【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
「耳をかたむけて(2023)」に続く、胡歌(フー・ゴー)が演じる青年期を彷徨う男の物語。映画/ドキュメンタリー/実生活が同時に進行し、しかし人生は思う通りにはいかない。ウディ・アレンも思わせる軽やかな映画だ。
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【スタッフ & キャスト】
2024年 中国 103分
監督: 龙飞(ロン・フェイ)
出演: 胡歌(フー・ゴー)、高圆圆(カオ・ユアンユアン)、岳红(ユエ・ホン)、周野芒(チョウ・イエマン/ジョウ・イエワン)、金靖(ジン・ジン)、刘钧(リュウ・ジュン)、甘昀宸(ガン・ユンチェン)
【あらすじ】
仕事も人間関係も失い、挫折して故郷に戻った冴えない呉迪(ウー・ディー)【胡歌(フー・ゴー)】。ウーの「突然の出戻り」により家族の平穏な生活が壊れ始める。
家族と関係の再構築を迫られるだけでなく、自分の人生について向き合うことを迫られるウー。 厳しい現実と直面したウーの前に、偶然にも高校時代の同級生・冯柳柳(フォン・リュウリュウ)【高圆圆(カオ・ユアンユアン)】が現われる。彼女との出会いによってウーの人生は思いもよらない方向に転がり始める…。
中国映画週間より
【感想】
「耳をかたむけて(2023)」に続く、胡歌(フー・ゴー)が演じる青年期を彷徨う男の物語。映画/ドキュメンタリー/実生活が同時に進行し、しかし人生は思う通りにはいかない。ウディ・アレンも思わせる軽やかな映画だった。
中国ではかなりの高評価だが、捉えどころが無いと思う人もいそうな、ほんのりとした余韻を漂わせる映画だ。
終わってみれば何だったんだろうあれは、などと思いつつ、しかし本人には確実な変化が起こっているような、夢のようだった時間。
それが主人公にとっての映画の撮影であり、高圆圆(カオ・ユアンユアン)演じる元同級生・冯柳柳(フォン・リュウリュウ)との出会いであり、実家での家族との時間であったのだ。
この様に、この映画では常に誰かと誰かの物語が並走しているように描かれていて、仮の主人公は胡歌(フー・ゴー)が演じる呉迪(ウー・ディー)1人だが、それと共に母親の物語でもあるし、父でもあるし、冯柳柳(フォン・リュウリュウ)の物語にもなっている。
映画は1時間43分と短めだし、物語の上でも僅かひと月ほどの限られた時間を切り取っていて、それぞれの登場人物が一瞬交錯した呉迪(ウー・ディー)の実家を中心にした部分だけが描かれる。でもそれぞれの過去が色んな形で語られ、それぞれの人生の奥行きに想いを馳せる事になる。そこに至る時、この不完全な人々にシンプルに愛おしさが湧いてくるのだ。
でもそこまでの語り口は、まあクセが強い。とにかくこの主人公・呉迪(ウー・ディー)が、冒頭からダメっぷりをぶちかます。40前で定職はなし。見切りをつけられた彼女に、今見た映画を延々こき下ろす話を続ける。何事も素直に話せず格好つけずにおれないし、博識ぶったひと言も言わずにはおれない…とまあ、相当に不器用でひねくれた男だ。
でも描かれ方はコミカルで軽いタッチで、気楽に観ることができて楽しい。劇伴はジャズ、階段が多い裏町のシーンが数多く登場し、軽いタッチと相まってなんだかウディ・アレンとか映画「白さんは取り込み中(2021)」などを思わせる。
劇中の映画撮影では、監督・小津安二郎的な映像を狙って撮影していて、しかもその映像が本当に小津安っぽい!と思えてしまうのも笑ってしまう。
それぞれが違う思惑、違う時間軸で生きていて、一瞬の出会いもまた次の時間へと繋がっていく。映画を見終わって、もう一度タイトルの意味を噛み締める、そんな余韻を持つ映画だった。数年後にこの映画を見直したりしたら、きっと彼らは今どうしてるだろうかなんて想像してしまうだろう。
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【トピック】
◯ 2024年4月19日に北京国際映画祭でワールドプレミア。その後、端午節の連休となる6月8日から中国で全国公開された。公開初週は、ヒットドラマ「ママと同級生(2020)」の映画版「我才不要和你做朋友呢 (2024) 」などに次ぐ、興収ランキング5位となった。興行収入は1.03億元(21.6億円)。
◯ 日本では10月22日からの中国映画週間で上映予定。
◯ 北京国際映画祭では審査員の満場一致によって最優秀作品賞を受賞、さらに脚本賞、岳红(ユエ・ホン)が主演女優賞を受賞した。
◯ 監督の龙飞(ロン・フェイ)は1981年生まれ。2017年に制作した長編映画「睡沙发的人 (2017) 」が新人作家を表彰するFIRST青年影展や、上海国際映画祭での新人作家部門に選ばれた。今作が初の商業映画監督作となる。
◯ 撮影は2023年5月から2ヶ月間、四川省内江市の西門橋や文英街、自貢市の水涯居大橋などで行われ、劇中で俳優陣が話しているのも四川方言だ。
胡歌(フー・ゴー)
◯ 呉迪(ウー・ディー)。40近い歳だが大した仕事はしていない。脚本家を目指して北京に引っ越したが、良い機会と実家に帰ってきた。
◯ 23歳でゲームのドラマ化作品「仙剑奇侠传(2005)」で主演。「伪装者(2015)」主演の後、大ヒット古装劇ドラマ「琅琊榜(2015)」の主演でブレイクした。「县委大院(2022)」にも主演している。
映画では岩井俊二監督「チィファの手紙(2018)」や、吴京(ウー・ジン)主演「クライマーズ(2019)」などに出演のほか、なんといっても孤独な逃亡者を演じたノワール的な良作「鵞鳥湖の夜(2019)」での主演が印象的であった。昨年は「耳をかたむけて(2023)」で主演している。
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高圆圆(カオ・ユアンユアン)
◯ 昔の同級生・冯柳柳。TVのレポーターをしつつ、ディレクターを目指してドキュメンタリーを制作している。
◯ 1990年代後半、10代の頃からCMモデルとして大活躍したが、俳優としても活動を開始。映画「开往春天的地铁 (2002) 」で百花奨・助演女優賞ノミネート、ジャッキー・チェン主演の香港映画「プロジェクトBB(2006)」では百花奨・主演女優賞にノミネートされた。
吳彦祖(ダニエル・ウー)、古天樂(ルイス・クー)と共に主演した「独身の行方(2011)」では香港金像奨・主演女優賞にノミネートされているなど、香港映画での活動も多い。
その他、李连杰(ジェット・リー)主演「海洋天堂(2010)」、中国映画のイタリアロケ豪華トレンディ映画「咱们结婚吧 (2013) 」や「搜索 (2012) 」などに主演。宮崎駿監督作「君たちはどう生きるか(2023)」の中国版では、木村佳乃が演じた夏子の声を演じている。
岳红(ユエ・ホン)
◯ 母・江美玲
◯ 岳红(ユエ・ホン)は八一电影制片厂(人民解放軍文化芸術中心)所属の俳優で、四川省影視芸術連盟顧問や中国電視芸術家協会の委員なども務めている。若い頃は小品(新喜劇)などにも出演していたほか、映画「野山 (1986) 」、「走着瞧 (2009) 」の二作品で中国金鶏奨を受賞している実力派俳優である。
主な出演作は周潤發(チョウ・ユンファ)主演の「さらば復讐の狼たちよ(2010)」や「八女投江 (1987) 」、「应承 (2020) 」、「愛しの故郷(2020)」などがある。
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周野芒(チョウ・イエマン/ジョウ・イエワン)
◯ 父・吴明发
◯ 1990年代から大作ドラマ「水滸伝 永遠なる梁山泊(1996)」や陳凱歌(チェン・カイコー)監督作品「花の影(1996)」などで活躍。ドラマ「長安二十四時(2019)」に出演の後、上海人を描いた素敵な映画「白さんは取り込み中(2021)」で中国金鶏奨・助演男優賞にノミネートされた。
最近は映画「不止不休(2020)」、「飞驰人生2(2024)」、この夏公開の「デクリプト(2024)」などに出演、カンヌ映画祭出品の陳可辛(ピーター・チャン)監督作「酱园弄 (2024) 」も公開が控えている。
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金靖(ジン・ジン)
◯ 妹の吴双。タクシードライバーをしている。
◯ 2016年にお笑い番組「今夜百乐门」のコントに出演して人気となった。その後、コメディ俳優として活動していたが若手俳優発掘のリアリティ番組「演员请就位(2019)」で、郭敬明が監督した短編へコメディ出身として唯一の出演を果たすなど、演技の実力も評価される。2020年には春節年越しのお笑い番組 "春晩" に出演。
お笑い以外の主な出演作はドラマ「我在他乡挺好的 (2021) 」や「云之羽 (2023) 」、映画では王一博(ワン・イーボー)主演作「ボーン・トゥ・フライ(2023)」などがある。
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刘钧(リュウ・ジュン)
◯ 映画の俳優として呼ばれた李远。母・江美玲の長年の憧れ。
◯ 大ヒット歴史ドラマ「康熙王朝(2001)」への出演で知られるようになり、以来「无限生机 (2005) 」や「明蘭(2017)」、「琅琊榜<弐>(2017)」、「それでも、家族(2019)」、「孤城閉(2020)」、「乔家的儿女 (2021) 」、「玫瑰的故事 (2024) 」などの数多くのドラマに出演している。
映画では冯小刚(フォン・シャオガン)監督「一九四二 (2012) 」や「平凡英雄(2022)」など。
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甘昀宸(ガン・ユンチェン)
◯ カメラマンの曹哥。小津安二郎を尊敬している。
◯ コメディ俳優として知られていて「我为喜剧狂(2014)」で知られるようになる。映画の出演も多く、「薬の神じゃない! (2018)」、「素晴らしき眺め(2022)」、「ボーン・トゥ・フライ(2023)」、今作主演の胡歌(フー・ゴー)が主演した「耳をかたむけて(2023)」 などがある。今年はヒットドラマ「边水往事 (2024) 」にも出演している。
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