『ブラックドッグ』中国映画レビュー&解説 | 寡黙な男と犬のハードボイルドなファンタジー「狗阵 Black Dog (2024)」

狗阵 (豆瓣)

ブラックドッグ - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

 

【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】

ウイグルあたりの埃っぽく、人に代わって溢れるほどの野良犬がうろつく街が舞台。ハードボイルドだった監督の前作「ロクさん」を思わせる独特の主人公キャラがすごく新鮮。緻密な画作りが素晴らしい。

 

 

ブラックドッグ 狗阵ブラックドッグ


www.youtube.com Black Dog Trailer- 狗阵预告片

 

 

 

【スタッフ & キャスト】

2024年 中国 116分 豆瓣評価:6.8/10
監督: 管虎(グェン・フー / グァン・フー/クワン・フー)
出演: 彭于晏(エディ・ポン)佟丽娅(トン・リーヤー)贾樟柯(ジャ・ジャンクー)周游(ジョウ・ユー)胡晓光(ジョウ・ユー)王奕权(ワン・イーチュアン)

 

 

【あらすじ】

2008年、北京オリンピック前。刑務所から出所した青年【彭于晏(エディ・ポン)】はゴビ砂漠の端にある故郷に戻り、地元のパトロール隊で働くことになるが、そこで黒い犬を助ける。そして、その犬と過ごすなかで様々な人と出会い、新たな人生へと踏み出すのだった。

東京国際映画祭より

 

 

【感想】

中国西北部・ウイグルの荒涼とした風景を舞台に、寡黙な男の姿を見つめるハードボイルドな物語。
犬との触れ合いを通して奥深くに眠っていた優しさ、温かさが引き出されてくる。

犬映画である。主人公と犬の触れ合いのストーリーだが、それ以外にも冒頭から数多くの犬たちが登場し、カンヌ映画祭にもメインの犬はキャスト達と一緒に登壇したほど、犬好きにとっては是非見て欲しい映画になっている。
ただし、その語り口はザラついていて、甘くはない。大量の犬達の存在にもほろ苦い理由がある。

 

ブラックドッグ 狗阵

*ファンタジックで廃墟のような街

舞台は中国西北部、甘粛省とかウイグルとかのエリアにある小さな街、赤峡镇。砕石か鉱山か、以前は資源産業で成り立っていたようだが、それも昔の話。今や産業もなく人は去るばかりの、日本で言うなら炭鉱町のようなうらぶれ、埃が舞う、煤けた街だ。中国映画なら王学兵(ワン・シュエビン)主演「選ばれざる路(2018)」「小さき麦の花(2022)」なんかも思い出す。
大量の犬達は野良犬であり、そこを去っていった人々が置き去りにしていったのだ。そうした野良犬達は街の至るところをうろついていて、物語のあらゆるシーンに映り込んでくる。ありそうであり得ない風景。日常のようで少し逸脱した寓話的リアリティ。

 

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*不思議に魅力的な主人公

主人公の造形も独特だ。もしや聾者なのかと思うほどの、極端に無口で寡黙な男が、彭于晏(エディ・ポン)演じる二郎こと郎永辉。ムショ帰りではあるが、その経緯にも何か裏がありそうだし、街では知られた男でもあったようだ。だが、その寡黙さ故になかなか素性は見えてこない。
思えば、監督の過去作「ロクさん(2015)」は、昔ながらの仁義を今なお重んじる頑固一徹な男の物語で、にも関わらず適度にポップで良質な楽しい映画に仕上げた、素晴らしい出来の良作だった。現代にタイムスリップしたような無頼漢を、なんと名監督・冯小刚(フォン・シャオガン)が演じるという意外性も面白かった。今作の主人公もまた、ロクさん同様にリアリティからかけ離れていつつも、とても魅力的な人物になっている。

余談だが、冯小刚(フォン・シャオガン)監督はロクさんの後に再び俳優として、仲代達矢主演作「ハチ公物語(1987)」の良作リメイクであり、素晴らしい犬映画である「忠犬八公(2023)」に主演しており、そちらでの老教授役もまた素晴らしい。犬好きならば決して後悔しない出来だ。

 

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*監督らしいノスタルジー

さて、その他の登場人物たちもまた、主人公と同じようにどこかリアリティが無い。声が出ず、喉に機械を付けて話す年老いた隣人、寂れた動物園、事件被害者の叔父とその一味、そして昔ながらのサーカス団のダンサー・佟丽娅(トン・リーヤー)演じる葡萄。皆が夢の中で出てきそうな不思議な人々で、現実感が無い。それがこの時代に取り残され消えていく街に、同じ様に取り残されている。
監督の管虎(グェン・フー / グァン・フー/クワン・フー)は、前作のインタビューでも古き良き価値観が消えていく事を嘆いていた。そうしたノスタルジーを、ハードボイルドのフィルターを通して描いているかの様だ。登場人物たちと同じ様に、あくまでも過去のものであり、去りゆくものでしかない。

 

もうひとつ余談だが、筆者は過去に狂犬病のワクチン接種をする事態になった事があるのだが、劇中のような方法は初耳だった。おそらく噂話のような伝承か、よほどの緊急事態の方法だろう。ワクチン接種は無保険なら合計数万円はかかるので経済的な面もあるかもしれない。放置して潜伏期を過ぎ"発症"した場合、治療法が無く致死率100%なのは今も事実である。

 

 

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★★★★☆ 星4

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【トピック】

◯ 2024年5月18日からのカンヌ映画祭でワールドプレミア。ある視点部門で最優秀作品賞を受賞した。
その後6月15日から中国で一般公開。公開初週は興収ランキング8位となった。中国国内の興行収入は3268万元(7億円)。

 

◯ 日本では2024年10月28日からの東京国際映画祭・ガラ・セレクション部門で上映される。

2024.tiff-jp.net

 

◯ 撮影は2021年9月-2022年4月に行われた。

 

 

◯ 監督である管虎(グェン・フー / グァン・フー/クワン・フー)は、1990年代から映画製作を開始。今作出演の贾樟柯(ジャ・ジャンクー)監督とは2歳違いで同じ中国第6世代となる。
「斗牛 (2009) 」「杀生 (2012) 」「ロクさん(2015)」で過去3度、台湾金馬奨を受賞している他、最近では「愛しの母国(2019)」前夜編、「エイト・ハンドレッド(2020)」「バトル・オブ・ザ・リバー 金剛川決戦(2020)」などを監督。
プロデューサーとして、张颂文(チャン・ソンウェン)主演「革命者(2021)」を制作、俳優としても俳優・黄渤(ホアン・ボー)の初監督作「アイランド/一出好戯(2018)」などに出演している。
なお妻は女優の梁静(リャン・ジン)で、監督作にはいつも出演しており、本作にも出演している。

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彭于晏(エディ・ポン)

◯ 主人公・二郎こと郎永辉。刑期を終えて出所し、故郷へと帰って来た。

◯ 台湾人俳優でカナダ在住だったが台湾でスカウトされ芸能界入りし、ドラマ・台湾版「あすなろ白書(2002)」でデビュー。
台湾映画「聽說(2009)」「翻滾吧!阿信(2011)」に出演し、その後香港映画、中でも「激戰 (2013) 」「疾風スプリンター(2015)」「オペレーション・メコン(2016)」「レスキュー(2020)」と林超賢(ダンテ・ラム)監督作品に数多く出演した。最近は「君といた日々(2014)」「悟空伝(2017)」「乗風破浪(2017)」「邪不压正 (2018) 」などの中国映画にも出演している。
ドラマでは「仙剣奇侠伝(2005)」「楊家将伝記(2006)」、台湾版「ハチミツとクローバー(2008)」「風中の縁(2012)」などがある。

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佟丽娅(トン・リーヤー)

◯ 各地を巡業して回るサーカス団のダンサー・葡萄。

◯ 佟丽娅(トン・リーヤー)は、今作の舞台である新疆ウイグル自治区出身。大ヒットドラマ「宮 パレス (2010)」「クィーンズ 長安、後宮の乱(2009)」などで知られる。ヒットドラマ「北京爱情故事 (2012) 」や映画「唐人街探偵」シリーズで知られる陈思诚(チェン・スーチェン)と結婚したが離婚。それまでは「唐人街探偵 NEW YORK MISSION(2018)」などの夫が関わる作品に出演することが多かった。
主な作品は、雷佳音(レイ・ジャーイン)とW主演のタイムスリップコメディ映画「ルームシェア(2018)」、主旋律映画「革命者(2021)」、大ヒットSF「流転の地球 -太陽系脱出計画-(2023)」など。
昨年はDVを扱った映画「我经过风暴(2023)」で熱量ある演技を見せた。

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贾樟柯(ジャ・ジャンクー)

◯ パトロール団のまとめ役をしている耀叔。

◯ いわゆる中国第6世代の代表的監督として、数多くの名作を作ってきた名匠。今作監督の管虎(グェン・フー / グァン・フー/クワン・フー)とは2歳違いの同世代となる。
北京電影学院の卒業制作作品がいきなりベルリン映画祭出品、釜山国際映画祭、ナント三大陸映画祭ではグランプリを受賞という快挙を挙げる。
「プラットホーム(2000)」でヴェネチア映画祭・金獅子賞にノミネートされ、「長江哀歌(ちょうこうエレジー)(2006)」で遂に金獅子賞を受賞。ドキュメンタリーの「無用(2007)」ではヴェネチア映画祭・オリゾンティ賞記録映画賞受賞、「罪の手ざわり(2013)」「山河ノスタルジア(2015)」「帰れない二人(2018)」の三作品ではすべてカンヌ映画祭・パルムドールに正式出品と、世界的な定評が既に確立された存在となっている。東京フィルメックスで上映予定の新作「新世紀ロマンティクス (2024) 」もカンヌ映画祭に正式出品された。

俳優としての出演は多くないが、韩寒(ハン・ハン)監督「いつか、また(2014)」以来、今作と「陽光倶楽部(2024)」の同時期公開の2作品に出演している。

 

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周游(ジョウ・ユー / チョウ・ヨウ)

◯ 二郎と獄中で一緒であった聂十里。

◯ モデルでもある俳優・周游(ジョウ・ユー / チョウ・ヨウ)は、2015年頃から俳優活動を開始。映画「镜像人·明日青春 (2018) 」で映画賞を受賞した他、主演作「野马分鬃 (2020) 」などがある。その他「ビッグ・ショット(2019)」や、2023年には朱一龙(チュー・イーロン)主演作「川辺の過ち(2023)」に出演。
今年は今作に出演する以外にも、東京フィルメックス・オープニング作品となり、今作で共演している贾樟柯(ジャ・ジャンクー)監督作「新世紀ロマンティクス (2024) 」、中国映画週間で上映された刘昊然(リウ・ハオラン)主演「デクリプト(2024)」にも出演している。

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胡晓光(フー・シャオグアン)

◯ 二郎に甥を殺された胡屠户(画像中右)。

◯ 今作の管虎(グェン・フー / グァン・フー/クワン・フー)監督の「ロクさん(2015)」「エイト・ハンドレッド(2020)」、プロデュース作の「革命者(2021)」にも出演している、”管組”の俳優。
その他「レッドクリフ Part I(2008)」「Part II(2009)」「The Crossing -ザ・クロッシング- PartⅠ(2014)」「ブレイド・マスター(2014)」などに出演している。

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王奕权(ワン・イーチュアン)

◯ 警官の刘(リウ)。二郎に目をかけている。

◯ 1972年生まれ。黄晓明(ファン・シャオミン)主演の映画「匹夫 (2012) 」に出演。その後、ドラマ「白鹿原(2017)」や映画「和平饭店 (2018) 」、東京フィルメックスでも上映された「不止不休(2020)」「长安道 (2019) 」などに出演している。

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