯ 2024年3月15日に中国で一般公開。公開初週は台湾映画「我、邪で邪を制す(2023)」や「デューン 砂の惑星PART2(2024)」、檀健次(タン・ジェンツー)&张婧仪(チャン・ジンイー)主演の「被我弄丢的你(2024)」に次ぐ4位を記録した。興行収入は1億元(20億円)。
中国映画レビュー&解説「被我弄丢的你 I Miss You」 - daily diary
◯ 2024年10月22日からの2024東京・中国映画週間で「スケッチ~彼女と描いた光~」というタイトルで公開される予定。
◯ 本作は、東京国際映画祭で上映された、韓国初のアカデミー受賞女優・ユン・ヨジョンと「トッケビ(2017)」などのキム・ゴウン主演の韓国映画「君が描く光/ケチュンばあちゃん(2016)」のリメイクである。
※Filmarksでは表示されないが「君が描く光」のタイトルでU-NEXT、Amazonプライム、Hulu等で配信視聴可能である。
◯ 監督の徐伟(シュー・ウェイ)は長らくカメラマンとして、東京国際映画祭コンペティション出品作「週末の出来事(秘语十七小时/Weekend Plot、2002)」や、カンヌ映画祭ある視点部門出品作「哭泣的女人 (Cry Woman、2002) 」、呉宇森(ジョン・ウー)監督作「レッドクリフ Part I(2008)」、「Part II(2009)」などに撮影で携わってきた。その後、初監督作となる梁家輝(レオン・カーフェイ)主演のクライム・サスペンス「冰河追凶 (2016) 」を制作し、本作が監督2作目となる。
刘浩存(リウ・ハオツン)
◯ 徐嘉怡(シュー・ジアイー)。祖母と小菠菜という名の犬との二人暮らしをしていたが、ある日失踪した。
◯ 巨匠张艺谋(チャン・イーモウ)監督の映画「ワン・セカンド(2020)」で大抜擢され一気に知られるようになった、巩俐(コン・リー)や章子怡(チャン・ツイイー)らと並ぶ、いわゆる「谋女郎(イーモウガールズ)」の最も新しい女優。その後の監督作「崖上のスパイ(2021)」にも出演している。
デビュー当時に幾つかのスキャンダルがあったが、佳作だった易烊千玺(イー・ヤンチェンシー)主演の映画「送你一朵小红花(2020)」、韩寒(ハン・ハン)監督・刘昊然(リウ・ハオラン)主演の「四海(2022)」、ジャッキー・チェン主演作「ライド・オン(2023)」、ドラマ「脱轨 (2023) 」などなど、順調に出演を重ねている。
中国映画レビュー&解説「送你一朵小红花 A Little Red Flower」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「四海 Only Fools Rush In」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「崖上のスパイ 悬崖之上 Impasse / Cliff Walkers」 - daily diary
惠英红(恵英紅、ワイ・インホン、カラ・ワイ、クララ・ワイ)
◯ 江秀枝(ジャン・シュージー)。徐嘉怡の祖母であり、彼女の父親で漁師だった息子を海難事故で亡くしている。
◯ 香港出身。当初はアクションができる女優として香港映画「ワンス・アポン・ア・タイム 英雄少林拳(1981)」や「レディクンフー 激闘拳(1980)」で活躍し、香港金像奨・主演女優賞を受賞。ドニー・イェン&金城武の「捜査官X(2011)」でもアクションを披露し「キョンシー/リゴル・モルティス(2013)」では再度香港金像奨の助演女優賞を受賞。
近年は「心魔(2009)」、そして「幸福な私(2016)」で香港金像奨で主演女優を再び受賞し、張曼玉(マギー・チャン)の5回に次ぐ2位タイとなる4回の金像奨受賞女優となった。
それ以来、台湾映画「血観音(2017)」で金馬奨主演女優賞受賞、「サンシャイン・オブ・マイ・ライフ(2022)」、中国ドラマ「上陽賦(2021)」、昨年公開の素晴らしい中国映画「愛してる!(2023)」や「瞒天过海(2023)」、「拯救嫌疑人(2023)」などで実力派俳優として大活躍している。
香港映画レビュー「幸福な私 幸運是我 Happiness」 - daily diary
「血観音」レビュー(最近の中国/台湾映画5本レビュー) - daily diary
中国映画レビュー「愛してる! 我爱你! Love Never Ends」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「拯救嫌疑人 Last Suspect」 - daily diary
张子贤(チャン・ズーシェン)、刘奕铁(リウ・イーティエ)
◯ 江秀枝の甥、徐邵斌とその息子、周仁。幼い頃から江秀枝や徐嘉怡と仲良くしていた。
◯ 徐邵斌役の张子贤(チャン・ズーシェン、画像左)は最近特に多くの作品に出演している人気の脇役といった位置づけの俳優だ。大ヒット作「万里归途(2022)」、冯绍峰(ウィリアム・フォン)&黄晓明(ホアン・シャオミン)が主演の「平凡英雄(2022)」、昨2023年は王一博(ワン・イーボー)主演作「熱烈(2023)」、黄渤(ホァン・ボー)主演の「学爸(2023)」、ヒットドラマ「平凡之路(2023)」、10月に公開のコメディ映画「二手杰作(2023)」、そして年末に公開された良作「三大队(2023)」などなど、ここ1年ほどでも多数の作品に出演している。
主な出演作はドラマ「受益人(2019)」や「大赢家(2020)」、「平凡的荣耀(2020)」や映画「二代妖精之今生有幸(2017)」、「薬の神じゃない! (2018)」など。
◯ 周仁役の刘奕铁(リウ・イーティエ、画像右)は、张艺谋(チャン・イーモウ)監督の「狙击手(2022)」で映画デビュー。その後ドラマ「人生之路 (2023) 」を経てヒット作「ロング・シーズン(2023)」に出演を果たした。昨年は今作父親役の张子贤(チャン・ズーシェン)と「三大队(2023)」で共演、今年は再び张艺谋(チャン・イーモウ)監督作品「第二十条(2024)」に出演した。
中国映画レビュー&解説「三大队(三大隊)Endless Journey」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「熱烈 热烈 One and Only」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「万里归途 万里帰途 Home Coming」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「平凡英雄 Ordinary Hero」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「学爸 Papa」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「二手杰作 World's Greatest Dad」 - daily diary
中国映画「二代妖精之今生有幸 Hanson and the Beast」 - daily diary
中国映画レビュー「薬の神じゃない! 我不是药神 Dying to Survive ニセ薬じゃない!私は薬の神ではない」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「第二十条 Article 20」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「狙击手(狙撃手)Sniper」 - daily diary
刘欢(リュウ・ホァン)
◯ 図画の教師・卓老师。徐嘉怡の才能を見出し、芸大への進学を勧める。
◯ 2000年頃から俳優としてのキャリアを開始。「你在微笑我却哭了 (2004) 」、「离婚律师 (2014) 」、「三国志〜司馬懿 軍師連盟〜 第一部(2017)」、「春を待ちわびて(2023)」など、数多くのドラマに出演。
映画では「门锁 (2021) 」や、今作主演の惠英红(恵英紅、ワイ・インホン、カラ・ワイ、クララ・ワイ)が出演する、张诒谋(チャン・イーモウ)監督の娘・张末(チャン・モー) 監督によるサスペンス「拯救嫌疑人(2023)」などがある。
中国映画レビュー&解説「拯救嫌疑人 Last Suspect」 - daily diary
その他俳優
◯ 左から、近所の商店主・姚进财役の葛四(グースー)、徐邵斌、刘姐役の苇青(ウェイ・チン)、周仁、周仁の母・玉芬役の鄂靖文(エ・ジンウェン)
◯ 近所の商店主・姚进财役の葛四(グースー)は現在59歳だが、40歳を過ぎていた2007年に誘われて俳優業を始める。主な作品はドラマ「ロング・ナイト 沈黙的真相(2020)」、「古董局中局 (2018) 」、「扫黑风暴 (2021) 」、「繁城之下 (2023) 」など。今年は蒋龙(ジャン・ロン)が主演の実写ドラマ版「時光代理人(2024)」、本作と同時期公開の映画「来福大酒店(2024)」にも出演している。
◯ 刘姐役の苇青(ウェイ・チン)は、13歳から人民解放軍で演劇をしていたが20歳を過ぎた頃に河南省のラジオ局でアナウンサーとなる。50歳を超えてから演劇のキャリアを開始し、周迅(ジョウ・シュン)主演版の映画「红高粱 (2014) 」や「戦狼 ウルフ・オブ・ウォー(2017)」、「薬の神じゃない!(2018)」、「革命者(2021)」、そして大ヒットドラマでもうすぐ配信開始の「人世間 (2022) 」など、多くのヒット作に出演している。
◯ 周仁の母・玉芬役の鄂靖文(エ・ジンウェン)は、なんといっても周星驰(チャウ・シンチー)監督作「新喜劇王(2019)」の主演が知られているだろう。この映画で香港金像奨・新人賞にノミネート。その後、劉德華(アンディ・ラウ)主演の香港映画「熱血合唱團(2020)」に出演、その他では大鹏(ダーポン)が監督した「シティ・オブ・ロック(2017)」や彼が主演した「年会不能停! (2023) 」 などにも出演している。
中国映画レビュー&解説「来福大酒店 Life Hotel」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「薬の神じゃない! 我不是药神 Dying to Survive ニセ薬じゃない!私は薬の神ではない」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「革命者 The Pioneer」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「新喜劇王 新喜剧之王 The New King of Comedy」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「年会不能停! Johnny Keep Walking!」 - daily diary
◯ 徐一诺を演じた荣梓杉(ロン・ズーシャン)。胡宝森(フー・バオセン)演じる朱奎と共に、徐嘉怡と廖银玥(リャオ・インユエ)演じる林静を搾取していた。
◯ 荣梓杉(ロン・ズーシャン)は、子役として幼少から活動しており贾樟柯(ジャ・ジャンクー)監督の映画「山河ノスタルジア(2015)」や古装ドラマ「如懿伝(2018)」などに出演していた。14歳の時に出演した大ヒットドラマ「バッド・キッズ 隠秘之罪(2020)」で一躍知られるようになる。その後映画「秘密访客 (2021) 」や「宇宙から来たモーツァルト(2022)」などに出演している。
◯ 1998年生まれの胡宝森(フー・バオセン)は2021年から芸能活動を開始。古装劇「天地に問う(2023)」や「山河之影(2023)」などに出演している。
◯ 1996年生まれの廖银玥(リャオ・インユエ)は、2017年から芸能活動を開始。ドラマ「无主之城 (2019) 」で知られるようになり、 任嘉伦(アレン・レン)&白鹿(バイ・ルー)主演「美人骨~後編:一生一世~(2021)」やスピードスケートの映画「超越 (2022) 」などに出演している。
映画「山河ノスタルジア」レビュー(中国映画3本レビュー) - daily diary
◯ 母親・郑琳を演じたのは林源(リン・ユアン)、新しい夫・李胜民役の余皑磊(ユー・アイレイ)。
◯ 母親・郑琳役の林源(リン・ユアン)は1989年生まれで徐静蕾(シュー・ジンレイ)主演の映画「一个陌生女人的来信 (2004) 」でデビュー。ドラマ「我的青春谁做主 (2009) 」や杨紫(ヤン・ズー)・成毅(チョン・イー)主演の「沉香如屑·沉香重华 (2022) 」のほか、赵丽颖(チャオ・リーイン)・金瀚(ジン・ハン)主演「愛を抱きしめて(2018)」などに出演している。
◯ 最近はますます出演作が増え、人気者になっている余皑磊(ユー・アイレイ) も、刘浩存(リウ・ハオツン)同様に张艺谋(チャン・イーモウ)監督作への出演も多い。「ワン・セカンド(2020)」、「崖上のスパイ(2021)」、「满江红(2023)」など。
最近の映画では「交换人生(2023)」、「扬名立万(2021)」、今作主演の刘浩存(リウ・ハオツン)も出演しているジャッキー・チェン主演作「ライド・オン(2023)」などに出演している。
ドラマでは今年放映の「慶余年」シーズン2にも出演している。
中国映画レビュー&解説「崖上のスパイ 悬崖之上 Impasse / Cliff Walkers」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「満江紅(マンジャンホン)满江红 Full River Red」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「交换人生(交換人生) Five Hundred Miles」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「扬名立万 Be Somebody」 - daily diary
劇中歌
幼少期にラジカセからかかり、海辺で祖母・江秀枝や皆が歌っていたのは、葉蒨文(サリー・イップ)の「瀟灑走一回」という、台湾の時代劇ドラマ「京城四少(1991)」の主題歌だ。大人気ドラマで後に中国版「京城ロマンス(新京城四少、2011)」も杨幂(ヤンミー)主演で制作され、その際にも再びこの曲が主題歌に使われた。
www.youtube.com 葉蒨文 Sally Yeh -《瀟灑走一回》Official MV (國) (華視連續劇《京城四少》片頭曲)