世界 - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画
【本記事は極力ネタバレせず記述していますが、心配な方は映画鑑賞後にご覧ください。】
インディペンデント映画から中国も公認するメジャー監督となってからの第一作は、ついに北京を舞台に世界を見据える。そして監督のフォーマットが世に出た転換点となる作品


【スタッフ & キャスト】
2004年 中国・フランス・日本 133分 豆瓣評価:7.6/10
監督:賈樟柯(ジャ・ジャンクー)
出演:趙濤(チャオ・タオ)、成泰燊(チェン・タイシェン)、黄依群(チェン・タイシェン)、王宏伟(ワン・ホンウェイ)、梁景东(リャン・チントン)
【あらすじ】
北京郊外にあるアミューズメント・パーク「世界公園」。エッフェル塔やピラミッド、 タージ・マハールや五重塔といった世界40ヶ国109ヶ所のモニュメントが10分の1に縮 小、再現されている観光スポットだ。
この公園でダンサーとして働くタオ【趙濤(チャオ・タオ)】は、毎日あでやかな衣装を身にまとい舞台に立ってい る。あるときはインドや日本の民族衣装を、またあるときはスチュワーデスのいでたちで ……。
職場では同僚たちから「姐さん」と慕われ、プライベートでは世界公園の警備主任として 働くタイシェン【成泰燊(チェン・タイシェン)】という恋人もいるが、観客に振りまく笑顔とは裏腹に、将来に対して漠然 とした不安を抱えている。
より多くのお金を稼ぐために転職する友人、恋人との結婚が決まった同僚、女であること を利用してキャリアアップをはかろうとする後輩、そして年上の女性に心を動かされては じめたタイシェン。
憧れ、不安、嫉妬、失望、そしてささやかな喜び――さまざまな思いを抱えながら、ひた むきに踊り続けるタオ。北京の街も2008年のオリンピック開催を前に日々変わってゆく… …。
公式サイト より
【感想】
冒頭の数分で視界がクリアに開ける、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)の世界観そのものが現実化したかのような舞台設定。
北京に実在する、世界各地の名所をミニチュアで再現した公園。チャオ・タオ演じる主人公タオと、モンゴルへと向かう元カレ。この2人に割込むような現在の交際相手のタイタイ、ロシア人ダンサーのアンナ、建設現場の出稼ぎ労働者。
タオを通して世界公園で働く人々が切り取られていく。華やかな舞台の裏側で、時代や愛する人に取り残されまいとする人々が、生々しくもがいている。

考え抜かれた舞台設定
世界公園の設定自体にまず惹き込まれる。世界を再現したとはいえ、すべてがまやかしの世界。そこで世界各国の踊りやパフォーマンスを見せる演者、ダンサー達は、地方から出てきた若者やパスポートを預かられている外国人たち。
訪れる観光客は世界を手軽に楽しめる。だが実際には本物にひとつも触れていないし、演じているのは世界に出ることもできない人々。なんとも言えない皮肉めいた世界だ。
主人公タオは、元カレのようにモンゴルみたいな外国にも行けず、公園内の世界を周る列車に乗るだけで、アニメのように空想する。
登場人物たちは一見さまざまな場所から集まり、多様性に富んだ若者たち。だが交際相手を監視していたり、同僚の金を盗んだり、地方から出稼ぎに来ていたり、華やかなステージの印象とは対照的だ。働く環境も雑然としていて、裏に回れば寮などは一昔前の設備のまま、時代も変わっていないようだ。
携帯電話によって彼らは頻繁に連絡を取り合うようになった。だがそのせいで、常に連絡を取り合い、居場所を知らせる事を求め合う。繋がれる事がかえって疑いを増していく。

様々な比較構造、俯瞰した視点
舞台設定と同じように、色んな比較の構造が作られている。それらが世界公園というハブを中心にして並べられている。
例えば北京と世界は繋がっているようでいて、世界公園というフィルターを介して描かれる。
登場人物たちは北京にはいるけれど、北京人でもなければ故郷の人間でもない。
こうした比較の構図を、登場人物を変え、相手を変えて、何度も見せていく。まるで、映画の2時間を丸ごと比較を見せることに費やしているかのようだ。
本作はチャオ・タオがミューズとして物語を展開させていき、その背景にテーマが置かれている。彼女をフィルターにする事でテーマが浮かび上がってくる。
それまでの初期作品『一瞬の夢(1998)』〜『青の稲妻(2002)』までは、監督の故郷・山西省を舞台に、地方から中国全体を見据え、そこに住む人々がどう感じているかを描いてきた。それがこの『世界』からは、カメラが人々の立ち位置より上空に浮き上がったように感じる。そして、複数の現実を並列に捉えるようになっていく。

中国当局との和解の影響
なぜそこまで大きく変化したのか。
監督自身、過去の作品を経て世界各地を訪れるようになった。そして、中国自体もどんどん変化し、世界へと繋がるようになっていった。
もうひとつ重要なのは、この『世界』によって、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)作品が初めて中国でも正式認可され、全国公開されるようになった事だ。
前年の2003年、中国当局はそれまで中国を飛び越え、海外での公開を前提に作ってきた賈樟柯(ジャ・ジャンクー)ら、独立映画の作家たちと話し合う。映画制度も改革され、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)は映画監督の資格を回復する。そして、この『世界』からは中国でも公開されるなど、様々な変化が同時に起こった。それまで、海外の観客に向けて映画を作っていた彼にとっても、中国国内の観客層にも映画を届けられるようになった。
これらの変化によって、もはや、今までのように1地点からだけでは、自らが経験する世界を捉えきれなくなったのではないか。
賈樟柯(ジャ・ジャンクー)自身、「環境が変わった」と言い、「自分の視野は広がったが、世界の中で途方に暮れている。世界がはっきり理解できない。」と当時語っている。

Webブラウザ的な映画スタイル
一方で彼は、コンピュータによる接続の方法を、「情報を閲覧し、世界を観察する新しい方法」として、新しい映画のスタイルに取り入れたとも語っている。
コンピュータを介して情報を得て、世界を観察するという描き方。いったいこのアイデアを、どうやって映画にしていったのだろう。
通常の劇映画では、舞台が変われば視点が変わる。画面に映る人物が変わっても視点が変わる。監督は、舞台が変わっても観客を、画面の当事者に深く同化させないよう、狙ったのではないか。
まるでWebブラウザのように、様々な事件やストーリーを見ても、そこに入りこまない。たとえばチャオ・タオのシーン。たとえ彼女が中心にいても、その内面には入ってはいかない。そうやって、誰かのストーリーにフォーカスしていかず、世界公園を取り巻く状況だけが並列に残り続ける。そう考えると本作は、こうした「Webブラウザ的な体験」を、2時間にわたって再現させた作りとも感じられてきて、ちょっと驚いてしまう。
この映画が作られたのは2004年の事だ。こうした新しい体験を、ストーリーに組み込むのではなく、映画の構造レベルから「コンピュータで情報を閲覧する」体験そのものを組み込んでいるのだ。今までの自分の撮り方を、考え方から変える必要のある、大規模な変革だ。誰にでもできる事ではない。余談だがこの手法、後年の『罪の手ざわり』では、更に一歩進めていて、余計に興味深い。

頭でっかちな作品
こうやって賈樟柯(ジャ・ジャンクー)がトライした事をまとめると、とても「頭でっかちな作品」だなと思えてくる。これまでの作風から大きく変わり、とても斬新で、極めてロジカルな構想が映画に落とし込まれている。
ただし、映画としては、舞台の設定があまりに考え抜かれているゆえに、冒頭の世界公園を初めて見た時が一番面白くて、もうそれ以降、あの興奮を超えていかないようにも感じる。監督の構想は確かに凄い。でも映画としては少々空回りしている気もする。
だが間違いなく本作は、監督が新しいフェーズに入り、彼の本領が発揮され始めた、その第一歩を記す作品だ。後年の『長江哀歌(2006)』や『山河ノスタルジア(2015)』はこのフォーマットを発展させ、洗練していったものだ。ここから『新世紀ロマンティクス(2024)』まで、20年使い続ける監督の屋号のようなもの。『世界』はそのフォーマットが発明された、大きな転換点なのだ。
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【トピック】
予告編
▶ 海外版&日本版予告編(クリックで開きます)
www.youtube.com The World (2004) Jia Zhangke Edit
www.youtube.com 『世界』予告編
中国での公開・受賞・日本での公開/配信
◯ 2004年9月4日からのヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に出品されワールドプレミア。2005年4月15日から中国で全国公開された。
◯ 日本では2005年10月22日から全国公開。過去にDVDが販売され、現在はAmazon Primeで配信されている。
監督:賈樟柯(ジャ・ジャンクー)
1970年山西省生まれの映画監督・脚本家。北京電影学院で学び、1990年代以降の中国映画界における「第6世代」を代表する作家として知られている。急激な経済成長と社会変化の波に直面し、取り残されていく市井の人々の姿を、詩的で生々しいリアリズムで描き出してきた。
1998年長編デビューの『一瞬の夢(1998)』がベルリン国際映画祭などで高く評価され、一躍脚光を浴びた。『長江哀歌(ちょうこうエレジー)(2006)』でヴェネツィア国際映画祭の最高賞である金獅子賞を受賞し、世界的評価を確立した。さらに本作でカンヌ国際映画祭脚本賞を受賞したほか、『山河ノスタルジア(2015)』や『帰れない二人(2018)』といった話題作を次々と手がけ、現代アジア映画を牽引する第一人者として活躍を続けている。
また第一作の上映不許可の後も、未許可のまま地方でゲリラ撮影して、当局を通さずに海外で映画を公開するという手法で制作し続けたが、2003年に当局との話し合いが持たれ、その後本作以降は正式に許可を得た作品として中国国内でも公開されるようになった。

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趙濤(チャオ・タオ)
◯ 赵小桃(タオ)。世界公園で働いている。
◯ 1978年生まれで北京舞蹈学院卒業後、『プラットホーム(2000)』でデビュー。以来、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督作全12作品に出演しているミューズであり、監督の妻でもある。『山河ノスタルジア(2015)』では台湾金馬奨・主演女優賞を受賞。
監督作以外にはアンドレア・セグレ監督の伊仏合作『ある海辺の詩人 小さなヴェニスで(2011)』、ドラマ『大生活 (2009) 』、アイザック・ジュリアンのビデオ・インスタレーション『Ten Thousand Waves(2010)』に張曼玉(マギー・チャン)と共に出演している。

成泰燊(チェン・タイシェン)
◯ 成太生(タイシェン、画像右)。世界公園で警備員をしている。
◯ ヴェネツィア国際映画祭『現代の映画(シネマ・オブ・ザ・プレゼント)』コンペティション部門に正式出品された朱文(ジュー・ウェン)監督『海鮮(2001)』で主演し、ナント三大陸映画祭で最優秀男優賞を受賞。その後、本作への出演で知られるようになる。他にアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督『BIUTIFUL ビューティフル(2010)』や張芸謀(チャン・イーモウ)『サンザシの樹の下で(2010)』、『ドラゴン・フォー(2012)』シリーズ、『左耳 ひだりみみ(2015)』、そして中国版『容疑者Xの献身』である『嫌疑人X的献身(2017)』などに出演している。
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黄依群(ファン・イーツン)
◯ 裁縫師をしている廖姐(リャオ姉さん)。
◯ 中国2大劇種の一つで、基本的に女性だけで演じられる「越劇」の超名門劇団「浙江小百花越劇団」に所属し、女性役(花旦)の代名詞的な存在として一世を風靡した。飛天奨(テレビドラマの国家級賞)の最優秀女優賞(1997年)をはじめ、数々の賞を受賞している。

王宏伟(ワン・ホンウェイ)
◯ サンライ。山西省からの出稼ぎ労働者として建築現場に入る(画像左)。
◯ 賈樟柯(ジャ・ジャンクー)組の俳優として、『一瞬の夢(1998)』以来、「青の稲妻(2002)」や「世界(2004)」、そして「長江哀歌(ちょうこうエレジー)(2006)」など、監督作品に数多く出演している。
最近では张律(チャン・リュル)監督最新作「白塔の光(2023)」のほか、顾晓刚(グー・シャオガン)監督の2作目「西湖畔に生きる(2024)」にも出演した。

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梁景东(リャン・チントン)
◯ 赵小桃(タオ)の元カレで、モンゴルに向かう途中に赵小桃(タオ)と会う。
◯ 賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督作では、俳優として『一瞬の夢(1998)』から本作のあたりまで出演していたが、『長江哀歌(ちょうこうエレジー)(2006)』からは美術指導として関わるようになっていく。『山河ノスタルジア(2015)』や『新世紀ロマンティクス(2024)』では美術と出演をこなしている。
他には高評価のドラマ『平原のモーセ(2023)』にも出演している。

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