私の愛のかたち - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
女性障害者の性について描いた挑戦的なテーマだが、廖子妤(フィッシュ・リュウ)の演技力もあって素敵なラブストーリーにもなっている。だがその裏に愛とは何かという、答えのない問いかけを配置する、香港映画らしい「語れない事を語る」濃密な作品。

【スタッフ & キャスト】
2025年 香港 106分 IMDb評価:6.3/10
監督: 譚惠貞(タム・ワイチン / ワイジェン)
出演: 廖子妤(フィッシュ・リュウ)、陳家樂(カルロス・チャン)、劉雅麗(アリス・ラウ)、楊淇(ケイト・ヨン)、劉若寶(ポリー・ラウ)
【あらすじ】
生まれつき脳性まひがあるムイ【廖子妤(フィッシュ・リュウ)】は、絵を描くことが好きで明るく前向きな女性。娘を心配するあまり、母親はムイの意思を無視して不妊手術を検討している。ある日、障がい者のための性的サービスを提供するボランティア団体を訪ねたムイは、ボランティアのケン【陳家樂(カルロス・チャン)】と出会い、精神的・肉体的解放を体験する。
【感想】
女性障害者の性について描いた挑戦的なテーマだが、廖子妤(フィッシュ・リュウ)の演技力もあって素敵なラブストーリーにもなっている。だがその裏に愛とは何かという、答えのない問いかけを配置する、香港映画らしい「語れない事を語る」濃密な作品。
廖子妤(フィッシュ・リュウ)の好演
とにかく廖子妤(フィッシュ・リュウ)の演技が、見入ってしまうほど良かった。脳性マヒの障害者の動きだけでなく、その表情や話し方、テンポ感も、そのままムイという存在がそこにいるかのように感じる。最初は驚くものの、徐々に彼女の愛くるしさみたいなものまで見えてくるのが、本当に素晴らしい。金像奨・主演女優賞受賞も納得の演技力だった。
そんなムイは、生活に制限は多々あれど性格は外交的で、社会に出ていれば多くの友人や恋人に囲まれていても不思議じゃないキャラクターだ。だが脳性マヒの障害という重い現実は、当然そんなものではない。
そうして性的な介助(性義工)を依頼し、やって来たのが陳家樂(カルロス・チャン)演じるケンだ。ムイは彼を気に入ってしまい、本来はルール違反だが再び彼に来てもらう事で、切なくも暖かい恋愛物語が始まっていく。
ケンの、もの悲しく荒んだ佇まいもいい。すべてに刹那的で深い繋がりを拒否していた筈なのに、まるで荒れ果てた心に一滴の愛情が注がれたように、少しずつムイに心を開いていく。
ムイは身体を、ケンは心を、共に不自由な部分を抱えた2人が、次第に自由へと向かっていく様は本当にキュートで微笑ましく、この2人の幸せを、素敵なラブストーリーの完成を、観客の誰しもが願う。だが、映画はその期待を裏切るように衝撃的に終わる。

議論の分かれる結末と、その意味とは
映画の感想にはモヤモヤが残るといった声があるし、筆者も、観客の期待を裏切ろうという譚惠貞(タム・ワイチン / ワイジェン)監督の強い意思を感じた。つまり、観客にスッキリして帰らせはしない、という監督の意思だ。
本作は構想に6年をかけ、そのリスキーな役柄ゆえ何人もの主演女優候補に断られ続けた難産の作品だ。そこに巨匠・關錦鵬(スタンリー・クワン)がプロデューサーとして入ったことで、大手・英皇電影が制作につき、ようやく公開にまで漕ぎ着けた。インタビューで監督は、台湾の実在の性ボランティアを知った事が本作を制作するきっかけであり、關錦鵬(スタンリー・クワン)も監督にまったく口を挟まず、完全に自由にやらせてくれたと言う。しかし、本作の結末の意図は明確に語っていない。
ムイを演じた廖子妤(フィッシュ・リュウ)は役作りにおいて「障害のある人物ではなく、一人の等身大の女性として演じた」と語っていて、陳家樂(カルロス・チャン)と共に「愛とは何か?」を考える作品だと発言している。では、あの結末はどういう意図だったのか。
実在する性ボランティア団体
本作の性的な介助のボランティアサービスは実在している。台湾で「手天使」という団体によって運営されており、映画とは違って感情のもつれや性暴力が発生しないよう、厳格なルールで運営されている。また意思表示の不明確さから、あえて精神障害の障害者には実施していない。
つまり、モデルとなる実在のサービスでは、明確に「サービス」と「感情」を切り分ける事で安全性を確保し、誰も傷つかないように配慮している。
しかし、映画はあえてこの切り分けを不明確にして、2人だけの感情が芽生えるようにする改変を行っている。これは元のサービスでは絶対にやらないし、なんなら最も懸念されるトラブルの事例でもある。そして案の定というか、映画でも「感情」が芽生える。香港では、こうした改変に対して「これをボランティアとして描写してはいけない」という批判があったという。でなければボランティアは、利用者=障害者から恋愛感情をぶつけられる存在になってしまうからだ。

愛と性の境界線
だが、考えてほしい。実際、感情を切り離した性的欲求ってあるのだろうか?そんな欲求もあるかもしれないが、多くの人にとって、性的欲求には当然のように感情が混じるものだろうし、それはもちろんムイのような障害者も同じだろう。元のサービスは安全性などの理由から、可能な限り「サービス」だけに特化せざるを得なくて、それもとても良くわかる。だが、正にこのポイントこそが最も根源的な性の欲求に関わる部分ではないか。仮に障害者がこのサービスで性的欲求を満たされたとして、では、障害者が愛に満たされようとアクセスするのはダメなのか。
ムイが求めていたのは性的欲求だけだったのか。
誰かに触れられたい。
誰かの特別な存在になりたい。
深い関係を持ちたい。
そうした「親密さ」へのアクセスをこそ、ムイは求めていたのではなかったか。彼女は、何度も「私のような人間をどう思うか」「こうでなければあなたは私を好きになるか?」と訊ねる。涙が出るほど健気な自己承認欲求で、この「親密さ」をこそ、あの時彼女が求めていた事だと思うのだ。

語れない事を語ろうとする
そう考えてくると、廖子妤(フィッシュ・リュウ)たちが語っていた「愛とは何か」という問いがより深く私たちに突きつけられる。
現実ではそんなサービスなど、実現はおろか、語る事すら難しいだろう。それは劇中のムイの母親によっても示されている。どうするのが正解なのか、これはたぶん誰にもわからない問いだ。
だからこそ監督は映画という、ファンタジーを描けるツールで描くことにしたのだろう。現実では無理でも、映画なら描ける。映画だからこそ、現実の一歩先を見据える事ができる。
監督がここまで考えていたのか、それはインタビューなどを見ても語られていない。だが結果として、まるでそれぞれが正解を見つけ出すようにと、観客に託した結末になったと思えてくる。
香港映画的手法
この様な「語れないテーマを映画にする」作品は、例えば『狂舞派3(2021)』のように、極めて国安法以降の現代香港映画的であり、ある意味で得意技でもあるジャンルの一作と言える。そしてそれは、本当に語りたい事を直接語らず、ドラマの背景に据える、プロデューサーの關錦鵬(スタンリー・クワン)自身の作品や王家衛(ウォン・カーウァイ)『花様年華(2000)』などで使われた手法そのものでもある。そんな彼が本作の脚本を読んで「この火を消してはならないと思った」というのはとても象徴的だ。
ラブストーリーとして観始めて、だがその奥に遥かに深い「愛」をめぐる闘いを忍ばせた、とても重みのある忘れられない力作だ。
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廖子妤(フィッシュ・リュウ)と陳家樂(カルロス・チャン)へのインタビュー
本作の改変について「これをボランティアとして描写してはいけない」という批判を提起した事についての記事
東京国際映画祭でのQ&A
【トピック】
予告編
▶ 本国版予告編(クリックで開きます)
www.youtube.com 【《像我這樣的愛情》預告正式登場!】
現地での公開・興行収入・日本での公開/配信
◯ 2025年10月31日に東京国際映画祭で『私の愛のかたち』という邦題でワールドプレミア。2025年11月27日から香港で劇場公開された。公開初週の興収ランキングで10位に入った。2026年4月22日に香港で再公開を行っている。
◯ 日本では、上記の東京国際映画祭以降、2025年11月28日からの香港映画祭2025でも上映された。全国公開や配信の予定は、現在のところない。
受賞
◯ 本作で廖子妤(フィッシュ・リュウ)が香港金像獎・主演女優賞を受賞、陳家樂(カルロス・チャン)が助演男優賞にノミネートされた。
監督: 譚惠貞(タム・ワイチン / ワイジェン)
監督の譚惠貞(タム・ワイチン / ワイジェン)は1984年生まれの香港の映画監督、脚本家である。香港城市大学で映画芸術を学んだ後、業界入り。
初期は脚本家として頭角を現し、巨匠ベニー・チャン監督のもとで『レクイエム 最後の銃弾(2013)』や『オペレーション・メコン(2016)』など、香港の王道である骨太なアクション大作の脚本を執筆した。
『青春の名のもとに(2017)』で長編監督デビューし、本作が2作目の長編監督作となる。

本作について譚惠貞(タム・ワイチン / ワイジェン)監督のインタビュー
www.youtube.com 〈大把戲〉特備: 電影《像我這樣的愛情》導演 譚惠貞 專訪 2025-11-26 敏感題材處理唔難,搵資金開戲先最難,談廖子妤的「天才」演技,片場刻意冷待陳家樂原來令他更入戲。
プロデューサー:關錦鵬(スタンリー・クワン)&管東銚(キャサリン・クワン)
◯ 本作のプロデューサーには、關錦鵬(スタンリー・クワン、画像下左)と管東銚(キャサリン・クワン、画像下右)が就いている。
関錦鵬(スタンリー・クワン)は1957年生まれ、香港ニューウェーブの「第二世代」を代表する映画監督・プロデューサー。アジアの商業映画界において、早くからゲイであることを公表したオープンクィアの先駆者としても知られている。
彼の作風は、華麗な映像美(メロドラマの意匠)の中に、社会制度や歴史に翻弄される人々の内面を静かに、かつ誠実に描き出すのが特徴です。特に女性や性的マイノリティの「割り切れない心理・欲望」の描写において、国際的に極めて高い評価を得てきた。梅艶芳(アニタ・ムイ)&張國榮(レスリー・チャン)主演『ルージュ(1987)』、張曼玉(マギー・チャン)主演『ロアン・リンユィ/阮玲玉(1991)』、激動の北京が舞台のクィア映画の金字塔『藍宇(ランユー) 情熱の嵐(2001)』などの代表作がある。
管東銚(キャサリン・クワン)は、大ヒットした傑作サスペンス『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義(2012)』や、『ヘリオス 赤い諜報戦(2015)』、陳家楽(カルロス・チャン)がブレイクした良作『幸福な私(2016)』などのプロデュースを手がけた辣腕シニアプロデューサーで、確かな市場性と高い芸術性を両立させる手腕に定評がある。
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www.youtube.com 【《像我這樣的愛情》之《像我這樣的訪談》】【嘉賓: 導演譚惠貞、監製關錦鵬、管東銚】
廖子妤(フィッシュ・リュウ)
◯ 脳性麻痺の障害を持つムイ。
◯ 本作で香港金像奨・主演女優賞を受賞した。
1990年生まれ。マレーシア、ジョホール州ムアル出身のモデル、俳優で、「レイジー・ヘイジー・クレイジー(2015)」、「姉妹関係(2016)」などに出演していたが、「アニタ 梅艷芳(2021)」で王丹妮(ルイーズ・ウォン)演じる梅艷芳(アニタ・ムイ)の姉、梅愛芳(アン・ムイ)を演じた事で一気に知られるようになる。
その後「リンボ(2021)」、「6人の食卓(2022)」、「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024)」、「カウントダウン(2024)」、『夜王(2026)』と多くの大ヒット作へ出演。
最近は「これからの私たち - All Shall Be Well(2024)」やマレーシア映画「幼な子のためのパヴァーヌ(2024)」などの演技力を示すような出演作で一流俳優としての地位を確かなものとしている。

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陳家樂(カルロス・チャン)
◯ サービスを提供する相手役(性義工)として訪れたケン。
◯ 本作で香港金像奨・主演男優賞にノミネート。
2003年のオーディションを機に英皇娯楽(エンペラー・エンターテインメント)と契約し芸能界入り。端正なルックスから当初はアイドル路線や実直な好青年役が多かったが、恵英紅(カラ / クララ・ワイ)と共演した映画『幸福な私(2016)』で知られるようになり、TVBドラマ『逆緣(2017)』の主役で大ブレイク。その後、香港映画界の最前線で頭角を現し、『不日成婚(2021)』&『不日成婚2(2023)』、『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件(2023)』や『紮職3(2024)』など話題作に連続出演。
最新作『寒戰1994(2026)』にも出演している。

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劉若寶(ポリー・ラウ)
◯ 性ボランティア団体を主宰しているエヴァ
◯ 1989年生まれ。2013年からモデルとして活動を開始していたが、2020年に参加したオーディション番組『全民造星III』で、そのルックスと存在感で注目を集めトップ40に進出。その後、本作制作の英皇娯楽(エンペラー・エンターテインメント)が主催した新人発掘プロジェクト『冤枉新秀訓練營』で頭角を現し、同社の所属芸能人となった。 近年は映画界でも活動しており『旅立ちのラストダンス(2024)』などに出演している。
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【モデルとなった実在の組織「手天使」】
譚惠貞(タム・ワイチン / ワイジェン)監督が本作を制作するきっかけになったのは、2019年にある劇作家から台湾の性ボランティア団体「手天使」の話を聞いた事だという。
この団体は2013年に設立され、「重度障害者にも性的自己決定権がある」という理念のもと、重度の身体障害者の「性的な権利(性権)」を保障するために活動を続けており、アジア圏における障害者の性支援のパイオニアとして国際的にも注目されている。
様々な活動のひとつに、自慰(マスターベーション)への無償の補助がある。衣服の着脱や性交(挿入行為)は一切行わず、「手」を用いたサービスのみを人生で3回まで提供する。
同団体は、感情的なもつれや性暴力を防ぐため、厳格な同意チェック体制を敷いている。まず事前面談を重ね、対象者の要望や「Yes / No」の明確な意思表示方法、触れてほしくない部位を徹底的に確認。当日は性的介助を行うボランティアのほかに、必ず別室や同室に「オブザーバー(監視・サポート役)」が同席する。介助中も行為の段階ごとに口頭などでその都度同意を取り、事前に合意のない要求や苦痛のサインがあった場合は、オブザーバーの介入によりその場で即座に活動を中止する仕組みとなっている。この鉄壁のルールにより、安全性と倫理性を担保している。
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