【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
開心麻花は実写版ディズニー映画をやろうとしてるのか。沈腾(シェン・トン)、马丽(マー・リー)による開心麻花版「オデッセイ」。
www.youtube.com 独行月球Moon Man 终极预告 Trailer
【スタッフ & キャスト】
2022年 中国 122分
監督: 张迟昱(张吃鱼、ジャン・チーユイ)
出演: 沈腾(シェン・トン)、马丽(マー・リー)、常远(チャン・ユアン)、李诚儒(リー・チェンルー)、黄才伦(ホァン・ツァイルン)、李嘉琦(辣目洋子、リー・ジャーチー、ジャッキー・リー)
【あらすじ】
洪水と火山噴火により地上に住めなくなり、人々は地下で暮らすことになった地球。新しい居住エリアを探すべく月面基地で活動していた马蓝星【马丽(マー・リー)】らの宇宙飛行士らは、突然やってきた隕石の襲来により、急遽基地を放棄して逃げることになった。
だが、整備士の独孤月【沈腾(シェン・トン)】はうっかりしていて、月面を飛び立つロケットに乗り遅れてしまう。同じように乗り遅れたカンガルーの同僚隊員と共に、残された独孤月はなんとかして月を脱出し、思いを寄せる马蓝星のいる地球へと帰還しようとする。
【感想】
圧倒的なクオリティのCGで描かれる月面と宇宙基地、それを無視するかのようないつも通りの笑いの世界という、とてつもなく贅沢なエンターテイメント映画。
基本的にはシンプルなストーリーで、すぐにマット・デイモン主演の「オデッセイ(2015)」とかをすぐに連想する。要はなんとかして地球に帰ろうと奮闘し、それを邪魔する様々な障害を乗り越えていく合間にいろんな笑いが散りばめられた、開心麻花の安定の作風だ。「トゥ・クール・トゥ・キル(2022)」と同じように、彼らの映画を知っている人にはイメージ通りの仕上がりであった。個人的には、安定から踏み出してもう少し新しい展開などがあると嬉しかったが、興収結果を見る限り、現地の人々にはちょうど良い塩梅だったのだろう。
ちょうど良いとはつまり、笑いや人情味あるストーリーを最優先にして、その代わりリアリティラインは低めで現実的なトリックなんかにはこだわらない、多少荒唐無稽でも結果オーライという仕上がりだ。月面の表現や宇宙船内の細やかな造形は本当に驚異的だが、むしろそれらはあくまでキャラクター達の活躍のためのお膳立てに徹している。例えるならディズニーアニメを実写版にしたような方向性なのだ。
そうして考えると、今回も出てくるカンガルーみたいな、昨今の中国映画にやたら多い人間みたいな表情を持つ動物や、コメディアン感を全面に出しリアリティを捨てたような沈腾(シェン・トン)らの演技の意味がわかってきた。登場人物たちはテーマを語るためのキャラクターであり、そこには深みやリアリティは必要ない。つまり本当に実写版ディズニー映画をやろうとしているのだ。しかし、ディズニー/ピクサー映画の数々がどれも素晴らしいのは、テーマは実はとてつもなく深く、そのままでは取っつきにくいものを柔らかくわかりやすい描き方で、気づいたら万人にも考えられるように連れていくところだと思っている。できるなら開心麻花にもそういう"実は骨太な作品"を、いつか作ってみてほしいと思ったりもした。
【トピック】
○ 2017年に連載開始した韓国の大ヒットWEBトゥーン(マンガ)"MOON YOU ムーン・ユー"が原作である。中国語版のタイトルは映画と同名。
○ 2022年7月29日に公開され、5週連続で興収ランクトップを続ける大ヒット作となった。その後もロングラン上映され、年末での中国年間興収ランキングでは31億元(592億円)を突破し、「1950 水門橋決戦」に次ぐ総合2位を記録した。3位も本作と同じ開心麻花による制作の「トゥ・クール・トゥ・キル 」であり、彼らの作品が年間興収で2位と3位を押さえるという大成功の年となった。
中国映画レビュー「1950 水門橋決戦 长津湖之水门桥 The Battle at Lake Changjin II」 - daily diary
中国映画レビュー「トゥ・クール・トゥ・キル 这个杀手不太冷静 Too Cool To Kill」 - daily diary
○ 2022年10月18日から開催の東京・中国映画週間にて本作も公開された。
○ コメディ・喜劇で圧倒的な人気を誇る開心麻花による制作。劇団であり各地に劇場を持ち映画も多数制作、そこから巣立った多くの人材が映画界でも活躍している。本作でも監督をはじめ俳優・制作陣も開心麻花関連の人材が多数参加している。
○ 監督の张迟昱(张吃鱼、ジャン・チーユイ)は、2011年に開心麻花に参加。脚本を書いたり、ドラマの制作なども行うも、映画監督として初監督したのが大ヒット作「恥知らずの鉄拳(羞羞的铁拳/羞羞的鉄拳)(2017)」だ。筆者も含めて開心麻花の映画を認知した決定的な映画だといえる。
中国映画レビュー「恥知らずの鉄拳(羞羞的铁拳/羞羞的鉄拳)Never Say Die」 - daily diary
沈腾(シェン・トン)
「開心麻花」出身者ではトップランナーになる超人気喜劇役者で、数多くの映画に主演している。また「父に捧ぐ物語(2021)」内の一遍では初監督した。
中国映画レビュー「四海 Only Fools Rush In」 - daily diary
中国映画レビュー「こんにちは、私のお母さん 你好,李焕英 Hi, Mom」 - daily diary
中国映画レビュー「愛しの故郷 我和我的家乡(我和我的家郷) My People My Homeland」 - daily diary
中国映画レビュー「ペガサス/飛馳人生 飞驰人生 Pegasus」 - daily diary
初めての中国現地で映画鑑賞(西虹市首富 Hello Mr. Billionaire) - daily diary
中国映画レビュー「恥知らずの鉄拳(羞羞的铁拳/羞羞的鉄拳)Never Say Die」 - daily diary
马丽(マー・リー)
開心麻花の出世頭の一人であり大忙しの人気俳優だ。コメディが抜群に上手く安定の演技を誇る。
中国映画レビュー「トゥ・クール・トゥ・キル 这个杀手不太冷静 Too Cool To Kill」 - daily diary
中国映画レビュー「父に捧ぐ物語 我和我的父辈 My Country, My Parents」 - daily diary
中国映画レビュー「愛しの故郷 我和我的家乡(我和我的家郷) My People My Homeland」 - daily diary
中国映画レビュー「完璧な他人 ~スマホが暴く秘密たち~ 来电狂响(来電狂響) Kill Mobile」 - daily diary
中国映画レビュー「恥知らずの鉄拳(羞羞的铁拳/羞羞的鉄拳)Never Say Die」 - daily diary
常远(チャン・ユアン)
彼も開心麻花で脇を固める重要な役を演じることが多い。「僕と彼女のファースト・ハグ(2020)」で主演している。
黄才伦(ホァン・ツァイルン)
開心麻花の中でも沈腾(シェン・トン)、马丽(マー・リー)達トップランナーの次の次くらいに売れている数人のひとりである。主演作「李茶的姑妈(2018)」もある。
中国映画レビュー「トゥ・クール・トゥ・キル 这个杀手不太冷静 Too Cool To Kill」 - daily diary
中国映画レビュー「李茶的姑妈 Hello Mrs. Money」 - daily diary
李嘉琦(辣目洋子、リー・ジャーチー、ジャッキー・リー)
辣目洋子(ラームヤンズ)と呼ぶ方がわかりやすい(下のビジュアルでもそちらの名前が記載されている)李嘉琦は、最近は多くの開心麻花の映画作品に出演しているが、いじめがテーマの学園モノ「悲伤逆流成河(2018)」やスパイ・コメディ「ミッション・デブポッシブル! (2018)」への出演で知られるようになった。古装劇「玉楼春~君に詠むロマンス~(2021)」にも出演していた。
中国映画レビュー「悲しみは逆流して河になる 悲伤逆流成河 Cry Me A Sad River 悲傷逆流成河」 - daily diary
中国映画レビュー「ミッション・デブポッシブル! デブ大作戦 胖子行动队 (胖子行動隊) Fat Buddies」 - daily diary
李诚儒(リー・チェンルー)
宇宙基地司令センター長の孙光阳を演じた李诚儒。俳優としても多くの作品に出演しているが、最近はテンセントが放映した俳優のリアリティ番組「演員請就位(2019~2020)」で審査員として出演して人気がある。
黄子韜(ファン・ズータオ)
元EXOの黄子韜(ファン・ズータオ)も少し出演している。役柄も、地下生活になる前までの元一流アイドルという、本人を反映したものとなっているが、なかなかハードな髪型になっている。
カンガルー
一緒に取り残されたカンガルー。中国映画あるあるで非常に人間的な行動をする。開心麻花の一員、郝瀚が演じている。