【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
于适(ユー・シー)が初の等身大な役を演じた、スタイリッシュでファンタジックなラブロマンス。てらいの無いストーリーだが随所に目新しさの工夫を凝らし、飽きずに楽しめる。
www.youtube.com 欢迎来到我身边 | Welcome To My Side | Official Trailer | 正式预告片
【スタッフ & キャスト】
2024年 中国 102分
監督: 宋灏霖(ソン・ハオリン)
出演: 于适(ユー・シー)、王影璐(ワン・インルー)、黄炎(ホァン・イェン)、刘旸(リウ・ヤン)、孟映宏(マン・インホン)、赵天炀(ジャオ・ティエンヤン)、马大智(マー・ダージ)
【あらすじ】
会社員・陈小舟【于适(ユー・シー)】は、日々激務に追われていた。禁煙をするために入院したところから、人がアヒルに替わって見えてしまうという原因不明の幻覚を見始めるようになってしまう。なんとかそれを隠しながら仕事を続けている時に出会った料理研究家・冯佳楠【王影璐(ワン・インルー)】は、ある不思議な能力を持っていたのだった。
【感想】
于适(ユー・シー)が初の等身大な役を演じた、スタイリッシュでファンタジックなラブロマンス。てらいの無いストーリーだが随所に目新しさの工夫を凝らし、飽きずに楽しめる。
于适(ユー・シー)、王影璐(ワン・インルー)という今まさに知名度が上昇しつつある旬の若手俳優のカップリング、良作「ウォーターボーイズ」中国版リメイクの監督を配するという手堅い座組である。
例えば任敏(レン・ミン)&辛云来(シン・ユンライ)の「我是真的讨厌异地恋(2022)」や、 陈飞宇(チェン・フェイユー)&周也(ジョウ・イエ)の「倒数说爱你(2023)」、檀健次(タン・ジェンツー)&张婧仪(チャン・ジンイー)「被我弄丢的你(2024)」のような、だいたい毎年5月頃に公開される恒例の恋愛映画のひとつとも言える、邦画でもありそうな、やや企画先行な印象もある作品だが、むしろそれを踏まえて楽しむなら十分満足できる、ハッピーエンドな作りになっている。
ビジュアルでも展開されているが、とにかくアヒルのインパクトがすごい。主人公は社会人生活に疲れ、幻覚を見るようになってしまうのだが、それがなんと人の姿が皆アヒルに置き換わってしまうというもの。それもリアルなアヒルじゃなく、あのお風呂に浮かべたりするオモチャのアヒルの方だ。
オフィスで人と同じ大きさのアヒルがいる絵は、その大きさとシチュエーションのインパクトもあるが、一方でポップで心和まされて、彼のハードな状況が脱臼されてしまう。ちなみにアヒルのデザインは、香港などで海に浮かんだフロレンティン・ホフマンによる巨大なインスタレーションなどとも違う、オリジナルっぽいものだ。
80sルックを取り入れた主人公2人の衣装をはじめ、全体の美術もスタイリッシュというかオシャレでトレンディ。杉山清貴&オメガトライブか、はたまた稲垣潤一的な1980年代シティポップ風味全開の主題歌も併せて、完全に若者に狙いすました作りになっていて、それはむしろ清々しく気持ちいい。
監督の作品は過去2作見ているが、中国金鶏奨・新人監督賞ノミネートの「猪太狼的夏天(2017)」の頃から日本や欧米的センスが好みのようなので、仕上がりがこなれていて、例えば「6人の食卓(2022)」のような香港映画でのポップな欧米趣味ともまた違う感覚がある。
ただ、そんな映画のトーンは明るく弾けたものだけではなく、なんならやや暗く、常にうっすらとした物悲しさみたいなものが響いている印象だ。
主人公の良き思い出はおおむね大学時代であり、現在はただ頑張るか疲れ果てているかの2択しかない、という描写こそは、このファンタジックな映画でも2024年のリアルな部分だろう。
そうだとしたら若者たちが不憫でならないし、かたや日本の氷河期世代が若者だった頃のリアルな感覚も思い起こしたりと、ストーリーとは別にザワつかせる部分であった。つつましい希望を大切にする中を、バブル期のファッションや音楽が彩る。少しやるせない気持ちになってしまった。
後半からの展開は古典的というかベタに感じる手法でもあるし、気軽に楽しませるなら潔くもう10分程は短くしても良いかと思わなくもないが、彼ら2人の今しか出来ない恋愛映画として、特に俳優好きなら楽しめる映画だった。
中国映画レビュー&解説「五个扑水的少年 Water Boys」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「我是真的讨厌异地恋 Stay with Me」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「倒数说爱你 Yesterday Once More」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「被我弄丢的你 I Miss You」 - daily diary
中国映画レビュー「猪太狼的夏天 Mr. Zhu's Summer」 - daily diary
香港映画レビュー&解説「6人の食卓 飯戲攻心 Table For Six」 - daily diary
【トピック】
◯ 2024年7月5日に中国で全国公開。公開初週は「黙する者が生きし場所 / 黙殺」や「雲の上の売店」、「インサイド・ヘッド2」などに次ぐ興収ランキング6位となった。興行収入は4555万元(9.7億円)。
中国映画レビュー&解説「黙する者が生きし場所 黙殺~沈黙が始まったあの日~ 默杀 A Place Called Silence」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「雲の上の売店 云边有个小卖部 Moments We Shared」 - daily diary
◯ 監督の宋灏霖(ソン・ハオリン)は、名門中央戯劇学院を卒業後、まずは俳優としてキャリアを開始。だが早くも翌年からドラマの監督も務め始める。そこから10年を経て制作した短編「怪力乱城之角斗士 (2014) 」が高評価を得て、初の長編作品であり、筆者も鮮烈な印象を得た秀作「猪太狼的夏天(2017)」を制作、中国金鶏奨・新人監督賞にノミネートされた。
次作に音楽を久石譲が担当したファンタジー・アクション「レジェンド・オブ・フォックス 妖狐伝説(2020)」を経て、妻夫木聡らが主演し大ヒット、後にドラマ化もされた映画「ウォーターボーイズ(2001)」の中国版リメイクとなる「五个扑水的少年(2021)」を辛云来(シン・ユンライ)、辛柏青(シン・バイチン)らの出演で制作した。
中国映画レビュー「猪太狼的夏天 Mr. Zhu's Summer」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「五个扑水的少年 Water Boys」 - daily diary
于适(ユー・シー)
◯ 主人公・陈小舟。激務に疲れ、幻覚を見始めるようになってしまう。
◯ 封神演義を描いた大作映画「封神~嵐のキングダム~(2023)」の主演オーディションで映画界入り。ただし当初2020年頃の予定だった本作の公開が新型コロナによって延期され、それに併せて自身のデビューも延期となってしまう。
その後、「封神~」公開の直前となる昨年4月に、2作目の出演作で王一博(ワン・イーボー)主演の戦闘機映画「ボーン・トゥ・フライ(2023)」が先に公開され、これがデビュー作となった。
今年2月公開の映画「飞驰人生2(2024)」に出演、4月に中国で公開されたジブリ映画「ハウルの動く城(2004)」では、オリジナルでは木村拓哉が担当したハウルの声を担当、そして5月には新疆ウイグルを舞台にした主演ドラマ「我的阿勒泰 (2024) 」が放映、そして本作の7月公開と続々と人気作品への出演が続いている。
中国映画レビュー&解説「封神~嵐のキングダム~ 封神第一部:朝歌风云 Creation of the Gods I」 - daily diary
中国映画レビュー&解説 「ボーン・トゥ・フライ 长空之王(長空之王)Born to Fly」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「飞驰人生2 Pegasus 2」 - daily diary
王影璐(ワン・インルー)
◯ 料理研究家で動画を配信している冯佳楠。
◯ 彼女も2020年デビューとまだ目新しいキャリアだ。上海を舞台にした洒落た良作映画「白さんは取り込み中(2021)」でのカフェで働く息子の彼女役や、映画「最后的真相(2022)」やドラマ「天才基本法 (2022) 」、「异人之下 (2023) 」と人気作に出演している。
さらに佟丽娅(トン・リーヤー)主演のDV映画「我经过风暴(2023)」や、今年は本作以外にも张子枫(チャン・ズーフォン、チャン・ツイフォン)主演の映画「穿过月亮的旅行 (2024) 」に出演している。
中国映画レビュー&解説「白さんは取り込み中 爱情神话 B for Busy Myth of Love」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「我经过风暴 The Woman in the Storm」 - daily diary
黄炎(ホァン・イェン)
◯ 陈小舟の親友である刘一丁。
◯ 1998年生まれ。张艺谋(チャン・イーモウ)と娘の张末(チャン・モー)が共同監督した映画「狙击手(2022)」でデビュー。その後も「満江紅(マンジャンホン、2023)」、「第二十条(2024)」と张艺谋(チャン・イーモウ)監督作にしか出演していなかったが、今年から他の監督作にも出演し始めている形になっている。
中国映画レビュー&解説「狙击手(狙撃手)Sniper」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「満江紅(マンジャンホン)满江红 Full River Red」 - daily diary
中国映画レビュー&解説「第二十条 Article 20」 - daily diary
動画配信のクルーたち
演じているのは画像左から、赵天炀(ジャオ・ティエンヤン)、孟映宏(マン・インホン)、二人置いて刘旸(リウ・ヤン)、马大智(マー・ダージ)。
◯ 赵天炀(ジャオ・ティエンヤン)は、今作がデビュー作となる。
◯ 孟映宏(マン・インホン)こと拉宏(ラー・ホン)は、配信で人気となったピン芸人でお笑い番組にも出演している他、古装劇「古相思曲(2023)」にも出演している。
◯ 刘旸(リウ・ヤン)はコントなどの喜劇をメインに活動していて「一年一度喜剧大赛」など大型お笑い番組にも出演している。映画出演は今作が初となる。
◯ 马大智(マー・ダージ)は吴磊(ウー・レイ)主演の「西湖畔に生きる(2024)」がデビュー作となり、今作が2作目の出演となる。
中国映画レビュー&解説「西湖畔に生きる 草木人间 Dwelling by the West Lake」 - daily diary
主題歌
80年代シティポップ風味の爽やかな曲だ。女声版も劇中で流れる。
www.youtube.com 唐漢霄 - You are the only way『在心裡刻上你的姓名 讓我的心有跡可循』【影視劇原聲】