宇宙探索编辑部 Journey to the West: 豆瓣
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【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
暖かい気持ちになれる「ゆるSF」。泣けるし笑えるし、最高の一本。「流転の地球(流浪地球)」の監督が関わっているのも納得の出来。この監督、次作はまったく違う作風でも驚かないし、良い映画が撮れる筈の逸材。
www.youtube.com 《宇宙探索编辑部》Journey to the West | 新加坡华语电影节 Singapore Chinese Film Festival 2023
www.youtube.com 10/13(金)公開『宇宙探索編集部』【本予告】
【スタッフ & キャスト】
2021年 中国 118分
監督: 孔大山(コン・ダーシャン)
出演: 杨皓宇(ヤン・ハオユー)、艾丽娅(アイ・リーヤー)、王一通(ワン・イートン、ロイ・ワン)、蒋奇明(チミー・ジャン)、盛晨晨(シェン・チェンチェン)
【あらすじ】
かつては時代の波に乗りメディアにもてはやされ活気のあったUFO雑誌[宇宙探索]。今や編集部員も減り廃刊寸前、電気代さえ払えないほどの存続の危機を迎えていた。
そんな時、[宇宙探索]編集長のタン【杨皓宇(ヤン・ハオユー)】は、中国西部の村に宇宙人が現れたという情報を掴み、仲間たちを引き連れて西へと向かう。そこで彼らを待ち受けていたのは、予想と人智をはるかに超えた出来事だった…
果たしてタンたちは宇宙人に出会えるのか? そして、タンの心の奥にある想いとは?
公式サイトより
【感想】
見る前のイメージを覆され、最後には暖かい気持ちになれる、まるで「ゆるSF」とでも言えるような最高に素敵な映画だった。
とはいえ実は結構細かいところまで配慮されていて、しっかり制作費もかかっているように見えるし、きちんと良く出来た作品だ。
見る前には、監督の卒業制作だとか、POVやモキュメンタリー(ドキュメンタリー風に撮る創作手法)だという話は聞いていたので、画面の安っぽさや造りの粗さは差っ引いて見ないといけないかと想像していた。見始めても冒頭では確かにその感じなんだが、いつしか取材旅行に出かける辺りからモードが変わっていく。
とにかく出てくる人物が皆個性的でクセが強い。編集長の若かりし頃(驚くほど自然に若い頃の雰囲気になっている!)の映像からの、一転して完全に拗らせたまま時間だけが無惨に経過したような風貌。編集長を全く信用しておらず、ひたすらこき下ろしてばかりの事務の女性。そこから村へと向かう道中でも、まともな人はひとりも出てこない。でも誰も皆、悪意が無いのだけは伝わってくる。
一方でシーンのどの場所もパッとしないところばかりだ。まだ北京にこんな場所があるのかと思うような埃っぽく古めかしい編集部。旅先の四川の山中も、打ち捨てられた採石場だったりどこかで見たような農村だったりと風光明媚でもなく、そしていつまでも雲が垂れ込めた曇天が続く。
でも、手持ちのカメラが彼らそれぞれの話を聞いていき、一緒になって旅をしていくと、なんだか気持ちがワクワクしてくる。私達の日常ではこんな訳の分からない旅行に出ることなんか絶対にない。
宇宙人とかUFOの話をキーワードにして、話はむしろこの変わった人々とのロードムービーの様相を呈してくる。そうして、最後はなんなら王道と言えるくらいの感動が待っているストーリーなのだ。
道化師は孙一通(スン・イートン)こと、鍋を被った青年だ。彼がとにかく変わっていて、知り合ってからひとつひとつ判明していく事実がそれぞれ面白いのだが、そういう描写も余計なセリフよりバン!と画面一発で見せてくれる。まるで出オチのような勢いのあるテンポで毎回笑わせてくれる。しかもそれを手持ちカメラでやってるので余計に効果的だ。これは他の場面でも同じで、小ネタのセンスもそれぞれ良いし、画で見せる事が徹底されているし、映画的にシンプルに楽しめるようにきちんと作られてあって素晴らしい。
出てくる人たちは皆、独自のセンスを持つ分コミュニケーション下手でもあって、それがまた彼らへの好感が増す。だがそれをむしろ効果的に使い、限られた場面だがここぞという所でのCGの使い方など、すごく丁寧に考えて作られた映画だと感じた。内容はアレだが、作った本人はむしろ良識ある常識人だとすら思えるくらいだ。中国国内より欧米の方が評価が高くなるような気もする。数多くの受賞も納得だし、映画祭での限定公開にとどまらず一般公開に至るのも納得の、誰にでも楽しめる最高に面白い作品だった。
【トピック】
◯ 2021年10月の平遥国際映画祭で初公開。2023年4月1日に中国で一般公開。公開初週は新海誠監督「すずめの戸締まり」や大鹏(ダーポン)監督作「いいひと 保你平安」、東京フィルメックスでも上映された「不止不休」などが上位につける中、興収ランキングで8位に入り、その後計4週間にわたりトップテンにランクインした。最終的な興行収入は6700万元(13.7億円)。
中国映画レビュー「いいひと 保你平安 Post Truth」 - daily diary
中国映画レビュー「不止不休 The Best is Yet to Come」 - daily diary
◯ 2021年の平遥国際映画祭で部門別最人気映画賞を受賞、
翌2022年の北京国際映画祭での「注目未来」部門最注目映画に選出。
ロッテルダム国際映画祭「輝く未来」賞、
香港国際映画祭での中国語新進映画に選出などなど、多くの受賞がある。
中国でのアカデミー賞的な位置づけである今年の金鶏奨では、最優秀脚本賞を受賞、他にも中小作品賞、新人監督賞、主演男優賞の実に4部門にノミネートされた。
2023年第36回中国金鶏奨(金鸡奖)の作品一覧 - daily diary
◯ 筆者は本作を2023年中国/香港映画の個人的ベストの5位に選出した。
◯ 昨年2022年3月の大阪アジアン映画祭で、中国一般公開より早く日本で上映。ここで本作を見た配給会社により、10月13日からの全国公開が決定した。
◯ 日本公開にあたっては「月刊ムー」とのコラボ展開がなされた。
◯ 英題の「Journey to the West」は古典「西遊記」の英題でもある。西に向かって旅をするところからの着想だそうだ。編集長・唐志军(タン・ジージュン)と村の青年・孙一通(スン・イートン)のキャラクターは三蔵法師と孫悟空を意識して造形されている。
◯ 当初撮影は2020年初頭から開始の予定であったが、新型コロナ蔓延によりやむなく中止のうえ、一旦チームは解散。あらためて10ヶ月後の2020年11月から中国西南地方、四川省の大凉山で37日間で撮影した。
◯ 大凉山は四川省中央部にあり、少数民族イ族(彝族)も住む自治州でもある。
今年2023年公開の王宝强(ワン・バオチャン)監督作「ネバーギブアップ」の舞台でもある。
BS朝日 - 中国神秘紀行 孤高の大凉山 成昆鉄道の旅 ~四川省~
中国映画レビュー「ネバーギブアップ 八角笼中 八角籠中 Never Say Never / Octagonal」 - daily diary
◯ 監督の孔大山(コン・ダーシャン)は1990年生まれ。
四川芸術大学を卒業。卒業制作で初監督し、その後「流転の地球(流浪地球)」シリーズの郭帆(グオ・ファン)監督のもとで、周冬雨(チョウ・ドンユイ)主演の「同桌的妳(2014)」に助監督、他にも俳優としても携わる。2015年に北京映画大学大学院に研究生として入学。短編「法制の未来形(法制未来时、2015)」、「春天,老师们走了(2017)」などを制作。「「流転の地球 -太陽系脱出計画-(2023)」では助監督、および出演(宇宙飛行士役)もしている。今作が初の商業映画監督作品となる。
本作はそもそも北京映画学院大学院の卒業制作として企画されたものが発展したもの。
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孔大山(コン・ダーシャン)監督が2015年に制作し、非常に高評価を得た短編「法制の未来形(法制未来时、2015)」がムヴィオラにより限定公開されている(有料)。
◯ 「流転の地球(流浪地球)」シリーズの監督、郭帆(グオ・ファン)による出資、エグゼクティブ・プロデュースなどの支援を受けている。郭帆(グオ・ファン)自身も本作で「ある映画監督」役としてカメオ出演している。
◯ また、大ヒットしたタイムスリップもの「こんにちは、私のお母さん(2021)」のプロデューサーで監督・王红卫(ワン・ホンウェイ)が孔大山(コン・ダーシャン)監督の北京映画大学での副教授という事で、郭帆(グオ・ファン)監督を引き合わせ、本作への出資と同時にエグゼクティブプロデューサーに就任した。
昨年大ヒットしたリビアを舞台にした映画「万里归途(2022)」の監督で、郭帆(グオ・ファン)とも仲の良いことで知られる饶晓志(ラオ・シャオジー)もプロデューサーに名を連ねている。
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◯ 撮影はベルギー人のマティアス・デルヴォー。今年の中国金鶏奨ドキュメンタリー作品賞を受賞し、東京国際映画祭でもグランプリを受賞した「雪豹」でも撮影をしている。
杨皓宇(ヤン・ハオユー)
◯ 雑誌「宇宙探索」編集長、唐志军(タン・ジージュン)を演じたのは杨皓宇(ヤン・ハオユー)。
◯ 1974年生まれで芸歴も長いが、日本に入っている出演作は王兵監督の映画「無言歌(2010)」、 沈腾(シェン・トン)主演の「月で始まるソロライフ(2022)」、ドラマでは张若昀(チャン・ルオユン)主演の「雪中悍刀行(2021)」など。
映画「流転の地球(流浪地球、2019)」への出演が今作へと繋がった。
2021年末公開の尹正(イン・ジョン)主演でヒットしたミステリー「扬名立万」では主役の8人の一員として出演している。
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艾丽娅(アイ・リーヤー)
◯ 編集長に文句を言いつつも旅行についてくる、事務の秦彩蓉(チン・ツァイロン)。メガネ屋のアルバイトもしている。
◯ 1980年代から活躍するモンゴル族の俳優で、周曉文(チョウ・シャオウェン)監督「麻花売りの女(二嫫、1994)」で華表奨/金鶏奨を受賞する高評価を得る。王小帅(ワン・シャオシュアイ)監督「在りし日の歌(2019)」にも出演。
最近の高評価のドラマ、「去有风的地方(2023)」や「平凡之路(2023)」などにも出演している。
王一通(ワン・イートン、ロイ・ワン)
◯ 村で出会った青年、孙一通(スン・イートン)。役場からの公共放送を任されており、詩を書いたりもする。いつも鍋を頭に被せている。
◯ 1991年生まれ。今回、監督と共同で脚本も担当した。自身も映画製作をしており、2015年の短編映画で若手監督の最優秀賞を受賞、翌年短編「杀猪匠(2016)」を制作。郭帆(グオ・ファン)監督「流転の地球 -太陽系脱出計画-(2023)」には俳優として劉徳華(アンディ・ラウ)演じる科学者の助手として出演した。
劇中の詩は、すべて本人が書いたものだ。
中国映画レビュー「流転の地球 -太陽系脱出計画- 流浪地球2 The Wandering Earth 2」 - daily diary
蒋奇明(チミー・ジャン)
◯ 取材旅行に同行するメンバー、那日苏(ナリス)。気象台で働いており、無類の酒好きで、酔っ払うとどんな場所でも寝込んでしまう。
◯ ミュージカルなどで活動していたが、舞台「杂拌、折罗或沙拉(2021)」で高評価を得る。本作に出演後、大人気サスペンスドラマ「ロング・シーズン 長く遠い殺人(漫长的季节、2023)」に出演。
盛晨晨(シェン・チェンチェン)
◯ 「宇宙探索」の愛読者で、この旅行に参加する晓晓(シャオシャオ)。唐志军(タン)の娘と同い年である。
◯ 本作が映画初出演なのだが、その前にロッテルダム国際映画祭の最優秀賞であるタイガーアワードを受賞した映画「The Cloud in Her Room(她房间里的云、2020)」に美術指導で参加している。
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怪しげな乗り物に乗って移動する陨石猎人(隕石ハンター)。演じたのは鲜志彬という人物だが詳細は不明だ。
ベースとなった実話の雑誌
◯ 舞台となる「宇宙探索」という雑誌は、実際に中国で1981年より発行されている「飛蝶探索(飞蝶探索、UFO探索)」という雑誌が元となっているとの事だ。
だが、現在も発行されているというものの極めて情報が少ない。ざっと調べた感じでは、どうやらあの頃大量にあった雑誌のひとつで、それなりに知ってる人もいたが大人が真剣にのめり込むような類のものではない、といった扱いだったように見られる。まさに「月刊ムー」と同じというと語弊があるだろうか。
Matrix (@MatrixChan) / X のポストより
『宇宙探索編集部』のパンフ、赤枠が付いてる。
— ナカネくん (@u_saku_n) 2023年10月13日
映画のモデルになった中国のUFO雑誌『飛碟探索』も、赤枠が付いていました https://t.co/bhW6kxyO1C pic.twitter.com/9svyv8fqDX