新世紀ロマンティクス - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
今作も純度の高い贾樟柯(ジャ・ジャンクー)の味。移りゆく時代の中で生きる人々の心情を立ち昇らせる絵巻物。ストーリーはあるようで無く、赵涛(チャオ・タオ)の人生を見る事で思いを巡らせる映画。
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www.youtube.com 映画『新世紀ロマンティクス』予告編
【スタッフ & キャスト】
2024年 中国 111分
監督:贾樟柯(ジャ・ジャンクー)
出演:赵涛(チャオ・タオ)、李竺斌(リー・チュウビン)、潘剑林(パン・ジァンリン)、兰周(ラン・チョウ)、周游(ジョウ・ユー / チョウ・ヨウ)、仁科(レン・クー)
【あらすじ】
2001年、中国北部の大同。モデルのチャオ【赵涛(チャオ・タオ)】と恋人のビン【李竺斌(リー・チュウビン)】は怖いもの知らずに青春を謳歌していた。しかし、炭鉱産業で築かれた大同の繁栄は失われつつあった。ある日、ビンは一旗揚げるために大同を去る。2006年、チャオはビンを探して長江・奉節を訪れる。2022年コロナ禍、潮の流れはふたりを大同に連れ戻すが、街はすっかり様変わりしていた……。
Filmarksより
【感想】
今作も純度の高い贾樟柯(ジャ・ジャンクー)の味。移りゆく時代の中で生きる人々の心情を立ち昇らせる絵巻物。ストーリーはあるようで無く、赵涛(チャオ・タオ)の人生を見る事で思いを巡らせる映画。
これまで監督の過去作は「山河ノスタルジア(2015)」と「帰れない二人(2018)」の2作ほどしか見ていなかったが、どちらも時代の変化に取り残されそうな人々の反応を描いていて、今回あらためて「長江哀歌(ちょうこうエレジー)(2006)」も見たが、改めて監督の作風は昔から全くブレていない事がよくわかる。もちろんそれは今作も同じで、変化の速さこそが他の国にはない、何よりの現代中国らしさだという認識を、コロナ禍を経て監督がよりはっきり感じている事がよくわかる。そして、それを20年以上に渡り克明に捉え続けてきたのは、もはや自分だけだという自負でもあるようだ。
そのせいか、映画は更にストイックになり、台詞やストーリーは削ぎ落とされ、正直もう、監督の作風を知らずに見たらかなり難解な部類だろう。たとえば前半の2001年と2006年のシーンは、多くが「青の稲妻(2002)」や「長江哀歌(ちょうこうエレジー)(2006)」などの過去作や撮り貯めた映像から構成される。普通の映画の様に一からストーリーを完成させてから撮影するのではなく、むしろ使える部分に合わせてストーリーを作っていったようですらある。
とはいえこの映画に関してはそれもアリな印象だ。監督が見せたいのはストーリーではなく、赵涛(チャオ・タオ)という一貫して主人公を演じ続けた女優を通して見る、この20年だろうから。同じ監督によって捉えられ続けた20年間の変遷。
こうなると、女優が演じた役柄というより演じた女優自身の存在が、スクリーン上の彼女の背後に深く影を落とす。もはや演じていた役柄より、当時の女優・赵涛(チャオ・タオ)を改めて見ている感覚だ。
それはまるで、昔撮った家族のビデオを見ている様でもある。家族のビデオは普通、その背景にある意味やストーリーを理解している家族が見る以外には、多くの人には価値を理解できない代物だが、逆に家族にとっては一場面を見ただけでも感動できる。この映画に登場する断片みたいな過去作も、あの頃の風景や街並み、そしてまだ若い赵涛(チャオ・タオ)の姿で、それらに一見意味性は無いようだが、私たちはそこに2022年へと続く長い道のりを見出だす。あの時ダンスを踊っていた赵涛(チャオ・タオ)、船に乗っていた赵涛(チャオ・タオ)、そうした懐かしい映像から現在の、あの頃とは何もかもが変わってしまった赵涛(チャオ・タオ)まで辿り着く。
さながら人物としての赵涛(チャオ・タオ)の記録ビデオのようで、その実、リアルでもなんでもない、すべて過去の色んな映画、撮影からの引用という倒錯だ。リアルな彼女があの場所で生活していた訳ではない。
折しも娄烨(ロウ・イエ)監督も、同じようにコロナ禍を契機に自分の過去作をベースに新作映画を作り上げ、「未完成の映画(2024)」という名で公開した。筆者はまだ見れていないが恐らく、これだけ似ているやり方でも全く違う印象になるだろう。
それはまさに赵涛(チャオ・タオ)という存在の有無で、生き様で見せる凄い女優と共にずーっと映画を作ってきた贾樟柯(ジャ・ジャンクー)監督ならではの映画だ。膨大なアーカイブから紡ぎ出される、総集編に見せかけたフェイクドキュメンタリーのようでもある。記憶は改竄され別のストーリーに仕立て直されているが、ただそこに流れた時間だけはリアルなのだ。コロナ禍が制作のきっかけだそうだが表層ではコロナ禍の影響はどこにも見当たらない。監督の強い作風、強い意志を感じた気がする。
とはいえ、見終わった後、これまで以上の悲哀が余韻のように残り続けていたのは気の所為ではないように思う。今作で過去を素材化してしまい相対化してしまった今、監督の中に次に繋がる答えは見出だせているのだろうか。中国はまだまだ変わっていく。撮るべき意味は失われていないと思いたい。
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【トピック】
◯ 2024年5月18日のカンヌ映画祭でワールドプレミア。同年11月23日東京フィルメックスにも特別招待作品として上映。
中国でもほぼ同じタイミングでの公開予定であったが、予定前の11月初頭に海賊版がネットに流出。そのため2024年11月22日から22日間の限定での公開となった。
◯ 日本でも2025年5月9日から全国公開される予定。
◯ 監督の贾樟柯(ジャ・ジャンクー)は、現在中国の映画監督として陈凯歌(チェン・カイコー)や张艺谋(チャン・イーモウ)に次いで著名な監督と言える。
時代の波に流されそうになる人々の悲哀をリアリズムをもって描く事で知られ、「一瞬の夢(1997)」でデビュー以来、「プラットホーム(2000)」、「青の稲妻(2002)」、「長江哀歌(ちょうこうエレジー)(2006)」、「罪の手ざわり(2013)」、「山河ノスタルジア(2015)」、「帰れない二人(2018)」などの監督作で知られている。
「長江哀歌(ちょうこうエレジー)(2006)」でヴェネツィア映画祭・金獅子賞受賞。「山河ノスタルジア(2015)」で台湾金馬奨・脚本賞受賞。カンヌ映画祭へは正式出品7回と高い評価を受けている。
出演も時々あり、韩寒(ハンハン)監督「いつか、また(2014)」や管虎(グェン・フー)監督のカンヌ映画祭出品作「ブラックドッグ(2024)」などに出演している。
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◯ 劇中で使われる音楽については、この記事が非常に詳しく解説されている。
赵涛(チャオ・タオ)
◯ 1978年生まれで北京舞蹈学院卒業後、贾樟柯(ジャ・ジャンクー)監督の2作目長編「プラットホーム(2000)」の主演でデビュー。以来、監督作全12作品に出演しているミューズであり、監督の妻でもある。「山河ノスタルジア(2015)」では台湾金馬奨・主演女優賞を受賞。
監督作以外にはアンドレア・セグレ監督の伊仏合作「ある海辺の詩人 小さなヴェニスで(2011)」、ドラマ「大生活 (2009) 」、アイザック・ジュリアンのビデオ・インスタレーション「Ten Thousand Waves(2010)」に張曼玉(マギー・チャン)と共に出演している。
李竺斌(リー・チュウビン)
◯ 監督作では「青の稲妻(2002)」、「長江哀歌(ちょうこうエレジー)(2006)」、「罪の手ざわり(2013)」、「山河ノスタルジア(2015)」に出演している。
周游(ジョウ・ユー / チョウ・ヨウ)
◯ モデルでもある俳優・周游(ジョウ・ユー / チョウ・ヨウ)は、2015年頃から俳優活動を開始。映画「镜像人·明日青春 (2018) 」で映画賞を受賞した他、主演作「野马分鬃 (2020) 」などがある。その他「ビッグ・ショット(2019)」や、2023年には朱一龙(チュー・イーロン)主演作「川辺の過ち(2023)」に出演。
今年は今作に出演する以外にも、東京国際映画祭・ガラ・セレクション部門で上映された管虎(グェン・フー / グァン・フー/クワン・フー)監督「ブラックドッグ(2024)」、中国映画週間で上映された刘昊然(リウ・ハオラン)主演「デクリプト(2024)」にも出演している。
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仁科(レン・クー)
◯ バンド「五条人」のボーカル。広東省汕尾出身の「五条人」は南方の伝統音楽や80年代のカントリーロック、レゲエ、ブルースをミックスした、民謡バンドと言ってもいい音楽性で活動。2020年にバンドのオーディション番組「乐队的夏天」第2シーズンに出場して人気となった。今年4月には東京・大阪にツアーで来日した。
本作の贾樟柯(ジャ・ジャンクー)監督とは、彼の対談シリーズ「贾乙丙丁 (2022) 」に出演以来の関係で、その繋がりでアニメ映画「アートカレッジ 1994(2023)」に声優で出演。
张子枫(チャン・ズーフォン / チャン・ツイフォン)&胡先煦(フー・シエンシュウ)主演のコメディ映画「穿过月亮的旅行(2024)」に出演のほか、リアリティ番組「我们的滚烫人生(2022)」では「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024)」などの任賢齊(リッチー・レン)とも共演している。
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